魂の群像劇
「魂の群像劇?」
「えぇ、人は元来全ての事象を知り得ている。そしてそれを理解した上でそれぞれが舞台の上で演じているに過ぎない、という説ですわ」
「エリエレーゼ君、それが彼女となんの関係があるのだ?」
「司令、これは実験なのです。この【魂の群像劇】が本当にあるのであれば、私も、そして司令も、この世界で自分の役をこなしているに過ぎない演者という事になります」
司令と呼ばれる白髪の男は溜息をつきながら首を横に振る。
「だからなんだというのだね? 仮にその説が正解であったとしよう、それで? 我がグリエルに何の利益をもたらすというのだね?」
「利益? 世界の深淵に近づける以上の理由など必要ですか? これは浪漫ですよ?」
白髪の男は眉間を摘みながら反論を返す。
「世界の深淵など要らないのだよ、世界の秩序は我々が作る。その為の暗殺部隊だ、その為のグリエルだ!」
「と、いう人間を司令自ら演じていらっしゃる事にお気づきですか?」
「黙れ小娘!!」
近くにあった机を思い切り両の手で叩く白髪の司令。その目は怒りに満ちていた。
「エリエレーゼ君、君はあの時、あの時に殺しておくべきだった。まだ組織内でも力を持たないあの時に……!」
フーフーと鼻息荒く激昂する司令の頬にエリエレーゼはそっと触れ優しく諭すよう話しかける。
「怒らないください司令。この説が立証されれば貴方は何も悪くない。貴方も、私もただの魂の奴隷……そしてそれに気がついていないだけ……それが何の罪に問えましょうか」
「……詭弁だ! あり得ない!!」
「そうですね、そうかも知れません。だからこそ、それを確かめる為の彼女です」
撫でるように頬から唇へと人差し指を移動させるエリエレーゼ。
「お前は……狂っているよ」
諦めたように白髪の男は言葉を紡ぐ。
「きっと人は忘れてしまうのですよ。分かっているのに、気づいていたのに、それを確かめる為のグリエルです」
「……そんな考えでグリエルを動かしているのはお前だけだ……」
その言葉にも微笑みを浮かべながらエリエレーゼは返答する。
「良き理解者がいるから私はそのように動けるのですよ司令。貴方がシュフリダールの処分を保留にしてくれたお陰で……私を撃たなかったお陰で今があるのです」
「……君のいい分なら、私はそのように魂に動かされた、という事になるな」
「ふふ、やっぱり良い理解者です、司令は」
そう言って悪戯っぽく笑いながらエリエレーゼが目をやるモニター越しには事務局の前で会話を交わすシュフリダールとミコットが映っていた。