第九十六話 ~ 大賢者の思い出 ➁ ~
第九十六話 ~ 大賢者の思い出 ➁ ~ 序章
マノンとアレットがトロペの温泉で食って飲んで語らい合っている頃……
ルシィの部屋ではレナ、ルシィ、エレ-ヌの三人が集まっていた
マノンに体中を隅々まで磨き抜かれ美人になったルシィに疑問と興味を持ったレナとエレ-ヌは魔法工房で何があったのかを問い質しているのであった
「別に疚しいことはしていません」
胸を張って堂々と断言するルシィにレナとエレ-ヌは"交わって"はいないと確信するのであった
しかし、何がここまでルシィを豹変させたのかには大きな関心があった
「しかし……凄いよね」
「全くの別人だよ……」
「これも、王都を騒がせた"大賢者の呪い"と同じ大賢者の秘術ってやつなの」
エレ-ヌがルシィをマジマジと見ながら言う
「レナも命に係わるような病気になったのに治っちゃうし」
「以前にも増して肌艶がよくなっているし」
「私も"魔法工房"ってところに連れて行って欲しいよ……」
「今度、マノンにお願いしてみようかな」
エレ-ヌの言葉に下心はなかったが……レナの冷たい視線に背筋が凍るような思いをするエレ-ヌであった
「はぁ~」
そんな、レナとエレ-ヌの様子を見ていたルシィは大きなため息を吐くと魔法工房であった事を全てを二人に話すのであった
「温泉に入って、体中隅々まで洗われただけ……」
「要するに……元が良かったから」
「磨いたら光っただけって事……」
エレ-ヌはそう言うと唖然としている
「そういう事になるわね……」
「それにしても、ここまで……」
レナはルシィを見た後でエレ-ヌを見と途中で言うのを止める
「レナ……どうして、私を見て何か?」
エレ-ヌはレナを疑惑の眼差しで見ている
「なっ、なんでもないわよ……」
明らかに噓を言っているのがエレ-ヌにバレバレである
「レナ……正直に元が大した事ないから」
「磨くだけ無駄だって言いたいんでしょう」
エレ-ヌは冷めた目でレナを見る
「わっわっ私はそんな事、言ってないわよ」
レナは動揺して目が泳いでいるのが明確にわかる
「レナちゃん……」
エレ-ヌはレナを見てにっこりと微笑んだ
レナの顔が引き攣る……次の瞬間、ルシィがレナを後ろからがっつりと羽交い絞めにする
レナを見るエレ-ヌの目がまるでゾンビのように死んだ目になっていく
「ひっ! ごめんなさいっ!! ごめんなさいっ!!!」
レナは必死で謝るがエレ-ヌは亡霊のようにスッと近づいてくる
「ひぃぃぃーーーっ!!!」
その数分後、半裸状態のレナがルシィの部屋のベッドに転がっているのであった……
第九十六話 ~ 大賢者の思い出 ➁ ~
マノンとアレットは、何事もなく朝を迎えた……
朝の日の光が宿の明り取り窓から差し込む……
「もう、朝か……」
マノンは寝ぼけ眼を擦りながらベッドから起き上がる
暫くの間、ボ~っとしている
「あっ! ヤバいっ!! 早く荷物まとめて帰り支度しないと」
隣に寝ているアレットを急いで起こす
「アレット導師っ! 早く起きてくださいっ!!」
「荷物まとめて帰る用意しないとっ!!」
私は必死でアレットに言う
「あ~大丈夫よ~」
「二泊で予約とってあるから」
そう言うとアレットは再び毛布を包まると寝てしまった
「へっ?」
「えっええーーーっ!」
マノンの驚く声に宿の外で羽を休めていた海鳥も驚いて一斉に飛び立つ
"ホントに抜け目のない人だな……"
マノンは、ベッドで毛布に包まって気持ちよさそうに寝ているアレットを見て感心する……
そう……マノンは既にアレットの術中にあるのであった
「はぁ~、仕方ないか……」
「温泉にでも入るかな」
マノンは小さな声で呟くとトボトボと宿の外へと歩いて行った
温泉に入ると大きく伸びをして欠伸をする
まだ少し、昨日の夜の酒が残っているようで頭が重いような気がする
"アレット導師って何処となくセシルを思い出させるな"
"セシルもワインが大好きだったし……"
"それに物凄い酒豪だったしな、元気にしているかな……"
等と物思いに耽っていると一羽の海鳥がすぐ隣に舞い降りてくる
海鳥はマノンに怯える事も無く、羽を休めている
"お前も温泉に入るかい……"
マノンは海鳥に念話を試みる
"熱いからいいよ"
なんと、海鳥が喋った……暫く呆然とする私……
すると、後ろからクスクスと小さな笑い声が聞こえてくる
「マノン君、今、海鳥が喋ったと思ったでしょう」
吃驚して振り返ると少しエッチな寝間着のアレットが立っていた
「なんだ、アレット導師の悪戯ですか~」
「ホントに海鳥が喋ったと思いましたよ」
ホッとしたように私が言う
「もうすぐ、朝食が来るわよ」
