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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第七十五話 ~ 2人だけの世界 ➆ ~

第七十五話 ~ 2人だけの世界 ➆ ~  序章



 

 大晦日の除夜の鐘をつく回数は、基本的に108回となっています。

 (寺院によっては異なる場合もあります)

 これは人間の煩悩と同じ数だと言われています。


 そして、これとは別に人間には捨て去る事が出来ない五大欲望がある。

 一般的には食欲、知識欲、所有欲、性欲、及び睡眠欲を指して言うらしい。

  似て非なる言葉に「五大欲求」という言葉があるようたが筆者はよくわからない。


 その中でも人間が存在していくために絶対に必要な三大欲が食欲、睡眠欲、性欲だと言われている。

 かつて、日本では世の平安を願い自らこの"即身仏"になった僧侶がいました。

 この三大欲を捨て去るには"即身仏"になる以外にはありません。



 その五大欲のうち三つの欲をほぼ完全に捨て去ったのがマノン・ルロワである。

 知識欲・所有欲は初めから無く、性転換しているので異性に対する性欲も無いのである。

 但し、食欲と睡眠欲は人並み以上にあるが、これを捨て去ることは生命を維持していく上では絶対に不可能である。


 そう……マノンは既に"即身仏"クラスの高僧となているのである。

 これは、神の如き超常の力を持つ大賢者としては相応しいのであるのだが……。

 

 人間はこの「五大欲」のうち、神経的にもその内の三つが減退或いは無くなったらとても危険な状態なのだそうだ。

 仮にこの状態で不眠症になると、うつ病に陥りやすい危険があるわけだがマノンには全くない。


 マノンと言う存在は、神経的にも極めて異例な存在だと言える。

 そんなマノンに危惧を抱いているのが爺である、自らがマノンに吸収されて消滅する時期が近付きつつあるからでもあった。


 "このままでは……こ奴は本当の意味で人ではなくなる"

 "下手をすれば、こ奴は死人と変わらぬ存在となるやもしれぬ"

 爺はマノンの人としての感情が消え去る事を恐れているのだ。

 これから長い年月を重ねていくうちにマノン・ルロワという人としての個性は失われ"生ける即身仏"のようになってしまうのではないかと……


 "何とかせねば……"

爺は少し焦っているのであった。


 だが、マノンはシルビィと二人だけの暮らしにより徐々に人としての欲情を取り戻しつつある事もたしかであった。

 爺は、シルビィとの生活にその望みをかけているのだった。


 そんな事など知らないマノンはシルビィと共にトロペの町を目指して海岸の街道を歩いているのだった。





   第七十五話 ~ 2人だけの世界 ➆ ~  




「いい眺めだね」

私が景色を見て言うと


「そうでしょう」

「海を見るのは久しぶりです」

「じつは……トロペには、ずっと前に来たことがあるのです」

シルビィが海を眺めながら言う


「そうなんだ」

「じつは、私は海を見るのはこれが二回目なんだよ」

「マノワール村からだと海までは遠いからね」

私がシルビィに恥ずかしそう言う


「私も、これが五回目なんです」

少し笑ってシルビィが答える


 初春のやや肌寒い潮風に吹かれながら、二人で歩いていると海と海岸との間に小さな町が見えてくる

 「あれが、トロペですわ」

シルビィが町を指さして言う



 トロペに入ると町と言うより村と言った方がいいようなところだった。

 海と海岸線の僅かな平地に人家が密集している、道は細く迷路のように入り組みそこを荷物を載せた驢馬が行き来している。

 

 家と家の間にはロ-ブが張られ洗濯物がヒラヒラと潮風になびいている。

 子供たちが狭い路地で遊んでいるのが見える。


 路地を抜けて海岸線に出ると自然石をそのまま積んで造った防波堤と船着き場があり小さな船が十数隻係留されているのが見える。

 堤防に沿って高さ2メ-トルほどの木の棒がいくつも立てられ間に張られたロープにイカ・タコ・魚などが干されている。

 

