表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
72/394

第七十一話 ~ 2人だけの世界 ③ ~

   第七十一話 ~ 2人だけの世界 ③ ~ 序章



 大賢者によるシルビィ王女誘拐事件から1週間が過ぎようとしていた。


 事の真相を知った王都の平民達はその殆どが大賢者の行いを良しとし支持する風潮にあった。

 当然、この事は王宮にも届いており国王レオナールの耳にも入っていた。


 王都ガリアンの中心にあるガリヤ宮殿の中の一室でガリア国王のレオナール・ド・ガリア、王都騎士団長のラザール・バルゲリー、最高司祭クロード・ベクロンの三人が円卓を囲んで会議をしている。


 議題は勿論、"大賢者のシルビィ王女誘拐"ことである。


 「困った事になったな……」

ガリア国王のレオナールが溜息混じりに言う


「そう言えば、以前にも同じようなことがございましたな」

最高司祭クロードが笑いを浮かべながら言うと


 「笑い事ではありませんぞっ!」

 「こともあろうに、儀式の真っ最中にシルビィ様を攫われたのですぞっ!」

 「我らの面目は丸潰れ、他国の良い笑い者ですぞっ!!」

王都騎士団長のラザールが顔を真っ赤にして怒鳴るように言う


 「まぁ、いいではないか」

 「わしは、面目が潰れようが笑われようがいっこうにかまわぬ」

 「シルビィ様がお幸せならばそれで良い」

 「お主はどうなのじゃ……ラザールよ……」

冷静なクロードの問いかけにラザールは黙り込んでしまう

本当は、ラザールもクロ-ドと同じ思いなのだ

ただ、何も出来なかった自分に怒っているのだが素直でないのである


 「もうよい……」

二人の会話を聞いていたレオナールの一言に二人は黙る

 「結果的には、これで良かった」

 「もしも、"交わりの儀"の後でシルビィがアーロンの子を宿しておったなら事は遥かにややこしくなるところであったやも知れぬ」

 「これでよいのだ」

 「大賢者の罪は一切問わぬ」

 「そのように正式に御布令を出すがよい」

 「これでよいのだ、二人とも苦労かけて済まぬ……」

そう言うとレオナールは立ち上がり会議室を出て行った、ラザールとクロ-ドは深々と頭を下げたままレオナールを見送るのであった。


 その後、王都の広場に国王レオナールの言葉通りの御布令の高札が掲げられた。

 それを見た、王都の人々は国王レオナールの寛容深さに感心するのであった。


 この御布令の高札を見て一番ホッとしたのはレナであった事に間違いはない。


 マノンとシルビィがこの御布令の高札の事を知るのはこれより1週間先の事となる。




   第七十一話 ~ 2人だけの世界 ③ ~ 




 "さて……何処に転移しようかのう"

 "王都とその周辺は既に手が回っておるじゃろうし"

 "用心のためにもガリア王国内は止めた方が得策じゃな"

爺が転移先を悩んでいるようなので


 "だったら、シラクニアはどうかな"

私の提案に爺はため息を吐くと


 "女連れでか……"

 "お前さん、確実にルメラ達に袋叩きにされるぞ"

 "嫉妬に狂った女の恐ろしさを分かっとらんようじゃの"

 "シラクニアだけはやめておけ……よいな"

 "わしも消滅したくはないからのう"

爺の神妙な口調に私は黙り込んでしまう、ふと横を見るとシルビィが私をジッと見ている


 シルビィって怒らせると怖いような気がすると私の直感が教えてくれる。

 爺の忠告通りシラクニアだけは止めることにした。


"そうじゃのう……ゲルマニアの東側の外れにあるザッハはどうかの"

爺が言う町の事を私は全く知らない


 "ザッハってどんな所なの"

私の問いかけに爺が自信ありげに言う


 "ゲルマニアでも指折りの保養地じゃよ"

 "治安も良いし、食い物もゲルマニアにしては美味いし良い食材も手に入りやすい"

 "それに、お前さんの大好きな温泉がある"

