第六十七話 ~ 祭りの前日 ~
第六十七話 ~ 祭りの前日 ~ 序章
シラクニアを出て転送ゲ-トを潜り魔法工房へと帰り着いたマノンは冷え切った体を温泉で温めていた。
はぁ~、やっぱり温泉はいい、どうも薬湯じゃ物足りない。
マノンが温泉に漬かり微睡んでいる頃、イベリア王国の辺境、かつてアーロンが暮らしていたイベリア王国の下級貴族コンテスティ家のスカーナの屋敷では恒例の下級貴族たちの社交会が行われていた。
辺境の下級貴族が王都の社交会に呼ばれる事などあり得ないことなので辺境の下級貴族たちは月に一度の自主的に集社交会を開いているのである。
イベリア王国では王族とごく一部の上級貴族が実権を握りの贅沢の限りを尽くしていた。
平民を下民と蔑むその傲慢な態度は多くの国民に忌み嫌われていた。
下級貴族の扱いも酷く、領地こそ与えられてはいるものの税負担は大きく不満は依然から大きかった。
日本で言うならば"わしら郷士は下駄も履かしてもらえんかのう"と言うのが当てはまる扱いである。
彼ら下級貴族たちは大きな不満を持ちながらも武力も資金も無く王族や上級貴族に対抗するすべは無かった。
そんな中、第三王子アーロンだけは違っていた。
民と寄り添い共に共存することを心から望んでいたからだ、それには訳があった。
アーロンはイベリア国王のテオドロ・カデーナ三世の妾の子であり、上級貴族が母の第一王子バルドゥイノや第二王子ブルーノとは生まれも立場も違っていたからだった。
第三王子でありながらアーロンへの扱いは酷く病弱であったこともあり"三男坊の冷飯食らい"の言葉通りに、早々に王都コルバトの宮殿を追い出され辺境の下級貴族コンテスティ家の預かりとなった。
しかし、これがカロリーナ・コンテスティとの出会いを招きアーロンにとっては良き日々を送る事となったのである。
正直、コンテスティ家の預かりとなった時はコンテスティ家からも歓迎されてはいなかった。
しかし、その人柄で次第に周囲の人々に受け入れられていくこととなるのである。
第六十七話 ~ 祭りの前日 ~
マノンは温泉から上がると二か月間放置されていた王立アカデミ-の制服を着る
二ヶ月も放置していたにもかかわらず制服は奇麗であった。
これも、魔法工房の魔力の力だと爺は言っていた。
転送室へ行くと王都ガリアンへ転移する。
やっと、レナに合う事が出来る……マノンの心はレナの事でいっぱいだった。
いつもの広場の塔の天辺に転送が終了すると懐かしい光景が目に飛び込んでくる
"ああっ……帰って来たんだ"
マノンの目に薄っすらと涙がにじむ……そんな時……
「どこホッツキ歩いてたんですかっ!」
「この甲斐性無しの大賢者様はっ!」
いきなり後ろからどこかで聞いた声がする
「ええっ!」
吃驚して後ろを振り向くと、そこにはアーネットが立っていた
「なんでっ!」
「なんで、アーネットがこんな所にっ!」
あり得ない事に私は慌てふためいていると
「大賢者様、お話があります」
「少し、お付き合いいただけますか」
アーネットは物凄い形相で私に言う
「あの~これからアカデミーに帰って会いたい人がいるんですけど」
私は小さな声で申し訳なさそうに言うとアーネットの顔が引き攣る
「何言ってんですかっ!」
「この甲斐性無しがっ!」
そう言うとアーネットは私の手を掴み塔を下り表通りに出ると大きな商家の屋敷に入る
「おかえりなさいませ、お嬢様」
年老いた執事のような男性がアーネットに挨拶をすると部屋のドアを開ける
「ええっ! お嬢様って」
「アーネットって……」
私の言葉など無視して部屋に入るとドアが閉じられる。
「ここに座って」
