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不穏

「シュフリダール。戻っていたのか」

「……ミシャか」


 ミコットが入学手続きが終わるまで事務局の待合室で待っていた私に声を掛けて来たのは同じ暗殺組織グリエルに属するミシャ・トワイストフであった。

 青い髪に青い瞳、肩口までの短めの髪にまとめた小柄な彼女は華奢に見えるが組織内のランクはS。体術に特化しており武器の持ち運びが厳しい任務では群を抜く成績をあげている、年齢は私の一つ下だが「無音のミシャ」と呼ばれる程に音もなく体術のみで相手を絶命させるそのスキルは無二であり組織の有望株の一人だ。


「珍しいな、お前が学園に顔を出すなんて。今は潜伏任務中と聞いていたが?」

「ああ、まさにその通りだよ。今も任務の真っ最中だ」


 フゥと溜息を事務局を指差し続ける。


「護衛対象が今日からこの学園に通う事になってな。お前と歳が同じ貴族の令嬢だ、もし同じクラスになった際には目を掛けてやってくれ」

「貴族の令嬢? 護衛対象ならばわざわざ学園に入れる必要もないだろう? 何か意図でもあるのか?」

「さあね、私が聞きたいくらいさ。とにかく同学年であれば少なくとも学習棟は同じはずだ、危険がないように頼めるとありがたい」


 ミシャは一考した後静かに首を縦に振る。


「いいだろう、お前には何度もターゲットの補足に協力してもらっているからな。貸しと言うつもりもないが、また共同任務の際にはスナイプ役を任せるよ」

「……ミシャ、残念ながらそれはできない相談だ。私はもう銃を持つ事はない」

「なんだと?」


 そこまで話した所で勢いよく事務局のドアが開く。


「お待たせ〜ダールちゃん! 今日のお昼から早速授業に参加していいって! Eクラスだって……ってそっちの人は?」


 はちきれんばかりの笑顔で話しかけてきたミコットだったが、隣にいたミシャを見ると急に縮こまり小声でおどけたように続ける


「あ、あの初めまして、ダールちゃ、あっ、シュフリダールちゃんの友達で今日からこの学園に入ることになりました、ミコット・ラングドアームです……よ、よろしくお願いします!」


 地面に頭を打ちつけそうなくらい大きくお辞儀をするミコット。無理もない、令嬢として育てられて来た彼女は学園生活など送った事はない、ただ日々令嬢としてのたち振る舞いをあの家の中で教わって来たのだ。だからこそ彼女が学園そのものに憧れを抱いているのはひしひしと伝わって来た。


「……ミシャです。よろしく」


 短い、愛想のない返事をするミシャ。危険がないように頼んだ事は承知しても仲良くする気はない、という意思表示の表れにも見えた。

 だがそんなミシャに対してミコットは水を得た魚のように目を輝かせる。


「わ〜〜! ダールちゃんと一緒! 凛としててカッコいい!! 二人は学園のお友達なんですか? ミシャさんの学年は? 好きな食べ物とかございますか?」


 矢継ぎ早に質問を浴びせるミコットにたじろぐミシャ。


「くっ……お、おいシュフリダール。コイツは本当に貴族令嬢なのか!?」


 私はその光景を見ながら腕を組み、口元を緩ませ答える。


「あぁ、気を付けろミシャ。ミコットは一筋縄ではいかないぞ」


 引っ付くミコットを引き剥がそうするミシャ。その様子に自身を被せてまた一笑する。


(ふっ、人見知りなのか人懐っこいのか……本当に不思議な奴だよ。相手は百戦錬磨の暗殺者だというのにな)


 暗殺者である事を知らないというのも確かにあるだろう、だがミシャはあからさまに関わりたくないという態度を取った。にも関わらず私に似ているというだけでここまで気を許すのだからな……

 改めて彼女の普通の貴族令嬢とは違う一面を目の当たりにし嬉しくすら思う。


「ほら、ミコット。ミシャが怯えているぞ。そのくらいで勘弁してやれ」

「だ、誰が怯えてなどいるか! ちょっとビックリしただけだ!」

「分かった分かった。ミコット、早くクラスに行かないと自己紹介に遅刻してしまうんじゃ……」


 そこまで言い掛けて私はハッと気付く。


(Eクラス……馬鹿な!? Eクラスだと!?)


「は〜い、ダールちゃん。 ……? ダールちゃん?」


 グリエル学園Eクラス。

 彼女が指定されたクラスは通称「暗殺部隊養成学級」。つまりはクラス全員が暗殺者としての裏の顔を持つ特殊学級であった。

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