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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第八十一話 ~  いつもの学園生活の始まり ➁  ~

第八十一話 ~  いつもの学園生活の始まり ➁  ~  序章



 マノンが王立アカデミ-に戻ってきて二週間が過ぎようとしていた。


 戻ってきて初めのうちは、なんだかんだと噂をされていたが徐々にそれも収まっていき以前と変わらぬ状態に戻っている。


 最終課程を終えて新たに設けられた導師候補生として特別級へと編入する事となる。


 特別級……それは、王立アカデミ-でも特に優秀と認められた者だけが編入を許される。


 定数は15名であり年齢も学年も問われない、優秀であれば編入可能である。

 但し学業が低迷すればDemoted(降格)もあり得るのが特徴である


 特別級は、王立アカデミ-の制度改革によりかつての特別推薦生制度を廃止し新たに設けられた制度であり、主に導師の育成を目的としている。

 我々の世界で言えば大学院制度に近いものである


 そこには、"大賢者の弟子候補"という肩書にマノンの事を意識しているのは生徒だけではなかった導師ですらマノンを意識せざるをえなかったのである。


 初めのうちは、何かと特別な目で見られることが多かったが、元々がアレなのですぐに生徒とは打ち解けることとなるが導師はそうはいかなかった。


 特に"魔石"に関する事柄に関してはマノンに異常なほどの関心を示している導師がいるのだがこれに関しては後日の事となる。



  王宮でもシルビィが以前と同じように職務をこなしていた。

 そんな、シルビィの姿を見ているアネットの心中は複雑であった。

 シルビィの姿を見ていると以前よりも生き生きとしている上に肌艶も良い

 それに腰の辺りに以前とは何か違うものを感じてしまう……


 "間違いない……あのクソ野郎……"

 "一発、ヤって逃げやがったなっ!"


 アネットの勘は鋭かった……

 それには理由があった、アネットはシルビィの事を愛していたからだ。


 それ故に、シルビィの姿を見ているだけで以前とは異なる微かな違いから分かってしまうのである。

 愛していると言ってもプラトニックなもので憧れに近いものである、どちらかと言えばマノンのレナに対する感情に近いと言える


 何とも皮肉な事なのだが、今のアネットの気持ちを最も理解できるのはマノンであると言える。


 だが、幸せそうなシルビィの姿を見ているとそれでいいのだと納得せざるをえないのであった。



 さて、所が変わって平穏を取り戻した王都のガリアンの裏通りにあるアルシェ商会……

 いつも通りにマリレーヌの父モーリスが薬草の入った布袋を持ち上げようとしていた


 「グキッ」

鈍い音と共にその体制で固まってしまう

 「あっあっうっ……」

 「だっ誰かーーーっ!」

助けを呼ぶモーリスの悲痛な声が裏通りに響くのであった





第八十一話 ~  いつもの学園生活の始まり ➁  ~  



 私は今、ドルトン行の馬車の中にいる

 隣にはマリレ-ヌが座っている

 四人乗りの馬車だが乗客は私とマリレ-ヌの二人だけである


 王都からドルトンまで徒歩だと丸一日、馬車だと休憩と馬と馬車の御者の交代を含めて約6時間程かかる


 マリレ-ヌと二人だけで、月に一度の休息日を利用して一泊二日の薬草の買い付けの旅に出ているのである。


 何故こんな事になってしまったのかと言うと……

 事は今から4日ほど前に遡る。

  




