第六十九話 ~ 祭りの後 ~
第六十九話 ~ 祭りの後 ~ 序章
ピオ-ネ山脈を越えた南側には3つの国がある。
東側からイベリア王国、中央にイスパニア王国、西側にダキア王国のピオ-ネ南3ヶ国である。
この三国は以前から微妙な力関係にあった。
国力で言うならば人口が40万人のイスパニア王国が最も大きく、次いで人口30万人イベリア王国の、そして人口25万のダキア王国である。
(この世界この時代では、国力=人口である)
この三国は、対ゲルマニア帝国で迎合しガリア王国と同盟関係にあった。
しかし、ガリア王国とゲルマニア帝国が和平条約を結ぶ事になると以前のようにはいかなくなっていた。
そこにイベリア王国の第三王子アーロンのガリア王国への養子縁組である。
これ即ち、イベリア王国の第三王子アーロンが人口180万人のガリア王国の国王になるという事である。
これは、ピオ-ネ南3ヶ国のパワー・バランスを崩すには十分な出来事であった。
特に危機感を抱いたのがピオ-ネ南3ヶ国で最も大きい力を持つイスパニア王国である。
ゲルマニア帝国の侵略の危険性が無くなった今、ピオ-ネ南3ヶ国での主導権を握ろうと画策していたからである。
反乱軍の下級貴族達や平民達の手にしていた大量の武具は極秘にイスパニア王国の国王のベルナルトが融通した物なのである。
イベリア王国のカデーナ王朝の崩壊から3日が過ぎ、国王のベルナルトは侍従長のダリミル・ベームの最終報告を聞く
「そうか……事は全て上手く運んだか……」
「あのような愚か者が力を持てば、ロクなことにはならぬ」
「王族で生き延びたのはアーロンただ一人か」
「アーロンの処遇はイベリア新政権とガリア王国で話は着こう」
「我らが敢えて口を挟むことは必要なかろう」
そう言うとイスパニア王国の国王のベルナルト・バラーク五世は小さなため息を吐く
予てより、ベルナルトはカデーナ三世とその二人の息子の事を良く思っていなかったのである。
「イベリアの新政権との話は上手くいっておるのか」
ベルナルトがダリミルに問う
「上手く行っております」
「事が落ち着きましたら、陛下に謁見したいと申しておりまする」
ダリミルの話を聞いたベルナルトは小さく何度も頷くと
「しかし、強欲なガリアの大商人どもがあのような安値で武具を手放すとはな……」
その言葉を聞いた侍従長のダリミル・ベームが答える
「戦が早期に集結しガリア・ゲルマニア間で和平が結ばれ」
「もはや、あのような大量の武具は必要ありません」
「大損しても今の内に処分するのが当然かと思いまするが……」
ダリミルが少し言葉を濁らせる
「どうした、他にも何かあるのか」
ダリミルの口調に違和感を感じたベルナルトが問い質す
「今回のイベリア王国のカデーナ王朝の滅亡は"大賢者の呪い"のせいだと世間では噂されております」
「もっとも、その方が我らには都合が良いのですが……」
途中でダリミルは言葉を濁す
「どうしたのだ、ダリミルよ……続きを申せ」
ベルナルトはダリミルが続きを話すように諭す
「ガリアの大商人ども口々に申しておったことがあります」
「"我らは、大賢者の呪いが心底怖い、だから安値で武具を手放すのだ"と申しておりました」
「今回、あのように大量の武具が安値で手に入ったのは……」
「つまり……その……"大賢者の呪い"のためだと……」
ダリミルの言葉を聞いたベルナルトの顔色が変わる
「それでは、まるで我らが大賢者に上手く乗せられたということではないか」
ベルナルトの言葉にダリミルの顔が引き攣る
「まさか……我らも大賢者の術中にあったという事か」
「くだらぬ……」
笑い飛ばすかのように言ったベルナルトの顔もまた引き攣っているのであった。
第六十九話 ~ 祭りの後 ~
「大賢者様、ここは何処なのですか?」
暗闇の中でシルビィの声がする
「ここは、"魔法工房"……わしの隠れ家じゃよ」
「ようこそ、我が魔法工房へ歓迎いたしまする、王女殿下」
爺は抱きかかえていたシルビィを丁寧に地面に下すと辺りが明るくなってくる
「まさか……こんな所に……」
シルビィは目の前の魔法工房に驚いている
「ここが、大賢者様の隠れ家……」
