表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
73/394

第七十二話 ~ 2人だけの世界 ④ ~

  第七十二話 ~ 2人だけの世界 ④ ~  序章



 マノン達とシルビィが"ザッハ"を訪れる二週間ほど前、皇帝マキシミリアンは謁見の間で国内情勢の報告を聞いていた。


 最も危惧されていた職に溢れた"浪人"の乱暴狼藉が徐々にエスカレートし、近頃では旅の者から金品を強奪したり、婦女子を犯したり、怪我を負わせたり中には殺してしまうような事さえ起きている事が報告されると

 「止もうえぬな……これ以上は放置できぬ」

 「皇帝マキシミリアンの名に()いて、(ことごと)く成敗せよ」

マキシミリアンが諦めたような口調で言うと


 マキシミリアンの前に控えていたゲルマニア軍総司令官バルッァーが無言で頭を大きく下げると立ち上がりその場を後にする


 皇帝マキシミリアンの命であり止もうえぬ事とは言えバルッァーの心境は複雑であった。

 一年前までは、自分の兵だった者達を討たなければならないからである。


 しかし、職務は職務……バルッァーは既に討伐作戦を立案し準備は調えてあるのであった。


 戦乱の世が終わりを告げ、太平の世が大陸に訪れ戦いに駆り出されていた者の多くは自らの帰る場所に帰り平穏な生活を取り戻している。

 しかし、そうではない者もいるのである……

 「世の中……上手くはいかないものだな……」

バルッァーは小さな声で呟くと、別室で控えていた側近の幹部たちに命を下す

 「皇帝の命である、作戦決行」

 「"浪人共"は尽く成敗せよ」

この言葉を聞いた側近の幹部たちは無言で頭を下げると足早に部屋を出て行った


 「思う所は……皆同じか……」

無言で部屋を出て行く側近たちを見送った後でバルッァーは呟くと、ため息を吐くのであった。

 「嫌な戦いなるな……」

そして、バルッァーも重い足取りで部屋を後にするのだった。





 第七十二話 ~ 2人だけの世界 ④ ~ 




 昨日の衝撃的な出来事から一夜が明ける。

 私の隣ではシルビィが静かに寝息を立てている。 


 気丈夫なシルビィでも昨日は独りで眠るのが不安だったようで……


 「あの……マノン……」

 「もっもし差支えが無ければっ……」

 「隣に居てもらえませんか……」

昨日の夜に貫頭衣の寝間着姿で恥ずかしそうに言うシルビィの姿が今も(まぶた)に残っている


 一緒にいて分かった事だが、シルビィは就寝時には下着を付けない…… 

 同じベッドに入るとシルビィの温もりと柔らかな体の感触が伝わってくるのだ

 幸いにも、私は変な気を起こさなかったが普通の男なら欲望を押さえるのは難しいと思う。


 今日、一日は"ザッハ"の温泉と食べ物を満喫するつもりである。


 暫くすると、シルビィが目を覚ます

 「おはようございます……マノン……」

少し眠そうな声で私に挨拶をすると"コンコン"とドアをノックする音が聞こえる


 「朝食をお持ち致しました」

 「入ってもよろしいでしょうか」

ドアの外から宿屋の女中の声がする。


 私は起きたばかりのシルビィの方を見るとシルビィは小さく頷いた


 ドアの鍵を外すと若い女中さんが朝食をワゴンからテーブルの上に並べると料理の説明をして部屋を出て行った。

 何故か、(しき)りに私とシルビィの事を気にしているような素振りがある。


 二人で朝食を取る、メニューはバター・トーストとジビエの腸詰・目玉焼きに生の山菜のサラダ・それに山羊の乳を発行させて作ったこの地方独特のヨーグルト飲料だった。

 典型的なゲルマニアの朝食であったが素材が良いのと料理人の腕も良いのだろう、ゲルマニアの独特の塩辛さと油のしつこさはなかった。


 ただ、独特の匂いと酸っぱさのあるこの地方独特のヨーグルト飲料はシルビィの口には合わなかったようである。


 食事を済ませ暫くすると、再びドアをノックする音がする

「お食事が御済でしたら、器をお下げしてよろしいでしょうか」


 今度は、別の若い女中さんが器を下げて行った


 私とシルビィは出かける用意をする。

シルビィが着替えている間は私は後ろを向いている

着替え終わったシルビィは青い空色の服を着ていた

「どうですか……」

シルビィは私に尋ねる……本当によく似合っている


「よく似合うよ」

私の言葉にシルビィは嬉しそうに微笑む


「私もそれなりの格好をしないといけないね」

私はそう言うと、かつて初めて王都に言った時の魔装服を取り出し着て見る

全身茶色なのだが……


 「その服、初めて出会った時に来ておられたものですね」

シルビィは懐かしそうに言う


 二人で部屋を出て歩いていると宿の者が皆、驚いたような表情になる

 "まぁ……無理も無いか……"

