第九十四話 ~ 大賢者の記憶 ① ~
第九十四話 ~ 大賢者の記憶 ① ~ 序章
ここは、王都の裏通りにあるアルシェ商会……
ある日の休日、マリレ-ヌはいつものように店番をしていた
マノンのおかげで店の薬の売り上げは順調に伸びている
この前、ドルトンでマノンと一緒に買い付けた薬草の在庫も半分近くになってきている
"そろそろ、ドルトンに買い付けに行った方がいいかな"
……などとマリレ-ヌが考えていると父のモーリスがやって来る
「店番、もういいぞっ!」
そう言うとモーリスは店のカウンターの中に入ってくる
「最近、マノン君はどうしているんだ」
モーリスがマリレ-ヌに問いかける
「大賢者様に呼び出されたとかで休学中みたい」
詰まらなさそうにマリレ-ヌが答える
「へぇー大賢者様から呼び出しがかかるなんて大したもんだな」
モーリスは感心するかのように腕を組んで何度も頷いている
「この前、ドルトンで買い付けてもらった薬草も良い物のばかりだったし」
「おまけに安く買い付けてくれて、俺が買い付けに行くより……」
「マノン君に買い付けに行ってもらった方がいいぐらいだなっ!」
モーリスはそう言うとマリレ-ヌを見てニヤリと笑った
「何言ってんのよ、何度も頼めないわよ」
マリレ-ヌが困ったように言う
「俺も母さんもマノン君のことが気に入っている」
「……というわけで、頑張れよっ!」
モーリスの言葉にマリレ-ヌは呆れたようにため息をする
「何を頑張るのよっ! この糞親父っ!」
モーリスに悪態をつくマリレ-ヌの顔は真っ赤だった……
第九十四話 ~ 大賢者の記憶 ① ~
レナの調子も次第によくなり、逆に変貌したルシィは徐々に劣化していっている
"酷くなれば……また、温泉に連れて行って丸洗いするかな"
等と考えながら私は、食堂の前のベンチに座って日向ぼっこしている
マノンは、いろいろとあった難局を何とか乗り切り、近頃はのんびりと充実したアカデミー生活を送っているのだが……
今度はマノン自身に難局が近づきつつあった……
だが丁度その頃に、爺は消滅の時を迎えようとしていた
だが、マノンはその事を全く知らない
知っているのはレナだけである……
最近、全く爺の気配がない
いつもの事だと初めは全く気にしていなかったマノンだが流石に何かあるのではないかと考え始めた
爺の気配を必死で探るが全く感じられない、そんな日がもう二週間近く続いている
ある日、王立アカデミ-のいつもの場所のベンチでレナと話していると爺の事が話題となった
「最近、じっ…パトリックさんと念話が出来ないんだ」
「いつもの事だけど……二週間以上も気配が無いのは初めてだよ」
私の話を聞いたレナの表情が曇る
マノンの話を聞いたレナは以前にパトリックの言っていた事を思い出す
"ワシはもうすぐこ奴に吸収される……"
"その時こ奴は完全な大賢者となる……"
レナの何かありそうな表情にマノンが不思議そうにしている
「レナ……どうしたの何か考え事……」
私がレナに尋ねる
レナは、少し躊躇したがパトリックから聞いた事をマノンに話す
「えっ……爺が私に吸収される」
「そんな事、聞いていないよっ!」
私は吃驚してレナに詰め寄る
「ちょっと、落ち着いてマノンっ!」
レナはそう言うと私の頬に手を当てる
「ごめん……レナ、つい……」
私は冷静さを取り戻しレナに謝る
「何とか、爺から詳しい事を聞かないと」
私がそう言うとレナも同意してくれたが……
どうすればよいのか皆目見当がつかないのであった……
私は、前回のレナの件と同様に魔法工房の"魔法の書"に頼るしかなかった
その週末に私はレナと共に魔法工房へと出向くのであった
因みに、レナは図書室の本と温泉が目当てである
私は、魔法書庫に入るとずらりと並んだ魔法の書の一つを手にする
何故だか自分にも分からないがこの魔法の書に私の知りたい事が載っていると直感でわかるのである
(爺と同化が進んだことによりその知識と技術を受け継ぎつつある)
私は魔法の書に右手をかざすとゆっくりと目を閉じる……歴代大賢者の記録が脳裏に浮かんでくる
その一項に、"先代大賢者の魂を吸収・同化を以って新たなる大賢者とする"と言う項目がある
私は、その項目をさらに詳しく検索する
吸収されし先代大賢者の魂は次世代大賢者の脳に留まりその成長を手助けするものなり
次世代大賢者の覚醒を以ってその役目を終えその魂は同化・消滅するものなり
……そういう事か……
私は爺の気配が消えたのと習いもしない剣術を使いこなせるのも全て爺と同化していたからなのだと気付く
だとしたら……まだ今なら爺の魂は私の脳の一部にあるはずだ
何故なら、私は未だ大賢者として完全に覚醒していないと自覚があるからだ
爺はまだ消滅していない……私に爺の声も気配も届かないだけなんだ
このマノンの判断は正しかった
私は自らの脳に潜り込むという荒業を思いつくのだが……そんな魔術は存在しない
自分の首根っこを自分で掴んで持ち上げるようなものだからである
だったら……爺の魂だけを切り取ればいいのでは……私に名案が浮かぶ
迷っている時間はもうない、やれるだけの事をやるだけだ
私は急いで王都に転移するとあるものを買って急いで魔法工房に戻ると実験室へ駆け込む
魔法陣の真ん中に買ってきた物を置くと自らの記憶の一部を切り離し魔法陣へと送り込む
魔法陣が青白く輝くと中央に置かれたある物へと流れ込む、凄まじい光を放つ一瞬でと消える
「ここはどこじゃ……」
「なんじゃ! こりゃ!!」
魔法陣の真ん中から懐かしい声が聞こえてくる
「爺……」
「良かった……」
嬉しさのあまり涙する私
「何がよかったじゃ!」
「せっかく成仏しようと思っておったのに」
「わしの魂をこんなものに入れおって」
爺はご機嫌斜めである
魔法陣の真ん中にはオウムが一羽入った鳥籠が置かれているのだった
かくして、爺は成仏し損ねただけではなく人でもなくなってしまったのである
当然、このオウムが伝説の大賢者パトリックであることは私とレナだけの秘密である
第九十四話 ~ 大賢者の記憶 ① ~ 終わり