「 ……と言う訳でマノン君にお願いがあります」

「私と一緒に薬草の買い付けに行ってもらいたいのです」

突然のマリレ-ヌの話に私は目をパチクリさせる


 どうやら、マリレ-ヌの父のモーリスさんが腰を痛めてしまったようなのだ

 ギックリ腰と言うやつのようだ


 母のレリアは店番をしなければならないし、仕入れに行くにもマリレ-ヌだけだと不安がある

 そういう訳で顔見知りで薬草に詳しい私に白羽の矢が立ったようだ


 「私じゃないとダメなの」

あまりに突然の事に私としても困ってしまう


 「マノン君が最も適任でかつ安全なのです」

 「私の両親もマノン君なら大丈夫だと高く評価していますから」

 「私もそう思います」

マリレ-ヌはいつも通りにやや説得力に欠ける口調で話す



 じつは、マリレ-ヌの両親はマリレ-ヌがマノンに好意を持っている事を知っているので敢えてマノンを指名したのである。

 余計なお節介であるが、マリレ-ヌの両親もマノンの事を大変気に入っており何かの間違いがあっても良いとさえ思っているのである……。


 我々からすれば、常識外れと思うかもしれないが、子供を育てるのは女性側なのがこの世界ではごく普通だからでどうせなら気に入った相手の子供がいいからである

 つまり、この世界では理にかなっている行為なのである



 「まぁ……信用されているのは嬉しいんだけど」

 「買い付けは、どこまで行くの」

私がマリレ-ヌに問いかける


 「ちょっと遠いんですけど……」

 「……ドルトンです」

マリレ-ヌは少し言い難そうに言う


 「ええっ!ドルトンって、王都から丸一日かかるよ」

 「そんなの泊りがけじゃないと無理じゃない!」

私は吃驚して声が大きくなってしまう……周りにいた生徒が何事かとこちらを見ている


 「マノン君、声が大きいです」

冷静なマリレ-ヌの指摘を受けてしまう


 「ごめんなさい……つい……」

 「流石にマズいんじゃない……」

私が小さな声で難色を示す


 「ですから、マノン君にお願いしているのです」

 「マノン君なら大丈夫です」

 「何かあれば責任を取ってもらうだけの事です」

マリレ-ヌは冷静に恐ろしい事を言う


 「悪いけど……他を当たってくれないかな」

私が断ろうとすると


 「仕方がありませんね……かくなるうえは」

 「レナさんに私が丸裸でマノン君のベッドに潜り込んだ事をバラすしかありません」

 マリレ-ヌの言葉に私は血の気が引いていく

 「どうかしましたか、マノン君、顔色が悪いですよ」

少し微笑むマリレ-ヌが悪魔に見える……


 「分かりました……ご同行させていただきます」

私にはこれ以外に選択肢はなかった



 かくして、マリレ-ヌと二人きりの一泊二日のドルトンへの薬草買い付けの旅が決定するのであった。


 ドルトンは王都の南側のピオ-ネ山脈の麓の小さな町であるが豊富な山菜や良質な薬草の産地として知られている。

 王都までの約50ゲール(Km)の街道はよく整備され馬車の定期便もある


 この時代としてはかなり快適な旅が可能である


 「私の分まで料金を支払ってもらってすまないね」

 私が馬車の中で申し訳なさそうに言う


 馬車の運賃は安くはない、今で言うなら新幹線のグリーン車のようなものである

 ドルトンまでの往復料金は一人500ガリア・フラン(40000円)ぐらいはかかるはずである


 「当然です、気にする必要なんて全くありません」

 「一緒に来てもらうのですから手間賃を払わなければいけないぐらいです」

そう言うとマリレ-ヌが私の方を見る


 「手間賃なんていらないよ」

 私がマリレ-ヌに言う


 「でしょうね……マノン君らしいです」

 「でも、払うモノ、貰うモノはきっちりとしておいた方が後々のためです」

私はマリレ-ヌの言葉に本当にしっかりしている人だなと思うのであった


 "ですが……私はそういうマノン君が好きです"

 "私には無いモノをたくさん持っていますから"

そんなマノンを見ながらマリレ-ヌは心の中で呟くのであった


 途中で休憩を取りながら馬車は予定通りにドルトンに到着する


 早朝6時に出発したので現在の時刻は12時過ぎになっていた

 宿屋を探して宿泊の手続きを済ませ荷物を部屋に入れ、簡単な昼食を取ると薬草の問屋街へと足を運ぶ……

 出来れば今日中に薬草を仕入れて明日には王都に送ってもらい、私達も昼の便で王都に帰る予定である。


 モーリスから手渡された注文書を手に問屋を回って価格と品質を調べそれを記録する

 問屋を回るのは、少しでも安く品質の良い薬草を買い付けるためである。

 

