転生見送り人~自分から自分へ~
初老の男はふと気が付くと何もない白い部屋にいた。
「ご愁傷様でした。」と背後から声をかけられた。
男が振り向くとスーツ姿の眼鏡を着けた30代半ばの男が居た。
「ここは何処ですか。」男はスーツの男に質問した。
「あなたはお亡くなりになりました。なので来世に転生する前に軽い問答や提案
を行い考えようという場所です。わかりやすく言えば『あの世』です。」と
スーツの男は答えた。男は続けて質問した。「死因は何ですか。心当たりがあり
ません。」
「死因は心臓発作です。喫煙に肥満の生活で過ごしていて、就寝中に発症して
しまいそのままお亡くなりになりました。」スーツの男がそういうと初老の男
は納得した。「確かに不健康な生活を改善せず過ごしていたから、こうなるの
は仕方ないのかも知れない。」
男は少し悲しそうな顔をしていたら、スーツの男は話した。
「お気持ちはお察ししますが、新しい人生をスタート出来ると考えて前向きに
なることをおすすめします。」
男は思い出したように質問した。
「来世を考える為に問答を行うということはどういうことですか。前世の行い
をここで確認してそのまま転生するのですか。希望を聞いてもらえるのですか」
スーツの男は答えた。「そうですね。こちらで前世の行いを確認してどのような
来世を送ることができるかを判断して転生していただきます。閻魔大王の代わり
みたいな感じです。」男はその名前を聞きて驚いた。「私を地獄に落とす可能性
もあるのですか。」
スーツの男は愛想笑いをしながら答えた。「その心配はございません。その
ような方はすぐに地獄で目を覚ますことになるので。」
それを聞き地獄に落ちる可能性がないことに男はほっとした。
「それでは来世についてですが、『人間に生まれたい』『ペットが良い』
『木などで長生きしたい』いろいろありますが希望はございますか。」
男は考えた。今までの人生を思い出すと、ただただ働きお金を稼ぎろくに
恋愛もせずに、孤独に過ごしてきたことを思い出し、別の生き物になって生活
する事を考えると、そちらのほうが良いのではないかと思った。だが男は
好奇心で聞いてみた。「もう一度人生をやり直すことはできるのか。」
スーツの男は意外な答えをした。「可能ですよ」
それを聞いた男は驚き質問した。「そうしたら、皆やり直してあの時こうして
いればを実行するのではないか。」
スーツの男は答えた。「もちろんそうなれば皆人生やり直しを行うので、記憶は
完全に消してから転生を行うことになるのである意味では、別人ということかも
しれません。とはいえ別人での転生でも意識はご自身ですが、ある程度の知識と
記憶も消すので大きな差はありませんよ。」
男はそれを聞くと当然かと思った。そして少し考えて提案した。
「では働かず生きていける動物でおすすめはいますか。」スーツの男は答えた。
「先に言いますが良い生活をしたくても前世で善行をしてきた方しか良い思いは
出来ませんよ。」
「もちろん承知している。しかし生きる為に嫌なことも我慢して仕事を行い、
お金を稼いで人生を無駄にしているのではないかと思いながら働いていたら、
いつの間にか死んでしまうのであれば働かずに生きていける生活には憧れて
しまう。」
スーツの男はそれを聞き頷きながら手元に持っていた分厚い本を見ながら
答えた。
「確かにその通りかもしれません。では動物園のパンダなんかはどうですか
本来は人気が高いのですが、ちょうど空いている枠がありまして。」それを
聞いて驚いた男は不思議そうに尋ねた。
「ちょっと待ってくれ、パンダなんかの人気で希少な動物にもなれるのであれば
世界中で繁殖しているのではないのか。」
スーツの男は答えた。「そうですね。ですが『長生きする個体』は誰でもなれる
わけではございませんと答えれば十分でしょうか。」
男はそれを聞きあきらめた。おそらくは『長生きする個体』ではない運命なので
誰も転生しないのだと分かったからだ。そしてほかの提案をしてもらった。
「では少し趣旨が少し変わりますが、競走馬はいかがでしょうか。良血統に恵ま
れるようにして鍛えて、走って勝てば良血統として繁栄もできますよ。しかも
人間のように常に働き続けるわけではございませんのでいつも一定数の人気は
ございます。」男は念のため質問した。「その話は良さそうだが、リスクとか
はないのか。」
スーツの男は答えた。「そうですね。いくら血統が良くても勝てなければ・・
としか言えませんね。」男はそれでは短い人生になってしまうかもと考え
ほかの提案をしてもらった。
「ペットショップの猫や犬はどうでしょう。こちらは愛犬家や愛猫家の方以外
でも動物を選択する中では多い選択肢となっております。先に欠点を申し上げ
るのであれば売れなければということになりますが・・いかがでしょう。」
男はそれを聞き確かにそうだと思ったが、気になる点を質問した。
「それでは最初からペットとして飼っている家庭に生まれることはでき
ないのか。」
「もちろん可能ですが、その場合は生まれてからは完全に運任せになります
ので、ご家庭で飼えなくなり捨てられる可能性も考慮されますので、そこも
含めてよろしければそれでも大丈夫ですよ。」
男は不思議に思っていたことを正直に言った。
「さっきからなぜか知らないが、生まれ変わるにしてもいい条件のものは
ないように思えるのだが。」
スーツの男は愛想笑いをしながら答えた。
「それは仕方ありません。ご自身で他人に誇れるくらい前世で善行を積んで
きたといえますか。多くの方はそのような立派な人間ではありません。あなた
も例外ではありません。なので来世もほとんど運任せです。良い生活を望むの
ならそれなりの人生になることを覚悟していただかないと。」
男は諦めるように言った。「良い人生を送れずに生まれ変わっても、運任せで
生きていくしかないのであればどのような来世を送ればよいのですか。」
スーツの男は答えた。「そのような後悔に近い質問をする人たちがいますが、
私がおすすめするのはもう一度人生をやり直しするのが良いかと。」
それを聞いた男はなぜなのかと不思議そうな顔をした。
それを見たスーツの男は続けて言った。
「今回の人生であなたは、働き生きていた『だけ』ですが、もう一度人生を
全てやり直して地獄に落ちるような行為をしていなければ、もう一度こちらに
来て新しい人生観を持ち来世について考えることができますので、おすすめして
おります。」男はそれを聞くと決心がついたのか
「もう一度人生をやり直します。」
スーツの男は最後に言った。「記憶は無くなるので言うだけ無駄ですが、次回
あなたがここに来て別の素晴らしい来世を提案できることを楽しみにお待ち
しております。」
終