第六話 ~ 平穏と動乱の始まり ~
第六話 ~ 平穏と動乱の始まり ~
~ 序章 ~
爺は魔法工房に転移するとすぐさま実験室に行く、実験室の片隅にある石の椅子に座ると目を閉じると息を整える
石の椅子の肘掛けに幾何学模様が現れ薄暗いオレンジ色に光り始める
"お前さん、聞こえるか"
爺は私に話しかけるが返事がない
"……困ったな……完全に意識が肉体を離れている"
"このままでは戻れなくなってしまう……なんとかせねば……"
"引き戻すには……何か執着したものや固執したこと……"
爺は焦る気持ちを抑えつつ考える
"んっ! あるぞっ! "
爺はニヤリと笑うと
"おいっ! お前さん、実はな"秘薬・巨乳の素"というのがあってなそれを飲めばどんな真っ平な乳でも一晩で巨乳なるぞっ!!"
爺が心の中で叫ぶ
"それっ! ほんとっ!!!"
爺の声に私は即座に反応する
"おおっ! 戻ったか……早かったのっ"
あまりの効果に爺も動揺している
「よかった、無事に帰ってこられたようじゃな」
爺が安心していると
「その"秘薬・巨乳の素"っの本当なんでしょうねっ!」
私には"秘薬・巨乳の素"の事しか頭にない
「お願いっ! 私に作ってっ!!」
私は必死で爺に懇願する
"……どうしよう……嘘だなんて言えんな……"
爺は苦悩するが
「すまぬ……あれは……お前さんの意識を戻すための……」
「真っ赤な嘘じゃ……」
爺は素直に事実を話した
「はへぇ~」
私の意識は無事に戻ったが今度は魂が抜けるのであった
しばらくの間、私は抜け殻となり爺を困らせるのであった。
~ 平穏と動乱の始まり ~
あの騒ぎから数日後の王都ガリアンの巷では"大賢者"降臨の噂で持ち切りだった。
関係者に口外せぬよう厳しい緘口令が敷かれたが広場での出来事を目撃した一般市民も数人いたために噂はあっという間に王都中に広まった
この手の噂話に大きな"尾鰭おひれ"が付くのはよくある事で……今回の"大賢者"騒動も例外ではなかった。
王都ガリアンの中心にあるガリヤ宮殿の中の一室でガリア国王のレオナール・ド・ガリア、王都騎士団長のラザール・バルゲリー、最高司祭クロード・ベクロンの三人が円卓を囲んで会議をしている。
議題は勿論、"大賢者"騒動のことである。
「困った事になったな……」
ガリア国王のレオナール・ド・ガリアが溜息混じりに言う
「申し訳ございません、我らの力不足にございます」
「今回の失態は全てこの私めの不徳によるものです」
「どのような処罰もうける覚悟はできております」
王都騎士団長のラザール・バルゲリーが国王の様子を伺いながら言う
「気にするでない」
「すまぬ……ラザールよ帥に責は無い、余の認識が甘かっただけじゃ」
「真偽も確かめず、事もあろうに"大賢者"を捕えよなどと……」
「初代王クリストフの命に背き愚かな命を下した余が愚かなのだ」
レオナールが自らを戒めるかのように言うと最高司祭クロードの方に目をやると
「"大賢者"は既にこの王都にはおらぬのだな」
念を押すかのように言う
「はい、伝承通りであれば祭壇の下の隠し扉が消えた時点で"大賢者様"はこの王都よりお帰りになられているはずです」
クロードが国王のレオナールの方を見ながら言うと一息つき
「今回の広場における騒動の件は一般の者も目撃しており、隠蔽は不可能と存じます」
「まのまま、放置すれば後々に何かと良くないかと……」
「この際は、事の詳細とまでは言いませんが市民が納得できる形での公の発表は必要かと……」
クロードはレオナールとラザールの二人の表情に目をやりながら言う
「……」
二人は黙ったまま首をコクコクと縦に小さく振る
「では、早急に手筈を整えることと致します」
クロードがそう言うと3人は席を立ち部屋を出る
「それはそうと、シルビィ様のご様子が最近、少し変ですな」
ラザールが心配そうにレオナールに問いかける
