階級
ミコットが特殊学級であるEクラスになった事は以前との大きな相違点であった。過去の歴史ではミコットはAクラスだったはず、ミシャと同じクラスだったから間違えるはずがない。
イレギュラーであるSSランクを除けば暗殺組織グリエルは基本5つのランクで構成されている。
Sランク……能力測定値で基準を大幅に超える数値を叩き出し、10以上の任務を評価点A以上で達成すると「二つ名」と共にその称号が与えられる。
Aランク……10以上の任務をこなしかつ評価点平均がB以上である事。
Bランク……5以上の任務をこなす事
Cランク……1以上の任務をこなす事
実習生……任務経験はないが暗殺者としての適正が認められた者。
そして暗殺部隊養成学級はBランクから実習生までをまとめた次代を担う人材の集まりなのだ。
……結果的には以前の世界線であってもミコットは暗殺組織の一員となった。だがあの時は一年近くをAクラスで過ごし徐々にその素質を開花させていったに過ぎない。実際、あの当時は組織もミコットが暗殺組織の一員になるとまでは考えていなかったはずだ。
だがEクラス……これは確実に組織もミコットの事を学園ではなく暗殺組織のグリエルとして迎え入れている証拠だ……
(何故だ!? 何故こうも以前と状況が違う!? せっかくやり直すチャンスを得たというのに!)
どちらにしてもEクラスはマズイ、マズイのだ。何故ならばCランクと実習生の間には大きな隔たりがある。1以上の任務をこなす……このハードルはあまりにも高く、初回任務での生存確率は僅かに20%……8割の実習生が命を落とすというデータがある。
そしてEクラスはその「選別場所」でもあるのだ、人を人としてなど見てはいない。暗殺養成学級とは名ばかりにようは「ふるい」にかけているのだ、使える人材かどうかを、早い段階に任務に出す事によって……
「ダールちゃん、じゃあ私頑張ってくるね!」
そう言ってEクラスの棟へと向かうミコットに対して咄嗟に呼び止める。
「待って!」
「? なにダールちゃん」
「……っ」
呼び止めて……どうする? 逃がすか? いや、このクラス分けは何故か知らないが組織の思惑も入っている……今、不用意に動くのは逆にミコットを危険に晒しかねない。
そう思い直し「ここから逃げろ」という言葉をグッと飲み込む。
「いや……きちんと挨拶するんだぞ。第一印象は肝心だ」
「は〜い! ありがとうダールちゃん!」
そう言って跳ねるようにスキップしながら自分の配属された棟へと向かうミコットの肩には、まるで死神が乗っているかのようにさえ見えた。