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三人の令嬢

 2年前も彼女は同じように笑っていた。ラングドアーム家の薄汚い仕事とは縁遠い箱入り娘はこの時15歳になったばかり。

 現在の彼女の仕事は上品に明るく振る舞う事、ただそれだけであった。この時のミコットはラングドアーム家の第三(・・)令嬢。大貴族の家に嫁ぎその権力をより強固なものにする為だけに生かされている飾りの姫だった。


「ほら、感想を言ってよダールちゃん。一人ではしゃいでいる私が馬鹿みたいで恥ずかしくなってくるでしょ?」

「あ、あぁ。申し訳ございません、よく似合っておりますよミコット様」


 現状把握ができず呆気にとられていた私は取り繕うように世辞を絞り出す。いや、世辞ではないか、紺色の指定服はミコット胸元まで伸びた美しい金髪を際立たせ、まだ幼い容姿を少し大人っぽく魅せている。通常の美的感覚がある者ならば多くが見惚れてしまうだろう。


「ほら! また敬語を使って! 二人の時はなしって言ったじゃない」


 そう言ってぷくっと頬を膨らませる仕草もどこか懐かしい。


「すみませ……すまない。寝ぼけているんだな、まだ」

「そういう事なら許しましょう〜」


 語尾を伸ばし少しはにかむ。その口調、その仕草、間違いない、ミコットだ。嬉しさのあまり抱きしめたくなる衝動を必死に抑え、そして冷静に考えを巡らす。


(これが夢でないのだとしたら、これは過去の……2年前の出来事だ。私は自らの命を絶ったつもりだったが……この光景は)


 やり直せる……いや、やり直していいと、そういう事なのだろうか。

 それはあまりに身勝手で都合の良い解釈かもしれない、だが私はやり直したい、救いたい。少なくとも同じ過ちは二度と繰り返さない!



 神は信じていなかった。

 もしいたとしても、私の人生において何の価値もない存在だったから。だが今は感謝せずにはいられない。いやこの所業が悪魔であったとしても、この無二の機会で私は必ず彼女を救う。


「あら、ミコット。そんな格好をして何をしているのかしら?」

「クローディア姉様。その服、そこの執事がよく着ている服ではなくて? ミコット、貴方もしかして執事になりたいのかしら?」


 ニヤニヤと感じの悪い笑みを浮かべながら屋敷の庭を横切ってくる二人の女。一人は赤色に染まった髪を後ろに束ね高級そうや白いドレスに身を包み、一人はミコットと同じ金髪で腹部まである髪を束ねるでもなく見せびらかすようになびかせ歩く、こちらも高そうな青のドレスに身を包んでいる。そんな二人を見ながらミコットは不安そうな口調で呟く。


「クローディア姉様……リリシア姉様」

「ミコット、あまり勝手な真似をしてお父様の顔に泥を塗らないで。貴方は大人しく言う事を聞いているだけでいいの」

「そうそう、ラングドアーム家の名を汚さないように家を出て執事になるっていうのなら止めないけどね、執事くらいなら貴方にも出来そうだし」

「ふふ、リリシア言い過ぎよ。いくらミコットでもお父様は執事にまでしたりはしないわ。それこそラングドアーム家の名に泥を塗ってしまうもの」


 口々に罵りながらケタケタと品なく笑う二人の女。


(……なんだ、コイツ等か。そうか、まだ始末していない頃だったな)


 今の第一令嬢と第二令嬢であるこの二人はとある依頼の元私の手でこの世から消している。今から一年後くらいだったか……

 私の仕業とも知らずミコットが大泣きしていたの思い出す。


「……して下さい」


 過去を懐かしんでいた私の横でミコットは唇を震わせる。


「訂正して下さい! 執事は立派なお仕事です! シュフリダールに失礼です! 訂正して下さいお姉様!」


 息を切らせながら涙声で訴えるミコット。

 あぁ、そういえばこんな事もあったっけ。ミコットは決して気の強いほうではない。だが強きに挫かれ自分の意志を曲げるような事はしない子だった。


(私はこんな奴等の戯言など何も気にしてはいないのにな……)


「あらあら、そういえば貴方。その執事と仲が良かったわよね。でも訂正は出来ないわ、だって本当の事だもの」

「そうそう、執事って用は雑用でしょう? 家にも5人程雇っているけどいくらでも替えがきく程度の存在。お金の為とはいえ惨めなお仕事よね。ねぇ、貴方もそう思うでしょう執事さん?」


 リリシア第二令嬢はそう言って私に話を振ってくる。「ええ、そうですね」と2年前と同じように適当に答えてこの場をやり過ごそう……と、思ったその時。私はある事を思い出した。


(待てよ……そういえば)


 そう、この後適当な返事をして「やっぱり執事は何も出来ない」と口汚く罵る姉達に憤ったミコットは確か……!


「あらあら何も答えてくださらないのね執事さん。そういえば貴方って家に来てから結構経つのにほとんど喋ったのを見た事ないわ」

「そういえばそうですね。話しているのを見かけるのはミコットといる時くらい……そうだ! クローディア姉様いい事を思い付きましたわ」


 この流れは……前と同じだ、マズイ!


「なぁにリリシア?」

「このあまり話さない執事は不要ですとお父様にお話するのです。無口な執事なんて薄気味悪いと前々から思っていたのです」

「なっ!?」

「まぁ、それはいい考えねリリシア。確かに執事などいくらで雇えますし、もう少しお仕事が出来る方でないと我がラングドアーム家に相応しくないですものね」


 パチンと手を叩きうすら笑いを浮かべる第一令嬢。


「そんな! 姉様達ひどいです! ダールちゃんは何も悪くないのに!」

「まぁ、ダールちゃん、ですって。はしたない呼び方、これはミコットの教育の為にもすぐに首にして貰わないと」

「そうですねクローディア姉様、無能な執事は切りましょう」


 この展開は……一緒だ2年前と。


「だ、駄目! ダールちゃんは凄いんだ! 凄いんだから! 私見た事あるもん! 一回だけだけど、すごぉく遠くから家に侵入しようとしてた悪い人、その人の足だけ狙って当ててたもん! 凄いの! ダールちゃんは凄いんだもん! だから絶対ぜーったい必要な人なんだよ!」


 そう、この時私は執事を継続する為、仕方なく銃の腕前を披露したのだ。そしてそれを見たミコットは私への……銃への憧れを抱く引き金となってしまった。


(変えるんだ! 未来を!)


「ねぇ! ダールちゃんもなんとか言ってよ!」


 涙声でこちらを振り向くミコットの肩に私はそっと手を添える。


「申し訳ございませんミコット様、貴方のご期待には応えられません」

「そんな……ダールちゃん。嫌だよ離れ離れになりたくないよ……」


 涙を手で覆うミコット。それを見ながら下衆な笑いを浮かべる二人の令嬢。

 そして私はこう言い放つ。


「僭越ながら剣技ならお見せしましょう。私、剣士ですので」

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