第八十三話 ~ 新たな学園生活(女難)の始まり ➁ ~
第八十三話 ~ 新たな学園生活(女難)の始まり ➁ ~ 序章
人の趣味趣向は十人十色である
当然、異性に対する好みも人によって違ってくる
顔、体型、声、性格、などの人間としての基本的なものに始まり……
地位、名声、財産、家柄などの社会的なものまで全てひっくるめて、その全てが当てはまる相手に巡り合う事は極稀である
そのような事をしていては、いつまで経っても相手は見つからない。
しかし、世の中には妥協を全く許さない完璧主義者も極々少数だが存在する
当然、相手は見つかず……気が付けば……熟したまま木の枝に残された腐りかけた果実の如き存在となる。
女性の場合、簡単に言えば……売れ残り・行き遅れである。
それに該当する人物が、ここ王立アカデミ-に実在する……
そうアレット・ヴィオネ……現在27歳(もうすぐ28歳)である
しかし、彼女は奇跡的にも完璧に条件にあった男性に巡り合う事となる
そのお相手は……自分の生徒のマノン・ルロワ……今年で17歳(現在16歳)である
第八十三話 ~ 新たな学園生活(女難)の始まり ➁ ~
マノンは呆然と講義室の教壇の前で立っていた
手には1通の手紙が握られている
そんなマノンを遠巻きに他の生徒が眺めている
あちこちからヒソヒソ話が聞こえてくる
そう……ほんの数分前にマノンはアレット導師から"儀の礼"の申し込みを受けたのである
"儀の礼"……"交わりの儀"を交わそうとする相手に正式にその旨を伝えることである。
言い換えれば、"アレットの判が押された婚姻届け"を渡されたようなものである。
いつも通りにアレット導師の講義を受けていたマノンは講義の終了直前に他の生徒がいる状態で教壇の前に呼び出される
「マノン・ルロワ君、これを」
アレット導師はマノンの名前を呼ぶと1通の手紙を手渡す
何故かその手は小刻みに震えている
「あの……これは何でしょうか」
マノンは手渡された手紙が何なのか分らない
「……」
アレットは何も言わずにぎこちない動きで教壇を後にする
残されたマノンは手にした手紙の封印を切ると手紙を読む
「ええっ!!!」
マノンの驚く声に周りの生徒も同じように驚く
「どうしたの……マノン君」
1人女生徒が心配してマノンの傍に来ると声を掛ける
そして、マノンが手にしている手紙を何気なく見る
「えっ! え! ええっ!!!」
女生徒はマノン以上の声を上げ驚く
「"儀の礼"の申し込み……」
女生徒がその後で小さな声で言った言葉を他の生徒は聞き逃さなかった
「ええっ!!!」
講義室にいる特別級の生徒全員が驚きの声を上げる
流石に生徒達も引かざるを得ない。
王立アカデミ-では生徒が導師と結ばれるのは稀にある話であるが、生徒が導師に"儀の礼"の申し込みを行う場合であった。
それも、卒業が決まった時期であり導師がそれを受け入れた場合でも卒業後に結ばれるのが常識である。
今回は状況が違う……現役の導師が現役の生徒に堂々と"儀の礼"の申し込みを行ったのだ
女性導師が男子生徒に"儀の礼"の申し込みを行ったとう例は過去になく、王立アカデミ-設立以来、おそらく初めての事である。
当然、その日のうちに光の速さで王立アカデミ-に広まる事となる
レナやマリレ-ヌを始めエレーヌやルシィの耳にも数時間後には届いているのであった。
導師の間でも驚きを隠せない出来事であった
だが、この話を聞いた王立アカデミ-導師総代ジェルマンは
「マノン君かね……実に面白いな彼は……」
そう言って高らかに笑ったそうである
何にせよ、マノンの女難はこの先も続く事となるのである
さて、"儀の礼"の申し込んだ方のアレットの方もその心中は穏やかではない
マノン以上に王立アカデミ-中の視線を浴びる時の人となったからである。
アレットはマノンに"儀の礼"の申し込む前に実家を訪れていた。
彼女が実家を訪れるのは兄の葬儀の日いらいである。
(因みに、王立アカデミ-から徒歩10分である)
元々、父の決めた相手が嫌で半ば家出同然に実家を飛び出したのであるから無理も無い事であった。
用件は父にマノンとの"交わり"を認めてもらう事である
実家の玄関から居間へ向かうと暖炉の前のテーブルにワインとチーズを乗せ1人で飲んでいる父のヴァレールがいた。
そう、王立アカデミ-の教練に来た王国騎士のヴァレールはアレットの実の父である
「ん……アレットか」
突然のアレットの訪問に驚く
何故か、ヴァレールは機嫌が良さそうである
(その理由は、マノンとの剣の立ち合いが爽快だったからである)
「父上、お話があります」
ヴァレールはワインをグラスに注ぐとそれを口にする
「私は"交わり"たいと思います」
アレットの突然の宣言にヴァレールは口からワインを吹き出す
「げほっ! げほっ!」
ヴァレールはワインが気管に入って咽かえる
「とっ……突然何を言い出す」
アレットの性格はよく知っているとはいえ、流石にヴァレールも驚く
「どうせ、お前の事だから、ひ弱っちい男だろうが」
「ダメだ、ダメだ、そんな奴と"交わる"事は許さん」
ヴァレールは吐き捨てるように言う
そう、父のヴァレールは筋骨逞しいマチョな男とアレットが"交わる"事を強く望んでいるのである。
しかし、アレットはそう言う男は虫唾が走るほど嫌なのである。
この、父と娘の決定的な趣味の違いが、アレットの家出の本当の原因なのである
じつは、アレットは年下好みで可愛い子が大好きなのである。
(いわゆる……ショタコンである)
「確かに、筋骨逞しい方ではございませんが」
「父上もよくご存じのお方です」
アレットの言葉にヴァレールは首を傾げる
「マノン・ルロワ君、御存じですね」
手にしたグラスをテーブルに置く
「本気なのか」
アレットを見るヴァレールの目付きが変わる
「よかろう……許す」
アレットの目は意思の堅さを無言で語っていた
かくして、父の許しを得たばかりではなくヴァレールは正式な"儀の礼"の申し込みである"儀礼の書"まで書いてくれたのである。
これは、親が正式に承諾していますという証であり、これを受け取ったからにはマノンはきちんとした返事を返す必要がある。
それなりの痛みを伴うが、この書を敢えて生徒たちの前てマノンに直接手渡すことにより外堀を埋めたのである……アレットは、なかなかの策士である。
王立アカデミ-創設以来、初めてとなる現役の女性導師から現役の男子生徒への"交わり"の申し込みに王立アカデミ-の導師・生徒の注目は否応なしに集まるのであった
第八十三話 ~ 新たな学園生活(女難)の始まり ➁ ~ 終わり