アーネットは立派な革張りのソファーに座るとテーブルを挟んで反対側のソファーを指さす。
私は言われた通りにソファー座る
「大賢者様、お話があります」
アーネットは鼻息を荒くすると私の方を睨む
「じつは、明日、シルビィ様の"儀の礼"が執り行われます」
「相手はイベリア王国の第三王子アーロン・カデーナ様です」
呆気に取られている私に、アーネットはシルビィの"儀の礼"ことを話す
「そうなんですか………それは、おめでとうございます」
何も状況が分からない私は一般的な対応をするとアーネットの体がプルプルと震えだす
「何言ってんですかっ! このすっとこどっこいっ!」
アーネットは顔を真っ赤にして怒鳴る
「シルビィ様のお気持ちを知ってて言ってるんですか」
「だったら、地獄に落ちますよ、いや私が突き落としてやります」
アーネットは息を荒くして言うと急に静かになる
「シルビィ様は心底、大賢者様の事を好いておられます」
「お願いです………何とかして下さい」
「超常の力をお持ちになっている貴方になら出来るはず」
アーネットは涙を流しながら訴えるように懇願する
「あっ……えっと……その……」
突然の事に私が慌てふためいていると、爺の声が聞こえてくる
"何と健気な娘じゃ……"
"主の幸せのためにここまでするとは………"
"今流した、その涙………無駄にはせぬ"
そう言うと爺もすすり泣く………マリレ-ヌの時もそうだったが、爺はこう言う事には涙脆いのだ。
すると突然、私と入れ替わる
「其方の主への忠義、決して無駄にはせぬ」
そう言うとソファーから立ち上がる、その堂々とした物言いと態度にアーネットは少し驚いたような表情をしている。
「一つ聞きたいことがある」
「どうして、わしがあの塔に現れることを知ったのかな」
爺の質問にアーネットの顔が真っ赤になる。
当然、言えるはずがないのだが、アーネットは爺の堂々とした姿と揺るぎない意志を示すかのような瞳に信頼できると判断したようだった。
じつは……
アーネットは包み隠さず自らの能力と責務、そして、あの恥ずかしい能力の発動条件とその方法までも話すのだった。
話を聞いた爺は小さく何度も頷くと
「そうか……そう言う事か」
「恥じることは微塵も無い、むしろ誇るがよい」
「その力、いずれ多くの者を救うやもしれぬ」
アーネットにそう言うと爺はにっこりと笑い部屋を後にする
いつもとはまるで違う威厳さえ感じる堂々としたマノンの姿にアーネットは呆然と見送るのだった。
執事に見送られ商家を出た爺は私と入れ替わる。
"事は明日じゃ、今はレナちゃんと会いたかろう"
そう言うと爺の気配は消えた
私はまっすぐに王立アカデミ-を目指して歩みを早める、見慣れた通り、見慣れた建物、そして王立アカデミ-の正門か見えてくる。
自然とマノンの歩みは早くなる、王立アカデミ-の正門を潜ると全く変わらない風景があった………何故か涙が出そうになる。
しかし、マノンを見る生徒たちの目は大きく変わっていた。
鈍いマノンですらも周りの目が以前は違う事に気付くほどであった。
あちらこちらからマノンの事を噂する声が聞こえてくる
マノンはそんな事など気にもせず女子寮へ一直線に向かう、とにかくレナに会いたかったのだ。
女子寮に着くと面会を申し込む、暫くすると大きな胸を揺らしながらレナがこちらに向かって走ってくるのが見える。
「マノンっ!!!」
レナは私を見つけると大きな声で私を呼ぶ
「レナっ!!!」
同じように私もレナの事を呼ぶ
「おかえりなさい……」
レナは私の近くに来ると小さな声で言った
「ただいま……」
私はそれに答える
周りの注目を一身に浴びているのだが、二人だけの世界にいる私とレナはそんな事など全く気にしてはいなかった。
