第六十五話 ~ シラクニア長期出張 ➈ ~
第六十五話 ~ シラクニア長期出張 ➈ ~ 序章
深い夜にランプの灯りが揺らめいている……。
ここは、ルメラのプライベート・ルーム(寝室である)
アイラ、エルナ、ユーリア、ルメラの四人が集まり、今まさに当事者マノンの意思を完全に無視したマノンの貞操のやり取りが行われようとしていた。
静まり返り異様な緊張感の漂う部屋の中でアイラが真剣な表情でサイコロを手にする
「それでは、いいですか皆さま……」
他の3人が小さく頷く……まるで大勝負を掛けた賭場のような雰囲気である
そう、マノンと"交わる"順番をサイコロの目の数で決めるのである。
この方法だと残り籤を引く先手・後手の不公平が無いからである。
サイコロの目の少ない方から順番にマノンと"交わる"権利が与えられるという仕組みになっている。
マジでマノンの貞操は"賽の目任せ"なのである、本人が知ったら発狂するかもしれないような決め方である。
シラクニアでは"交わり"を申し込んだ相手が童貞である確率は低い、理由は男性側も初めては自分の好きな人と"交わり"たいのと戦で命を落とす事もあり事を済ませるのが早いからである。
そんな状況で"初物"のマノンは極めて希少価値が高い上にモノも"極上品"なのであるから4人が熱くなるのは当然であった。
因みに、マノンと一緒に風呂に入った際に4人ともそれとなくマノンの体をくまなく隅々までチェックしているのである……恐るべしシラクニア女子である。
「モノも"極上品"」と言う意味は本人の容姿や文武両道の徳以外に別の意味もあった……女子から男子へと性転換したときに胸の小ささに悩んでいたマノンへの細やかな爺の計らいでマノンのモノは非常に立派なのである。
爺がマノンに言うわけもなく、本人も全く気付いてはいないが、王立アカデミ-でもマノンが裸でシャワ-室に入ってくると他の生徒がマノンの股間を見て仰天し、自分の股間を隠してスゴスゴと退散するぐらいの代物なのである。
当然、医学に明るいレナも既に気付いてはいたが……"大っきいね"なんて、そんな事は言えるはずも無いのである。
因みに、シルビィは初めて目にするマノンのモノが普通だと思い込んでいる……この点に関しては相手のイベリア王国の第三王子"アーロン・カデーナ"が気の毒でならない。
かくして、賽は投げられマノンの貞操の運命は滞りなく決められるのであった。
一番手……ユーリア
二番手……ルメラ
三番手……エルナ
四番手……アイラ
と言う結果であった……
一番手に決まった時のユーリアの喜びようと四番手のアイラの落ち込みようは想像に容易い。
この日本でもシラクニアでも"女房と畳は新しいほうがよい"と言うのは同じである。
マノンは商品ではないが、当然、中古より新品の方が良いに決まっているのである。
「クソッ! ユーリアのおさがりかよっ!!」
「先に目を付けたのは俺なのによ」
ルメラは相当悔しいようだ
「文句は言いっこ無しよ」
「私なんておさがり³なのよ」
アイラが声を震わせながら言う
かくして、マノンの童貞を頂くのはユーリアに決定したのであった。
当然、マノンはそんな恐ろしい事など全く知らないのであった。
世に言う"知らぬが仏"の一例であった。
第六十五話 ~ シラクニア長期出張 ➈ ~
ルメラの部屋で世にも恐ろしい取引が行われている頃にマノンと爺はユーリアの新しい武具を錬成していた。
「何なのコレ」
私は爺が錬成した不思議な武具を見て言う
「長巻じゃよ」
「旧世界の武具の一つじゃよ」
爺はそう言うと長巻を手にする
「フム……いい出来じゃ」
ここから爺の長いウンチク話が始まるのだが……
簡単に言えば剣の持ち手の部分の柄を長くした武具である。
浅い反りの付いた刀身は長さ90センチほどで刃先が両刃で途中から片刃になっている。
持ち手の部分の柄は長く刀身とほぼ同じ長さがある。
日本に於いては長巻は南北朝時代に作られ始め、室町時代と戦国時代と安土桃山時代と戦の多い時代に流行した物とほぼ同じである。
小柄であったり非力であったりと大剣を存分に振ることの難しい者でも用いることが出来る上に通常の剣よりも威力が大きく、振る、薙ぐ、突くと幅広く使えるとの事が特徴でありユーリアに向いている。
因みに、少量だが錬成の時に魔石を結合させているために強度・斬れ味共に鋼の剣よりも遥かに優れている。
爺が言うには魔石を大量に含んだ高位魔剣は戦場など人の心が極限状態になり狂気じみる事態に陥った場合には使い手に悪影響が出る事があるそうだ。