「ん……ん……」
レオナールは言葉を濁す
「もしやっ! 何やら怪しい術をかけられておるのではありませんなっ!!」
「広場でのあの得体の知れぬ術といい、そうであるならば許るせませぬっ!!」
ラザールが顔を赤くし怒りのこもったような声で言う
「ラザールよ、確かにある意味ではそうかも知れんがな……」
「アレはな……要するに"一目惚れ"と言うやつじゃ」
怒り心頭のラザールを見てクロードが笑いながら言う
「なっ! ……なんとシルビィ様が一目惚れですとっ!!!」
真っ赤だったラザールの顔が今度は真っ青になっていく
シルビィが幼少の頃より傍に仕えていたラザールにとっては娘も同然なので、自分の娘にいい男が出来たようなものである
「ラザールよ……要らぬ心配をかけて……すまぬ……」
口を開けて呆然とするラザールにレオナールは下を向きバツが悪そうに言った
それから数日後に騒ぎのあった王都の広場に今回の"大賢者"騒動の事の顛末が記された高札が建てられたがその内容は極めて都合の良いものに置き換えられ改竄されていたことは言うまでもなかった。
当然、王都の一般市民も高札に記されている内容がそのまま真実ではない事を理解しており、同時にこれ以上はこの件について余計な詮索はするなという警告である事も理解していた。
かくして、"大賢者"騒動は終わったかのようにみえたが実はそうではなく本当の意味での"大賢者"騒動の始まりであった。
これより二週間後に"大賢者降臨"の報は王都ガリアンを遠く離れたゲルマニア帝国の皇帝マキシミリアン・フォン・ゲルマの知るところとなるのである。
その頃、同じガリヤ宮殿の一室では王女シルビィが立派な彫刻が施された椅子に座り窓から騒動のあった広場の鐘楼を眺めていた。
ふと溜息を吐くと目線をテーブルに移す、これもまた立派な彫刻が施されている。
テーブルの上には綺麗に折り畳まれた純白の布が置かれている。
"私はどうしてしまったのだろうか……名も知らぬ、あの方の事が忘れられない"
"この世に生を受けて18年近くになるがこんな事は初めて……"
王の一人娘で唯一の王国の後継者であるシルビィにとってはこのような恋愛感情などとは無縁であった。
何故なら王侯貴族は政略での交わり(子作りを意味する)が常識でそこに恋愛感情などは存在しない、シルビィ自身も自分も時が来ればそうなるのだと思っていたからである。
しかし、大賢者に出会ってしまった事でシルビィも一人の女性として恋愛感情に目覚めてしまった、爺の弟子の子孫が師の後継者であるマノンに一目惚れしてしまうのも因果なものであるが……ただ……マノンはシルビィよりも"年下の女の子なのであるのだが……"
(結婚と言う概念がないこの世界にあっては男女の交わりは子供を作る事であり子孫を残すための必要不可欠な行為であって子供をもうけた者同士が必ずしも共に暮らす必要はないのである、特に王侯貴族などは親兄弟と共に暮らす事などは極稀で子供の育児・教育は全てお付きの者がするのが常識である、当然、シルビィもそのように育てられてきた)
(この世界では、子供を作る事を約束する"交わりの儀"と言うものが存在し男女がお互いに子供を作りたいと感じた者同士により交わされ一般庶民は両親の同意を必要としないが一人っ子である場合は親権の問題から親同士が自分の子供の相手を決める場合もある)
(ただ王侯貴族は例外で両親に相手を決められるのが普通であり当人の意思は全く考慮されない)
(この世界で言う"交わりの儀"とは子作りをするにあたり条件を定めること言う、子供が出来た際に男の子ならば母方、女の子ならば父方というふうに親権を決めて置いたり、新しく分家独立するのか実家に帰省しするならばどちらが子供を引き取るかなど細かい事が双方でも定められる、これにより両家のトラブルを防いでいるのである。)
