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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第四話 ~ 大賢者の記憶 ~

    第4話 ~ 大賢者の記憶 ~

 



 今日は朝から、魔法書庫で読書をしている。

 と言っても一般に言う文字を読みながらページをめくっての読書ではない。

 

 魔法の書は直接頭に語りかけてくれる……(我々の感覚でいえばビデオに近い)

 なので読書なんか全くと言ってよい程しない、めんどくさがり屋の私にも何とかなっている。


 ほんの数時間で私の世界観は変わってしまった……魔法の書が語る事は信じられないような事ばかりなのだ。


 この世界は球体の星で太陽の周りを楕円軌道を描いて回っている事

   (一般ではこの世は平面世界で天動説が常識)。


 現在、この星は数百万年に一回の周回軌道の変位と数億年に一度の太陽活動の減衰期が偶然に重なり大氷河期が訪れ今は半球凍結という星の半分以上が氷に閉ざされている事。


 この星が半球凍結状態になる以前には南北両極の大きな大陸に魔法と科学が調和した文明が存在し多くの人々が暮らしていた事。

   (惑星年齢が地球より数億年古いためプレート移動により陸地が極部に集まっており赤道付近は大海が広がり一か所に島"(この大陸の前身)"があっただけ)


 そして、急速な寒冷化により南北両大陸は厚い氷に閉ざされ文明は滅び人々は死に絶えた事

    (元々気温の低め惑星だったのに赤道付近で15℃以上、極部では25℃以上下がった)


 現在は赤道付近にあるこの唯一の島"(私達が大陸と言っている陸地)"にしか人が生存していない事。

  (元々は大小の島々が点在するだけだったが寒冷化し極部に氷や雪として大量に堆積したために海面が150メートル以上低下し)島と島の浅瀬が干上がり島がつながり大きな島となった、そして干上がった海底はガリア平原やゲルマニア平原とになり人が暮らせるようになった)


 今、私が体験している知識と術はその滅び去った大陸の大氷河期を生き延びた極僅かな人々によって継承された遺産である事。

(将来の為に先人からそれを託された者が"大賢者"で何世代にも渡って歴代大賢者の手によって長い時を受け継がれてきた)



 しかし、文庫本サイズの石板一つに信じられないような情報量だ、普通の分厚い本の数千冊分の情報量があると爺は言っていたが本当のようだ。

(石板は我々の半導体に近い機能がある)


 この魔法書庫には大小さまざまな石板が何百と並んでいる……まだ、私は爺に言われた一つ目の石板のほんの少ししか見れていない

 これ全部見てたら私の人生この魔法書庫の中で終わってしまう……今度は私がここで骸骨になってしまうと本気で思えてくる



 「…信じられないよ……こんなの……」

私は爺に言う


 「まぁ……そうじゃろうな……儂もそうじゃったからの」

爺は納得するかのように言う

 「しかし、これは事実じゃよ」

 「今ここに暮らす人々はその末裔……というか……」

爺が言い難そうにしているので


 「分かってるよ……南北両大陸からの流刑囚の末裔なんでしょう」

 「でも、殺人や強盗とか言った凶悪犯じゃない」

 「政治犯や危険思想なんかの反体制派や闘争に敗れ失脚した元権力者なんでしょう」

良く分からないが魔法の書の言い伝え通りの事を言う


 「まぁ……そうじゃな……」

 「もう……3500年以上も前の出来事じゃからのう」

 「何にせよ、今はこの地で暮らす300万人程がこの星の全人類じゃ」

 「生き延びた者の数が2000人程……3500年の間に何度も滅びかけながらも良くもここまでで増えたものじゃ」

 「全てを犠牲にして種の存続を計ったからの……代償として魔法も使えんようになったがの……」

 

 (僅かな生き残りで過酷な環境下における種の存続を模索し人体強化を図った、その結果として強靭な肉体と近親間での交配は可能となったがその代償の一つとして魔法も使えなくなった)


 爺が悲しそうに言う、そんな爺に


 「そんな事はないよ……魔法なんか使えなくたって生きていけるし」

 「知識はまた少しづつ蓄えればいいよ」

 「……でも、爺や私は何故、魔法が使えるの」

私は以前からの疑問を爺にぶつけた


 「それは……その内に魔法の書が教えてくれるじゃろうが」

 「儂やお前さんは"先祖返り"なんじゃよ」

 「非常に低い確率じゃが子作り(交配)を繰り返すうちに偶然に先祖と同じ体質を持つ者が生まれる」

"ただし、この先祖返りには魔法が使えるようになる替わりに失う物もあるのだが爺はあえてその事には触れなかった"


