第五十一話 ~ シラクニア出張 ⑥ ~
第五十一話 ~ シラクニア出張 ⑥ ~ 序章
自室に戻った私は、ポケットから"イエロー・ベリー"の実を取り出すと皿に乗せ数を数える、全部で100粒ちょうどだった。
トナカイが食べた量は喰み跡から10粒程だと解っている。
トナカイの体重は成体で約160~180kgぐらい、人間の体重は成人で約50~80Kgなので安全性も考慮し、投与量はやや少なめに設定するとして3粒~4粒ぐらいといったところだ。
そうしていると爺の声が聞こえてくる
「どうやら、何か閃いたようじゃな」
爺が私に期待するかのように問いかけてくる
「確証なんて全くない」
「でも試してみる価値はあると思う」
私が自分に言い聞かせるように言うと
「わしはお前さんの直感に期待しとるよ」
「わしに出来ることなら何でもするから呼ぶがよい」
そう言うと気配を消した。
私は皿の上のイエロー・ベリーの実を一つ手に取る……これが上手くいけば何とかなるかもしれない。
イエロー・ベリーの実を見つめる私だった。
第五十一話 ~ シラクニア出張 ⑥ ~
問題は激マズなこれをどうやって飲めるようにするかだ……。
とりあえず、乾燥させて粉にしてみるか……
私は10粒ほどの"イエロー・ベリー"の実を取り出すと別の皿に移す。
「爺、出番だよ」
私が呼ぶと爺はすぐに答える
「何じゃ!」
爺は威勢よく返事をする
「この実をすぐに乾燥させてほしいんだけど」
「出来るかな……なるべく自然乾燥するように」
「出来るかな?」
私は細かな注文を付ける
「任せておけ、この実の水分を除去すればよいのじゃな」
「それも、なるべく自然な形で……」
そう言うと爺はすぐ魔法を発動した
イエロー・ベリーの実はあっという間に乾燥していく
「凄いっ! 流石は大賢者パトリックさんっ!!」
私は爺の絶妙な術に感動する。
「煽てても何にもでんぞっ!」
こんな事を言ってはいるが爺は嬉しそうだった。
私は、まだ自由に魔法を使う事が出来ないでいる。
魔法そのものの原理が良く理解できていないからだ。
この世界の魔法は術式などという物は存在せず魔力いうエネルギーをどのように作用させ事を成すかと言う理論を理解していないと使いこなす事が出来ないからだ。
私にはまだその知識が十分に無いのである。(殆ど無いと言ってよい)
今回、爺が使った術の原理はいわゆる真空乾燥である。
イエロー・ベリーの実の周りを徐々に真空状態にする事により実の中の水分を蒸発させたのである。
カラカラに乾燥した実をすり潰して粉末にする。
試しに出来た粉を指にほんの少し付けて舐めてみる
「ひでぶっ!」
一瞬で目の前に奇麗なお花畑が広がった
ただでさえ激マズなイエロー・ベリーの実の成分が濃縮され、その破壊力が大幅に増しもはや殺人兵器と化してた。
「だっダメだ……とてもじゃないが飲めたもんじゃない」
私が死にそうな声で言うと
「だったら押し固めて錠剤にしてはどうじゃ」
爺は気の利いたナイス・アイデアを提案してくれた
「それいいっ!」
私は爺の言う通りに粉を押し固めて錠剤にすると意を決して口の中に放り込んだ。
「これならいける」っと思ったが……
錠剤は口の中の唾を吸うと一気にバラける
「あべしっ!!」
今度は目の前で白い扉が開くのが見えた
「だっダメだっ……このままだと確実に死ぬ」
私は自分の命の危険を感じるのだった。
"それにしても、トナカイはよくこんなの食えるな"……私はトナカイの偉大さと野生の驚異を感じるのであった。
油で練り固めて丸め粒状にしたり、クワスにほんの少量を混ぜて見たりと色々と試してはみるが、確実に天国への階段を登って行くだけであった。
さっきから連続でイエロー・ベリーの実を口にしたせいで口の中が変になってしまった。
なにか甘い物でも口にしないと私の味覚が逝ってしまいそうだった。
「甘い物っ!!!」
「そうだっ! 麦芽飴っ!!」
私に閃きが走る
私はジャガイモからデンプンを抽出すると麦芽飴を作る、爺の術の助力により本来は2~3日かかる工程を半日で終える事が出来た。
錠剤にしたイエロー・ベリーを麦芽飴でコーティングする。
(現代でも使われている飲みにくい薬の錠剤をコーティングする糖衣という物である。)
因みに、甘いからと言って飴のように口の中でペロペロしていると酷い目に合う、筆者も子供の頃に同じ事をして酷い目に合っている。
後に、シラクニアの子供達も同じ事をして酷い目に合うのであった。
出来上がった物を今度は躊躇わず口に放り込む。
「いけるっ!!!」
「これなら誰にでも飲める」
私はゴクリと飲み込んだ
「ついにやりおったな……」
爺が歓喜の声を上げる
これで、薬は出来た……しかし、"北国病"に効く確証はない。
まず、誰かに実験台になってもらわないといけない……
しもし、何かあればどうする事も出来ない、もしかしたら命を落とすことも考えられる。
私は、その事が心苦しかった。
私は完成した薬を持ってルメラの元へと急いだ。
完成した薬は全部で180粒、服用しやすくするために1粒の量を半分にしてある。
薬が出来たことを知ったルメラや側近の者たちの喜びは半端ではなかった。
あまりの嬉しさに泣いてしまうほどであった。
傍に居た長老のアスラクでさえ目に涙を溜めている。
そんなルメラに私は出来上がった薬に確証がない事、治療試験の為に実験台が必要な事などを説明する。
「そんな事は当たり前だろう」
「なんせ、初めてなんだからな」
ルメラがそう言うと長老のアスラクが私に話しかけてくる
「大賢者殿、国民に成り代わりお礼申し上げまする」
「治療試験の為に実験台になる者は我らで決めまする故、お気になさらぬよう」
そう言うとアスラクは他の者達と共に何やら会議を始める。
私はルメラに薬を手渡し治療試験の為に実験台になる者が決まったら教えて欲しいと言い残しその場を後にした。
ルメラは小さく頷くと薬の入った小瓶を握りしめていた。
それからしばらくして治療試験の為に実験台になる者がルメラの父親のナッセルである事を知らされた。
当然、ナッセル自らが強く望んでので事ある。
第五十一話 ~ シラクニア出張 ⑥ ~ 終わり




