第七十一話 ~ 2人だけの世界 ➁ ~
第七十一話 ~ 2人だけの世界 ➁ ~ 序章
イベリア王国は下級貴族達が支配する事となったが王政は執らず下級貴族達が対等な形で話し合い定期的に代表を選出し政を行う"貴族共和政"となった。
ここに表向きは大陸で初の共和国が誕生したことになるが、平民に参政権は無く事実上は貴族独裁政治である。
民主制という意味合いではシラクニア王国の方がよほど人民主権の民主主義国であるといえる。
そんな事はさておき、イベリア共和国は早速、アーロンの引き渡しをガリア王国に要求してくるのだった。
アーロンの処遇に苦慮するガリア王国レオナールにアーロンは自らイベリアへの身柄引き渡しを求めてくるのであった。
戻れば確実に極刑に処される……そう考えるレオナールにアーロンは
「私が戻れば犠牲は一人で済みます」
「もしも、私が元でガリア王国とイベリア新政権が対立するようなことになれば……」
「私がイベリアに戻るのが最も良いのです」
「短い間でしたが御恩に感謝いたします」
「シルビィ王女様にもよろしくとお伝えください」
「それと、大賢者様には"心より感謝申し上げる"とお伝えいただければ幸いです」
そう言い残すとその日の内に僅かな護衛を連れて王都を後にした。
その後、イベリア新政権に引き渡されたアーロンの処遇はやはり極刑であった。
しかし、スカーナの下級貴族達がそれに待ったを掛けた。
コンテスティ家のスカーナの屋敷での社交会でスカーナの下級貴族達はアーロンの人柄を良く知っていたからであった。
それと、イベリア新政権内部でも"大賢者の呪い"を恐れるものが多かったことも幸いした。
結果、アーロンは王族としての全ての権限をはく奪されたが極刑は免れ新都コルバトからの永久追放となった後に、再びコンテスティ家の預かりとなりスカーナの屋敷で暮らすこととなる。
そして、そこにはカロリーナ・コンテスティが待っていた。
アーロンにとってはこれは罰ではなく褒美であった。
その後、アーロンはカロリーナと結ばれ交わり三人の子供を授かる事となる。
アーロン・コンテスティとなった彼は善政をもって知られスカーナ辺境伯となった後に五十三歳でこの世を去る。
アーロンは終始、大賢者への恩を忘れる事は無くスカーナの屋敷の裏庭にマノンの等身大の銅像を建てている。
そして、その銅像はあの恥ずかしい衣装を纏っているのであった。
マノンが見たら恥ずかしさのあまり発狂する事は確実である。
第七十一話 ~ 2人だけの世界 ➁ ~
「ん~もう無くなりましたよね」
シルビィは一人で鏡を覗き込んで呟くと
「これでようやくマノンに顔を合わせられます」
そう、シルビィは目の下のクマが気がかりで仕方が無かったのである
そんな事は知らないマノンは困っていた。
あれから四日が過ぎ、貯蔵してあった携帯食が底をついたのである。
"ねぇ、食べ物って錬成できるの"
私は爺に問いかける
"出来ない事は無いが……"
爺は何だか困っているようだ
"何か不都合でもあるの……"
困っている爺に私が問いかける
"材料がないと無理じゃな……"
"そこら辺の有機物から錬成は出来るが……"
爺は言い難そうにしていたが
"不味い……というか……味の制御が出来ん……"
"シラクニアで食ったイエロー・ベリーと変わらんかもな"
そう言うと爺は
"少し外に出て材料を調達した方が良い"
"それに、世間では王女様の事がどうなっておるかも知りたいしの"
私は爺の意見に賛成した
私が食料の調達に行くとシルビィに伝える。
当然、シルビィも一緒についていくと言って聞かないのであった。
意外とシルビィもこんな我が儘を言うんだなと思う。
これが本当のシルビィなんだなとも思うマノンであった。
"あの~言い難いんだけど……"
"よくよく考えると、お金がないんだよね"
そう……私もシルビィも無一文なのだ
"ブッハッハッハッハッ"
それを聞いた爺が豪快に笑い飛ばす
"心配するな金なら腐るほどあるわい"
爺の案内でシルビィと二人で魔道具の倉庫の奥へと入っていくと行き止まりの通路にたどり着く
爺が何かの呪文を呟くと行き止まりの壁がスッと消えて隠し扉が現れる
その扉を開けると中には鉄金具で補強された千両箱のような木の箱がずらりと並んでいる。
「この箱は?」
シルビィの問いかけに
「ちょっと待てよ……今……」
爺が何か言い終わる前にシルビィは木の箱に触れてしまう
「ぎゃ!」
シルビィは悲鳴を上げるとその場に蹲る
私が慌ててシルビィに駆け寄ると何事も無かったように立ち上がる
