第18話 寧々side③
天ヶ峰高等学校、三年A組の教室。
「えへへ」
休憩時間。寧々はスマホを眺めていた。
みているのはもちろん新との自撮りだ。
新が肉じゃがを煮詰めている横でちゃっかり撮っていたのだ。
二人でお揃いのエプロンつけて一緒に料理するなんて、ほんとに楽しかったな。
あれから何度も見返しちゃうよ。
すると突然、寧々とスマホのあいだをピンク色のツインテールが割って入る。
「あー！ 寧々ちが写真みてにやけてるー！」
「え？ にやけてないんだけど」
美羽に指摘されて、いつものように無表情を作ろうとする寧々だったが、その口もとはによによしていた。
「あはは！ 寧々、ぜんぜん隠しきれてないからっ！」
その様子をみて陽葵は大声で笑う。
笑うたびに金色の巻き髪と大きな胸が揺れていた。
「二人とも声大きい」
「寧々ち、照れてるなー？」
「そんなことない」
ぷくっと頬を膨らまして怒る寧々。
「ねえ、私らにも写真みせてよ」
「美羽もみたい、みたい！」
「どうしよっかな」
寧々は悩ましげに首を傾げる。
「ねーねー、一緒に服選んであげったしょ？」
「そだよー！」
「それは……ありがと。じゃあ、みせる」
もったいぶった寧々だったが女子高生特有のみせあいっこに憧れがあり、本当はみせたかったのだ。
「うっわ、寧々可愛すぎん？ あのワンピースにしてやっぱ正解だったわ、上からエプロンつけても背中出てるから魅力そのまんまだし」
「あれ、なかなか効いてたと思う」
寧々はあの日のことを振り返る。
新さん、少し上をみて目を逸らしてるんだもん。
あれは意識してくれてたってことだよね？
他の人にみえないように隠してくれてたし、優しさが伝わってきてとっても嬉しかった。
ちゃんとみてっていったら顔赤くしちゃって、ほんとかわいい。
「寧々ち、ぎゃんかわだよー！ てか、お隣のおにいさんクール系イケメンじゃん！ 背もめちゃ高いしスタイルよ！」
「うん、かっこいいでしょ？」
スーツもかっこよかったけど、エプロンも料理ができる家庭的な感じがして最高。
はあ、かっこよすぎる。
写真をみながらぽーっとしている寧々だった。
「あちゃ、これはかんっぜんに恋する女の子の顔してるわ」
「てか、これってもう新婚さんじゃん！」
美羽の発言に寧々の意識は戻される。
「……し、新婚さん？」
「そだよ！ だって一緒のエプロン着て、一緒に料理するなんてどうみても新婚さんでしょー？」
「え、そうかな？」
「そうだって！ 私も思う！」
陽葵も後押しをする。
「そうかなー？」
そういいつつ、体を揺らしながら、にやけっぱなしの寧々だった。
「なにこのかわいい生き物」
「持ち帰りたいんですけど」
陽葵と美羽はでれでれになっている寧々を目に焼きつけていた。
そして、あとでからかおうと決めたのだった。
この様子をみた男子生徒たちは寧々に彼氏ができたのでは！？
と、阿鼻叫喚に包まれるが寧々には関係のないことだった。
◇ ◆
新と買い物をした、その日の夜。
天蓋つきのベッドのうえで寧々は横になりながら思い出にひたっていた。
新さんの服を選ぶの楽しかったな。
背が高いからなんでも似合っちゃうし。
超かっこいい。
写真もいっぱい撮っちゃったけど、変に思われてないかな？
スマホにはさまざまな服を着ている新の写真があった。
服を比較するために撮ったはずだったが、それにしては顔のアップが多めだった。
あとはメガネだね。
本人は目つきがキツくて威圧感を与えるからってメガネ掛けてるけど、外した方が新さんの切長の目がみえてかっこいいのに。
でも外したら外したで、新さんのかっこよさがみんなにバレちゃうのかな。
「それはなんだか嫌だな」
たくさんの女性が新を囲んでかっこいいといっているシーンを想像して、寧々は少し落ち込んだ。
お家ではメガネつけてないから寧々だけにみせる特別な姿なってことで、独り占めしてていいよね？
新にはメガネのままでいてもらおうと思い至る寧々だった。
そして今日は新さんの秘密を教えてもらった日。
家族の話をしないから仲が悪いのかなって思っていたけど、そんな易しい理由じゃなかった。
あの日、新さんのお父さんが怒鳴りつけていた言葉の意味も少しわかった。
なんでもないように話すその姿に胸がきゅっと締め付けられた。
お父さんやお母さんもこのことを知ってたんだろうな。
私に話す理由もないし仕方ないことなんだけど、また寧々だけ子ども扱いされたんだといじけそうになっちゃった。
こういうところがまだまだ子どもなんだろうな。
でも、今回は新さんからちゃんと話してくれた。
少しずつだけど寧々のこと信頼してくれてるってことのかな？
そうだと嬉しい。
まだまだ知らないことはたくさんあるけど、ちょっとずつ知っていけたらいいな。
知らないことと考えて、あることを思い出した寧々はベッドから勢いよく起き上がる。
小日向先生が少しのあいだでも新さんの元生徒だったなんて、
「そんなの聞いてない……！」
つい、大きな声をだしてしまった寧々は口もとを両手でおさえる。
え、じゃあ小日向先生って、新さんが教壇に立って授業してるところみたことあるんだよね。
スーツ姿で黒板に数式を書いている新を頭に思い浮かべる。
きゃ、っと悶絶したあと、めらめらと嫉妬の感情がわいてくるのだった。
「いいな……羨ましいな……」
それに小日向先生、ちゃっかり連絡先きいてしてたし、なんなの。
新さんも新さんで普通に教えちゃうし、もう！
あの感じ、小日向先生、新さんのこと気になってるよね。
新さんと久々に再会して目がきらきらしてたもん。
女の勘というやつか、同じ感情を持った相手のことはなんとなく察することができるのだった。
どうしようと頭を悩ませた寧々に妙案がおりてくる。
明日、寧々はあることをしようと決意するのだった。
「小日向先生には負けない」
ふんす、とやる気をあらわにする寧々だった。
お読みいただきありがとうございます。
「面白かった！」
「続きが気になる、読みたい！」
「この後一体どうなるのっ……！？」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です！
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
