第九十七話 ~ 大賢者の思い出 ③ ~
先週は身近にコロナ感染者が出て、今週は執筆途中でPCがまさかのブル-スクリーンになってしまいました。
第九十七話 ~ 大賢者の思い出 ③ ~ 序章
マノンとアレットがトロペで飽食の限りを尽くしている頃、オウムの爺は魔法工房の転送ゲート室の床に横たわり最後の時を迎えようとしていた。
オウムの爺は転移ゲート室の床に横たわりマノンの帰りを待っている
"早くかえってきてくれ……"
"このままだとワシは……"
爺は動けなくなったオウムの中でマノンの帰りをひたすら待ち続けているのであった
そんな事など全く知らないマノンはトロペで二日目の朝を迎えているのであった
第九十七話 ~ 大賢者の思い出 ③ ~
自分の隣で裸で気持ちよさそうに寝ているアレットを見ているとマノンの脳裏に昨日の夜の事の記憶が少しづつ蘇ってくる
"私……ヤっちゃったんだ……"
"アカデミ-の導師とヤっちゃうなんて……"
背徳感と良心の呵責に苛まれるマノンであった
マノンが一人で苦悩しているとアレットが目を覚ます
「ふぁっあっあーーーっ!」
ベッドに横になったまま大きな伸びをする
「なんだか、とっても爽快な気分」
そう言うとアレットはゆっくりとベッドから体を起こして私の方を見る
「ゆっ昨夜は……あの……」
アレットは何か言いたそうだが口籠ってしまう
「誠に申し訳ございません」
「私がアレット導師に不埒な事を……」
私が申し訳なさそうに言うとベッドの上で土下座をする
「マノン君っ!」
「何してるのよっ! 全くもうっ!!」
ベッドの上で土下座をする私を見てアレットは少し不機嫌そうに言う
「私はっ! 今すっごく幸せな気分なのっ!」
「そんなことされると台無しじゃないのっ! 」
そう言うとアレットは私にそっと口づけをした
「まっ! 当然、昨夜の事は二人だけの秘密なんだどね」
「これからも良き趣味友でいましょうね」
アレットはそう言うと少し意地悪そうな表情で私を見て微笑んだ
「まだ、時間もあるし温泉にでも入らない」
アレットはそう言うとベッドから起き上がり裸のままで温泉へと歩いていく、私もその後を追いかけるようにして付いて行った
朝日が海面の波に反射してキラキラと輝いている
二人で温泉に入るとアレットが私の真正面に来るとそっと抱き着く
「ねぇ、マノン君……」
「私、本当にマノン君の事が大好き……」
「本気でマノン君の子供が欲しいと思っている」
「昨夜は……凄く嬉しかったのよ」
「今、凄く満たされた気分なの」
アレットは囁くようにマノンの耳元で言う
マノンはそんなアレットが愛おしく思えるのであった
"不思議だな……"
"何だか肩の荷が下りたような気分……"
アレットの素直な言葉はマノンを背徳感と良心の呵責から救うのであった
温泉から上がると朝食を食べ帰り支度を済ませる
アレットの大量の荷物を案内所に預けて王都に送ってもらうように頼む
宿を出ると二人で海岸線を歩いてトロペの漁村へと向かう途中でアレットが昨日行った店に寄りたいと言うので立ち寄ることにする
二人で店に入ると"いらっしゃいませ"という声とともに小母さんが接客に来る
小母さんは私とアレットの顔を見て"おや"っという顔をする
「……昨日の人だよね」
そう言うと小母さんは注文を取ろうとする
「今日、王都に帰るので少し立ち寄りました」
アレットが小母さんに言う
「そうかい……」
「それなら軽食でいいね」
「干し鰈の良いのが入ったから、それでいいかい」
小母さんがそう言うとアレットと私はコクリと頷いた
暫くすると、干し鰈の焼き物とタイラ貝と春野菜のクリームリゾットが運ばれてきた
二人仲良く舌鼓を打つ……
「ワインは……」
アレットに小母さんの問いかける
「今日は遠慮しておきます」
アレットの言葉に小母さんは意味ありげに微笑むとアレットの耳元で何かを囁いた
「……」
それを聞いたアレットの顔が真っ赤になっていく
「どうしたの」
私がアレットに問いかける
「たいしたことじゃないよ」
小母さんはそう言うとケラケラと笑いながら厨房の方へ歩いて行った
料理を食べ終わると厨房から小父さんが顔を出す
「また、いつでも来なよ」
そう言うとニヤリと笑った
店を出て転移ゲートのある隣町のトランの教会を目指して街路樹のある街道を歩いていくと行先に何やら人だかりできている
「何なの、あの人だかり」
アレットが不思議そうに言う
私も何なんだろうと思いながら近付いていくと年の頃なら6~7歳の男の子がぐったりとしている
その横で母親らしき女の人が泣きながら必死で男の子の名前を呼んでいるが男の子はピクリとも動かない
近くにいた男の人に事情を尋ねると、木登りをしていて転落し頭を強く打ったとのことである
アレットはジッと私の方を見る
