第一章 真由の妊娠(1)
まさか…
真由はカレンダーを見た。
2月3日、節分。
生理が1ヶ月弱、遅れている。
もし、妊娠していたら。
取り返しがつかない。
相手は…もうこの世にはいないのに。
平野 真由(ひらの まゆ)は高校3年生。
もうすぐ高校を卒業してバイク屋さんで働く。
そこで働いて、そこの跡取り息子、柏原 拓海(かしわら たくみ)と秋に結婚しようと思っていた。
去年の12月までは。
クリスマスイブ。
拓海の家で賑やかなパーティーの後。
家までバイクで送ってもらって。
別れる寸前に後ろから来た飲酒運転の車が。
拓海をバイクごと吹っ飛ばした。
拓海はその寸前、力いっぱい真由を突き飛ばした。
あの時。
神様は何故二人を引き離したんだろう?
あの…拓海に押された、あの力強さが。
今だに真由の腕に残っている。
拓海がいなくなって、周りに支えられて何とか普通には過ごせるようになったものの。
一人でいると。
吐き気に襲われ、全く食事が出来なくなる。
毎日、気持ち悪くて。
生きた心地がしなかった。
生理が来ないのも精神的ショックだから、と。
検査はいいよね…
真由はそう思っていた。
2月25日。
高校の卒業式が終わり、明日から働く事になっているK-Racingというバイク屋さんに行った。