第六十三話 ~ シラクニア長期出張 ➆ ~
第六十三話 ~ シラクニア長期出張 ➆ ~ 序章
マノンがシラクニアで巣籠生活を続けている頃、ガリア王国ではシルビィとイベリア王国の第三王子との"交わりの儀"は着々と進められていた。
イベリア王国の第三王子"アーロン・カデーナ"は人格・容姿ともにイベリア王国の国民からも良しとされる好人物でシルビィに相応しい人物であり良縁である。
ガリア国王のレオナールとイベリア国王のテオドロ・カデーナ三世も互いに良い縁だと考えているので当人の意思などは無視したままに交渉はトントン拍子に進んでいった。
シルビィに心に決めた人がいるように、アーロンにも幼少の頃より心に決めた人がいるのであった。
外から見れば、双方の国にとっても国民目線からもこの上ない良縁であるが当人からすればそうではなかった。
アーロンの思い人は7歳年上の25歳の侍女で幼い頃に病弱であったアーロンを優しく見守り支えてくれた人物でありアーロンが恋心を持つのは当然であった。
シルビィとの"交わりの儀"の話かあった際も一番喜んでくれたのも彼女であった。
彼女の名前はカロリーナ・コンテスティ、イベリア王国の下級貴族の娘であった。
美人でもなければずば抜けた才があるわけでもないごく普通の女性であるがアーロンにとってはこの世で最も美しい女なのである。
元から身分違いの恋、報われる事など決してないと判っていてもアーロンの心は全く揺らぐ事は無かった。
アーロンは意を決して自らの思いをカロリーナに伝えるが彼女はこれを拒否する。
しかし、彼女の目からは止めどなく涙が溢れ止まる事は無かった。
カロリーナの涙の意味を悟ったアーロンは何も言わずその場を去り、シルビィとの"交わりの儀"に臨むのであった。
シルビィもまた、これも王女として生を受けた者の定めと自らを説得させるのであった。
この、望まれぬ"交わりの儀"はガリア王国とイベリア王国を挙げての大祭となるのてあるが……。
第六十三話 ~ シラクニア長期出張 ➆ ~
マノンがシラクニアに来て8週間になろうとしていた。
1週間にわたる爺の集中治療の甲斐があってユーリアの腰の容体はかなり改善されている。
ルメラ達とも親しくなり一緒に私の部屋でお茶をしたり、風呂に入ったりしている。
ユーリアは、アイラとエルナにとっては師匠であり上司でもあるので初めは少し緊張していたがユーリアは2人に言った
「ここでは私は副団長でなければ騎士でもない」
「普通の女性よ」
爺の受け売りそのままであるが2人にとっては良かったらしく今では普通に話し笑っている。
ただ、爺の行う腰椎矯正の施術はルメラたち3人にとっては刺激が強すぎたらしくユーリアの喘ぎ声と悶絶する姿を初めて見た時には3人とも顔を真っ赤にして部屋の外へスゴスゴと退散していった。
しかし、幸運なことにルメラ達の口から若い女性の喘ぎ声の真相が伝わり"大賢者、超絶倫説"は忘れ去られていくのであった。
相変わらず爺への試合の申し込みは後を絶たず、爺は毎日のように試合をしている。
試合後の爺は対戦相手の剣の技術的な問題点や弱点、それと同時に身体的な弱点や故障個所も具体的にアドバイスしてくれるため騎士たちの間ではかなり評判となり、中には弟子にして欲しいという者も現れるほどである。
今日の試合が終わった後に腰痛や肩こりなどの身体疲労に効能のある薬草と鉱薬を使った薬湯を試すつもりですいる。
(鉱薬とは、この世界では薬効のある鉱物を指す)
私は風呂に行くと試作した薬を湯に入れ薬湯にする。
若干、硫黄の匂いがするが肩こり・腰痛・筋肉痛・打ち身捻挫・擦り傷・等々の効能がある。
私がこの薬湯を考えた理由は多くの者と試合をしていて意外と肩こり。腰痛・筋肉痛・等々に悩まされている騎士が多かったからである。
当然、日々の鍛錬や訓練試合などで打ち身捻挫・擦り傷は日常的なものである。
私は服を脱ぐと風呂の湯に浸かる。
「はぁ~」
いつものようにこの言葉が自然と出て来る。
この薬湯は魔法工房の温泉の湯を参考にしている。
硫黄の量はかなり減らした分を薬草で補っている。
硫黄の量はかなり減らしたには理由があり、一つはこの地では手に入りにくい事、もう一つはその強烈な臭いである。
この2つの理由から硫黄の量はかなり減らしているのである。
「う~ん、いい具合だ」
私が満足そうに湯に浸かっているとドアの開く音がする
「アスラク殿ですか」
私が湯煙の向こうの人影に問いかける
「いえ、ユーリアにございます」
「お入りになっているのは大賢者様ですか」
ユーリアの問いかけに
「そうだよ、新しい薬湯を試しているんだよ」
「少し癖のある薬湯だけど腰痛や肩こり、筋肉痛には効能があるはずなんだ」
私がユーリアにそう言うと
「それは、丁度いい」
「私もご一緒してよろしいでしょうか」
ユーリアの問いかけに
「ああ、いいよ」
私が快く返事をするとユーリアはゆっくりと服を脱いでる
「腰の調子はどうかな」
私はユーリアにの問いかける
「お蔭様で、随分と良くなりました」
ユーリアはそう言いながらこちら近付いてくる。
長身で細身だが出るところは出て、引っ込めるところは引っ込んでいる。
元女子の私から見ても羨ましいほどの素晴らしい体である。
何処を隠すわけでもなく私の前に来ると手桶でかけ湯をしてから浴槽に入る。
