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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第四十九話 ~ シラクニア出張 ④ ~

 第四十九話  ~ シラクニア出張 ④ ~ 序章



 マノンがシラクニアに来て一週間が過ぎようとしていたが、"北国病"の原因と治療法に関する糸口さえ掴めずにいた。


 一週間で状況は更に悪化し重症者の数は200人に達していた。

 そして、死者も増加の一途をたどり1日に20人を超えるようになっていた。

 凍てついた北風が吹き始めシラクニアに本格的な冬の到来を伝える。


 そんな中、私は少しでも手掛かりを得ようと必死になっていたのだった。

 病床に伏している、ルメラの父親のナッセルと久しぶりに対面するも衰えたその姿に流石の爺も動揺を隠せなかった。


 一週間の間に私と爺はお互いに協力し出来る限りの情報を集めた、シラクニアの人々も協力的で私の問いかけに真摯に向かい合い答えてくれるのであった。

 



  第四十九話  ~ シラクニア出張 ④ ~ 



 「それにしても、寒いな……」

ルメラに用意してもらった部屋の中で集めた資料を見ながら私が思わず呟く

大きな部屋には暖炉があるが、個室には換気の問題で火の気がないのである。


 「確かに寒いじゃろうが、外は-30度近いぞ」

爺が私に言う


 「まっ-30度っ!」

 ルメラに用意してもらった部屋は都市の中央部にある王族などが居住する、いわゆる高級住宅区画の一角にある。


 流石に王族の居住区画だけの事はあり一般区画に比べ広く作りは立派である。

 ダイニングキッチンと寝室の二部屋に分かれている、但しこれも換気の都合上トイレは室内になく共用である。


 越冬に備え食事は少し塩っ辛いが豊富な海産物を保存加工したものが多くパンは小麦ではなく、痩せた土地や寒冷地でも栽培可能なライ麦が使われている。

 同じく野菜類も痩せた土地や寒冷地でも栽培可能なジャガイモ類や大根類のなどが栽培されている。


 支給された衣服のジャケットとズボンは、この地方に住むシラクニア羊の毛が使われており軽くて暖かい上に肌触りが非常に良い同じガリアの羊の毛の衣服より遥かに上質である。

 魔装服に比べれば保温性、断熱性、耐久性などスペックでは遥かに劣るものの普段着としては非常に良いと私は思っている。

 それに、魔装服は室内で着用するには余りに重装過ぎる。

と言う訳で私はこの支給品の服が大変気に入っている。



 「ん……困ったな」

 「あれから1週間も経つのに何の手掛かりも得られないなんて」

私は事を少し簡単に考えていた自分の浅はかさと無力さを思い知るのだった。


 机の上一面に散らかった書類を前に私は天井を見上げると明り取りの小さな丸窓から星が見える。

 夜も深くなってきたようだ。

 「はぁ~もう、寝るか」

私は独り言を言うとベッドに潜り込んだ

 「暖かい……」

ここ暫く、根を詰めていたこともあり直ぐに睡魔が襲ってきた


 ウトウトしていると"コンコン"とドアを叩く音がする。

 "誰だろう……"