(家族という概念はあり、一般庶民は王侯貴族などとは違い子供をもうけた者同士が独立した場合は子供と共に同じ家で共に暮らすことが多い、それは子供を育てるための生活形態の一つであり、我々の感覚で言えば小鳥などの動物が巣をつくり雄と雌がヒナを育てることに近い)
(また近親間での交配が可能であるが慣例として親兄弟での交わりは"禁忌"とされている。)
多夫多妻も可能であり複数の夫や妻を持つことも当たり前の世界である、殊に王侯貴族では家系維持の為に常識である、一般庶民においても同じであるが経済的な事や諸々の事情から一夫一妻の形態をとる事が多い)
何にせよ、シルビィにとって"大賢者"は大きな存在となってしまった事は確かであった。
また、今回の騒動で"大賢者"は実在し伝承通りの力を持つ事も証明される事となってしまったのである。
王都ガリアンでの騒動から二週間が過ぎ、村にも"大賢者"騒動の噂は伝わってきているのであったが遠く離れた王都での出来事であり、さして話題になる事はなくすぐに忘れ去られた。
そんな事とはお構いなく当の"大賢者"と私はブドウの収穫で忙しいのであった。
ガリア国王の学校は九月の中からほぼ一か月半の収穫祭休日がある、農業国でもあるガリア国王は短い秋に多くの実りを得る事になる。
機械化の全く進んでいないこの世界では子供も立派な労働力としてその作業に駆り出されるのでその期間は休みとなるのである。
マノンの実家はワイン農家であるために傷みやすいブドウの実を短期間で収穫し更にワイン樽に仕込まなくてはならないので一年で最も忙しい地獄の一週間が始まるのである。
当然、マノン達だけでは人手不足なので村人たちの手を借りることなる、ブドウの収穫やワインの仕込み準備はこの国では伝統的に女性たちの仕事である。
村の各世帯から年齢を問わず一人ずつ女性が必ず集まってくる、村全体で60世帯ほどなので60人ほどが必ず集まる事になる。
それには訳がある、気前の良い父は手伝いの対価として全員に壺一本分の新酒を無料で配るのである。
皆それが目当て、ガリア国王ではワインは食生活には欠かせないものでいくらあっても困らない。
私がブドウ畑の前でいると私を呼ぶ声がする。
「マ~ノ~ン」
声の方を見ると二人連れの女性がこちらに歩いてくる、一つ年上のクロエ・ベルジュとエミリー・パシェだった。
クロエは私より一つ上の16歳で村の鍛冶屋の娘だ二つ上の兄のジョエルがいて今は私の兄と一緒に兵役に出ている、黒髪のショートヘアで背丈は165センチほど褐色の肌のガッチリとした体格の子だ。
村の農具なんかを作ってる、ワイン蔵の大樽の金具もクロエの父親のガストン・ベルジュが作った物だ。
エミリーはクロエと同じ16歳で村の大工の娘で3つ下の妹がいる私の妹イネスと同じ年である、ブラウンの短めロングヘアに背丈は170センチほど白い肌でやや細身の子だ。
父親は大工だが木工細工も得意で扉や窓、椅子や机なども作っている私とイネスの部屋の机と椅子はエミリーの父親のゴーシェ・パシェが作った物である。
二人ともどこにでもいる普通女子だ。
私は一つ年下だが3人とも活発で野山を駆け巡っているような野生児だったので幼い頃からよく遊んでいて今でも仲が良い……そして、二人とも胸の無いのは私と同じであり、それが3人に奇妙な親近感を感じさせ友情を感じさせているのであった。
「マノン、相変わらずイケメンだね」
クロエが私を眺め回すように見て言う
「前よりイケメン度が増したんじゃないの」
「ホント女にしておくのがもったいないわ」
エミリーが言うとクロエが頷き
「マノン、女子にモテるからねウチの妹もマノンが男の子だったら良かったのに……って言ってたよ」
エミリーがそう言うと二人は不意に私の頬にキスをした
「!!!……ちょっといきなり何すんのよっ!!!」
「私にそんな趣味は無いからねっ!!!」