 潮風に乗って魚の生臭い匂いが漂ってくる典型的な漁村であるが独特の趣がある。

 シルビィの案内で更に海岸線を歩いていくと所々の岩場から湯煙が上がっているのが見える。


 「あれがトロペの岩風呂温泉です」

 「海を眺めながら温泉に入れますよ」

シルビィは私の方を見て微笑んだ


 「なんて素晴らしい所なんだ」

私は感動に打ち震えている、そんな私の姿をシルビィは優しい眼差しでみているのだった


 湯煙の上がる岩場に到着すると岩と岩の間に自然石をそのまま積んで造った物置小屋ほどの小さな家が立ち並んでいるのが見えてくる。


 「季節的に少し早いですから、そんなに人はいないと思います」

シルビィが辺りを見回して言う

 「夏になると一気に人出が増えるんです」

 「あれが管理棟です、あそこで手続きをするんです」

シルビィが指さしたところにやや大きい石造りの建物があった


 二人で管理棟に入り宿泊の手続きをする。

 二泊三日、三食付きの予約を入れる。

 オフシーズンであるために宿泊費も安くザッハの高級な宿の半額以下だった


 管理人の話だとシルビィが言った通りに宿泊客は湯治客が二組だけだそうである。


 海に面した宿をとる、八畳ほどの小さな貸し切り小屋のような宿である。

 大きな岩と岩の間に自然石を積み上げ隙間を漆喰で塗り固めている。


 小屋の中にはベッドが二つとテーブルが一つ、それに椅子が二つあった。

 そんなに立派な造りではないが暖炉もあり薪も用意され、一通りの食器もある。

 二人が泊まるにはちょうど良い造りになっていた。

 独立しているのでプライバシーも守られて居心地が良そうである。


 小屋の外には石垣で囲われた露天風呂があり海を眺めながら入る事が出来る

 今度は、二人でゆっくりと出来そうな予感がする。


 「どうですか、お気に召しましたでょうか?」

シルビィが私に宿の感想を尋ねる


 「いいよっ! 最高っ!」

 「海を眺めながら温泉に入れるなんて」

少し興奮気味に言う私にシルビィは少し笑ってた


 そうしているとドアをノックする音がする。

 管理人が暖炉に火を入れに来てくれたのだった。

 日が沈んだら夕食をここまで持ってきてくれるという事と海産物が食事のメインになるという事だった。


 暖炉の火で寒かった部屋が温まってくると

 「日が沈むまで、時間がありますね」

 「温泉に入りませんか」

シルビィが私に尋ねてくる、当然、OKである


二人して、服を脱ぐと温泉へと向かう

 小屋の裏手にある扉を開くと冷たい潮風が吹き付ける

 「寒いっ!」

二人して温泉に飛び込むように入る

 「はぁ~」

二人同時に声を出す、顔を見合わせて笑う


 「そちらに行ってよろしいでしょうか」

シルビィが私に問いかける


 「いいよ」

私が答えると、私の膝の上に座り抱きついてくる

いつも通りのシルビィの行動である


 「こうしていると、本当に落ち着きます」

シルビィの言葉に安堵感が感じられる

波の打ち寄せる音だけが聞こえてくる、私もシルビィを抱き寄せる


 水平線に夕日が沈もうとしている、不意にシルビィが立ち上がると石垣に身を寄せ夕日を見ている

 「綺麗ですね」

夕日を見て呟く


 私の目にはシルビィの引き締まった奇麗な裸体が夕日に映えて、より綺麗に見える。

 くびれたウエスト、引き締まったお尻に形の良い大きな胸が、教会に飾られている女神を連想させる。

 かつて、貧乳・寸胴女子だった私からすれば、羨ましい限りである。


 「どうかなされましたか?」

ボーッとして私にシルビィが私に尋ねてくる


 「まるで教会に飾られている女神のように見えた」

私は思わず口走ってしまった一言にシルビィの顔が恥ずかしそうな表情になる


 「そんな……大袈裟な……」

シルビィはそう言うと私の方に近付いてくる

 「でも……そう言って頂けると、何だかとても嬉しい……」

そう言うと私に抱きつくとキスをする

 「そろそろ、管理人さんが夕食を持ってきてくれる頃ですね」

シルビィはそう言うと温泉を出て行った


 私はそんなシルビィの後姿を目で追うのだった……



 "私ったら……"