何故かシルビィは感激しているかのように見える
爺がドアの前に立つと自動でとドアが開く、絨毯に乗ると絨毯が動き出す。
シルビィは全く驚く事は無かった。
その訳は、実に明確である……シルビィにしてみれば"大賢者様なのだからこれぐらいは当然の事"なのである。
温泉のある部屋の前に来ると
"後は任せた……わしは暫く休養をとる"
そう言い残すと爺の気配は消え爺は私と入れ替わる
突然の入れ替わりに私は少し焦る
「疲れたでしょう、この部屋には温泉があるんだよ」
「ゆっくりと温泉にでも浸かってね」
私はそう言うとドアを開ける、そこには天然かけ流しの温泉がある
「サン・リベ-ルでの事を覚えていたのですね」
シルビィは嬉しそうに私を見る
"そう言えば、宿屋の風呂場であった時にそんな事があったような"
私は必死で思い出そうとしていた。
「あの時のように、大賢者様もご一緒しません」
シルビィが温泉を見ながら言う
「大賢者様ってのは止めてマノンって呼んでね」
私がシルビィに言うと
「でっでは、マノン様……」
シルビィは凄く照れ臭そうだった
「様もいいよ、マノンでいいよ」
私がそう言うとシルビィは困ったような表情をする
「そんな、呼び捨てだなんて滅相も無い」
シルビィは少し焦っている
「それじゃ……私もシルビィって呼び捨てにするから」
「シルビィも私の事をマノンって呼び捨てにしてよ」
「これでお相子様でしょう」
私がそう言うとシルビィは小さく頷く
「マノン……」
そう言うと顔を真っ赤にしている
「シルビィ」
私がそう呼ぶとシルビィは耳まで真っ赤になる
シラクニアでは、ユーリアもアイラもエルナもルメラも皆、シルビィのような事は無かった。
やはり、国家体制の違いという物は大きいと実感した。
当然、私はシラクニアのような国の方が好きだ。
二人仲良く服を脱ぐと一緒に温泉に入る。
「はぁ~」
二人同時に同じような声が出る、二人で顔を見合わせると思わず笑いが吹き出してしまった。
ずっと気になっていたのだが、シルビィの目の下に薄っすらとクマが出来ている。
きっと眠れない夜が続いたのだろう、シラクニアに言った時にルメラが不眠症になっていた時の事が思い出した。
私がシルビィとこのような会話をしているのはリラックスさせて不安を取り除きより良い睡眠をとってもらいたいと思っていたからである。
そんなルメラやシルビィを見ていると、どんな状況でも5分で爆睡してしまう自分がたまに恥ずかしく感じる事がある。
そんな事を考えているとシルビィが私の隣に近付いて来ると、そっと私の肩に頭をもたれかける。
「これは、夢じゃないんでしょうね」
「未だに現実だとは思えなくて……」
シルビィが呟くように言う
私はそんなシルビィの頬を軽く抓る
「痛っ!」
少し驚いたような表情でシルビィが私を見ると
「痛っ!!」
いきなりシルビィも私の頬を抓った
「夢じゃないね」
私がそう言うとシルビィは小さく頷いた
既にシルビィは眠そうな目をしているのがわかる
「眠いの」
私がシルビィに問いかけると
「はい……」
シルビィはそう言うとウトウトし始めると眠ってしまう。
流石に温泉に入ったまま眠ってしまってま大変なので私はシルビィを後ろから抱きかかえると裸のままお姫様抱っこする。
このままだと風邪をひいてしまうので温泉の隅に置かれた長椅子に寝かせるとタオルでシルビィの体を拭く。
元女子で勝手は分かっているものの、うら若き乙女の体を隅々まで拭くのは少し照れ臭かった。
仕方がないとは言え胸やお尻、そして大事な所を拭くとシルビィが小さな喘ぎ声を上げ少し焦った。
困ったことに魔法工房には寝室がない……
シルビィに魔装服の上着を掛けると図書室へ行く椅子を並べて魔装服を下に敷き寝袋へとシルビィを押し込んだ。
シルビィは完全に眠り込んでいる、相当に疲れがたまっていたのだと思った
私も床に寝袋を敷くと潜り込み眠りについた。
これからどうなるのかな……そんな事を考えながらも、私は5分で眠りについた。
そんな私に爺は"もはや、特技レベルだな"とマノンの即眠能力を高く評価するのであった。
第六十九話 ~ 祭りの後 ~ 終わり