爺の言葉に私はそこに即決するのだった……すると突然、シルビィが話しかけてくる


 「あの……マノン、先ほどから何を独り言とを言っているのでしょうか」

 「それに、一人でニヤニヤして……体調がお悪いのですか」

シルビィが私を心配そうな目で見る


 「あっ……なんでもないよ」

 「行先の事を考えてたら、良い所が思いついたものだから」

私は適当な言い訳をするとシルビィは納得したようだ


 「良い所って何処なんでしょうか」

シルビィの問いかけに私は自信たっぷりに答える


 「"ザッハ"っていう所だよ」

私の言葉にシルビィの目が輝く


 「覚えていて下さったのですね……」

 「サン・リベ-ルでの浴室での会話の事を」

シルビィはとても嬉しそうに言う


 「そう言えば……そんな事があったような……」

私は必死で微かな記憶を手繰り寄せる、断片的だがあの時の記憶が蘇ってくる

 「食材を手に入れる前に温泉もいいかなと思って」

 「シルビィはもう温泉はいいのかな……」

私が少し悲しそうに言うと


 「そんな事はありませんわ……」

 「マノンと一緒に違った温泉に入るのは楽しいですもの」

シルビィは優しそうな目で私を見つめる


 "あ~お楽しみのところ申し訳ないが……"

 "金も持ったし、そろそろ出発せんかのう"

爺が私に出発を催促してくる


 私とシルビィはゲルマニアの保養地"ザッハ"へと転移するのだった。




 私とシルビィは曲がりくねった山道をひたすら歩き続けている。

 私達の転移した場所は"アルマイネ"と言う地方都市にある教会の近くだった。

 そこから保養地の"ザッハ"まで約12ゲール(Km)もあったのだ……歩いて約3時間である。


 "爺……こんなに遠いって知らなかったよ"

私が少し恨むように言うと


 "先に言うのを忘れておった……すまんかった"