私は眼を擦りながらベッドから出るとドアを開ける


 「よっ! よう、マノン」

 「調子はどうだっ」

ドアの外には普段着のルメラが立っていた、グレーの毛糸のセーターに白のキルティング生地のズボンをはいている。

 そして、手には黄色い液体の入ったガラスの器を持っていた。

 「これ飲むか?」

そう言うとルメラはガラスの器を私に手渡す


 「ありがとう」

とりあえず私はお礼を言う


 「何なのコレ……」

私は黄色い液体の入ったガラスの器を見て言うと


 「クワスだよ」

 「ライ麦と麦芽を発酵させたシラクニア伝統の発酵飲料……美味いよ」

そう言うとルメラはにっこりと笑った。


 元々、容姿が良いので凄く可愛く見えた途端に、何故かいないはずのレナの気配を背後に感じる。

 思わずビクッとしてしまう私を見てルメラが心配そうな顔をする


 「マノン……あんまり無理すんなよ」

 「大賢者様までぶっ倒れた日にゃ、目も当てられないからよ」

そう言うとルメラは私の顔を覗き込む


 「大丈夫だよ」

私は心配そうなルメラにそう言うと笑う


 「だったらいいけどよ……」

ルメラは少し不貞腐れたように言う


 「ルメラも一緒にどう」

私はルメラに貰ったクワスの入ったガラスの器を見て言う


 「うんっ!」

ルメラは元気よく返事をする。


 ルメラは私の部屋に入るとキョロキョロと辺りを見回す。

 机の上に散らばった書類に目が留まる。

 すると、机の傍に歩いていき書類の1枚を手に取りじっと見つめる

 「すげえな……」

書類にぎっしりと文字が書かれているのを見て感心している。


 「残念ながら、未だに手掛かりの一つも見つけられない」

 「我ながら情けない……頼りにならない大賢者なんだ……」

私がすまなさそうに言うと


 「そんなの気にする事ないっ! 」

 「国の皆はマノンが一生懸命なの分かってる」

 「皆、感謝している」

 「だから……ホントに気に病む事なんて何だぞっ!!」

ルメラの真剣な眼差しに私の折れそうな心は救われた。


 「ありがとう……ルメラ……」

私がルメラを見つめて言うとルメラの顔が見る見る赤くなる


 「べっ、別に大した事はしていないぜっ!」

そう言うとテーブルの横の椅子にドカッと腰かけた。


私は戸棚から陶器のコップを2つ出すと向かいの椅子に座る。

二人でクワスを飲みながら話をする……


 初めに出会った時、不意打ちしてお尻を3回もブッ叩かれて♨した事など恥ずかしい話をするとルメラは必死になって言い訳しようとする。

 一緒に旅して剣を教えてもらった事、ヘベレストで死にかけた時にマノンに助けられた事等々……。

 ルメラは楽しそうに話していたが、段々と元気が無くなってくる。


 「不安なんだ……」

ルメラが急に悲しそな声で言う

 「オヤジも倒れちまって、国の重鎮達も次々と病に……」

 「頼りにしてた兄貴も逝っちまって……」

ルメラの目から涙がこぼれ出す。


 ルメラには上に4人の兄がいたが1人は幼い頃に病死、2人はゲルマニアとの戦いで戦死、残った最後の兄も2週間前に亡くなっていたのである。

 1人残されたルメラは孤独感、更に王女と言う責任感はルメラを精神的に追い詰め、眠れない夜が続いていたのである。

 ルメラがこんな時間にマノンの部屋を訪ねた本当の理由は、不安と不眠の辛さを紛らわすためだった。


 ルメラの涙に私は戸惑いを隠せない

 「大丈夫っ! 私が絶対に何とかして見せる」

ルメラをそっと抱きかかえると


 「マノン……頼りにしてる」

そう言うと気を失ったように眠ってしまった。


 私は、ルメラをお姫様抱っこするとベットにそっと寝かせた。

 抱え上げたルメラは意外に軽かった。

 ルメラは小さな寝息を立てながら眠っていた、私も眠いが流石に同じベットに潜り込むわけにもいかない。

 「あっ、そうだ、いい物がある」

私はクローゼットにしまってあったリュックを取り出すと寝袋を引っ張り出し、その中に入り込むと直ぐに眠ってしまった。


 私はルメラとは違いどんな状況でもぐっすりと眠れてしまう……。

良い事なのだが、そんな自分が悲しく感じることもあるマノンであった。




 「マノン……マノン……」

誰かが私を呼ぶ声で目を覚ます、ゆっくりと目を開けると……

目の前にルメラの顔があった


 「うわっ!」

私は驚いて思わず声を上げてしまう。

 分厚い凝灰岩の壁は完全に音を遮断してしまうので隣に聞こえることは無く現代のマンションなんかよりもプライバシーは守られている。


 「ひでぇな……」

 「人の顔見るなり悲鳴なんか上げやがって」

ルメラは少し傷ついたような口ぶりだ


 「ごめん……いきなりだったから」

 「驚いちゃったよ」

私がすまなさそうに言うと


 「私、いつの間にか寝ちまったんだな」

 「ここんところ、あまり眠れなくてよ……」

そうに言うとルメラは私をジッと見て

 「マノンがベットに寝かせてくれたのか」

 「なんか、変なことしてないだろうな」

私を疑惑の眼差しで見る


「そんなことしないよ……」

私が眠そうな目をこすりながら言うとメルラは少し顔を引き攣らせた。

 

 レナもそうだがルメラも女として同じような敗北感を感じていたのだった。

 "この甲斐性なし野郎め……"

ルメラは心の中で呟くと窓の外を見る。


 この時期にしては珍しく太陽が降り注ぎ北風が吹いていない。

 「北風が凪いでいる」

ルメラはそう言うと足早に窓の方に行く

 「お天道様が顔出してら」

そう言うと私の方に来る

 「マノンっ! 外に出よう」

ルメラは私の手を掴まれ部屋から引きずり出された。

1週間ぶりに出た外の空気は冷たくてとても澄んでいた。


 辺りを見回すと大勢の人が外へ出てきており、子供たちが雪の中で遊んでいる姿が見える

……が……"寒っ! "私は思わず背を丸めるのだった。




  第四十八話  ~ シラクニア出張 ④ ~  終わり





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