序章
少女は膝を抱え、震えていた
目の前の現実を認めたくなかった。父と母が食われている。大人2人分ほどの大きさをした化け物が父と母を喰らっている。
目の前の景色を受け入れぬよう、夢なら覚めてくれるよう祈り、俯いた。耳を塞いだ。耳を塞いでも微かに聞こえる外の音を必死に聞かないようにした。
地面が揺れた。大きな揺れだ。地震?…違う。
少女は前を向くことが出来なかった。
足音だ。
化け物がこちらに向かって歩いてくる。一歩一歩、死が近づいてくる。
呼吸が荒くなる。
死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない───
それだけが頭を巡る。
死が近づいてくる。足音がどんどん大きくなる。
その時、少女は諦めた。もう何も聞こえない。恐ろしいほどの静寂が少女を包んだ。
出来れば苦しまずに死にたい。どうか一瞬で殺して欲しい。生きたまま食べるのはやめてくれ。
そう思いながら、諦めて目を瞑った。
…しかし、いつまで経っても何も起こらない。不思議に思い、少女は前を向いた。
少女の目の前にはもう化け物はいなかった。その代わり、御札のようなものが貼られた瓶を持つ見知らぬ青年が1人。
「封印完了」
青年はそう呟くとこちらに目を向け、歩み寄ってくる。
膝を抱え、震えている私に手を差し伸べ、優しい笑みを浮かべて、彼はこう言った。
「あの…人間──ですよね?」