第二章 総一の決断(3)
まさか2日連続、総一の部屋に行く事になるとは思いもしなかった。
でもここがじっくりと話出来る場所だから。
「お茶でいい?」
総一の言葉に真由は頷いた。
キッチンに立って手早くお茶の準備をしてテーブルに置いた総一。
真由は総一を見つめて深呼吸をして言った。
「どうして。私を救おうとしたのですか?」
総一は思わず苦笑いをする。
救おうとは思っていない。
「さあ?
気がつけばいつの間にかそう言ってたから」
真由は疑いの眼差しを総一に向けて
「答えになってない」
頬を膨らませた。
それを見てますます総一は真由を子供だと思った。
…それなりの理由が必要か。
「今後、何も事情の知らない男の元へ真由ちゃんと子供が行くくらいなら俺の所の方がいいと思っただけだよ」
これは本心だ。
真由の事は多少なりとも知っているし。
何より。
どれだけ拓海を好きだったか…いや、『好き』じゃ軽い。
愛していたか…
それを知っているから。
他の何も知らない男の元へなど、行く必要がない。
「それだけで、結婚しようと?」
真由は真っすぐ総一を見つめる。
「俺くらいの歳になってくると、結婚なんて恋愛だろうが見合いだろうが紹介だろうが関係ないし。
こういう形もありだよ」
総一は冷めた目を一瞬、真由に向けてから目を閉じた。
しばらくしてそっと目を開ける。
「まさか、俺も親父と一緒の人生を歩むとは思わなかったけど」
真由は総一の過去を聞いた。
長い話だった。
真由はポロポロと涙をこぼす。
「俺はね、お腹にいる子供が、俺みたいな人生を歩んで欲しくない。」
総一はそっと真由の頬を撫でて涙を拭いた。
一瞬、驚いたのか真由はビクッ、とする。
「すぐに結婚なんて、出来ないけど、お互いをわかりあう為に付き合うのはありじゃない?
合わなければ、結婚しなくていいし」
総一の提案はこれだった。
一度、付き合ってみよう。
合わなければ止めたらいい。
真由は自分で涙を拭くと、総一を見て何とも言えない少し困惑気味な笑みを浮かべてこう言った。
「私はまだ、拓海くんの事が忘れられないし、今後もし、総一さんと結婚してもきっと拓海くんの事がついて回ると思います。
それでも大丈夫ですか?」
そんなことは百も承知だ。
「もちろん。
お腹の子供が拓海の子供なのだから、ついて回るに決まっているし。
また真由ちゃんが簡単に拓海を忘れるのなら俺は失望してしまう。
そんな複雑な想いは色々あるけれど。
これから先に上手く進めるような展開に持って行くのは大事だと思う」
「じゃあ、お付き合いしてください」
「こちらこそよろしく」
二人は見つめ合い、微笑んだ。