 「お前さんは特に先祖に近い……強力な術を使えるし魔法の書からの知識もより多く得られるじゃろう」

 「その力で人類を守る、それが歴代"大賢者"の本来の役目じゃよ」

 「この魔法工房もそのために作られたんじゃからの」

爺の言葉の一つが私に衝撃を与える


 「今……"大賢者"って言わなかった……」

焦った私の言葉に爺が答える


 「言ったがどうしたのじゃ……」

爺はどうでもいいことのように言う


 「えっ! "大賢者"って爺がっ! 嘘っ!!!」

私はビックリしたかのように言う


 「そうじゃよ、儂は"パトリック・ロベール"第28代大賢者じゃ」

爺の言葉に私は凍り付いた


 私が凍り付くのは当然だった、大賢者パトリック・ロベールはおとぎ話に出てくるような超有名人でこの大陸にその名を知らないものはないといっていい程の偉人中の偉人なのだ

 国内国外を問わず大きな広場なんかの真ん中にはその銅像が建っている程で特にこのガリア王国では神にも等しい程に崇拝される大偉人なのだ

 そんな偉人がこんなウンチク垂のエロ爺だなんて私にはとても信じられなかったのだ

 

  「どうしたのじゃ……急に固まって……腹でも痛いのか」

爺が冗談交じりに聞いてくる


 「嘘でしょっ!」

いきなり私が大きな声で言うので爺は少しビックリしする


 「本当じゃよ、儂は"パトリック・ロベール"第28代大賢者じゃよ」

 「そして、お前さんは第29代大賢者"マノン・ルロワ"じゃな」

爺が軽く笑いながら言う


 「そっそんな! 無理無理無理無理無理っ!!!」

 「わっ私が協力するのは本探しだけよっ!!!」

 「私は全それが済んだら以前の普通の生活がしたいのっ!」

身全霊で爺に力説し否定する


 青ざめた顔で必死で拒否する私に爺が優しそうに言う

「そうじゃな……基礎知識はもういいじゃろう」

「これから少しこの魔法工房を案内してやる」

そう言うと私の体が勝手に動き始める

 

 魔法書庫の石板を全部見てたら私の人生この魔法書庫の中で終わってしまう……今度は私が骸骨になってしまうと本気で思えてきたところだったので少しホッとしたというのが本音……


 「また勝手人の体を操ってる……これって結構、違和感あるんだよ」

私が嫌そうに言うと


 「すまんがしばらく我慢してくれ」

 「工房を案内する間の辛抱じゃから……」

そう言うと爺は魔法書庫を出て移動を始めた

広い屋敷の中をあちらこちらと案内される


 「誰もいないのに新築のように凄く綺麗だね」

私が感心したかのように言うと


 「この屋敷は魔石を使っての魔術錬成でつくられているからの」

 「メンテナンス・フリーなんじゃよ……」

と爺は自慢げに言う


 「"魔石"って宝石よりも貴重って言われているアレ」

私は少し驚いたかのように言う


 「そうじゃよ、その魔石じゃよ」

 「この屋敷には自己再生と自己清浄の能力があるのじゃ」

爺が更に自慢げに言う……そして、長いウンチクが始まる


 あまりに長いので省略するが魔力によって常に新築時の状態を保つことが出来るらしい、250年間放置していても現状を維持し続けていたのだそうだ

 凄く便利なので私の部屋も同じようにしてほしいと頼んだがあっさりと却下された……


 そして、屋敷の心臓部へと足を踏み入れる……明らかに建物の作りが違っている

 艶やかに磨かれたような床と壁に全体が光る天井……全く違った造りの物だと言う事が私にも解る


 「ここが魔法工房の心臓部の魔力変換室じゃ……」

爺に案内された部屋は広いドーム状の空間の真ん中に10メートルの高さはある天井にまで届く直径4メートルはある黒い石柱が一本立っている、ドーム状の部屋は明るく壁一面に青白く輝く幾何学模様があり黒い石柱から"グォーン"と言う音が定期的に響いている


