出会い
ミコットの事を初めて聞いた時の感想は「使えそうな少女だ」だった。第三夫人の娘でありラングドアーム家の中でも役割の小さい彼女は同家の懐に入るにあたり最も容易であると考えたからだ。
事実、ラングドアーム家に潜り込むにあたりアプローチの方法として選んだのは執事という名目の彼女の世話係だった。同姓である事が採用条件であり年齢も近かった為、取り入る理由付けとしては充分だった。
そしてミコットを初めて会った時の感想は……「なんだコイツ」だった。従来貴族という生き物は他者を見下し、相手との関係性は打算の上で構築する生き物だと思っていた。少なくとも今まで見てきた貴族はそうだったし、教育による賜物であると感心すらしていた。実際彼女には3歳と5歳上の二人の腹違いの姉がいたが、彼女達はまさしく私の貴族像そのものであった。
そう、ミコットだけが私の常識の範疇ではなかった……
「は、はじめまして!」
緊張した面持ちでペコリと頭を下げるミコットの頬は少し赤く緊張が見て取れた。青い瞳をくりくりとさせながら右へ左へと焦点が定まらない。
「……はじめまして、本日よりラングドアーム家に仕えさせて頂きます、執事のシュフリダールと申します」
深々とお辞儀をし初めての言葉を交わす。
「あ、あの! お母様から聞いてて楽しみにしてました! 歳の近い女の子が執事さんとして来るって」
手をばたばたと落ち着きなく動かしながら嬉しそうに恥ずかしそうに話す。
「お困りごとがございましたら何なりとお申し付け下さい」
私はミコットの言葉に反応する事なく淡々と必要最小限の言葉のみを交わす。
「シュ、シュフリダールさんは何歳ですか!?」
「……13でございます」
「そうなんだ! じゃあ私より一つお姉さんなんですね」
「……ミコット様、私は執事。敬語は不要にございます」
「え、でもシュフリダールさんの方がお姉さんだし……」
「お気になさらずご指示下さい。それにミコット様に敬語を使わせては私が怒られてしまいますので」
「そっか、シュフリダールさんの事考えてなかったね。ごめんない」
シュンとしながら頭を下げるミコット。その小さな背丈はより縮こまって見えた。私は表情を変えずペコリとお辞儀をする。
「それでは私は自室にて待機しておりますので御用の際はいつでも……」
そこまで言いかけた所でミコットが食い気味に割って入る。
「じゃ、じゃあ私と友達になって下さい!」
頬どころではない、顔を真っ赤にさせて真っ直ぐにこちらを見るミコット。何を言っているのだこの娘は、と思ったが第一印象が重要だと返答を返す。
「ご指示とあれば」
ミコットとは対照的に俯き加減でそう伝えると、彼女は慌てたように訂正する。
「ご、ごめんなさい! 指示じゃないです。ただ歳の近い友達っていなくて、だからその……ただ友達になって下さい!」
意を決したようにもう一度、今度はよりはっきりとした口調で言い直す。
「……ご指示とあれば」
「も〜! だから指示じゃないんだって〜!」
困った表情の彼女はどこか嬉しそうにも見えた。
それがミコットとの出会いだった。