少し焦ったように言うと二人は笑っている。
私は3人の中で体は一番大きいのだが年齢は一つ年下と言う事もあり、こういう扱いをされる事もよくあるのだが別に嫌な気分には全くならない。
そうしているとブドウ畑に徐々に村の女達が手伝いに集まってきている、見慣れた顔も幾つかある。
「マノンっ!」
少し離れた所から私を呼ぶ声がする……この声はレナだ、声の方を見るとレナがこちらに小走りにやってくる。
大きな胸がユッサユッサと揺れているのがこの距離からでもわかる。
「……」
豪快に揺れるレナの胸を見て私とクロエそしてエミリーは無言になる
エミリーはこちらに走ってくるレナの揺れる胸に眉をひそめながら
「またデカくなったんじゃないの……あれ……」
「いったいどうしたらあんなにデカくなるんだるうね」
「ウチら3人の足してもレナちゃんの片方も無いだろうね……」
嫉妬と虚しさに滲む口調で呟く……私とクロエは大きな溜息をついた
レナが私達3人のすぐ傍までくると
「どうしたの3人とも目が死んでるわよ……具合でも悪いの」
心配そうに言うレナに私は
「そんな事はないよ……レナも手伝いに来てくれたんだ、ありがとう」
心配させないように言う……理由はレナに言えるはずもない
「そうよ、新酒が欲しいからね」
そう言うとレナはにっこり微笑みクロエとエミリーにも挨拶をする
しばらくの間、4人で雑談をしていると私の父が馬車の荷台に立ち手伝いに集まってくれた村人に挨拶を始める
「皆さん、お忙しい中に手伝いに集まっていただきありがとうございます」
「今年は天候にも恵まれブドウの出来は良好です、新酒が出来ましたらお配りしますので是非ご堪能下さい」
父がそう言うと皆が拍手をする……かくしてブドウの収穫が始まる
籐で編んだ籠を肩から吊るし手には鋏を持ってブドウの実を収穫していく籠がいっぱいになると馬車の荷台へ持って行く、馬車の荷台がいっぱいになるとワイン蔵の前まで馬車で運び蔵の前に置かれた大きな桶に収穫したブドウの実を入れそれを素足で踏み潰してブドウ汁を絞り蔵の大樽に詰めて行く。
畑のブドウの実が無くなるまでこれを繰り返すのだ、役割は上手く分担されており私やクロエのような体力のありそうな者は重量物の運搬を、レナのような若くて綺麗な子は大きな桶の中に入ってブドウの実を素足で踏み潰している、その他の人はブドウの収穫を行っている
若くて綺麗な子が素足でブドウの実を踏み潰す……こんな所にも差別と格差は存在するのであるが、自分が飲むのなら私も中年オヤジの素足で踏み潰されたワインよりもレナのような若くて綺麗な女子が素足で踏み潰したワインの方が良いと思うのでその理屈は理解できている……。
天候にも恵まれたこともあり収穫は四日ほどで終わってしまった。
収穫が終わり部屋でのんびりとしていた私に爺が久しぶりに話しかけてくる。
「ブドウの収穫も終わったことじゃしボチボチ"禁忌の書"を探しに行ってはもらえんじゃろかのう」
「"禁忌の書"はゲルマニア帝国にあるようじゃから、それなりの準備も必要じゃしの」
「お前さんもなんやかんやで疲れておるじゃろうから、来週ぐらいでもいいからの……」
爺が"禁忌の書"の探索の話をする
「分かってるよ、"禁忌の書"は約束通りに探すよ」
「ここ暫く、連絡が無かったけどどうしたの」
私は爺に問いかける
「儂も色々とあったからの休息しておっただけじゃよ」
「来週までもう一休みするからの」
そう言うと爺は何も言わなくなった、魔術のナビゲートやらで爺も疲れているのだろうと思い私も何も話しかけなかった……
「お姉ーちゃんっ!」
下からイネスが私を呼ぶ声がするので部屋を出て階段を下りる
「あっお姉ちゃん、悪いんだけどパン買ってきてくれない」
「パン切らしてたの忘れちゃってて……夕食の分だけでいいから」
イネスがそう言うとお金とパン籠を私に手渡す