「その箱に触れた瞬間"ビリビリ"っとしました」
シルビィは驚いたように手を擦りながら箱のを見つめる
"あ~あ~、やっちまったのう"
爺は呆れたように言うと
"この箱には防犯魔法がかけられておる"
"ただ痺れるだけの魔法じゃよ"
"オレールのような不届き者がおったからの"
そう言うと爺は魔法を解除する
木の箱の一つを開けると中には金貨がギッシリと詰まっていた。
それを見たシルビィが呟く
「凄い……全てゲルマニア帝国の1000マルク金貨ですわ」
「しかも、金品位の高い高品質の旧ライヒス・マルクですわ」
「この箱だけで100万マルクはありますわよ」
何故かシルビィは詳しかった……
1マルク=150円
1000マルク=150000円
100万マルク=150000000円
となります。
「こっ、こっっ!この箱全部が……」
シルビィは今にも卒倒しそうである。
軽く見積もっても同じような木の箱が100以上は余裕である。
単純計算でも1億マルクはある事になる……ざっと、150億円である。
この時代の経済の規模はさほど大きいものではなく人口180万人のガリヤ王国の一人当たりのGDPは40万円に満たない程度であるから、その金額の大きさは理解できると思う。
実はシルビィは経済的な事には精通している。
この時代の王は経済に疎い……何でも「良きに計らえ」や「その方に任せる」の一言で片づけてしまうのである。
ガリア国王のレオナールもご多分に漏れずである。
シルビィが国王の代理としてゲルマニア帝国との賠償交渉に出向いたのもレオナールがこのような交渉では役立たずだからである。
要するに、事務方の臣下に泣き付かれたというのが正しい。
レオナールだと、とんでもない条件にサインしかねないからである……。
当然、ゲルマニア帝国も事情は同じでガリア王国との交渉に出向いたのはゲルマニア帝国宰相のフリッツ・フォン・バルテンであった。
この交渉でバルテンは話の分かるシルビィに良い印象を持った事は言うまでもない。
殊にガリア王国の男共の経済観念の無さは大陸でも有名で他国からは、飲んで・食って・寝て・歌って・踊って・ヤルこと以外に頭にないとさえ言われる始末である。
これこそが、大陸に名高い"カカァ天下"を生んだガリア王国の根源なのである。
そのくせ、王都の大商人に代表されるような強欲な所もあるのだから余計に始末が悪いのである。
交渉後のバルテンの
「流石はガリア王国の姫君だ」
この一言が全てを物語っている。
……故に、お金の事が良くわかるシルビィにとっては卒倒ものの金額なのである。
余談だが、これによりシルビィのマノンへの好意度が更に跳ね上がったことは言うまでもない。
悲しいかな、この世界でも財力はモノを言うのである……
「どうしたのシルビィ、顔が真っ青だよ」
口をポカンと開け真っ青な顔をして立ち尽くしているシルビィに問いかける
「はぁ……すいません……ちょっと取り乱してしまいました」
虚ろな目で私に言う、すると爺の声が聞こえてくる
"ここは、金貨の部屋じゃから"
"隣の銀貨の部屋へ行こうかの"
"金貨は金額が大きすぎて使い勝手が悪いからのう"
爺の言う通りにシルビィに銀貨の部屋へ案内すると
「あはっ……あはははは……」
シルビィは脱力したような笑い声をあげる
銀貨の部屋には更に多くの木の箱がうず高く積み上げられていた
「これ……何箱ぐらいあるのでしょうか」
シルビィは力ない声で私に尋ねる、それを聞いた爺は
"箱の数……そんなもん知らんわい"
爺にもよく分らないようだった
"ん~ざっと……500と言った所かの"
シルビィに爺の言う通りに伝えると
「500ですか……」
シルビィはフラフラとフラ付きながら銀貨の箱に手を近づける
「危ないっ!」
私は思わずシルビィの手を掴んだ
「すいません……私ったら……」
シルビィは私の声に正気を取り戻したようだった
すると、また爺の声が聞こえてくる
"この部屋の箱には防犯魔法はかかっとらんよ"
"こんなに沢山の箱にいちいち魔法なんぞ掛けられるか"
爺はそう言うと隣の部屋へ私を案内する……そこには魔法剣や宝石が並べられていた
「何ですのこれ……」
ずらりと並べられた財宝にシルビィはもはや声も出なくなっている。
……爺は、この世界においては〇mazon.com 創業者のジェフ・ベ〇ス級のとんでもない大金持ちだったのである。
本当に、腐るほど金があったのだった……
第七十一話 ~ 2人だけの世界 ➁ ~ 終わり




