第七十八話 ~ 2人だけの世界 ➉ ~
第七十八話 ~ 2人だけの世界 ➉ ~ 序章
シルビィ王女が大賢者に攫われた事件で騒がしかった王都だったが平民達はいつもの通り平穏を取り戻しつつあった。
しかし、そうではない者達も少なからずいるのだった……そう、強欲で大陸中に知られた王都の大商人たち、それに謀で多くの人を貶めてきた貴族たちである。
この世界この時代には、呪いや占いに代表されるような呪術の類は広く信じられており実際に王都にも呪術師や占い師もいるのだがその実態は儀式的なものである。
(日本で言うならば平安時代の京の都の陰陽師のような存在である)
だが、実際に極々少数だがアネットのような微弱な魔力持ちも存在しており、彼らがその信憑性を高めていた。
(平安時代の安倍晴明のような存在であり王侯貴族や大商人に重用されていた)
当然、イベリア王国のカデーナ王朝が辿った悲惨な末路の一部始終が伝わるようになると身に覚えのある王都の貴族や大商人たちは"大賢者の呪い"の恐怖に震えあがることになる。
貴族や大商人たちが真っ先に駆け込んだのが高名な呪術師の所であった
しかし、呪術師たちも大賢者の呪いが自分達の術などとは比べ物にならないほどに強力で実効性があると思い込んでいたためにいくら大金を積まれても呪いを解こうなどとは考えもしなかった。
呪術師たちは大賢者による呪い返しがわが身に降りかかる事を恐れたのだ。
そこに、ガリア国王のレオナールが王国の威信にかかわるような大罪を犯した大賢者の罪を一切問わないという御触書を出したのであるから貴族や大商人たちは生きた心地がしなかったのであろう。
"国王のレオナールですら大賢者を罪に問えない"……即ち、王ですら呪いを恐れているのだと考えたからであった
恐怖の余りその内に、貯め込んだ財で貧しい者に施しをする者や病に苦しむ者に無償で薬を配る者が現れるようになる。
(これも、平安時代の貴族が莫大な財産を投げ売って寺院を建立したの同じである)
初めは呪いから自らの身を守るためだけの行いであったのだが、人々の感謝の言葉に次第に今までの考えを改めるようになる。
そして、儲けた富の一部を教会に寄付するようになると教会はその富を基に福祉施設を立ち上げる事となる。
今日で言う所の公共福祉のシステムが誕生する事となるのである。
実際に、ガリア国王に大陸初の本格的な公共福祉のシステムが誕生するのは何年も先の話であるが……
因みに現時点ではマノンもシルビィも国王のレオナールが罪を許したことを知らない。
第七十八話 ~ 2人だけの世界 ➉ ~
マノンが目が覚ますと辺りはまだ薄暗かったが暖炉の火が赤々と燃えており部屋の中は既に暖かかった
マノンはベッドからゆっくりと身を起こすと辺りをぐるりと見渡す
シルビィの姿はベッドにはなかった。
眠気眼を擦りながら部屋の中から温泉の方を見るとシルビィの姿が見える
私は寝間着のままで外に出ると肌寒い潮風に身を曝し温泉の方へと歩いていく……シルビィは温泉に入り微睡んでいるようだった
「おはよう……シルビィ……」
私は小さな声で目を閉じて微睡んでいるシルビィに声を掛ける
「おはようございます、大賢者様……」
シルビィは目を開けるとゆっくりとこちらの方を向く
「随分と早いんだね」
私がシルビィを見て言うと
「今日でここともお別れですから……」
「寝間着ままではお寒いでしょう」
そう言うと私を手招きするように手を差し出す
私は寝間着を脱ぎ捨てると温泉に入りシルビィの前に行く、シルビィはいつものように私の膝に座ると私に身をゆだねる
潮騒の音と海鳥の鳴く声……シルビィの静かな息遣い……それと対照的に激しく脈打つシルビィと私の鼓動……
陽が昇り始め、ゆっくりと陽の光りが差してくる
何故かシルビィの柔らかな胸の感触がいつもより心地良く感じられる……
それに、シルビィから甘い匂いがするような気がする
"やっぱり……私って爺の言うようにオッパイ星人なんだ……"
等と考えているとシルビィはゆっくりと立ち上がる……丁度、シルビィの股間が私の目の前に来る
「ひゃっ!」
シルビィは小さな声を上げると恥ずかしそうに慌てて股間を隠す
「いっ! 以前にも同じような事がありましたね」
「変なものを見せてしまい、申し訳ございませんでした」
シルビィは少し慌てて言うと微笑み、その場を足早に去っていった……
私が温泉から上がってくるとシルビィは暖炉の前で本を読んでいた
本を読んでいるシルビィの表情は真剣そのものだった。
"本当に勉強熱心なんだな……"
私はそんなシルビィの姿をボォ~っと眺めているのだった
暫くすると管理人の人が食事を運んできてくれる、二人で食事を済ませ帰り支度を始める
荷物を纏め終わると宿を出る、管理棟の管理人に出立の挨拶に向かうと何やら話し声が聞こえてくる
どうやら、管理人が誰かと二人で世間話しているようだった
"……でさぁ、イベリア王国のカデーナ王朝が滅亡したってさ……"
"王族は全員……これだってさ"
そう言って管理人の話し相手が自分の首を絞めている
その話を聞いてしまった私とシルビィは二人顔を見合わせると、足早に二人の元へと駆け寄る
「すみませんが、その話、詳しく聞かせてもらえませんかっ!」
突然、会話に割り込んできた私達に驚きながらも二人は詳しく話を聞かせてくれた
話の内容は、大賢者様が儀式の当日にシルビィ王女を攫った事やその際に有名な"大賢者の呪い"を掛けた事。
それから数日後にイベリア王国で反乱が起きてのカデーナ王朝が滅亡し王族は全員、上級貴族もほぼ全員が吊るされた事であった。
王都では腹黒い貴族や強欲商人どもが"大賢者の呪い"に震え上がっている事などであった。
しかし、この時点では、まだアーロンの身の事や、後日に出された王が大賢者を許す御触れを出したことはトロペまで伝わってきてはいなかった。
話を聞いた私とシルビィは二人にお礼を言うと帰りを急ぐ……
シルビィと二人、無言で帰りを急いでいると私の頭の中に爺の声が聞こえてくる
"何やら、世間は随分と騒がしくなっていたようじゃな"
"これは一度、王都に行って事を確かめねばならぬな"
爺の考えに私も同意する
適当に食料を買い込むと荷袋に詰め込み魔法工房へと転移する
その場に荷物を置いて落ち着くと私はシルビィに王都に行って事の真相を確かめてくる事を話す
「私も一緒に参ります」
シルビィの真剣な眼差しに断るのは難しいと思い私は一緒に行く事にした
「広場の塔の天辺に転移するからね」
「転移したらすぐに"認識阻害の術"を発動するよ」
「姿は隠せるけど声は無理だから、何かあっても大きな声を出さないでね」
シルビィに注意点を話すと王都に向けて転移する
転移すると目の前には懐かしい光景が広がっていた
王都の景色は以前とは何も変わらない……
二人で王都の景色を眺めていると
「変わってしまったのは私達だけですね」
シルビィがポツリと呟いた
「そうだね……」
私が同意すると
「お戻りになられましたね、シルビィ様っ!」
突然、後ろから不意に声がする、私とシルビィは驚いて後ろを振り返ると……
そこにはアネットが立っていた……
第七十八話 ~ 2人だけの世界 ➉ ~ 終わり