 私は隣を歩くシルビィを見てそう思うのだった



 私とシルビィが宿を出ると宿の者が集まって何やら話を始める


 「間違いなく良家の姫君ね」

 「あの服、普通の作りじゃないし」

 「歩く姿や素振り雰囲気が完全に貴族のご令嬢よ」

シルビィの事をいう者もいれば

 「隣の男の人も凄く素敵だわ」

 「あの威厳のある雰囲気は間違いなく帝国騎士ね……」

 「それもかなりの高位騎士だと思う」

若い女中達がマノンの事を言っていると


 「ハイハイ、そこまでよっ!」

宿屋の女将が会話を遮る

 「気になるのは分かるけど下手な詮索(せんさく)は身の破滅よ」

 「それが高位のお方ならなおさらよ」

女将の言葉に皆は黙り込んでしまう……訳アリなら下手な詮索は本当に身の破滅を招く可能性があるからだ


 それは長年、上流階級の方々の相手をしてきている女将はマノンとシルビィの持っている雰囲気が王族や剣豪と呼ばれる者達と同じものであることを直感していたからであった。

 「あれは、完全に訳アリね……」

 「ああ~、くわばら、くわばら……」

そんな女将の漏らした言葉を誰も聞き取ることは出来なかった


 まずは、"ザッハ"の最大の売りである療養温泉に入る。


 客は殆どおらず、貸し切り状態である。

 一般の入浴施設と高価だがスパ付きの貸切温泉がある、私は躊躇(ためら)うことなく後者のスパ付きの貸切温泉を選ぶ。


 元より上流階級向けの専用の施設であるために人は誰もおらず完全な貸し切り状態である。


 私とシルビィの姿を見て職員が驚いているのが分かる。


 「こちらへどうぞ」

 上品そうな小母(おば)さんが案内をしてくれる

 「こちらが個人の貸切温泉でございます」

 「温泉から上がられましたら、お声をおかけ下さい」

 「マッサージの方へご案内申し上げます」

 「本日は、ご予約が一件もございませんので、ごゆっくりとザッハの療養泉をご堪能下さい」

 上流階級向けだけの事はあり広くて立派な造りである、この地方に限らずゲルマニアは混浴が常識であるために男女の区別はない。 


 二人で貸切温泉に向かう、屋根と生垣で囲まれた露天風呂は良い雰囲気を(かも)し出している

 二人で同時に温泉にはいると思わず

 「はぁ~」

同時に同じような声を上げる、二人で顔を見合わせて笑う


 「マノン……そっちへ行っていいですか」

シルビィが私を見て言う、私は小さく頷くと


 シルビィは私の目の前に来る、そして私の膝の上に乗っかる

 「えっ……」

シルビィの意外な行動に、流石に私も驚く

驚いている私をよそにシルビィは私の首に手を回すと体を押し付けるように抱き着いた。

 シルビィの柔らかな胸が私の胸に押し付けられる

 そして、私の肩に頭をもたれかけると

 「暫く、こうさせて下さい」

私の耳元で(ささや)くように言う


 源泉の流れる音だけが聞こえる……そして、シルビィの鼓動が伝わってくるのが分かる

 時間が止まったような静寂の中で二人の心臓の音だけが時を刻んでいた


 「このままずっと、こうしていたいです」

シルビィが私の耳元で囁く

 「でも、マノンには迷惑なのかもしれませんね」

シルビィの言葉に私は思わず反応してしまう


 「迷惑なんて思った事は無いよ」

私は自らの意思でここにこうしている

 「この一時を大事にしたいと思っている」

私の言葉にシルビィの体がピクリと反応するのが分かる


 「でも、これは私の我が儘なのは確かなのです」

 「王女である事を完全に忘れ愛欲に溺れてしまった」

 「多くの人々に迷惑をかけているに違いありません」

 「私は本当に愚かで弱い女です」

そう言うとシルビィのすすり泣く声が耳元でする


 「大丈夫だよ……本心から愚かだと思っている者は少ない」

 「世の多くの女性たちが、心の中ではシルビィを肯定しているだろう」

 「"大賢者"として確信を持って言える」

私はシルビィに優しく言うと両肩に手を回して抱きしめた

 何故、自分がそんな事をしているのかよくわからない。

 ただ、私の心の中の何かがシルビィの気持ちに痛いほどに共感しているのである。


  私とシルビィは見つめ合い、初めての口づけを交わすのであった。

  因みに、その時私はレナの事は完全に忘れていたのであった、こんな事は初めてである。

 

 温泉から上がると職員に声を掛ける。

 二人並んで別々のベッドに横になると私達と変わらないぐらいの職員が二人やってくる

 「それでは、始めますね」

そう言うと私の方に来た職員が私に尋ねる

 「マッサージは初めてですか」

 「何処か痛い所などがお有りでしたらお言いください」

私は職員の質問に答えると、マッサージを始める


 「うっ!」

 「あっあああ!」

 「ふぐっ!」

若い女性なのに指の力が凄く強い……こっこれは結構……いいっ!!