 初めてなのに、私が効率よく問屋を回っている事にマリレ-ヌは少し驚いているようである


 価格と品質を調べ終わると店の主人との価格交渉である

 更に、私の店との交渉術にはもっと驚いたようで……


 私達が若い事もありどこの店の主人も言い値を吹っ掛けてくる


 「これは最高品質の薬草だ、100グラム30ガリア・フランこれ以上は値引きしない」

と言い張る主人に


 「そうですか、確かに非常に品質は良いですが……」

 「価格は平均で100グラム20ガリア・フラン前後です」

 「それに、この薬草はこのままだと品質面でそう長持ちしませんよ」

 「まとめ買いするので何とかなりませんか」

私がそう言うと

 

 「ふうっ……参ったな」

 「いいよ、100グラム18ガリア・フランで売るよ」

 「若いのに商売上手だね」

マノンに感心する主人もいるぐらいだ


 この調子で品質の良い薬草を安く買叩く私をマリレ-ヌは初め驚くように見ていた

 しかし、注文書の薬草を買い揃える頃にはマノンに向けられる目は変化し優しくなっているのだった


 買い揃えた薬草をマリレ-ヌと一緒に馬車の駅に運び込むと荷馬車に乗せて王都のアルシェ商会まで運んでもらうように手続きを済ませた頃には夕方の6時近くになっていた。


 宿屋に戻ると夕食を済ませる、その頃には7時を過ぎていた。

 1日中、歩き回ったので私もマリレ-ヌもクタクタに疲れている


 「疲れたね……」

 「早いけど寝ようか」

私がそう言うとマリレ-ヌもかなり疲れているようで小さく頷く


 私もマリレ-ヌも体を拭くどころか着替えることもせずにそのままベッドに倒れ込むように眠りについた


 残念ながらマリレ-ヌの両親が期待したような間違いは起きる事は無かった


 気が付くと朝になっている、時刻はよくわからないので宿の窓から時計塔を見ると8時を過ぎている


 もう、こんな時間だ、早くマリレ-ヌを起こさないとチェック・アウトに間に合わない

 慌てて起こそうとするが何だかマリレ-ヌの様子がおかしい……

 息が荒く顔が赤い、首筋に手を当ててみると明らかに熱がある事が分かる


 

 「マリレ-ヌさん、大丈夫……」

私は息苦しくしているマリレ-ヌに話しかけるが応答はない

 「ごめんなさい、ちょっと様子を見させてね」


 心配になった私はマリレ-ヌの上着のボタンを外して胸にそっと手を当てると医療魔術でマリレ-ヌの体調を調べる


 "病巣の感触は無い、病気ではないようだ……"

 "一時的な疲労による発熱……"

 "安静にしていれば明日には回復する……"

