第四十八話 ~ シラクニア出張 ③ ~
第四十八話 ~ シラクニア出張 ③ ~ 序章
マノンの向かったシラクニアは他の国とは違った特異な国家形態をしている。
半年は雪に埋もれる極寒の地である上に国土の大半は火山性の凝灰岩と海底が隆起してできた石灰岩であり農耕には適さず、農耕可能な土地は限られる。
しかし、北の海がもたらす水産資源は豊富である。
地理的な唯一の救いは南側のゲルマニア帝国との間のシラクニア山脈に豊富な地下資源がある事である。
真冬には-40℃に達するこの地で人が生活していくのは容易な事ではなかった。
それ故に、シラクニアの人々はお互いに寄り添い合い助け合う事が常であり農耕地など地質的な事も関係して結果的に人々は一つの都市にまとまって暮らしている。
シラクニアが都市国家と呼ばれる由縁である。
冬季の猛烈な北風を遮るために都市の北側には高さ20mに達する壁が6kmに渡って続いている。
都市は、巨大な凝灰岩の岩盤を丸々くりぬいて作られた洞窟のような都市である。
それには理由があり、凝灰岩をくりぬいて作られた住居は気温の変化が少なく真冬の極寒気でも室内の気温が12度下回る事が無いからである。
外観は、超巨大な城塞都市のように見えるが生活の"用"から生まれた景観であり要塞として築かれたものではない。
意図したわけではないが事実上、要塞としての機能も備わっている。
そこに、シラクニアの全国民12万人が暮らしている、国家としては大陸で最も人口の少ない国である。
第四十九話 ~ シラクニア出張 ③ ~
私は、ルメラと共にシラクニアの都市部へと入っていく。
1枚の巨大な岩盤をくりぬいて作られた都市とその街は今まで見たことも無いような景観である。
(世界遺産のペトラ遺跡のような景観)
「凄いね……」
私が周りを見回して驚いたかのように言うと
「まあ、ガリアやゲルマニアの街とは随分と違うけどな」
「住み心地は結構、良いんだぜっ!」
ルメラは自慢げに言うがお付の長老の厳しい目線に思わずビクッとする
長老は私の方を見ると
「申し遅れましたが、小生はアスラク・エクルースと申します」
「大賢者殿はガリアの王都より一人でここまでお越しになったのですか」
と尋ねてくる
「そうだよ」
私が何気なく答えると
「……」
長老は不思議そうな顔をすると何か考え込んでいる
長老が考え込むのも当たり前で、ルメラが手紙を出してから1ヶ月あまりしか経っていない。
通常ならばどう考えても二ヶ月以上はかかる、こんなに早く来られるはずが無いのである。
「どうやら、大賢者殿には翼が御有りのようだ」
そう言うと長老は少し笑いを浮かべた
私がその様子を見ていると、爺が話しかけてくる
「おい、お前さん、この爺さん中々の策略家のようじゃ」
「注意した方がよさそうじゃぞ」
爺は私に忠告するかのように言う
「そうなの?」
私が不思議そうに言うと
「ああ、今の会話で分かった」
「あの爺さん、誘導尋問が得意のようじゃな」
「気を付けねば痛くもない腹の内を探られるぞ」
爺は少し嫌そうに言う
そうしているうちに大きな扉の前に来る、ルメラが扉を開く。
そこには少なくとも100人以上の人々がベッドに横たわっていた。
「何なの……これ……」
私は目の前の光景に呆然とする
「これが、今のシラクニアの現状なんだ……」
ルメラが悲しそうに言う
ベッドに横たわっている人々は既に命の危険が迫っているように見える
「ここにいる人は末期の人だけ」
「軽症者はもっといるんだ、もう、収容しきれないんだ……」
ルメラは目に涙を溜めている
「何時からこんな事に……」
私がポツリと言うと
「丁度、戦争が終わってガリアから帰ってきた辺りからだよ」
「初めは、数人だったんだけど……あっという間に増えて」
ルメラは小さな声で悲しそうに言う
「一度、診せて貰えないかな」
私がルメラに問いかける
「診てやってくれっ! お願いだっ!」
「何とかしてやって欲しい……」
ルメラは泣きそうな声で私に訴えかける
私は一番近くのベッドの傍に行くと横たわっている人を診る。
年齢は25歳の男性、発病から約3ヶ月との事である。
何時ものように患者の胸に手を当てると精神を集中させる。
"どう? 何か解った"
私は爺に問いかける
"ん……これは強いて悪い所はなさそうじゃ"
"体が衰弱しきっている、まるで飢餓状態じゃな"
"間違いなく「北国病」じゃの"
"思い浮かぶ治療薬とかは無いのう"
爺が私に結果を伝える
"「北国病」ってなんなの"
私が問いかけると
"寒い土地に昔からある病じゃ"
"手足のむくみとしびれ、心臓の不全などを引き起こす"
"悪化すると死に至る病じゃよ"
"残念じゃが原因はわしにも解らん"
そう言うと爺は何も言わなくなった
「どう! 何か解った!」
ルメラが私に問いかけてくる
「"北国病"としか解らない」
「今のところは治療薬も治療法もわからない」
私がすまなさそうに言うと
「……そうか……」
ルメラはガックリと肩を落とした
「でも、何とかしてみせるよ」
ふさぎこんでいるルメラに言う
「頼むよっ! 何とかしてくれっ!」
懇願するルメラの目は悲しみに満ちていた。
ルメラの目を見て私はこの人々を救いたいという思いがこみ上げてくる。
「暫く、この街に居させてくれないかな」
私がルメラに問いかけると
「おうっ! いいぜっ! 気の済むまでいてくれていいぜっ!!」
「部屋も食い物も全部こっちで用意すっからよ」
ルメラの威勢の良い返事に長老が咳払いをすると
「気のお済になるまでご滞在ください」
「衣食住はこちらでご用意いたします」
と丁寧に言い直すのであった
そんな、ルメラに爺が沈黙を保てるわけがない。
またしても爆笑してしまい周りから白い目で見られてしまうのであった。
かくして、私はシラクニアの新都スクラに滞在することとなった。
"北国病"については何も分からない、でも、苦しんでいる人や悲しんでいる人を救いたいという気持ちは私に力を与えてくれることになる。
後の世に、"金色の大賢者"や"救世主マノン"と呼ばれる事の始まりのはここからである。
……因みに、"斐性無しの大賢者"と呼ばれるようになるのもこの辺りからである。
第四十九話 ~ シラクニア出張 ③ ~ 終わり