見つめ合う二人……その時、二人の世界を破壊する声がする
「マノン君、用があるのでこちらに来てもらえませんか」
慌てて後ろを振り向くと、そこにはルシィが立っていた
「えっ、ルシィ」
現実世界に引き戻され私は驚く
「なにか……用……」
呆気にとられた私はルシィに尋ねる
「とにかく一緒に来てもらえませんか」
ルシィはそう言うと私の手を引っ張る
「えっ、ちょっと待って」
「レナっ!」
私の叫びも虚しくルシィの怪力に引きずられるように連れ去られる。
余りの突然の出来事にレナは呆然とその場に立ち尽くしているのだった。
ルシィに半ば連行されるかのようにして連れてこられたのは、王立アカデミ-導師総代のジェルマン・ベクレルの執務室だった。
ルシィはドアの前で立ち止まると私の手を放す。
「強引な事をして申し訳ありません」
私にルシィは謝罪すると真剣な表情で事の次第を手短に話し出す。
ルシィの話では……
私は"大賢者の弟子"という王立アカデミ-に噂が広まっている事。
そのために、私の待遇を"特別推薦生"とするのか"導師"とすべきか導師間でも意見が分かれている事。
ここに呼び出されたのは、直接マノンから事の真相を聞き出すのが目的である事。
アカデミーの生徒も導師も誰一人としてマノンの事を大賢者だとは思ってもいない事などであった。
ルシィは手短に私の置かれている状況話すと執務室のドアをノックする
執務室の中からジェルマンの声が聞こえてくる。
ルシィはドアを開ける
「マノン・ルロワさんをお連れ致しました」
ルシィは執務室の中のジェルマンに報告をする
"それでは、大賢者様、御賢答を……"
ルシィは耳元で囁くと微笑む……そして、私を執務室の中へ押し込みそのままドアを閉めた。
歴史を感じさせる執務室の中に置かれた大きな机の椅子にジェルマンは座っていた。
「マノン・ルロワ君だね」
「そこに座り給え」
そう言うと机の横に置かれた椅子を指さす、私は言われるままに椅子に座る
「回りくどい事は抜きにして単刀直入に問う」
「君は"大賢者の弟子"なのかね」
ジェルマンの鋭い視線が私に向けられる
「あっ……その……」
私が困惑していると爺の声が聞こえてくる
"この場はわしに任せてくれぬか"
入学式の時のようにならないかと心配だったが今の状況では私は爺に頼るしかなかった。
私は爺と入れ替わる……
「その問いには半分がYESで半分がNOじ……です」
「正確に言うならば未だ"大賢者の弟子"としては認められてはおりません」
「ご存じとは思いますが大賢者様は自らの術と知識を後世に伝えるため」
「大陸中から才ある者を探しております」
「私は"才能有り"と大賢者様に認められました」
ジェルマンは爺の説明を食い入るように聞いている、そして
「つまり、君は"大賢者の弟子"の候補というわけなのだな」
「ん……じつに困った……」
ジェルマンは困り果てたように考え込んでいる
マノンの処遇をどうすべきか悩んでいるのである
「分かった……ご苦労だった」
「用は済んだので、もうよい」
「手間を取らせて悪かった……」
ジェルマンはそう言うとドアの方を指さす
「失礼いたします」
爺はそう言うとジェルマンの執務室を後にした。
結局、あちらこちらと引きずり回され……日も暮れ、辺りは真っ暗である……。
明日の金曜日は、シルビィの"儀の礼"……国事として祝日扱いとなり土曜日と日曜日が重なり三連休となる。
当然。王立アカデミ-もお休みである。
因みに後日、マノンは"導師候補生"として"特別推薦生"と等々の待遇を受けることが決定され詳細が公示されることなる。
第六十七話 ~ 祭りの前日 ~ 終わり