私はマリレ-ヌの体に大きな問題が無い事にホッとする


 これでは今日の馬車には乗れないな……後で駅に行って日を変えてもらおう

 宿も1日延泊しないと……


 「マリレ-ヌさん、悪いけどちょっと出るね」

私はマリレ-ヌに小さな声で言うがやはり反応は無かった


 慌てて手続きを済ませる、幸いにも馬車はキャンセル待ちが有ったためにキャンセル料は不要だった

 宿屋の主人に訳を話すと、宿の方も問題なく明日まで延泊してくれた。


 部屋に帰ってくるとマリレ-ヌは眠っていたが汗を大量に掻いており脱水症になりそうだ

 宿の主人に頼んで水差しを用意してもらったが自分では飲む事が出来そうにない

 やむを得ないので口移しでマリレ-ヌに水を飲ませる


 そして、汗で湿っぽい服を脱がせて体を丁寧に拭くと新しい下着と寝間着を着せる

 マリレ-ヌはぐったりとしていて何の反応も無かったのが救いだった

 本人にもその方が良いだろう


 マリレ-ヌの胸に手を当てると冷却魔法を発動してゆっくりと体温を下げるとマリレ-ヌの苦しそうな呼吸が楽になっていくのが分かる


 そのまま少しの時間差で断続的に冷却魔法を発動し続ける……

 結構な集中力が必要なので私も相当に消耗する


 気が付けば昼近くになっている

 心配した宿屋の主人が簡単な昼食(サンドイッチのような物)を用意して持ってきてくれたので、ありがたくそれを頂いた。


 夕方にはマリレ-ヌの熱は完全に下がり平熱となった。


 「あれ、マノン君……私……」

目を覚ましたマリレ-ヌが私に話しかけてくる


 「よかった……気が付いたようだね」

私はマリレ-ヌが目覚め安心する


 「熱を出して意識が無かったんだよ」

 「でも、もう大丈夫だよ」

私がマリレ-ヌに状況を説明する


 「大変……馬車に乗り遅れる」

マリレ-ヌは起き上がろうとする


 「ダメっ! そのまま寝てて」

 「馬車は明日の便に変更してもらったし」

 「宿の方も明日まで延泊してもらったよ」

 「安心して休んでいていいよ」

 私の言葉にマリレ-ヌは安心したようだが


 「ごめんね、マノン君」

マリレ-ヌはすまなさそうにする


 「いいよ」

私は優しくマリレ-ヌに言った、マリレ-ヌは安心したように再び眠りについた


 宿屋の主人が夕食のシチューとパンを部屋まで持ってきてくれる、私はお礼を言うとありがたく頂いた。


 相当に疲れがたまっていたのだろう、マリレ-ヌは眠ったままだ



 後で知った事なのだが、腰を痛めた父の代わりに力仕事もこなしていたようで、肉体的にもかなり疲労していたようである。

 そこに、長時間の馬車での移動、問屋街を歩き回ったのだから限界を超えてしまったのである。



 私も医療魔術のせいで疲れているようなので眠くなってくる

 "もう、寝よう……"

 私はベッドに潜り込むと直ぐに眠りについてしまった


 

 真夜中にマリレ-ヌは目を覚ました

 隣のベッドではマノンが静かに寝息を立てている

 マリレ-ヌはベッドから起き上がるとマノンのベッドの方へと歩いていく


 「ありがとう……」

小さな声で寝ているマノンにお礼を言うとそっと口づけをする

 マリレ-ヌはそまのの暫くマノンの寝顔を見つめているのだった


 ふと自分の服が寝間着になっている事に気付く、恐る恐る下着を見ると新しいものに変わっている

 「……」

マリレ-ヌの顔が真っ赤になっていく

 「何も変な事していないでしょうね……」

寝ているマノンにマリレ-ヌは疑惑の視線を向け問いかけるのであった


 マリレ-ヌは再びベッドに潜り込むと気が付くまでの事を考えてしまう

 こんな遠い所で病気になったのに全く心細くなかった……

 マノン君が一緒にいてくれたから……

 私……本当にマノン君の事が好きなんだ……

 "大賢者の弟子"か……とんでもない人を好きになっちゃった……

 今度はマノンの事で熱が出そうになるマリレ-ヌであった


 マノンが目を覚ますとマリレ-ヌは既に起きていて服を着替え終わっていた

 「おはよう……マリレ-ヌさん」

 「調子はどう」

私はマリレ-ヌに体の具合を問う


 「もう大丈夫です」

 「そろそろ出ないと午後の馬車に乗り遅れますよ」

 「もうすぐ10時です、延泊料もかかってきます」

マリレ-ヌの言葉に焦って飛び起きると服を着替える


 宿屋の主人にお礼を言うと少し多めに宿代を支払おうとする

 「困った時はお互い様ですよ」

そう言って宿屋の主人は受け取ろうとはしなかった


 「本当にありがとうございました」

マリレ-ヌと二人で主人にお礼を言うと宿を出る


 昼食を取り午後の馬車に乗り込み帰路に就く

 帰りは老夫婦と乗り合わせることになった

 私は馬車に揺られているうちに眠くなりまた眠ってしまいマリレ-ヌの膝に倒れ込む


 「旦那さん、お疲れのようですね」

迎いの老夫婦の夫人が微笑みながら言う


 「はい、疲れているみたいです」

マリレ-ヌはそう言うとマノンの頭を優しく撫でる

幸せそうな、マリレ-ヌの表情とその姿を見て老夫婦は顔を見合わせ微笑むのであった


 馬車が王都に到着すると午後の6時になっていた。


 私はマリレ-ヌを家の前まで送るとマリレ-ヌの両親に事情を話す

 予定日を過ぎても帰って来ないので事故でもあったのかと心配していたようで無事に帰って来たので安心していた。


 夕食を進められたが断って家路を急ぐ、その後姿を見送るマリレ-ヌの視線は以前とはまるで違っているのであった


 かくして、マリレ-ヌとの二泊三日の旅はある意味、何事も無く終わったのであった




 

  第八十一話 ~  いつもの学園生活の始まり ➁  ~  終わり


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