第七十四話 ~ 2人だけの世界 ⑥ ~
第七十四話 ~ 2人だけの世界 ⑥ ~ 序章
マノンがシルビィ王女を攫って一週間が過ぎようとしていた。
王都での騒ぎは沈静化しつつあったが、貴族達の"交わりの儀"には多大なる影響を及ぼしていた。
親の定めた相手を良しとしない者、あるいは既に心に決めた相手がいる者達が一斉に自らの意思を表明するようになったからであった。
貴族たちにとって政略的な意味合いでも"交わりの儀"は血縁関係という切れる事の無い繋がりで家と家の関係を深める最高の手段だったからだ。
しかし、会ったことも無いような相手と家の都合で"交わりの儀"を交わさなければならない当人たちにとっては甚だ迷惑な話であった。
多くの貴族達からの国王のレオナールの下に何らかの対策を求める声が多数寄せられたが、自らの娘がきっかけを作ったわけであるから何を言っても説得力がなくどうする事も出来ずに困り果てているのであった。
更に、王国の儀式を取り仕切る最高司祭のクロ-ドもガリア王国の古い"儀の制度"に否定的であったためにもはや打つ手はなかったのである。
ここに、建国より300年に渡ってガリア王国の貴族階級に連綿と受け継がれてきた"交わりの儀"の風習は終焉を迎えていくこととなる。
当然、マノンやシルビィの知るはずも無いのである。
第七十四話 ~ 2人だけの世界 ⑥ ~
ザッハから帰ってきて一夜が明けた頃だ。
帰ってきて床に就くまでシルビィは元気が無さそうであった。
……無理も無い事である。
目が覚ますと私の手にしがみつくようにして眠っている。
爺も気配が全く感じられない……静寂の中でシルビィの寝息だけが聞こえてくる。
そんなシルビィがものすごく愛おしく感じられる。
この感情はレナに抱いていた感情とは別のものであるという事は何となく私にもわかている。
……しかし、困った……
この状態では起き上がる事すら出来ない、何とかシルビィの腕を引き離そうとするがしっかりと掴んでいて離れない。
あれこれともがいているとシルビィの豊満な胸の谷間に腕が挟まって状況は更に悪化してしてしまった。
私がどうして必死でシルビィの腕を引き離そうとしているのかと言うと……
トイレに行きたいのだ、しかも大きい方である。
そろそろ限界が近づきつつある……まずいっ!……このままだとっ!でっでるっ!!!
いろいろとあって疲れて寝ているシルビィを起こすのは忍びないと思い頑張ってはみたが、もはや一刻の猶予も無い。
「シッ!!シルビィっ!!!」
「起きてっ!! お願いっ!!!」
シルビィの耳元で囁くように、切羽詰まった声で言う
「んっんん~」
「マノン……」
シルビィはこちら側に体を向けると私に抱き着いた
「ふげぇ!」
「何という凄い力だっ!!」
普段から欠かすことなく剣の鍛錬をしてきているためにシルビィの腕力は強かったのだ……
「ビチッ」
お尻から何かが出そうな音がした
「ひぃ!」
私は全て力をお尻に集中させる
「ふんっ!」
何とか持ち堪えて最悪の事態は回避する事が出来た……
しかし、状況は最悪のままである……何とかせねば
「シッ!シッ! シルビィ~起きてぇ~」
死にそうな声で耳のすぐそばで囁く
「あんっ……マノン……」
シルビィは悶えるような声を出すと更に強く抱き着く
「プリッ!」
「ひぃぃぃぃ~」
お尻の間に今度こそ何かが出てしまったような感覚がある
仕方がない、もう、手段を選んでいる場合ではない
"ごめん、シルビィ"私は心の中で詫びると微かに動く両手をシルビィの足の付け根に這わすと"コチョコチョ"攻撃を加えた
「あんっ! あはっ! あっあっああ~っ!」
シルビィは喘ぎ声を上げると目を覚まし私を拘束していた腕の力を弱める
「ごめんっ! シルビィっ!」
私はそう叫ぶとベッドから起き上がる
当然、お尻に力を入れたままなので変な走り方をしながら一目散にトイレに向かった。
「はへぇ~」
地獄から一気に天国に駆け上るほどの快楽とはこの事である。
世の偉大な発明や発見の数々がトイレで生まれ出たという事を実感するマノンであった。
変な"扉"が開きそうなマノンであった……。
トイレを済ませて寝室へと帰って来た私をシルビィが何故か恥ずかしそうな表情で見ている
「あの……マノン……」
「私が寝ているときに……何か……」
そう言うと俯き加減に私を見る
「えっ……」
私には何の事だか分らない
「私が寝ている間に……その、なんと申しますか……」
「その……マノンが……私の大切な所を」
「お触りになられているのを……」
シルビィの顔は真っ赤になっている
「その……お謝りになられて、逃げる必要などはありません」
「私は……いつでもよいのですから」
シルビィはそう言うと私の方を横目で見る
私にはシルビィの言っている事が何の事だか分らない。
必死で脳味噌が状況を解析している。
そして、ある結論を導き出した。
そうだ、シルビィは足の付け根を擽ったのを大事な所を触っていると勘違いしている。
そして、気付かれたので私が謝罪して逃げたのだと思っているのだと