 「これがこの屋敷の魔力の源じゃ」

 「この石柱がこの地下深くにある溶岩の熱を魔力に変換している」

 「これによって魔法工房は3500年もの間変わる事無く存続し続けているのじゃ」

爺が中央の黒い石柱の方を見ながら言う


 「凄い……この技術を何とか人々のために生かせないの」

私が爺に問いかける


 「残念だが……無理じゃな……」

 「これ程、巨大な石柱魔石を作れる錬金術師はもうこの世界にはおらぬ」

 「錬金術は錬成術より遥かに高度で難しい、儂やお前さんにでもな……」

 爺はポツリと呟いた


 「あの黒い石柱って魔石なの……」

 「魔石って豆粒ほどの大きさでもとんでもなく高価だって聞いたことがある」

 「それこそ、国宝や王家の秘宝とかなんかだって」

私が開いた口が塞がらない……"同時にこの石柱ってどのぐらいの価値があるのか気にかかる"


 「お前さん……まさか、売り飛ばそうとか考えてはおらんじゃろうな」

爺が疑いの口調で私に言う


 「えっ……まさか……こんなの動かせないし……」

図星をつかれた私は必死で誤魔化そうとした


 「……かつて、弟子の一人に石柱を削って金にしようとした大バカ者いたのでな」

と爺が呆れたような言う


 "げっ! 私と同じこと考える奴がいたんだ"……脂汗が出そうになる

「で……どうなったの?」

と私がその顛末を聞くと


 「魔石は石や金属ではないからの削る事はおろか傷一つ付けられんかった」

 「結局は何も出来ず、バレたら何処かへ姿をくらましよった」

 「その後の事は儂にも分らん……もう280年近くも前の話じゃ」

そう爺がため息交じりに言うと部屋を後にした


 長い廊下を歩き中心部から出ると何やら変な匂いがしてくるので

「何か、変な匂いがしない」

と私は爺に言うと


 「この匂いは硫黄の匂いじゃよ……」

 「さっき見た石柱に沿って地下から湧き出してくる温泉の匂いじゃよ」

爺が言うのを聞いた途端に


 「温泉ッ! ホントなのっ!!」

思わず大声を上げた私に爺はビビっていた


 「入るっ! 入りたいっ!! ねえっ!!いいでしょう!!!」

私のあまり気迫に爺もタジろいでいる


 「あっああっ……いいぞ」

爺はそう言うと硫黄の匂いのする方に歩いていくと……そこには立派な露天風呂らしきものがあった


 「凄いっ! 凄いよっ1!」

露天風呂らしきものを見て興奮気味の私に爺は不思議そうにしている


 「温泉がそんなに珍しいか……?」

興奮している私に爺が問いかける


 「当たり前だよっ! 温泉なんてヘベレスト山脈やピオーネ山脈の麓にしかないんだよ」

 「それこそ、王侯貴族やお金持ちの商人だけの物なんだから、一派庶民には……くっ」

悔しそうに唇をかみしめて涙ぐむ私に爺は茫然としている


 「そっそうなのか……ならば、少し浸かっていくか……」

爺の言葉に私は大きく頷くと全速で温泉に向かって走り出す


 "なんと……一瞬で儂から体の自由を取り戻すとは……"

爺は驚嘆したが表には出さず何も言わなかった


 温泉につくと私は服を脱ぎ捨て裸になると温泉に入ろうとした……

「ちょっと、待つのじゃっ!!!」

爺の言う事も聞かずに温泉に飛び込む


 「あっちぃ~!!!」

温泉は熱湯風呂だった……慌てて外に出る


 「だから待てと言ったじゃろうに……」

 「これは源泉じゃ温度は50℃以上だから熱くて入れたもんじゃない」

 「風呂はあっちじゃ」

そう言って私に石造りの小さな建物を示す


 その石造りの建物は大きな石の湯舟を備えた立派な入浴施設だった

「うわぁ~! 凄いっ!」

「あっあっ~、気持ちいいっ!」

温泉に入って感動している私に爺がこの温泉のウンチクを語りだす

 

 「 慢性皮膚病、慢性婦人病、切り傷、糖尿病、高血圧症、動脈硬化症、痛風、便秘、        筋・関節痛、痔などに効果あり 糖尿病、痛風、便秘などに良いとされる温泉じゃ」