爺は素直に謝るのだった……


 山道ではあるが奇麗に整備され石畳が敷かれており路面には馬車の通った轍の後が深く刻まれており交通量がある事を示していた。

 しかし、2時間近く歩くが誰とも出会わない……爺は何か違和感を感じていた


私はシルビィと2人でテクテクと山道を歩いて登って行くと突然、剣を手にしたガラの悪そうな三人の男が行く手に立ち塞がる。


 「命が惜しければ有り金、全部置いて行け」

頭らしき男が傲慢な態度で言う

 「そっちの奴、男かと思ったら女のようだ」

 「なかなかの美人じゃねえか」

いやらしい目でシルビィの体を舐め回すように見ると三人とも下品な声で笑う……


 「この下衆共がお下がりなさいっ!」

三人のいやらしい視線に耐えかねたシルビィが啖呵を切る


 「何を偉そうな事言いやがってこのアマがっ!」

 「この場で犯してやらぁ」

シルビィの言葉に激怒した頭らしき男が物凄い形相でシルビィに襲いかかる


 「ひぃ!!!」

シルビィの怯える声に爺が激怒するのがわかる、一瞬で私と入れ替わる……そして次の瞬間


 「うぎゃあーーーっ!!!」

シルビィに襲い掛かろうとしていた頭らしき男が股間を抑えて飛び回っている

いつの間にか爺は魔剣を手にしていた。


 「貴様らのその邪なモノ、二度と使い物にならぬようにしてくれるわっ!!!」

何時になく爺の言葉に本当の殺気がこもっているのが分かる

 次の瞬間、爺は剣を逆刃に持ち換え電光石火のスピードで残り二人の股間に情け容赦のない一撃を加える


 「ヒィーーーッ」

 残りの2人の男たちの顔から下品な笑いが消え恐怖に打ち震える表情になり必死で剣を振り回すが、爺にそんなものが通用するはずがない

 「ペチッ」

 「ぎゃぁぁぁぁーーーーッ!!!」

一人目の男が悲鳴を上げる


 「ペチッ」

 「うぎゃぁぁぁーーーーッ!!!」

そして、2人目の男も悲鳴を上げた


 最後に残った頭らしき男が逃げようとするが、その前に爺が立ち塞がる

「許してくれっ! お願いだっ!」

その態度を見た爺は剣を降ろそうとした

「なんてなっ! くたばりやがれっ!!」

と言った瞬間に男は襲いかかろうとする


 「ふんっ……愚か者が」

爺は鼻で笑う


 「ペチッ」

 「うげぇぇぇぇぇぇーーーーっ!!」

更に

 「ズホッ!」

 「ふげぇぇぇぇーーーーっ!!!」

頭の男は尻の穴に剣先を突っ込まれたのだ。

見ているだけで自分の股間も痛くなってきそうだ……


塩を振りかけられたナメクジのように地ベタでのた打ち回る三人

「今回は右の玉だけで勘弁してやる」

「今度、同じような事をしたら次は左の玉を潰す」

そう言うと爺は三人などには目もくれずシルビィの元へと駆け寄る


 「すまぬ……こんな事になろうとは」

 「怖い思いをさせてしまったようじゃな」

爺の優しい視線と声にシルビィむの目から涙が溢れだす

 「先を急ごう」

そう言うと爺はシルビィの手を取ると歩き出した


 そのまま、黙々と歩き続け1時間程で"ザッハ"に辿り着くのであった。

 "やけに人が少ないの……"

閑散としたザッハの街の様子に爺が呟くのが伝わてくる


 爺は直ぐに上等な宿を探し宿泊の手続きを済ませる。

 さっきのショックで情緒不安定になっているシルビィを宿のベッドに寝かせる。

 テーブルに置かれている水差しからコップに水を移すとシルビィに吞ませようとする。

 シルビィはコップの水を飲み干すと少し落ち着いたようだ

 「落ち着いたか」

爺の問いかけに


 「はい……」

シルビィは小さな声で答えると

 「申し訳ございません……」

 「無様な所をお見せしてしまいました」

シルビィは自分の不甲斐なさを詫びる


 「今日はここでゆっくりとしよう」

 「しかし、あのような者がおるとは……」

 「この地も随分と治安が悪くなったようじゃの」

 爺は、歩いている者と一人も出会わなかったのはそう言う事なのかと理解するのであった。

 "帰りは護衛付きの馬車にせねばならんな"

爺の呟きが私にも伝わってくるのだった。



 金持ちや上流階級が宿泊する上等な宿だけの事はあり、部屋の設備は充実している。

 この部屋の外には専用の露天温泉があり、いつでも入れるようになっている。

 食事も部屋食で地元の食材を使った料理が運ばれてくるそうだ。


 日が暮れると部屋に夕食が運ばれてくる。

 爺は夕食を運んできた宿の者と話をする。


 宿の者が言うには、ガリア王国との戦が終わったことで用済みになった浪人たちが職に溢れ、悪さをするようになったとの事である。

 そのせいで訪れる人が激減し特に上流階級の客は全く無くなり、ここのような上流階級の客を相手にしている上等な宿は客がなくて相当に困っているそうだ。

 このように上等な部屋が飛び込みでとれたのはそのおかげでもあったのだ。


 状況が把握できると爺と私は入れ替わり、直ぐに気配が消えた。


 夕食は地元の山菜や川魚、そして名物の卵料理がメインだった。

 爺がゲルマニアの料理にしては上手いと言ったことが実感できた。

 この宿の料理にはシルビィも満足したようで綺麗にたいらげていたので安心した。


 「一緒に……温泉に入りませんか」

シルビィの誘いに私は軽く頷く

 

 2人でこじんまりとした温泉に浸かる……3時間以上も歩いたので結構、疲れがたまっているのか心地よい。

 シルビィは私の隣で肩にもたれかかるようにしている。

 今日はいろいろとあって身も心も疲れているのだろう。

 私はそっとシルビィの手を握ると

 「大丈夫だよ……」

 「どんな事があってもシルビィの事を守るから」

私の言葉にシルビィの目から涙が溢れだす


 「私はマノンの荷物にだけは絶対になりたくはありません」

 「せめて自分の身は自分で守れるようにならねば……」

 「自分の不甲斐なさが悔しいのです」

私の手を強く握ると

 「マノン、私に身守る事の出来る本当の剣を教えて下さい」

私を見るシルビィの目は真っ直ぐで偽りの無いものだと分かる


 "よかろう……"

爺の声が私に聞こえてくる

 「うん、いいよ」

私はシルビィにそう言うのだった


 「ありがとうございます」

 「これからは師とお呼びいたしますね」

シルビィの提案に


 「……マノンでいいよ」

と私は力なく言うのであった。




 第七十一話 ~ 2人だけの世界 ③ ~ 終わり


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