↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
詐欺師にアップルパイを  作者: ながる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/9

第2話 名刺に疑問を

 別れの気配を感じていた私は、数か月前から嫌がらせでアップルパイを作っていた。シナモンがあまり好きではないのを知っていて、事あるごとに、たっぷりとシナモンを使ったアップルパイを食べさせていたのだ。

 JK大好きなトウマは卒業間近な私とは別れて、新しい娘(こ)と付き合うらしい。

 と、いうか、もう付き合っている。あの分だと、二股どころか三股かもしれない。いつか刺されると思う。最後の下剤入りアップルパイを躱されてしまって、ホールではなくカットにするべきだったかと反省していたところだ。


「市販のものを粉にして混ぜ込んだだけなので、どのくらい効果出るのかわからないんですよね。酷いようでしたら連絡ください。それなりのお詫びはします。でも、そちらも勝手に手を付けたんですから、100:0でこちらが悪いことにはならないですよね?」


 スマホを手に小首を傾げれば、おじさんは少しだけ引きつった。はぁ、とため息をこぼして、ぼさぼさの髪をかき上げる。険のこもった瞳がちゃんと見えると、まだ若い方のおじさんだと判る。剃り残しなのか、今日は剃っていないのか、ぽつぽつと見える髭がなくてスーツを着ていれば、そこそこ見られるかもしれない。


「……近頃のガキは……」


 渋々とスマホを取り出して、連絡先を交換する。匿名のチャット風連絡アプリは、こういう時本当に便利だ。うざければブロックすればいいし。まあ、あちらからブロックされることもあるけれど。


「しののめ、さん?」


 アイコンに表示されている『東雲』を読み上げると、彼は頷いた。


「君はテリちゃんでいいのかな」

「まあ、そうですね」


 登録名はカタカナだ。間違えようがない。本名でもないけど。

 彼は内ポケットから輪ゴムで留められた名刺の束を取り出すと、扇形に広げて何やら探し始めた。裏面には○月○日~○月×日などと鉛筆でメモ書きしてある。うちの一枚を引き抜くと、数枚がばらばらと落ちて散らばった。


「おっと」


 後ろの日付をすばやく確認して、東雲さんはそれを私の前に置いて差し出す。テーブルの上に落ちた名刺をざっと寄せると、下に落ちた分を拾うために屈みこんだ。

 目の前の名刺を見て、それから寄せられた何枚かの名刺に目を走らせる。裏面になったものが一番上に来ているのでちゃんと見えたわけではないが、その下の名刺の肩書はおそらく“ルポライター”だった。名前が見えなかったので、彼のものとは限らないのだけれど。

 彼が身を起こすのを感じて、もう一度目の前の名刺に視線を落とす。


「これ、ふざけてます?」

「なんでそう思うの?」


 裏も表もごっちゃにしたまま、彼は名刺を束ねて、また輪ゴムで留めた。


「普通、大っぴらに名乗る職業じゃないので」


 というか、これは職業か?

 名刺には堂々と『詐欺師 東雲 航路』と印刷されていた。あとは、電話番号だけ。

 私は名刺を手に取り、裏返してみる。


 3/8~3/18 と、記されていた。今日は三月十二日。どういう意味だろうと眉を寄せる。


「胡散臭すぎ」

「大人としての礼儀でちゃんと名乗ってるだけじゃないか。疑うならそこにかけてみろよ。ちゃんと繋がるぞ?」

「連絡先は頂きましたので、ここにかける意味はありません」


 こっちのリアル番号を知らせるとか、あり得ないし。

 彼はふふん、と鼻で笑うだけだった。


「じゃー、死にそうになったら連絡するわ。助けに来てくれるんだろ? なんなら、トイレ実況でもしようか」

「ご自由にどうぞ!」


 半ば呆れて、投げやりにそう言った。

 詐欺師というのが本当でも嘘でも、この名前は信用ならない。簡単に向こうの言い分に乗せられたりなんかするもんですか!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] おお! ミステリアス! なのに、どこか笑える会話笑。 この作品、おもしろい……( 。゜Д゜。)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。