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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第五十六話 ~ シラクニア出張 ⑪ ~

第五十六話 ~ シラクニア出張 ⑪ ~ 序章



 古来より"案ずるより産むが易し"と言う諺がある。

 世界は違ってもこの諺は当てはまるようである。


 私の始めた無謀ともいえるシラクニア国民総動員の"ストーブ量産計画"は恐ろしいほどに順調に進んだ。


 シラクニアはゲルマニア帝国との戦争に備え国の命運をかけて国民総動員で武器や武具の生産に乗り出した経験がある。

 つまり、初めから動員体制が確立されており、人々も鉄の扱いにも慣れていたのである。


 そこに、原材料となる銑鉄が大量に保管されていた事もあり、既に量産体制は整っていたのである。

(ゲルマニア軍は保管されていた武器や武具の多くを持ち去ったが銑鉄は持ち去らなかった)

 このようないくつもの幸運が重なった事もあり、瞬く間にストーブは量産される事となった。


 まず、乳幼児や妊婦、病人や老人のいる世帯から設置が始まる事になる、このような国民全員が一つの家族的な国の体質はシラクニアの良い所である。


 ルメラ曰く、"冬の間はな皆、暇なんだよ"そう言って笑っていたのが印象的で記憶に残っている。


 実質的な業務はルメラとアスラクが取り仕切ってくれていたので私は思ったほども忙しくなかった。

 そんなこんなで余った時間を有用に使い……夢のマイ・バスルームが完成させていた。


 広さ四畳半、この空間に私の待ち望んだ夢と希望がある。

 ストーブを改良して造ったボイラー、石灰石を焼いて作った古代コンクリートで凝灰岩の壁や床を塗り固め石を組んで浴槽を作った。

 実に見事な洞窟風呂になっているのであった。


 小さな天窓から降り注ぐ曇天の弱い光さえに天から射す後神のように見え、私の目にはこの四畳半のバスルームが神殿のようにさえ見えるのであった。


 完成した夢のマイ・バスルームに涙を流しながら歓喜に心を震わせる私であった。

 これでやっと、風呂にはいれる……。


 既に、シラクニアに来て6週間近くが過ぎようとしていた。






 第五十六話 ~ シラクニア出張 ⑪ ~ 




早速、お湯を沸かしてお風呂に入る準備を始める。

水は外の雪をそのまま浴槽に入れる、ボイラに火を入れると四畳半のバスルームはすぐに温まり雪が解けて水になる。


 しかし、そこから冷たい水が熱いお湯になるまで二時間近くかかる……

 その間は、ずっと我慢の子である。


 お湯が沸いてくると薬草の入った袋を浴槽に放り込む、バスルームに薬草の香りが立ち込める。

 ボイラーの火を小さくして保温状態に調整にしたする。


「あ~、遂にこの時が……」

私は余りの嬉しさに感極まり頬を歓喜の涙が流れ落ちる


 「いざっ!」

私は気合を入れると、そそくさと服を脱ぎ浴槽へと身を投じた

 「ふはぁ~」

 「極楽極楽……」

自然に声が出る、余りの気持ちよさに昇天しそうになる。

 「やっぱり、風呂は良いね~」

思わず何処かのアニメキャラクターの言葉をそのまま口にしてしまう……。


"たしかあそこって版権とかにうるさいとか噂で聞いたな~"


 などとぼんやりと考えていると

"ガチャ…ギィィィ…… " 

 出入り口のドアの開く音がする。


 このシチュエーションは、まさか……ルメラなのか……

 と思いきや以外にもアスラクだった。


 私は、ホッとしたが何故か悲しかった……

 アスラクが裸でなかったことが唯一の救いだった。


 「大賢者殿……ここにおられましたか」

 「しかし……これはいったい……」

 何か私に用があってここまで来たようだったがバスルームと言うモノを初めて見て驚いているのがアスラクの言動から分かる


 「アスラク殿これは風呂と言うモノだよ」

 爺が私と入れ替わるり答える。

 この前のるルメラの私室での一件からアスラクと二人っきりで話すときは入れ替わると決めてあったのである。


 「……これが……」

アスラクは風呂というモノが存在することは知っているようだが実物を見るのは初めての様子だった


 「で、アスラク殿ここまでわざわざ来られたご用件を伺いましょうか」

爺がニヤリと笑う


 「どうやら……大体の事はお見通しのようですな」

アスラクもニヤリと笑い答えると表情が真剣なものとなる

 「単刀直入に申します」

 「ルメラ様と"交わり"この地に腰を据えて頂きたい」

アスラクの言葉に爺は全く動じる気配は無かったが私はそうはいかない


 "じっ爺っ!これどういうことなのよっ!"