同じような魔剣を、槍使いのアイラには槍を、短剣二刀流のエルナには大小の短剣を二振り、ルメラには日本刀の片手打ちのような小ぶりの湾刀を錬成している。
いろいろと世話になった爺からの心ばかりのお礼でもある。
爺にとっては、心ばかりかもしれないが世間では魔剣の錬成術など遥か昔に失われ遺物として少数が残存するのみの魔剣は希少で目玉が飛び出るほど高価な代物であり現存する名の知れた魔剣の殆ど全てが王家などの宝物庫に眠っている。
当然、これらの武具はシラクニア四魔剣と言われ国宝として代々受け継がれていくこととなる。
爺は、テーブルの上に並べられた魔剣を眺めながら
「後は、約束通りに明日この長巻の用法をユーリアに教えるだけじゃの」
「もう少しで、嵐の季節も終わる……こことも、お別れじゃ」
「お前さん、わしは帰りは人知れずそっと帰ろうと思うのじゃが……どうかな」
爺の問いかけに
「うん、それでいい……その方が良いと思う」
私は爺の提案に同意する
「明日の朝、ユーリアに長巻の扱いを教えたら帰るとするかの」
爺そう言うと気配を消した。
朝になり、簡単な朝食(ライ麦パンと赤いスープ)を食べた後で試合の為に貯蔵庫へと向かう……
既に、いつもの日課のようになっている。
途中で会った人々と挨拶を交わしつつ手には錬成した武具を抱えている。
「ふぇ~やっと着いた」
流石に長巻に槍に大小の短剣二振りに湾刀一振りを抱えてここまで来るのは一苦労だった。
「マノンっ!」
私を呼ぶ声がする
辺りを見回すとルメラ、ユーリア、アイラ、エルナの4人がこちらに向かって歩いてくる
「こんにちは、マノン」
ユーリアが笑顔いっぱいに挨拶する……
ユーリアは、とても機嫌が良さそうだ、腰の調子がいいのだろうと私は思っていたが実際はそうではない。
私が抱えている武具に気付いた4人は気になるようでジッと武具を見ている
「この武具は私から4人へのお礼のつもりだよ」
「魔術錬成した魔剣だよ」
私はそう言って4人に武具を手渡すとルメラ、アイラ、エルナの3人は突然のサプライズに少し驚いているようだ。
4人とも魔剣の価値を知っているので驚きを隠せないでいる
「こんな高価な物、本当に頂いてよいのでしょうか」
アイラの魔剣を持つ手が震えている
「いいよ、お礼のつもりだから気にしないでね」
私はそう言うと手にした長巻を不思議そうに見ているユーリアに話しかける
「これは長巻って言う武具だよ」
「これから、使い方を見せるから見ててね」
私はそう言うと爺と入れ替わる
爺は長巻を手にすると長巻の基本の型を披露した後でユーリアに長巻を手渡す
ユーリアは見よう見真似で基本の型をとる
「この武具、いいです」
「凄く扱いやすい、それに軽く感じられます」
「ありがとうございます」
ユーリアはそう言うと長巻を抱きしめる
どうやら気に入ってもらえたようだ。
その後で試合申し込みの5人の騎士の尻をいつものようにブッ叩く、周りから笑いと拍手が巻き起こる……
もはや、恒例となっていて、これを見にやってくる者も多いと聞く。
試合を終えて帰ろうとすると、爺をを呼び止める声がする。
声の主は、ラッセルだった……手には練習用の大剣を手にしている。
病床に伏せていた頃の面影は全く無く、以前のようなゴリマッチョに戻っていた。
「お久しぶりです、大賢者殿」
「命を救って頂いたにもかかわらず、顔も出さず申し訳ない」
「完全とは参りませんが、ほれこの通り、体調も戻りましてございます」
ラッセルはそう言うと大剣を軽く振り構えて見せる
「どうですかな、一勝負」
そう言って爺を見るとニヤリと笑う。
どうやらアスラクの言う通り本当にずっと筋トレをしていたようだ
爺は暫くの考えた後
「よかろう……お相手申す」
「但し、無理は禁物であることをお忘れないよう」
爺はそう言うと大小2つの練習用の剣を手にする
その様子を見たラッセルが不敵に微笑むと
「やはり、二刀流でございましたか」
そう言って大剣を構える、周囲の人々が騒めきだす。
突然のラッセルと大賢者の一騎打ちに周囲の人々が騒めきだすのは当然だった。
「それでは参る」
ラッセルがそう言うと物凄い勢いで爺に近付くと大剣を上段に構え斬りかかる。
本来、大剣使いは上段に構えた大剣を上段から振り下ろす事は滅多に無い、一撃をかわされれば剣の重みと勢いで地面に剣が突き刺さるか斬り返しに時間がかかり過ぎその隙に相手の反撃を受けてしまうからだ。
しかし、ラッセルは違った振り下ろした大剣を一瞬のうちに斬り返す。
「おおっ!」