……爺は"言っておくが乳は大きくならんぞっ"とは言おうと思ったが言わなかった

 「儂も随分とこの温泉の世話になったもんじゃよ」

 「お前さんは、まだ若いからの必要ないじゃろうに」

爺が不思議そうに言う


 「そんな事ないよ……」

 「凄く気持ちいいよ」

 この世界の一般家庭では、夏場は行水、冬場は体を拭くぐらい、たっぷりのお湯に浸かること自体が最高の贅沢なのだ


一時間ほど温泉を堪能した後、素っ裸でしばらくの間その余韻に浸っていると"ぐぅ~"とお腹の鳴る音がする……もう昼か、教会の鐘より正確な私の腹時計がもう昼食の時間だと知らせている。


 「ここに何か食べる物ある?」

私が爺に訪ねると


 「食い物は無い一度、家に帰って食事にすればよかろう」

 「その前に体を洗い流すのじゃ……硫黄の臭いを落とさんとな……」

 「お前さんも一応は乙女なのじゃから腐った卵のような臭いを消さねばな」

 そう言われてみると確かに体から嫌な匂いがする私は爺の言う通りに浴室の横の湧水で水浴びして臭いを洗い流した少し冷たい水が心地よかった"これは癖になる"と実感した

 

 爺が実験室に用があると言うのでそれに付き合った……何やらシーツのような布とペンダントのような物を持って帰るようだ。

 昼食を済ませ自室でくつろいでいると爺の声がする

「これから、探索魔法の訓練をしたいのじゃが……」

「とりあえず、このペンダントを持って食後の運動も兼ねて村の中をグルっと一周してもらえないだろうか」

私は爺に言われた通りにペンダントを首にかけると散歩に出かけた


 村はずれにある家を出てブドウ畑の横道を通り抜け教会の前の広場に出る。

 広場にはあの銅像が建っている高さには2メートル程の爺の銅像の威容は見るからに威厳のある……絶対にこれって盛られていると思いながら村の中心部へと歩いていく村人は顔見知りばかりなので会うたびに軽く会釈をする。


 中には、話しかけてくる人もいるが長話になる事はない。

 皆が私の顔を不思議そうにのぞき込むが直ぐにワイン農家の娘"マノン"だと分かるようだ……爺の言う通り私は無意識でイリュージョンを使っている事を実感するのであった

 そうしているうちにレナの家の近くまでやってきた、何気なくレナの家兼店舗の方を見ると偶然にレナが表に出てくる


 「えっ! マノンなの……」

少し私を見て驚いたようだった

 「……そうマノンよね」

何だか自分に言い聞かせるようにしている


 「レナどうかしたの……」

私はレナの顔を覗き込む


 「なっ! なんでもないわ……」

そう言うと私の顔をマジマジと見ている


 「ヤバい……レナは気付いたのかな」

私は秘薬ナイス・バディの事を思い出したが余計な心配だった

少し話すといつものレナだった、二言三言交わして私はそのまま村を一周して家に帰った。


 秋の日は傾くのが早い、台所ではもうイネスが夕食の用意を始めている

 私は自分の部屋に戻ると椅子に座るとペンダントを外して机の上に置き靴を脱ぎ石畳を歩き回って疲れた足を少しマッサージした後で室内履きに履き替えた


 「少し早いけど夕食にするね」

とイネスの声が聞こえてくる、私は居間に行くと家族で夕食を取る。

 今日のメニューはガーリック・トーストに香草入りのオムレツ、玉ねぎのスープと梨の実だった

 夕食を取り終わるといつものようにイネスと母は後片付け、父はワインを飲んでいる。


 私は桶に竈の鍋からお湯を少し貰うと洗面所の水を足し良い湯加減にしてタオルと着替えを持って2階に上がる

 服を脱ぐと体を濡れタオルで拭く、温泉に入っているので手早く済ませ寝間着の貫頭衣を被ると腰紐でウエストを絞る……"ああっ! ウエストがくびれている……"嬉しさに顔がニヤけてくる