「シルビィ……」
「何か、勘違いをしている」
私は必死で事の真相を話す
「……マノン……」
「それは……本当なのですか」
私の話を聞いたシルビィは呆気にとられたように言う
「わっ私ったらっ!」
「いっ! いっ! いっ! 今聞いたことは忘れてくださいっ!!!」
シルビィはそう言うと布団を被って隠れてしまった
シルビィは、ずっと休憩室(寝室)から一歩も出てこないのであった。
流石に何も口にしないのは体に良くないと思いシルビィの様子を見に行く
そこにシルビィの姿はなかった。
"あれっ……何処に行ったんだろう"
私はシルビィの姿を探して魔法工房を捜し歩く、シルビィは寝間着のままで図書室で本を読んでいた。
「シルビィ、ご飯食べない」
私が声を掛けると"ビクッ"とするとこちらを振り返る
「マッ、マノン……」
なんだかとても気まずい空気が流れる
「さっきの事なのですが……」
シルビィが言いかけた時に
「さっきの事って何」
私が笑って言うと
「そうですね……」
シルビィも笑って答えた
そして、アルマイネで仕入れた食材で一緒に料理をするのだが、シルビィは料理が全く×だという事が露呈するのであった。
やや炭化したオムレツとライ麦パンと鶏ガラのスープを食べる。
その日は、温泉に入ったり本を読んだりとゆっくりと過ごすのであった
夜になり(時計はあるので時間は分かる)二人そろってベッドに潜り込む。
もう、二人で一緒に眠るのが当たり前のようになっている。
ベッドに入ると私はすぐに眠ってしまうのだが今日は違っていた
そんな私にシルビィが話しかけてくる
「眠れないのですか」
私がシルビィの問いかけに頷くとシルビィが話始める
「私にとって、ここでの生活はまるで夢を見ているようなのです」
「朝起きるたびに、この夢から覚めるのではないかと不安になります」
「王宮にいた頃が何年も前のように感じられます」
遠い目をしてシルビィが言う
「こんな生活、退屈じゃない……」
そんなシルビィに私が問いかける
「いいえ、とても楽しいのです」
「というか……檻から解放されたような自由を感じます」
「ここには、私とマノンだけ……人目を気にする必要はありません」
「そして、王女を演じる必要も無いのです」
「誰も私を特別な人間として見たり、扱ったりする者もいないのです」
「これも全てマノンが私に与えて下さったものなのです」
そう言うとシルビィは私に抱き着いてくる
「本当に愛しています……マノン……」
「そして、感謝しています」
そう言うと私に口づけをする
その時に私はある事に気付く、シルビィも私(大賢者)と同じなのだと
大賢者と言うだけで周囲からは称賛され褒め称えられ、あるいは恐れられ、特別なものを見るような視線にさらされる気持ち……
この魔法工房はシルビィにとっての王立アカデミ-なのだと……
そして、私がシルビィに抱いている特別な感情が何なのかという事にも気付くのであった
"私は、この人をずっと見守っていてあげたい"
そう本気で思うマノンであった
気が付くとシルビィは眠っていた、その寝顔を見ながら私も眠りにつくのであった。
シルビィは朝起きると温泉に入り体を綺麗にしてから私と一緒に朝食の支度をして後片付けをした後に図書室で読書をしている。
読んでいる本は、どれもこれも難しそうな本ばかりである。
昼食も同じように私と一緒に料理をし食べた後で後片付け、そして昼からは鍛錬に励んでいる。
鍛錬を終えると温泉に入り汗を洗い流し、夕食を作り、食べた後で後片付けをする……そして、就寝……じつに規則正しい修行生活を送っている。
私は、エマの書に記載されているアイデア商品を作って見たり、シルビィの剣の相手をしたりしている
爺が音信不通なので打ち合いではなく、爺に教えてもらった初歩の型を教えているのでシルビィのお尻を叩くことはまだ無い。
気配を消して二人を見守っている爺から見ても、シルビィと私の距離感は確実に縮まっているのだが男女の関係には未だに至っていないのが不思議に感じられる事だろう。
そんな生活を一週間ほど続けているのだった。
「そろそろ、食材の買い出しに行かないとね」
「どこか行きたい所とか、お勧めの所はある」
私が残り少なくなった食材を見てシルビィに尋ねると
「そうですね……今度は、トロペなんかはどうでしょうか」
シルビィは私に言う
「トロペ?」
私には聞き覚えの無い街の名前だった
「ガリア王国の東側の海岸にある町です」
「大きな町ではありませんが、所々に隠れ家的な貸し切り宿があり」
「海産物が豊富ですし……温泉もありますよ」
シルビィが私の方を見て微笑む
「そこに決定っ!!!」
私はシルビィのお勧めに即断したのであった
すると突然、久々に爺の声が聞こえてくる
"久しぶりじゃな……"
"トロペか……隣のトランという町の教会に転移ゲートがある"
"トランからトロペまで歩いて二時間、馬車なら一時間ちょっとじゃな"
そして、次の日、私とシルビィは"トロペ"に向けて旅立つのであった。
第七十四話 ~ 2人だけの世界 ⑥ ~ 終わり