無茶苦茶に焦って爺に問いただす

 "アスラクの言葉通りじゃよ"

 "お前さんとルメラが交わり、このままシラクニアで暮らして欲しいと言っているのじゃ"

爺は何事も無いような口調で私に言う


 "えっえーー"

 慌てふためき焦っている私を後目に爺は落ち着き払っている


 「アスラク殿、それはルメラの意思であるのか」

 「それともナッセル殿のご意向なのかな」

爺がアスラクに問いかける


 「ルメラ様は何も申してはおりません」

 「ナッセル様にも何も申してはおりません」

 「これは、わたくしめの一存にございまする」

アスラクは冷静に答える、その言葉に嘘は無い事をその目が語っている


 「アスラク殿、そなたの国を想う心に嘘偽りの無い事はわかる」

 「わしがこの地に腰を据え根を下し王族と交われば、この国にとって返って災いの種となるやもしれぬぞ」

 爺も冷静にアスラクに問い返す


 「そうはなりませぬ、我がシラクニアは最果ての極寒の地の小国」

 「他国に侵攻し大陸制覇など考えもしませんし、そのような国力もございません」

 「故に、災いの種にはなりませぬ」

 アスラクは力の籠った口調で答える


  どうやら……わしを利用して国益を謀る気はなさそうだと爺はアスラクの目を見て察する。


 すると、アスラクは急に穏やかな表情になる

 「貴方様がこの地に来られて、僅か6週間……」

 「僅か6週間で、どれ程にこの国が良くなったか貴方は気が付いてはおられませぬ」

 「そして、ルメラ様の気持ちにも……」

アスラクの口調は穏やかになっていく

 「失礼ながら、私は貴方様がここへ来られてより密かにその行いを監視してまいりました」

 「この場を借りて愚行を謝罪申し上げたい」

アスラクは深々と頭を下げる、すると爺は


 「構わぬよ、そなたは国の長老として当然の事をしただけ」

 「初めから監視が付いていたことは分かっておった」

 「ルメラがわしの部屋へ一人で来ることを妨げなんだのが良い証拠」

爺の言葉にアスラクが呆れたように微笑む


 「でしょうな……貴方には欲、邪なモノが全くない……」

 「貴方様を見ていて、つくづく自分と言う人間が嫌になりました」

 「貴方様のような方こそ政を司るに相応しい、そう考えての行いにございます」

そう言うとアスラクは私の方をジッと見る……その目に邪な濁りは無かった。


 「アスラク殿も風呂に入ってはいかがかな」

爺は黙り込んでいるアスラクを見て言う


 「……では、遠慮なく」

そう言うとアスラクは服を脱いでふろの湯に浸かった


 「あ゛っあ゛~~」

 「初めて、風呂と言うモノに入りました」

 「これは、なかなか……いいモノですな」

アスラクの声から爽快感が感じ取れる


 「この湯には肌荒れを癒す薬草が入っておる」

 「初めてこの国の者を診て分かったのは寒さと乾燥で肌を痛めておる者が多かった」

 「じつはわしも背中が痒くなっての」

そう言うと爺は笑った


 「そうですか……」

アスラクもそう言うと笑う

暫くするとアスラクは今まであった事を話し出した。


 先代の王に仕えてから今日に至るまでを事を話す、爺は何も言わずただアスラクの話に耳を傾けていた。


 アスラクが話し終えると

 「ナッセル殿はどうしておられるかな」

爺が問いかける


 「ナッセル様は……その……」

 「病で衰えた体を元に戻すと申されまして……」

 「政そっちのけで鍛錬に励んでおります」

 「全く困ったものです……」

アスラクはため息を吐くと困り果てたように言う


 「はっはっはっはっはっ」

爺は大声で笑うと

 「あの者らしいわっ!」

爺は嬉しそうに笑った


 「笑い事ではございません」

 「一国の王が政を怠り、筋トレ三昧では他の者に示しが付きませぬ」

大声で笑う爺にアスラクは不機嫌そうに言う

 「貴方様にこうしてお話ができて良かったと思います」

そう言うとアスラクは浴槽が立ち上がる。


 「もう、よいのかな」

爺の問いかけにアスラクはにっこりと笑う


 爺がタオルで体を拭くように勧めるとアスラクはその通りに体を拭き服を着る

 「今日は、年寄りの戯言に付き合って頂きありがとうございました」

 「風呂とは……じつに良いモノですな」

そう言うと風呂場を出て行った。


 その時のアスラクの表情はじつに穏やかなものであった。


 "これで分かってくれたかのう……"

 "知恵の回る奴じゃから無理な事はすまい"



……が、しかし、爺のこの予想はものの見事に外れる事となる。




   第五十六話 ~ シラクニア出張 ⑪ ~ 終わり


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