私の向かい側に来ると気持ちよさそうにしている。
「風呂の作法にも随分と慣れているようだね」
私がユーリアに問いかけると
「ルメラ様達に習いましたから」
「風呂は本当に良いモノですね」
「鍛錬をした後の汗を流すのには最高です」
「今日も少し剣の……あっ!……それは……」
ユーリアは慌てて途中で言うのをやめると私から視線を逸らすと俯き私の方をチラ見する。
ユーリアがこんな態度を取るには理由がある。
"暫くは剣を振るわぬこと"という私の助言の事を思い出したのである。
「その、申し訳ございません」
「言付を破ってしまいました」
ユーリアはお湯に顔を付けるほどに頭を下げた
「少しぐらいなら、いいよ」
「無茶なことはしちゃだめだよ」
私が少し笑ったように言う
「はいっ! 肝に銘じます」
そう言うとユーリアは何か言いたそうに私の方を見る
「どうしたの」
私が問いかけると
「その、大賢者様が以前申しておりました」
「私に合った武具の事なのですが」
ユーリアは期待に満ち眼差しを私に向ける
"あっ……"
私は完全に忘れ去っていた……その時爺の声が聞こえてくる
"安心せい、ちゃんと考えておる"
爺は自信ありげな口調に私はユーリアな安心して答える
「大丈夫だよ、考えてあるから」
「出来上がったら言うから」
私の自信ありげな言葉にユーリアも安心したようだ
「……あの……大賢者様……」
ユーリアは私の方を見ると少し表情を暗くする
「マノンでいいよ」
「どうも"大賢者様"ってのは性に合わないから」
私は少し照れたように言う
「そっそれでは……まっマノン」
「マノンは嵐が収まればガリアにお帰りになられるのでしょうか」
ユーリアは少し悲しそうな表情で私の方を見る
「そうだね、王立アカデミ-に戻らないといけないし」
「同郷の友人やアカデミ-の友人も待っていてくれているだろうしね」
(マノンはレナの事はあえて話さなかった)
私は天井を見上げて言う
「……そう……ですか……」
ユーリアは何か考え込んでいる
私はそんなユーリアを黙って見ている
「あのっ……だっ……マノン」
「私と……」
ユーリアが何かを言いかけた時にガチャっと風呂のドアが開く音がする
「マノンそこにいるのか」
ルメラの声がする
風呂場に入ってくるとユーリアもいる
「なんだ、ユーリアも一緒かよ」
「それになんか、変な匂いがするな」
「薬湯の種類を変えたのか」
「何か知らないけど俺も入っていいか」
そう言うとルメラは鼻をクンクンとしながら自分も服を脱ぎだす
「ああ、いいよ」
私はルメラに返事をする
「アイラとエルナはどうしたの」
ルメラに二人の事を聞く
「あいつら後から来るってさ」
服を脱ぎながらルメラが答える
私はユーリアの方に視線をやると
「さっきは何か言いかけていたようだけど……」
ユーリアに問いかける
「なっ、何でもありません」
そう言うとユーリアは顔を赤くして黙り込んでしまった
「何なんだ二人とも」
ルメラは風呂に入ると私の隣に来ると、何やら疑惑の目で私とユーリアに交互に視線を向ける
「なんか怪しいな……」
「二人でなんか俺に隠してねーか」
ルメラはユーリアの真っ赤な顔を見て目を細めると
「マノン……ユーリアになんかエッチな事したのか」
「ユーリアは男受けする、いい体してるしな」
そう言とルメラはユーリアの胸に視線を向ける
「そんな事してませんっ!」
ユーリアは胸を手で隠すと慌てたように言う
「それに、マノンはそんな方ではありませんっ!」
ユーリアの必死さにルメラは益々、懐疑の眼差しを強くする
「あのさ~マノンって女に興味ないのか」
いきなり、ルメラがポツリと言った
「ユーリアって男共にかなりモテるんだぞっ」
「そんなユーリアと二人だけで一緒に裸で風呂入って変な気の一つも起こさないなんいて……」
「もっ、もしかして……男の方に興味があるとか」
ルメラが私を変態のような目で見る
「この前も俺とアイラとエルナの3人で風呂入ったと間も平然としてたし」
「普通の男なら自然と胸や尻に目が行くもんだが、マノンは全くない」
「いくら何でも男としてどうかなと思ったりするんだよな」
ルメラがそう言うとユーリアまで私を疑いの眼差しを向ける
「……」
私もユーリアもルメラも黙ったまま沈黙の時間が流れる
"気まずい"
3人とも同じ事を考えているとガチャと風呂のドアが開く
「ここに居られましたか」
アイラの声が聞こえてくる
「マノン様とユーリア様もご一緒でしたか」
エルナの声も聞こえてくる
「私達もご一緒していいでしょうか」
"はぁ~なんか助かったような気かする"
と3人は同じ事を考えているのであった。
その後、4人の裸の女子のオッパイがどうのだのお尻がどうだのアノ日がどうだのと、際どい話を聞き流しながら、一人寂しく風呂の片隅で爺と念話をしている私であった。
女の体を知り尽くした、元女子の私にとっては何と言う事のない女の秘め事なのだが……
自分が元は女子で止もうえない事情があって"大賢者の秘術"で男になりましたなどと言えるはずも無いのである。
男の体に女の心?……マノンは実に複雑な状態にある。
実のところは、女にも男にも特別な性的感情を持たないマノンは大賢者としては理想ともいえる状態にある。
しかし、爺はその事を危惧しているのだった。
第六十三話 ~ シラクニア長期出張 ➆ ~ 終わり




