におい
三題噺もどき―にひゃくよんじゅうに。
ようやく春が訪れた。
そう実感するのは、やっぱり花粉が本格的に舞い始めてからだよなぁ。
おかげで毎日、大惨事だ。全く。
「…ん…」
それもあって、特に予定がないときは、家から出ないようにしている。
仕事がある以上、基本は毎日外出だが。それでも休みの日は、ありがたいことに、あるにはあるので。
その時はもう、ここぞとばかりに引きこもる。
「……」
それで。
休みだった本日。
当然のように、引きこもりを決め込んでいて。
未だに片付けられていない炬燵の中に、全身を埋めて、ぬくぬくとしていたのだが。
―我が家の不思議。家の中が異常に寒い。なんでだ。
「……」
いつの間にか、眠っていたようだ。
多分、昼食は食べた記憶があるから。
その後、携帯をいじったりして。
それで、身体を起こして座っているのが、なんだかだるくなって。座椅子の背もたれを倒して、横になって。そのまま携帯をいじっていて。
「……」
今日は誰が何時ぐらいに帰ってくるんだろうとか、意味のないことを考え始めて。
そうしたら、なんだかぼうっとしてきて。
うとうとし始めて。
それで、携帯を仰向け状態の胸の上に置いて―なんか重いっていうか、固いっていうか、そう思っていたら、携帯はそこにあった。
「……」
それで、そのまま寝おちた、と。
時間は……おぉ。これは多分、1時間ぐらいは寝ていたな。
起きる前の記憶が正しければだが。
―しかし。
「……?」
しかし、なんだか。
匂いがすごい。
何の匂いだろうこれ。
嫌いな感じの匂いなんだが……。
鼻にものすごくつく……。なんか、そんなに、ハチャメチャに臭いって感じでもないのだが。
ものすごく。特徴的というか……。
「……くさ……」
臭いには臭いので、臭い。
これホントに何の匂いだ。
匂いの襲撃にあっている気分だ。ものすごい。不愉快。
「……」
寝起きだし、体温が上がりまくっていて……頭が少しぼうっとしていて、働いていない。
まぁ、普段も、たいして働いちゃいないが。
「……」
とりあえずは、身体を起こそう。
炬燵の中に埋めていた、上半身を引き抜く。
うわさむ……もう……。なんでこんなに寒いんだよこの家……マジで……。
築年数一桁だけど、まだ。
「……?」
身体を起こして座ったことで気づいだが。
誰か帰ってきていたらしい。
机の上に見慣れた鞄がある。
これは……。
「おきたー?」
「……んー」
やはり、母だった。
どうやらキッチンにいるらしい。夕食でも作っているのだろうか。
丁度、水道のあたりに居るのか、ガチャガチャというぶつかる音と、水の音が聞こえる。
「ふろはいってよー」
「んー……」
適当なその返事は聞こえては居ないだろうが。
いつものことなので、分かっているだろう。
しかし、キッチン。
そういえば、今日の夕食は茶碗蒸しがどうのこうのと言っていたな……。
「……キノコ使ってる?」
「シイタケね」
キノコだよそんなん。
全部一緒だ。
というか、絶対それ以外のキノコも使っているだろう。炒め物でもしているのだろうか。
キノコと自覚すると、途端に、異臭感が増す。
いや、まぁ。食べるにはいいのだが。
調理中のやつとかの匂いが、もう……私衣は異臭にしか思えない。
臭い……。
「……くさい……」
もう、鼻がひん曲がる。
うー……。
こんなものすごい匂い、嗅覚すごい犬とか大変そうだな。
私が犬だったら、今頃鼻を抑えて、すみっこで震えているか、喚いている。
犬になりたいと思ったことはあまりないけど。
「いいから、早く風呂入って」
「……んー」
大人しく従うことにするかぁ。
時間も丁度いいし。さっさと入って、自室に避難することにしよう。
ついでに溜まっている、諸々を進めるのもいいかもしれない。
「……沸かした?」
「まだ」
まだなんかい。
お題:犬・襲撃・キノコ