第11話 寧々side② 恋人みたいにみえるかな?
天ヶ峰高等学校へと続く坂道。
並木には新緑が青々としている。
スーツ姿の新を見送った寧々は、高校へと登校していた。
「ふふ」
新さんに行ってらっしゃいって言ってもらえた。
嬉しい。慰めにいった私の方が元気もらっちゃったな。
「藤咲先輩が微笑んでるぞ」
「マジかよ! めっちゃレアじゃん」
「両手で口元隠してるところとかマジ清楚……」
ひそひそと男子たちが噂しているが寧々の耳には届かない。
そんなことはお構いなしに、寧々はスマホを取り出してディスプレイを眺める。
「変な顔」
そこには今朝、新と一緒に撮った自撮りが映し出されていた。
お弁当とお箸を持って仏頂面をしている新、その横で口元をぎゅっと抑えている寧々。
「ほんと、変な顔してるなぁ……。私」
その顔はにやけそうになっているのを堪えているようにもみえる。
みる人がみればそれもまた悶絶するほどかわいい表情なのだが、本人はお気に召さないようだった。
「でも仕方ないよね」
だってスーツ姿の新さんが横にいたらこうなっちゃうよ。
初めてみたけど、ピシッとスーツを着こなしてて、仕事ができる完璧上司って感じがしてかっこ良すぎだよね。
にやけないように抑えてたり、目に焼き付けようとみつめてたけど変に思われなかったかな?
今朝のことを振り返りながら寧々はそんな心配をする。
削除して撮りなおすことも考えたけど、新さんを削除することなんてできないし、撮りなおしても絶対にまた変な顔しちゃうだろうなって諦めた。
上手く撮れるようにこれから頑張らないと。
拳をギュッと小さく握りしめて決意する寧々だった。
そしてディスプレイに視線を戻して、嘆息する。
「はぁ」
何度みてもかっこ良すぎ、と心の中で寧々はつぶやいた。
すると後ろからポンと肩を叩かれる。
「おはよー寧々。ため息なんかついてどした? 病み上がりでしんどいん?」
「おはよ、陽葵。ん? 元気だよ」
新との写真をみて感嘆のため息が漏れてしまっただけなのだが、それを心配する陽葵だった。
寧々は内心で慌てていたがそれをさとらせないように素早くスマホをしまう。
「ほんと? 大丈夫そ?」
「うん、大丈夫」
寧々の顔を覗きこむ陽葵は少ししてから口を開く。
「うん、顔みたらめっちゃ元気そう。てかいつもより元気じゃね?」
「そうかな? いつもと同じだと思うけど」
「ちがう。毎日みてんだから分かるしー。寧々なんかいいことあった?」
いつも通りの低血圧で透き通るように白い肌、そして表情に乏しい寧々だが今日は頬がほんの少し紅潮していた。
普通の人が見れば見逃すほどの小さな変化。
だが陽葵はその変化を見逃さない。さすが親友というべきか。
「んー。いいこと、あったかも」
「えー! 激アツじゃん! 教えて教えて!」
「どうしよっかな」
「陽葵ち、寧々ち、おはよー! 楽しそうにしてどしたのー? 美羽も混ぜてー!」
二人のあいだを割って入ってきたのは美羽。
寧々の顔をみた途端にテンションを上げていう。
「え、今日の寧々ち、いつもよりかわいくない? なんか女の子みが強いんですけど」
「だよねー! 美羽も気づいた? そのワケをいま探ってんの!」
「うん、すぐ気づいた! これは乙女案件だよね」
「私、いつもとそんなに違うかな?」
首をこてんと傾げながら疑問を口にする寧々。
それに対して二人は声を揃えていう。
「「ぜんっぜんちがうから」」
陽葵と美羽はテンションを最高潮に上げながら寧々に質問攻めをして、ガールズトークに花を咲かすのだった。
それは学校について朝のホームルームが始まるまで続いた。
○ ●
夜。
ぽふん、と布団に倒れ込む寧々。
身支度を終えてあとは寝るだけ。
かわいいキャラが絵が描かれた寝巻き姿の寧々はスマホのカレンダーを眺めていた。
寧々はカレンダーにハートマークで記された日付をタップする。
「明日は新さんと一緒に料理をする日。服装大丈夫かな」
寧々はクローゼットにかけてある服を思い出しながら考える。
「大丈夫だよね、二人にも一緒にみてもらったんだし」
あれから寧々は、陽葵と美羽の怒涛に質問攻めに根負けして、いまの状況を話した。
話を聞いた二人は、「応援するよ!」と寧々の背中を押してくれた。
複雑な関係性になっているとはいえ寧々の過去を知る二人からすれば、応援すべきことだった。
当然、料理を教えることになったことも伝えた。
後日、その日のための服をみんなで買いに行くことになったのだ。
そのとき買った服がいまクローゼットにかかっている。
「いつもとは系統ちがうけど、あの服を着れば大人っぽくみられるかな? この前も子どもだと思われて話してくれなかったことあったし……」
この前とは、仕事を辞めることになった事情を隠して話してくれなかったときのこと。
藤咲家が迷惑をかけたことがきっかけで、新さんがお父さんから仕事を辞めさせられたのに。
聞けば私が心配すると思ったんだろうな。
新さんの気遣いは嬉しかったけど、同時に自分だけ子ども扱いされているようで少し悲しくなった。
本当は私に話して欲しかった。
心配かけさして欲しかった。
甘えて欲しかった。
だから事情は知っていたからつい自分から言ってしまった。
それを聞いた新さんは、ひどく申し訳なさそうな顔をしていた。
自分が恥ずかしいとか辛いとかじゃなくて、ただ私を心配しての表情だった。
私はすでに十八歳を迎えている。
自分を大人だとうぬぼれることはないけど、もう成人だ。
法律が変わって高校生であっても十八歳であれば結婚もできるし、未成年じゃないからそのことで新さんに迷惑をかけることもない。
でも、私はまだ頼りないんだろうな……。
だって、私は新さんが言ってくれたような良い子じゃない、本当は悪い子だから。
そんな不安を胸にしまって、寧々はスマホを眺める。
フォルダにまとめている新との自撮りの写真だ。
「……恋人みたいにみえるかな?」
口から小さく漏れた発言に自分でも驚く。
体がカッと熱くなり、ベッドの上でジタバタと悶える。
しばらくして、呼吸を整えて落ち着かせる。
机の上に置いた包み紙に目をやり、明日のことを想像する。
「楽しみだなぁ、ふふ」
お読みいただきありがとうございます。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「この後一体どうなるのっ……!?」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
ブックマークもいただけると本当にうれしいです!