 シルビィは小さく呟く

 今のマノンの一言に、激しく脈打ちだした胸の鼓動を押さえる事が出来なかったのだ

 もう、どうしようもないぐらいにマノンの事が好きでならない自分に改めて気付くのであった。


 シルビィが小屋に戻り服を着ると直ぐにドアをノックする音がする

 管理人が夕食を運んできてくれたのだった。


 私が温泉から上がってくるとテーブルの上には海の幸をふんだんに使った料理が並んでいた。

 内陸のマノワール村では海産物は手に入りにくい、入ったとしても塩漬けや干物であるから、テーブルの上に並んでいる料理は滅多に口にする事の無いご馳走なのである。


 「凄いね……」

テーブルの上に並べられている料理を見て私が驚いたように言うと


 「そうですね、王都の宮殿でもこれほど新鮮な海産物の料理は出ません」

 「海に近いから新鮮な海産物が手に入りやすいのでしょうね」

シルビィの話を聞きながら私は椅子に座るとシルビィも向かいに座る


 「それでは、いただきますか」

二人でトロペの海の幸を堪能するのであった。

因みに、ガリア王国では生魚をそのまま食べる習慣はない、つまり"お刺身"は無いのである。

 生魚を薄切りにしてワインビネガーに付け込んみ香草を添えたカルパッチョのような物はある

 本日の夕食は主にシンプルに塩焼きにした魚や貝がメインの料理であった。

 シンプルだが美味の一言に尽きるのであった……。


 日も完全に沈み、辺りは暗闇と波の打ち寄せるだけの世界になる。

 暖炉の薪が燃え尽きるとランプの光だけがぼんやりと部屋の中を照らす

 部屋の中の温度も下がりだし肌寒くなる


 「やっぱり、時期が早いですから寒いですね」

 「おかげで人も少ないので静かですし、ゆっくりできます」

シルビィが囁くように言うと、静けさと波の打ち寄せる音に交じって微かに誰かの声が聞こえてくる

 どうやら、湯治客の話し声のようだが、何か宴会でもしているのかとても賑やかそうに聞こえる。

 聞こえてくる声は三人で、三人とも若い女性だとわかる。


 「随分と賑やかで楽しそうだね」

私がシルビィに言うと


 「夏場はもっと賑やかですよ」

 「でも、若い女性と言うのは珍しいです」

 「湯治客の殆どはお年を召した方が多いですから」

シルビィの声は少し凍えて聞こえる


 「寒いの……」

私の問いかけにシルビィはコクリと頷いた

 「ベッドは二つあるけど……」

 「少し狭いけど、一緒に寝ようか」

 私がそう言うとシルビィは少し躊躇っているようだった

 いつも一緒に寝ているのにどうしたのだろうか……もしかして、昨日の事を気にしているのかな

 私はシルビィの躊躇いが何なのか分らないのであった


 だが躊躇いながらも、結局は同じベッドで一緒に寝てしまうシルビィであった。


 朝になり日が昇る、小屋の小さな明り取り窓から日の光が差し込み私に降り注ぐ

 "もう、朝か……"

眠気の残る眼を擦りながらベッドから起き上がると、シルビィはまだ寝ている。


 "う~寒っ!"

 少し身震いしながら暖炉の灰の中に残っている火種に細い小枝を乗せて火を起こす

 服を着替えると小屋の裏口から海を眺めている。

 すると、昨日の夜に賑やかにしていた若い女性の声が聞こえてくるのが分かる。


 私は声のする方を見ると

 「えっ……」

 そこにはセシルとレボラとコンティーヌの三人が話をしながらこちらの方に歩いてくるのが見える


 私は咄嗟に石垣に身を隠した。

 「何でこんな所に……」


 世間ってホントに狭いんだな……と痛感する私であった。



   第七十五話 ~ 2人だけの世界 ➆ ~  終わり


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