そう言うとアレットは宿へと戻っていった
昨日までの豪華な食事と違い、朝食はいたってシンプルだった
貝のスープとパンだけであるが……二日酔い気味の胃袋には本当に良かったのであった
「これも、アレット導師のチョイスですか」
私の問いかけに
「モ・チ・ロ・ンよっ!」
「深酒した翌朝には、この貝のスープがいいのよっ!!」
そう言うとアレットは貝のスープをごくごくと飲んでいる
「アレット導師って本当に旅慣れてますね」
「凄く手回しが良くて感動しています」
私はアレットを尊敬の眼差しで見る
「それに、良い奥さんに……」
私は慌てて言うのを止めると少し恥ずかしそうに俯く
アレットは、そんな私を微笑ましく見つめる
「そう……27年も一人でいるとね……」
「あっ! とっ年の事はさておき……」
アレットはつい年齢の事を口にしてしまい焦っている
お互いに"墓穴を掘ってしまった"と心の中で呟く……
暫くの間、少し気まずい空気が流れる……
「アレット導師って27歳なんですか」
「とてもそんなには見えませんよ……」
「ルシィ導師より年下だと思ってました」
私がマジマジと言う
「そう……嬉しいこと言ってくれるわね」
「もう少し……」
アレットは途中で言うのを止めて物悲しそうな表情になる
「……食べ終わったら、村の散策に行かない」
「お昼は、地元の料理屋で何か食べましょう」
アレットは話題を変える
「いいですね、行きましょう」
私は何事も無かったようにアレットの言葉に応えるのであった
二人で海岸線の道を並んで歩く……
海岸の岩場で子供たちが何かを採っているのが分かる
「何を採っているんだろうね」
私がアレットに問いかける
「小さな巻貝ですよ」
「塩茹でにするととても美味しいのよ」
「しかもっ! 酒の肴に最高なのっ!!」
アレットは少し鼻息を荒くして言うと
「何だか……無性に食べたくなってきましたね」
「昼にちょこっとだけ……」
アレットは嬉しそうに言おうとするが……私の冷酷な視線に途中で言うのを止めた
「駄目ですよ……朝っぱらから……」
アレットは私の子供を諭すように口調に少し不貞腐れている
トロペの漁村に着いた頃には昼前になっていた
アレットのお勧めの料理屋に入る
王都の料理屋とは違い、民家の軒先をそのまま店にしたような造りでテーブルは2つだけでカウンター席も6席しかない老夫婦が二人でやっている小さな店であった
(老夫婦と言っても年齢は40代半ぐらいである……)
(かつては日本の国も55歳で定年であったのだ)
(更に遡ると江戸の昔の武士は40代半ばで家督を譲って隠居した)
店に入ると、小母さんが注文を聞きに来る
「お勧めは」
アレットの問いかけに
「そうね……今の時期なら、ヤリイカか金目鯛、アサリとハマグリ……」
「そして、酒の肴なら巻貝の塩茹でかな」
店の小母さんが答える
「それじゃ……ヤリイカと金目鯛、アサリとハマグリを」
「料理法はお任せで」
「そして……」
アレットは私の方をチラチラと見る
「少しだけですよ」
わたしが呆れたかのように言う
「巻貝の塩茹でとお勧めのワインをボトルで……」
ホッとしたような表情で注文をするアレット……
ドサクサに紛れてボトルでワインを注文するホントに抜け目のないアレットであった
ヤリイカも金目鯛も一夜干しにしたものを焼いただけ、ハマグリは塩焼きにアサリのスープにしてある
シンプルだが凄く美味い、そこへ採れたての巻貝の塩茹でにワインがボトルで出てくる
食いしん坊の私と酒好きのアレットの食いっぷりに店の主人も感心してみている……朝食を軽く済ませてあるので二人とも空腹なのである
結局、アレットはワインのボトルを3本空にし巻貝の塩茹でを4皿たいらげた
私もヤリイカと金目鯛の一夜干しハマグリは塩焼きを2皿、アサリのスープを3皿たらげてしまった
「いや~大したもんだよ……」
店の小母さんが積み上げられた皿とボトルを運びながら感心している
「どこから来たんだい」
店の主人が聞いてくる
「王都からです」
私が答える
「へえ~、随分と遠い所から来たんだね」
店の主人が感心したかのように言う
「それじゃ……例の噂は本当なのか知ってるんだろう」
店の主人が興味津々で聞いてくる
「例の噂……?」
私とアレットは顔を見合わせる
「大賢者の呪いの話だよ……それと、シルビィ王女誘拐事件」
店の主人が私とアレットに言うと
「強欲な王都の大商人共に呪いをかけて天罰を与えたり……」
「望まない儀式に踏み込んでシルビィ王女をさらったり……」
「それに……呪いで隣国のイベリア王国のカデーナ王朝を滅ぼしたり……」
「大賢者様のお陰でワシらも随分と助かている、いや~大したもんだ……」
