ポンニチ怪談 その49 積極的参戦言動罰
厳重に警備された元総理の家におきた惨状、それは平和国家ではありえないことだった、しかもそれはそこだけではなく…
「な、なんだ、これは」
駆け付けた警察官たちは現場を一目みるなり、つぶやいた。
都心の住宅街、おそらく最も警備が厳重であったはずの家は無残な廃墟と化していた。
きらびやかな装飾が施された、室内…の残骸がそこにあった。大きな穴が開き、崩れ落ちた天井。バラバラに壊れた家具。いかにも高価などっしりとしたつくりのソファの脚や背もたれが乱暴に取り外されている。他の家具も木製の部分がなかった。のこぎりのようなもので、中途半端に切り取られていたものもあった。金目のものはすべて取り去られたのか、空の凝った作りの木箱や、刺繍の施された袋などが床にちらばっている。割れた陶器のかけらには血がところどころついていた。
「ほかの部屋もお、同じだ」
げっそりした顔で警官の一人がつぶやいた。
もう一人の警官は、庭をみて呆然としていた。
彼がみていたのは、庭の一角。焚火でもしたのか、灰と木の燃えカスがうずたかく積まれ、周りには缶詰や破り棄てられた包材、飲料のビンやペットボトルなどが散乱していた。そのそばには家の主一家…だった塊。
散らばった肉片のそばに横たわった首のない老女の体。
「頭を散弾銃で撃たれたみたいだ…、そんな馬鹿な」
震えながら、警官は遺体をみる。
いかにも品のワンピースがところどころ泥で汚れ、血が付いている。庇うように腹にあてた手の甲には靴跡が付いていた。そのそばには体中を切り刻まれた熟年女性、白かった服は真っ赤にそまっていた。国民の多くを不快にさせたとまで言われた夫人のその顔は苦痛に歪んでいた。そして、
「も、元総理の…、く、首」
足元に転がっている頭に気が付き、警官は思わず後ずさりした。幾筋もの血を流し、無数の穴をあけられた上、首を切り落とされた元総理は恐怖と驚きに満ちた表情のまま息絶えたようだ。
「グフッ」
立ち込める血の匂いに思わず吐きそうになる。
必死に口をおさえた警官をもう一人がなんとか支えようとするが、彼の足取りもふらついていた。
「ひ、ヒドイ。こんなことが現実に、このニホン国で、あ、あるのか。しかもここは元総理の家だぞ」
「あ、ああ、け、警備が常駐しているはずだ。そ、それに、ま、万が一強盗に入られたって、あ、あんなふうにはならない。あれじゃ、まるで、この間みた」
「ああ、テレビで見た侵攻された国の家みたいだ。し、死体とかはさすがに映っていなかったが、残虐行為の説明からすると、あんなふうになっていたのかも」
「だ、だが、ここはニホン国。しかも総理をおりたとはいえ、現役議員で力もあり厳重に守られたはずなのに、な、なんで、こんな」
「と、とにかく応援を」
いそいで一人が本部に連絡をいれる
「そ、そんな!し、信じられません…、とにかく早く…え、いえ、…し、しかし…わ、わかりました。は、はい、ま、待ちます」
連絡をいれた警官がげんなりした顔をするのをみて、
「ど、どうしたんだ」
「あ、あちこちで、こ、こういう事件…いや、こういうことが起こってるらしい」
「お、お偉方がか」
「い、いや、区別はないらしい。…まあ、テレビとか雑誌にでてる有名人もいるらしいから、あの西の都市の元知事とか、今はコメンテーターとか、党の顧問とかやってる」
「あの人がか?でも、その人の家はタワマンの最上階のはずだろ」
「そ、それが、その部屋だけ無茶苦茶荒らされてて、そのうえ、奥さんや娘さんは暴行されて撃たれていたそうだ、本人は家にいなかったが」
「た、助かったのか」
「いや、テレビ局のスタッフ連中と一緒にスタジオで下敷きだ。まるで大砲でもおちてきたみたいに、天井に穴が空いてたそうで、下の機材や何やらは潰された、当然人も」
「ま、まさか、隣国とか例の北のミサイルとかか!」
「そ、それがほかの近所のビルはなんともなかったそうなんだ。そのテレビ局の入ったビルだけ、音もなく、いきなり壊されたみたいで」
「な、なんだよ、それ。…ひょ、ひょっとして、ほかも同じなのか、一部だけが攻撃をうけたみたいになったとか、兵隊だかなんだかになぶりものにされたとか」
「あ、ああ、そうらしい。確か、さっき聞いたのは、あの人に、あの…、アッ」
「ど、どうしたんだ、何かわかったのか」
「そ、そうだよ。あの連中だよ。ほら、あの大国の侵攻が脅威だからとかいって“相手国を攻撃する能力を我が国ももつべきだ”とかいってた」
「あ、あいつらか!そ、そういえば元総理なんて、さらに無茶いってたじゃないか。“敵の中枢を叩く能力を”とか。そんなことしたら専守防衛なんてもんじゃない、あの侵攻した大国とおんなじじゃないか」
「威勢のいいこといって注目を集めたかったんだろうよ。腹が痛いとかで二度も投げ出したくせに。第一、積極的に戦争するようなこという奴らに限って自分は酷い目に遭わないと思い込んでる。だから好き勝手いいやがるんだよ」
「まったくだ、弱い立場の人たちの、下っ端の俺らがいつも被害にあうんだよな。ほんと」とつぶやく警官の耳に
“だから、罰をあたえてやったのよ…”
“自分らの言ったことがどういう惨劇を招くか身をもって体験すればいい…”
“私たちの苦しみがどれほどなのか思い知ればいい”
響く女性たちの微かな声。
「お、おい、今の」
「戦禍にあった女の人の…、い、いやそんな馬鹿な」
「お、応援、応援をまとう」
暖かい春の夜に震えながら二人の警官はいつまでも応援をまっていた。
どこぞの侵略戦争にかこつけてあーだこーだ仰ってる方々は、その結果、国民や弱者がどうなるか理解してないんですかねえ。そういうことにならないように努力するはずの政治家さんたちが真逆な事をやりそうだというのは、やはり自分には起こった惨劇は関係ないから、そんなひどい目には合わないからとおもってるからなんでしょうか。