「もう、夕方だよ……残ってないかもしれないけど行ってみるよ」
私はそう言うとお金をパケットにしまい込みパン籠を持って急いでレナの店に向かった
息を切らしながらレナの家の前に来ると"営業終了"掛札がかかっていたが、一応呼び鈴を鳴らしてみるとレナが出てくる
「あらっ! マノンどうしたの」
レナは少し驚いたようだった
「こんな時間にゴメン……実は夕食のパンかい忘れてて、まだあるかな」
私が言うとレナは少し笑みを浮かべる
「確か……バケットが二本残ってたはずよ」
「持ってくるから店に入って待っててね」
そう言うと私を店の中に入れてくれた
「マノン、随分急いで来たみたいだから少しゆっくりしていってね」
「お茶とクッキー持ってくるわね」
そう言うとレナは店の奥に入っていった、私は一人で店の中の椅子に座り辺りを見回しているレナの両親は居ないのかな……と考えていると
「お待たせ……」
そう言ってレナがお茶とクッキーを載せたトレイとバケットを二本持ってくる
「今日はお父さんとお母さんは用事で帰りが遅いのよ」
そう言うとお茶の入ったカップとクッキーの入った木皿を店の中のテーブルの上に並べた
「どうぞ」
レナが言うのでお茶を頂く……ハーブティーだ、そういやレナはハーブティーが好きだったな……そんな事を考えながらクッキーをかじる
「このクッキー、美味しいね」
「レナが作ったの」
私がクッキーをかじりながら言うと
「そうよ、お気に召してくれたようで嬉しいわ」
私をじっと見つめ微笑むと自分もクッキーを手に取るとかじりながら
「何か足りないような気がするのよね」
そう言いながらハーブティーを口にする
「そう? 美味しいよハーブティーにもあってるし」
「レナはいい母親になれると思うよ」
私がそう言うとレナは何か言いたげに私を見る
「どうしたの……」
レナの何か言いたげな表情に私は違和感を感じとる
「……べつに大したことじゃないわ」
そう言うとレナは少し悲しそうな笑みを浮かべた……少しの沈黙の時間が流れる
カーンカーンカーンっと教会の鐘の音が聞こえてくる
「あっ! そろそろ帰らないと……」
そう言うと私はカップに残ていたハーブティーを一気に飲み干す
「ありがとう、ハーブティーとクッキー美味しかったよ」
私はレナにお礼を言うと店を後にした
家への帰り道、私はレナの何か言いたげな表情と悲しそうな笑みが気になって仕方がなかった。
"時期を見てレナに聞いてみよう"私はそう考えるのであった。
その頃、ゲルマニア帝国の首都ヴァーレのゲルマ城内の宮殿の王座の間で皇帝マキシミリアンは部下からの報告を受けていた。
「陛下っ! ガリア王国ヘベレスト要塞陥落、ガリア王国防衛隊を撃破、全軍王都ガリアンへ侵攻を開始」
「属国シラクニヤ軍は計画通りに進軍を開始」
伝令の声が広い王座の間に響き渡る……
17年ぶりのゲルマニア帝国のガリア王国侵攻の始まりである、その規模は兵員総数8万人と従来の侵攻の2倍強と前例のない大規模な侵攻であった。
ゲルマニヤ軍の侵攻開始半日でヘベレスト要塞守備隊1500人は全滅、周辺防衛隊も壊滅的な被害を被りゲルマニア軍はその後1週間ほどでガリア平原を東西を横切るように流れる大河であるロール川河畔に到達し川を挟んで対峙することになる。
ここを突破されれば王都ガリアンまでは2~3日の距離であり事実上の王都ガリアンの最終防衛線である。
ガリア国王は1週間余りの戦いで領土の3分の1を失い3000人以上の戦死者と多数の負傷者を出す事になる。
この頃には既にマノンの兄のエリクやクロエの兄のジョエルが戦死している事をマノン達は知る由も無かった。
マノン達の住むマノワール村にゲルマニヤ軍侵攻と開戦そして兄エリクの戦死が伝えられるのはゲルマニア帝国のガリア王国侵攻から10日後の事である。
第六話 ~ 平穏と動乱の始まり ~ 終わり