店の主人が腕を組んで感心したかのように言う
店の主人の話では、この辺りの商取引を牛耳っていた王都の大商人はとても強欲で不当に高い手数料や海産物を安値で買いたたくなどトロペの村の人々を随分と困らせ苦しめていたようだ
それが、大賢者の呪いを受けてこっ酷い目に遭って心を入れ替えたように真っ当な商売をするようになり随分とトロペの村の人々の暮らし向きが良くなったらしいのだ
それに、隣国のイベリア王国のカデーナ王朝が滅んだことによりトロペの漁港とすぐ隣のイベリア王国のスカーナ地方への海路の馬鹿高いイベリア王国の通行料が無くなり行き来が自由になって更に暮らし向きが良くなったそうだ
今飲んでいるワインもイベリア王国のスカーナ地方との交易で安く仕入れたものだそうである
店の主人が言うには、イベリア王国の国民も長年に渡り国民を苦しめてきたカデーナ王朝を滅ぼしてくれたことで大賢者様には凄く感謝しているとか……
店の主人の話を聞いた私とアレットは顔を見合わせる
"ホントなの"
私にはアレットの無言の表情でわかる
"……"
私は少し困った顔をする
(半分は本当なので答えに困っているだけである)
"ホントなのね……"
アレットの表情に恐怖感が出ているのが分かる
そうしていると
「お二人さん、夫婦なのかい」
「随分と仲良さそうだしね」
店の小母さんが訪ねてくる
「……」
私とアレットが答えに困っていると
「そんなのどうでもいいじゃないか」
「ワシらだって初めは姉と年の離れた弟と思われたしな」
店の主人が笑って言う
「どういうことですか」
アレットが店の主人に尋ねる
「ワシは死熱病で家族全員を亡くし、こいつも同じように家族全員を亡くした」
「死に損なったもん同士が一緒になったってわけさな」
「ワシが23で、こいつが28だったからな」
「見た目は若いがワシより5つも上だからな」
「その上に29、31で女の子を二人産んだんだから大した根性だよ」
そう言うと店の主人がケラケラと笑う
「流石に31で出産した時には死にかけたわよ」
店の小母さんはそう言うと同じようにケラケラと笑う
「そう……なんですか」
それを聞いたアレットの目は遠いものを見ているように私には感じられた
代金を払って店を出る、店の主人は代金の端数を負けてくれた
ドルトンの時にマリレ-ヌと泊った宿屋の主人もそうだったが近頃は人々の心に随分と余裕があるように感じられる
(その根源が自分であることをマノンは全く気付いていないのである)
少し酒に酔ったアレットの手を引いて船着き場に来ると石垣に腰かけて潮風に当たる
「気持ちいい……」
そう言うとアレットは隣に座っている私にもたれかかると寝てしまう
「あっ……」
私は倒れ込みそうになるアレットの頭を自分の膝にそっと乗せる
綺麗な銀髪が少し傾いた日の光に映える
どのくらい時間が経ったのかのか分からないに私も微睡んでいた
「あれ……私、寝ちゃったんだ……」
アレットの声に私はハッとするように目を開ける
「帰ろうか……」
夕暮れ近い海沿いの道を二人で歩いて宿に帰っていく
朱色の水面がキラキラと光りその前を歩くアレットの姿が少女のように見える
「どうしたの……」
アレットの問いかけに
「凄く綺麗だよ」
私がポツリと言うとアレットの顔が真っ赤になっていく
「夕暮れの日の朱色の光が水面がキラキラと光ってる」
私の次の言葉にアレットの表情が歪む
「そっちかいっ!」
アレットの蹴りがマノンの股間を直撃した
地面に蹲る私を放置してアレットは速足で去っていくのであった
そんなこんなで、宿に帰り夕食を食べ終わった後もアレットの機嫌は悪いままだ……
"困ったな……"
私が気まずそうにしているとアレットが私の方へやってくる
「ふぅ~、もう、怒ってないから」
「そんな顔しないでよ……」
困ったように言うアレット
「ごめんね……無神経で……」
私が上目目線でアレットに謝るとアレットの顔が真っ赤になっていく
「だからっ! もういいって言ってるでしょ!」
少し慌てているような口調で私に言う
「温泉に入ってさっさと寝ましょ」
そう言うとアレットは宿の外の温泉へと向かう、私も一緒に付いて行くのであった
日も沈み薄暗い温泉に二人で入っていると隣の宿から、また酷い音痴な歌声が聞こえてくる
「ブッ!」
あまりの酷さに二人して同時に吹き出してしまう
「ホントに酷い音痴ね」
アレットが言うと私も頷く
「マノン君は歌ったりするの」
アレットが私に尋ねる
「歌ですか……」
「あまり歌ったりすることはありませんね」
「アレット導師はどうなんです」
私が訪ねると、アレットはスッと立ち上がると歌を歌い出す
"上手いっ!!!"
