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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第五十二話 ~ シラクニア出張 ➆ ~ 

第五十二話 ~ シラクニア出張 ➆ ~ 序章



 治療試験の為に実験台がルメラの父親のナッセルである事を知らされ時、私よりも爺の方が動揺しているのが分かった。


 ナッセルは爺にとっては同じ騎士として、そして気の合う良き友であったからだ。

 その事は私にもよくわかる。


 「爺……」

私が爺に話しかけようとすると


 「あの者らしいわ」

 「自らが率先して薬の実験台になろうとは並みの王では絶対にすまい」

爺は感心したかのように言う

 「何としてでも、成功させねば」

爺の強い思いが私に伝わってくる


 「そうだね!」

私は爺に共感するもそれ以上にルメラの事が気になっていた


 「ルメラの事が心配なのか」

爺は私の考えている事が分かっているようだ


 「うん……」

 「ああ見えて、ルメラって意外と繊細なんだよ」

私が心配そうに言うと


 「……」

爺は無言だった


 私にはどうして爺が無言なのか、爺の心中を知ることは出来ない。

 だからと言って私には何もできない、私もそれ以上は何も言わなかった。


 



   第五十二話 ~ シラクニア出張 ➆ ~ 



 いよいよ、薬の治療試験が始まる事になる。

 私はナッセルの部屋に入るとベットに横たわったその姿は爺の涙を誘うぐらいに痩せ細り衰弱しきっていた。


 「大賢者殿……」

 「このような無様な姿をお見せするのは心苦しが私の最後の務め……」

 「最後までお見届け願いたい」

力無い小さな声で言う、私は何の躊躇いもなく爺と入れ替わる


 「分かり申した」

 「最後の最後まで見届けよう」

爺がそう言うとナッセルは微笑み何度も小さく頷いた

周りの者達のすすり泣く声が聞こえてくる。


 私の後ろにルメラは無表情で変わり果てた父の姿を呆然と見ていた。

 爺はそんなルメラの肩を抱く

 「決して死なせん」

 「大賢者として誓おう」

 爺はルメラの目をジッと見つめて言う


 無表情だったルメラの目からボロボロと大粒の涙があふれだす。

 「泣くではない」

 「わしはまだ死ぬと決まったわけではない」

ラッセルはルメラにそう言うと爺の方を見る


 「では、薬を投与する」

爺はそう言うと薬をラッセルの口に入れる

 「とてつもなく不味い薬ゆえ、早く呑み込んでいただきたい」

ラッセルはどうやら薬を飲んでくれたようだ

 「この薬には即効性はないと思われる」

 「朝と夕の二回に分けて服用いただきたい」

 「何か異変があれば、直ぐに知らせるよう」

そう言うとラッセルに異変がないかを注意深く観察している。


暫くしてから爺はラッセルの胸に手を当てる、お得意の触診だ

 「大丈夫だ……何も変わった事は無い」

爺の言葉に周りの者達から安堵のため息が漏れる、どうやらラッセルは眠っているようだった。


 夕方になり二度目の投薬を行う、心配されていた副反応は無い。


 次の日も、そして次の日も同じように投薬をつづけたがラッセルに何の変化も見られない日が続く。


 薬に効果がないのではと皆が疑いを持ち失望し始めているのが分かる。

 皆の期待と喜びがあまりにも大きかったために失望感も大きく、私と爺に向けられる皆の目の冷たさが日増しに大きくなっているのもわかる。


 しかし、そんな事など気にもせず私と爺は黙々と投薬をつづけた。

 ルメラだけは私と爺を信じてくれていた、これが私と爺の大きな心の支えとなっていた。

 そして、1週間後に奇跡は起きる。


 ラッセルの手足のしびれが無くなり自分で自由に動かせるようになったのである。

 「これは夢か」

本人が夢でも見ているのかと勘違いするほどであった。


 それからの回復は早かった、徐々に食欲が戻っていき顔色も良くなり10日後にはベッドから起き上がるほどに回復する。

投薬を始めて12日後には立って歩けるようになる。


 薬の驚くほどの効力が実証されると都市住民総出で冬の吹雪の中でのイエロー・ベリーの実の採取に取りかかる。

 集められたイエロー・ベリーの実は乾燥させられ砕かれ薬となり重症者から投薬が始められた。


 ラッセルと同じように初めは何の変化もないが約1週間前後で急速に回復するようになる。

 かくして、長年にわたりシラクニアとゲルマニアの北部の人々を苦しめ続けていた"北国病"は克服されることとなったのである。


 そんな中、薬を作った当の私にもこの薬がどうしてここまで効くのか"北国病"の原因を調べ続けていた。

 


 そして、私はある結論に至る……。

 たどり着いた結果は……それは、ただの"栄養失調症"だったのだ。

 私は、調べ上げた結果を会議で淡々とルメラや回復したラッセル、そして重鎮達に報告する。




 シラクニアやゲルマニア北部の住民は厳しい冬を乗り越えるために冬季の間は保存食での食生活となる、塩漬け、天日干し、燻製、酢漬け等々。

 それらの加工課程で著しく失われる一部の栄養素が人体に悪影響を与えていたのだった。

 (その不足している栄養素を多く含んでいるのがイエロー・ベリーの実だった)

 (いわゆる、脚気に誓い病気だったのである)


 私と爺の導いた結論にルメラもラッセルもシラクニアの重鎮も思いもよらぬ意外な原因に開いた口が塞がらずに呆然としているだけだった。


  私と爺はシラクニアに来てからずっと人々の生活を細かく観察し調査をしてきた。

 そして、今回の薬で得られた結果からシラクニアの食生活と"北国病"の発病の因果関係を調べ上げ、普段から特定の食物をよく摂取している者達に発病率が極めて低い事を発見する。 


 その特定の食物とは酢漬けの葉野菜である。

 シラクニアの人々は塩っ辛いのは得意だが酸っぱいのは苦手なようで食べる者は少なかったようだ、これがシラクニアにおける"北国病"の発病率を大きく引き上げる原因となっていたのだった。

 更に、塩っ辛い物を多く摂取する事により病状を悪化させている事も判明した。

 

 今回の大規模な発病は、ゲルマニアとの戦いで籠城した際に一時的に農業生産が落ちこんだたために保存食を多く摂取した事が原因である可能性が高い。


 そして、報告を終えると私は最後にこう言った。


 「長きにわたり貴方がたを苦しめていたと"北国病"は……」

 「ただの栄養失調症です」

 「そして、その原因は貴方がたの好き嫌いです」

 「これからは酢漬け葉野菜も欠かさずにお取りください」


私は、呆然とするルメラやラッセルやシラクニアの重鎮にそう言うと静まり返った会議室を速やかに退室するのだった。


 シラクニアに来て4週間が過ぎようとしている頃だった。

 既にシラクニアには本格的な冬が訪れ都市の外には北風が吹き荒れる極寒の世界が広がっていた。


 因みに、私がここで話した事はシラクニアでは他言無用の国家機密扱いとなるであった。



 

   第五十二話 ~ シラクニア出張 ➆ ~  終わり



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