「わかったよ、やれるだけやってみるよ」
私はアレットの視線に後押しされ男の子の傍に行く
「少し、見せてもらえませんか」
必死で男の子の名前を呼ぶ母親に声をかける
「お願いです……」
「この子を、エタンを助けてやってください」
母親は大粒の涙を流しながら必死で私に懇願する
私は男の子の頭を両手で挟むようにして当てるとレナの乳房の腫瘍を診断した時と同じ魔法を発動する
"心肺停止状態……頭部に致命的な損傷を発見……"
"延髄の損傷……脳細胞は健全な状態……"
"治療魔術で修復可能……"
私は即座に治療魔法を発動する、早くしないと脳細胞が死んでしまうからだ
私は慎重に延髄の修復を試みる
周りの人々の目には掌が金色に光っているように見える
"延髄の回復に成功……蘇生……"
既に、この頃にはマノンの医療魔術は先史魔法文明の全盛期のそれに匹敵するほどのレベルに達しているのであった
これが、数年後に世の人々から"金色の大賢者"と呼ばれる所以となるのである
「げほっ!」
男の子は息を吹き返す
「おおっ!!!」
周りの人々が驚嘆の声を上げる
「ありがとうございます!」
「ありがとうございますっ!!」
何度もお礼を言う母親に私は手を軽く振る
「たいしたことではありませんよ」
そう言うと私はアレットの所へ戻る
「凄いね……マノン君」
「魔法の手ね」
アレットはそう言うと私の手を握る
周りの人々の驚愕する視線を気にしつつ私とアレットはその場を足早に後にする
そして、トランの教会の裏手から転移して魔法工房へと帰還するのであった
魔法工房の転移ゲート室に転移すると目の前に力尽きて床に落ちているオウムの姿がマノンの目に入る
「あっ! どうしたのっ!!」
私は慌てて床に落ちているオウムを抱き上げる
するとオウムは微かに目を開ける
"はっ……腹が減って死にそうじゃ……"
爺の声が微かに聞こえてくる
"あっ! オウムの餌の事、忘れてたっ!!!"
そう……爺は280年間も食事など必要なかったので、マノンも爺もオウムの餌の事を完全に忘れていたのだ
"ちょっと待ってっ!"
そう言うと私はポケットの中を探る
"あった"
少しだが店でもらった餌のがポケットの中に残っていた
オウムの目の前に餌を置くと必死で餌を啄む
"あ~、危うく今度は飢え死にするところじゃった"
"今度はちゃんとしたベッドの上で逝きたいわい"
"冷たい床の上で逝くのはもう御免じゃ"
爺は少し不貞腐れたように言う
"ごめんなさいっ!"
"食べ物の事を忘れてて"
私は危うく爺を死なせてしまいそうになったことを深く反省する
"気にすることはない"
"ワシも忘れておったわい"
そう言うと爺は何事も無かったように笑う
「そのオウム、マノン君のペットなの」
マノンとオウムの様子を見ていたアレットが話しかけてくる
「そうだよ、オウムの……」
「パックって言うんだ」
私はその場で適当にオウムに名前を付けた
"ワシの名前はパックなのか……"
"しかも、ペットかい……"
爺の嫌そうな声が聞こえてくる
そうしていると、アレットが私の傍に来る
「私はアレット、よろしくね! パック!」
アレットはそう言うとオウムの頭を撫でた
"……パックか……まぁ良いか……"
そういう爺の声が何処となく照れているように聞こえる
"爺のスケベ……"
私がポツリと呟く
"お前さんほどではないわっ!"
この爺の一言は私の胸に深く突き刺さるのであった
魔法工房から夕暮れの王都の広場の塔の天辺に転移する
目の前に見慣れた懐かしい景色が広がっている
「なんか、とても不思議な気分……」
「二日しかたっていないのに……」
「もう、何ケ月も前のような気がするわ」
アレットが王都の景色を眺めながらポツリと言う
「そうだね……」
私も同じような気がする
「とても、楽しかったわよ」
「……また、行きたいな……」
アレットはそう言うと一人で塔の階段の方へ歩いていく
「一緒にいる所を誰かに見られと、後々何かと面倒でしょ」
アレットは少し笑てそう言うと軽く手を振り階段を足早に降りて行った
私は、夕暮れの王都を眺めながらボンヤリと今まであった事を思い出していた
……シラクニア、ルメラ達……シルビィとザッハでの出来事……
……レナの事……
"レナ……みんな、今、何しているのかな"
等と感傷にしたりながら広場を見下ろす……何か忘れている……
"あれっ……"
"オウムの爺がいないっ!!"
その頃、魔法工房に一匹(人)で取り残された爺は途方に暮れているのであった
慌てて、魔法工房へと舞い戻るマノンであった
そして、この頃の一年余りの出来事が後に"大賢者"となるマノンにとって最も思い出深い時期となるのである……
第九十七話 ~ 大賢者の思い出 ③ ~ 終わり