周囲から驚嘆の声が聞こえてくる
しかし、そんなラッセルの技を難なく爺は左手の剣で受け流すと右手の剣で反撃に出る
その爺の一撃をラッセルは剣の平地を盾に受け止めると、今度は大剣を水平に振り回し体を捩じり徐々に回りながら凄まじい速さで連続攻撃に出るが爺はその全てを両手の剣でかわす
「うぉーー」
再び周囲から驚嘆の声が聞こえてくる
ルメラ達4人もマノンが本気で戦っている姿を見て驚きを隠せない
「凄いわ」
「ラッセル様の連続打ち込みを軽々とかわすなんて」
「やっぱり、マノンって、素敵だわ」
同じ大剣使いのユーリアが見ても強烈なラッセルの打ち込みを難なくかわし続けるマノンの剣技に驚きを隠せない
ルメラも同じたった
「スゲーッ! オヤジの連続技をあんなに軽々とかわすなんて」
試合を食い入るように見ている
アイラとエルナも同じだった
「お姉ちゃん、マノンってホントに凄いね」
「細っこい体でラッセル様と互角に戦ってるよ」
エルナの言葉にアイラも頷くと
「これでまた……木の板と素焼きの小皿が増えるわね」
アイラの呟きにルメラ、ユーリア、エルナは大きなため息を吐くのだった。
暫くして、爺とラッセルは互いに距離をとる。
ラッセルは大きく息を吸うと大剣を高らかに上げた構え(示現流の蜻蛉の構え)を見せる、それを見た周囲が騒めきだす。
「オヤジッ! いくらなんでもやり過ぎだっ!! 」
ラッセルの構えを見たルメラが叫ぶ
「大賢者殿……ご容赦」
そう言うとラッセルは気合の入った声を上げると鬼神の如き表情で爺に斬りかかる
"なにっ!!!"
ラッセルは心の中で叫ぶ……目の前に居たはずの大賢者の姿が一瞬にして消えたのだ
"うっっ……そんな……"
次の瞬間、ラッセルはわが目を疑った
いつの間にか爺が間合いに入り込み、右の剣で振り下ろす直前の大剣の動きを止め左の剣は喉元に突き付けられたいた。
「まっ……参った」
ラッセルは震える声で負けを認めると大剣から手を放す"ドサッ"と言う音と共に大剣が地面に落ちる。
辺りは静まり返ったままだった……
「うぉぉぉぉぉ!!!」
周りから大歓声が起きる
呆然として立ち尽くしているラッセルに爺が話しかける
「済まなんだな……」
「お主の渾身の一撃を受けてやれんかった」
「この鈍ら剣では無理じゃったからの」
「途中で止めさせてもろうた……」
そう言うと爺は懐から二本の石の棒取り出す……光の剣だ……
爺は光の剣を持つと"ブォン"と言う音と共に光の刃が伸びると輝きを増す
そのまま、歩き続けると爺は放置されている大きな銑鉄の塊の前に立つ、爺が光の剣を振り下ろすと大きな銑鉄の塊は真っ二つに斬れる。
「…………」
周りは声を出す事すらできない
爺はラッセルの方に歩いていくと僅かに微笑んだ
ラッセルは何も言わずに剣を捧げると跪く、周りの者達はただ傍観しているだけだった。
爺はラッセルの捧げる剣に自らの光の剣を軽く当てる
これは正式な"騎士の誓"である。
ラッセルが"爺を師と仰ぐ証"である。
静まり返った周囲から拍手が沸き起こる。
爺は何も言わずにその場を立ち去ろうとした時にルメラがその前に立ちはだかる
「なんじゃ……」
爺は父親の敵討ちかと思いきや
「その剣、一つ俺にくれっ!」
ルメラは爺に両手を差し出す
「へっ?」
ルメラの意外な一言に爺は固まってしまう
「ダメじゃダメじゃ」
「これはやれん」
「それに、さっき魔剣をくれてやったじゃろうが」
爺が焦って光の剣を懐にしまう
「いいじゃねーか、二本あるんだから」
「一つくれよ」
ルメラが食い下がると
「この剣は二本で一組じゃ」
「バラ売りのできん」
「それにルメラには、この剣は使いこなせん」
そう言うと爺は速足で立ち去ろうとするとルメラは追いかけてくる
爺は走り出すとルメラも走り出しその場から姿を消した。
皆、突然の出来事に声も出ずに呆然としていると、何処からともなく笑い声が聞こえてくるとアッという間に大爆笑になってしまった。
「我が娘ながら本当に……」
ラッセルも笑いが止まらない、この日の出来事は後にラッセルに心に大きな変化を与える事となる。
これは本来は感動的な出来事として語り継がれるであろう事であったが、爺とルメラと言うシラクニア最強のお笑いコンビが全てを台無しにするのであった。
当然、ユーリアもアイラもエルナも開いた口が塞がらないのであった。
爺がシラクニアに来て九週目が過ぎようとしていた、嵐の季節も終わりを迎えようとしている頃であった。
第六十五話 ~ シラクニア長期出張 ➈ ~ 終わり