 「あふっ!」

 「おほっ!」

私の体のツボを確実に捉えピンポイントで押される

この女、なかなかの手練れだ、ふと横を見るとシルビィも小さな喘ぎ声を上げて悶えているのが見える。


 じつに、1時間45分もの全身マッサージのフルコースを終えた頃には私もシルビィも完全に極楽浄土へと昇天しているのであった。

 よく考えてみれば、私は今までずっと押す方が専門で押されるのは初めてであった。


 体と心のリフレッシュが済めば次は、当然、胃袋リフレッシュである。

 昼飯はザッハの名物料理、オムレツを食する事にする。

 山間部で放し飼いにされた地鶏の卵を使ったオムレツは濃厚でフワフワで美味であった、シルビィは二皿を残さずに平らげてしまうほどである。


 宿に帰り、暫く休憩しているうちに二人とも眠ってしまった。

 気が付けば夕方になっている。

 シルビィはまだ眠っているので私一人で慌てて馬車の手配をするためにザッハの案内所に駆け込む。

 護衛付きの馬車は上流階級の人々が来ないので便数が減り、ほぼ貸し切りになってしまうので3日に1往復しかないとの事。

 とりあえず、明日の昼に出る予定の馬車を手配してもらった。


 宿屋に急いで帰るとシルビィが飛びついてくる

 「どこに行っておられたのですか」

 「気が付けば私一人だけで……」

シルビィは泣きそうな声である


 「すまない……良く寝ていたものだから」

 「帰りの馬車の手配をしに行っていただけだよ」

私はすまなさそうに詫びる


 「一人にしないで下さい」

 「寝ていても叩き起こして下さい」

シルビィは訴えるように言う


 その後、二人でまたしても部屋の温泉に入る。

 シルビィは同じように私の膝の上に乗ると首に手を回して抱き着く

 「こうしていると、何故だか落ち着きます」

 「幼かった頃に極稀にですが……」

 「父と湯あみをしたときに同じような事をしていたような記憶があります」

そう言うと私の首筋に吸い付くように口づけをする

 これが、翌朝には首筋に見事なキスマークとして残ってしまう事になる。

 

 温泉から上がると直ぐに夕食の用意が整う、本日のメニューは地鶏の香草焼きと山菜のサラダの温泉卵添え、ライ麦のパンと鶏ガラのスープであった。

 お腹いっぱい食べると2人とも又もや眠くなってくる。


 「少し早いけど寝ようか」

 「明日は早めに起きて朝風呂にしよう」

私がシルビィに提案するとシルビィは納得したようだった


 寝間着に着替えるとベッドに潜り込むる

 二人で一つのベッドに寝るのが当たり前のようになってきている。

 今日のシルビィはやたらと私に身を摺り寄せてくるが嫌ではない。

 シルビィの柔らかな体と甘い匂い、そして人肌の心地よさに私は以前より早く眠りに入ってしまう。


 ……気が付けば、朝になっている。

 こことも今日でお別れだ、昼にはザッハを出発し夕方にはアルマイネに到着し食材を買い集めたのちに魔法工房へ転移する予定だ。


 二人で朝風呂に入り、暫くすると朝食が運ばれてくる。

 本日のメニューは川魚の塩焼きに川魚の中骨のスープ、それにライ麦パンとサラダが付いていた。

 暫く休憩した後で帰り支度を始めていると外が少し賑やかのようだ。


 宿の窓から外を見ると療養客らしき人々が次々と馬車から降りてくる、どうやら団体客のようだ。

 護衛の兵士も何人も随伴しておりこれなら浪人に襲われる可能性も低く安心してここまで来れるだろう。


 昼食を済ませる頃には、ザッハには以前の活気が戻っていた。

 しかし……何か変だ……女や子供の姿が一人も無い。

 私が疑問を抱いていると、爺の声が聞こえてくる

 "あ奴らは、皆、兵士じゃな……"

 "嫌な予感がする……暫くの間、体を借りる"

そう言うと爺は私と入れ替わる。


 爺は魔装服に着替えると光の剣を懐に忍ばせた。

 そして、シルビィにも魔装服を身に着けるように言うと、自分の持っていた魔剣を託す。

 「どうなされたのですか」

爺の様子がおかしい事に気が付いたシルビィが訪ねる


 「もうすぐ、ここは戦場になる」

爺の言葉にシルビィは呆然するだけだった。



第七十二話 ~ 2人だけの世界 ④ ~  終わり


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