私はアレットの美声に聞き入ってしまう
私はアレットが歌い終えると思わず拍手をしてしまう
「凄いですっ! こんな歌の上手い人初めてかも……」
あまりのアレットの美声に感動し驚きを隠せない
「こう見えてもね、女子学校時代は教会でソロで歌ったこともあるのよ」
アレットは少し自慢げに言う
(この時代、教会でソロで歌うということはその地区で最も歌が上手いという事でもある)
思いもよらないアレットの特技に心から感動し尊敬してしまうマノンであった
因みに、この後あの下手くそな歌は聞こえてくることは二度と無かった……
(少し気の毒な気がしないでもない……)
温泉から上がるとアレットはトロペの漁村で買ってきたイカの干物を肴にワインを飲み始める
「ああっ! このイカの干物いいわぁ~」
などと言いながらイカの干物にかぶり付きワインを飲む中年オヤジのような姿に……
"さっきの感動と尊敬を返してくれっ!"と心の中で叫ぶマノンであった
などと言いながらも、食い意地のはったマノンもアレットと一緒にイカの干物にかぶり付きワインを飲むのであった
日もどっぷりと暮れる頃には、二人ともいい具合に酔いが回り睡魔が襲ってくる
「そろそろ寝るね」
アレットはそう言うとそそくさとベッドに潜り込むと直ぐに寝てしまった
暫くしてから、私もベッドに潜り込むのであった……
静まり返った宿にアレットとマノンの寝息だけがしている
潮騒の音が心地よく感じられる、真夜中にアレットは目が覚めてしまう
隣ではマノンが静かな寝息を立てて熟睡しているのが見える
アレットはそっとマノンの頬に口付けをすると
「んっんん~」
マノンが起きそうな声を上げると目をぱちりと開いた
「起こしちゃった」
アレットは小さな声で言う
「……もう……朝ですか」
マノンは完全に寝ぼけていた
「まだ、真夜中よ……」
少し呆れたように笑うアレットをマノンは抱き寄せる
"えっ……ええええっ!"
いきなりマノンに抱き寄せられて慌てふためくアレット
"えっ! ちょっとなに……"
マノンはアレットの胸に顔をうずめると……
乳首に吸い付くともう片方の胸を揉み始める
「あっ!あっ!あっ!あんっ!ああっ!」
「ちょっと! どうしたちゃったのっ!!」
「あっああっ! はあっ! はあっ! ああんっ!!」
アレットの喘ぎ声が静かな潮騒と共に高揚していく
「もっもう我慢できないっ!」
「マノン君が悪いのよっ!」
そう言うとアレットは寝間着を脱ぎ捨てるとマノンの寝間着を捲り上げるが……
「あれっ……もしかして……」
「マノン君……寝てるの……」
そっとマノンの顔を覗き込む……
「嘘でしょうっ!! ホントに寝てるわ……」
レナと同じ気分のアレットであった
すると、本当にマノンが目を覚ます
「どうしたんですか、アレット導師……」
「風邪ひいちゃいますよ」
裸のアレットを見て訳が分からずに呆然としている
「あのねぇ、マノン君……」
「この後始末はちゃんととってもらうからね」
そう言うとアレットはマノンに抱き着くようにして押し倒す
"私ね……マノン君の子供が欲しい……"
アレットはマノンの耳元で囁くように言う
「えっ……」
何のことか全くわからないままにアレットと"交わって"しまうマノンであった
そして、夜が更け朝になり……目を覚ましたマノン……
"なんだ……夢か……"
昨日の夜の出来事は夢だと思っていたマノンだったが……
しかし、マノンの隣には裸のアレットが幸せそうに寝息を立てているのであった
"夢落ちじゃないのね……"
目の前の現実に向かい合い、心の中で呟くマノンであった
第九十六話 ~ 大賢者の思い出 ➁ ~ 終わり