 「そろそろいいかの……」

自己陶酔に浸る私に爺の声が聞こえてくる

 「探査魔法の手解きをしたいのでベッドの上に工房から持ってきた布を広げて置いては欲しいのじゃ」

 「簡単なのでお前さんに準備をしてもらう」

そう言うので機嫌のいい(温泉とウエストの事)私は素直に爺の言う通りにベッドの上に布を敷く、布には複雑な幾何学模様が描かれていた


 「さっきのペンダントの裏の蓋を開けるのじゃ」

じじいに言われた通りにペンダントを裏返すと蓋を開けた、中には長い金髪の髪の毛が入っている


 「髪の毛が入っている……?」

不思議そうにしている私に


 「その髪の毛の持ち主の視覚に少しの間だけ入り込むのじゃよ」

 「あのペンダントはな"運命のペンダント"と言ってな、身に着けた者と相性のいい相手の髪の毛を引き入れる力があるのじゃ」

 「その髪の毛を布の上の円陣の真ん中に置くのじゃ」

 「そして、布の上に仰向けに横になるのじゃ」

私は爺の言う通りに布の上に仰向けで横になった。


 「これから"憑依千里眼"の術を発動する」 

 「お前さんは初めてじゃから視覚のみを飛ばす術じゃ」

爺がウンチクを言い始める、いつもの私なら直ぐに眠くなってしまうのだが爺の真剣さそれに機嫌もいい事もあり素直に聞き入っている


 この術は、私と相性のいい人の視覚に入り込むと言う術で魔法の書を探す探査魔法の基礎となる術だそうだ。

 爺曰く、この術は初心者向けで術の感覚を覚えるには最適との事である


「憑依時間は15分ほどで時間が来れば強制的に憑依者との視覚を切り離す」

「儂がナビゲートをするから感覚をつかむのじゃよ」

そう言うと私に目を閉じて深呼吸をするように言う


 私は爺の言う通りにする。


「いくぞ、"憑依千里眼"発動」

爺の声が聞こえると意識が漆黒の闇に吸い込まれるような感覚に少し恐怖を感じる


 「ここは何処なの……」

ぼんやりと自分の部屋とは別の光景が目に映る

 何か動て言いるようだ……鏡?……徐々にハッキリと見えてくる

 鏡に映っているのはレナだった……体を拭いた後なのか上半身は裸だった

 タオルで髪を拭っているようだ、髪を拭うたびに白くて大きな胸がプルンプルンと揺れている

 "羨ましい……少しホンの少しっ! 先っちょだけでいいから分けて欲しいっ!"などと考えていると私と同じような貫頭衣の寝間着を着る腰紐を結ぶと机の方に向かって歩き出す


 椅子に座ると鍵のかかった机の引き出しから日記帳を取り出す

 "レナって日記を付けているんだ……そういえばレナの部屋には随分と行っていないな"

私が考え事をしていると日記に何かを書き始める


 "これってプライバシーの侵害だよね、見ないようにしよう思ったが……"

目の閉じることも視線を逸らすことも出来ない……レナの視線だから私にはどうすることも出来ないのだ



 "今日、偶然に家の前でマノンに遇った"

 "何だかいつもよりも凄く素敵に見えて戸惑ってしまった"

 "少し顔が火照って鼓動が速くなるのが自分でも判った"

 "私、変じゃ無かったかな……マノンに気付かれなかったかな?"

 "いけない事とはわかっているけど……私はマノンが大好き本当に好き"

 "この気持ちはどうにもならない……どうして貴方は女の子なの……"



 レナの日記の内容に私の鼓動も早くなる……すると、再び視覚が漆黒の闇に吸い込まれる気が付くと自分の部屋の天井が見える

 

 「大丈夫かっ! 聞こえているなら返事をするのじゃっ!!」

爺が必死で私を呼んでいる声がするが余りにレナの日記がショックで呆然としてしまった


 「だっ大丈夫だよっ……」

我に返った私が返事をすると爺の安堵した様子が手に取るように分かる


 「どうじゃった……」

爺の問いかけに


 「同級生のレナだった……」

と憑依した相手の事を言うと


 「そうか……レナちゃんじゃったか、お前さんとは相性がいいのは当然か……」

 「しかし、憑依した者まで分かるとは……普通なら初心者は視線がぼやけて良く見えんのじゃ」

 「実に見事な出来じゃった、初心者にしては完璧じゃな」

そう言うと爺はとても満足げだったが、私はよく見えない方が良かったのではないかと思っていた


 「これなら、明日にでも王都ガリアンに出向いても問題ないの」

爺の言葉に暫く無反応だったが……


 「えっ! 王都ガリアンって……」

私は爺の言った言葉に遅れて反応する


 「そうじゃ……明日にでも王都ガリアンで魔法の書を探す」

 「お前さんの能力は儂の想像以上じゃ、これなら問題なく完全に探査魔法を発動できる」

 爺は確信したかのように自信満々だった……かくして私は生まれて初めて王都ガリアンへ赴くこととなる




 第4話 ~ 大賢者の記憶 ~ 終わり

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