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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第三十七話 ~ 王都ガリアンの休日 ① ~ 



 第三十七話 ~ 王都ガリアンの休日 ① ~  


 入学当初は、漂流者のような風貌と爺のウンチク演説事件もあり変人扱いされていた上に"問題児の特別入試生"から目を付けられていた事もあり殆どの生徒はマノンとの関わる事を避けてきていた。


 しかし、"問題児の特別入試生"が居なくなったこと、そして素直で表裏の無い性格や他の生徒に親切に勉強を教えたりする事もあり、王立アカデミ-の生徒でのマノンの評価は次第に良くなり高くなっていた。

 そこに髪を切り、本来の風貌を取り戻したマノンは女生徒から絶大な人気を得ることとなる。


 そんなマノンを以前からずっと見ている女生徒がいた。

 彼女はマノンが入学した時からマノンの事が気になっていたが入学式の一件もあり思いとどまっていたのだった。

 しかし、最近のマノンを見ていると徐々に気になるようになり、遂に行動を起こす事とになる。


 彼女の名前は、マリレーヌ・アルシェ……17歳、王都ガリアン出身の薬学科の卒業科目に在籍中、実家は王都で乾物商を営む商家の一人娘である

 艶のある黒髪は長く、身長やや高めの170センチの細身であるが胸はない……

 女子だった頃のマノンに似た体格である。


 性格は、冷静で沈着、商家の一人娘だけの事はあり計算高いが自分には正直である……。

 友達と言える友達はなく、一人で読書と勉強をしていることが多いが本人はそれが気に入っている。


 マノンを選んだのも外見だけではなく、その才能に魅かれたといってよい。

 彼女の実家が乾物商で特に薬の材料となる薬草などの生薬を多く取り扱っており自分の伴侶として最適と弾き出した結果であると本人は思っている。


 このような、動きは王立アカデミ-の女生徒の中であちこちで起きようとしているが、当人のマノンは全く知るはずもなく……。



 その頃、マノンはレポ-トを出し終えたレナと一緒に王都ガリアンの街を散歩しているのであった。


 二人きりで散歩するのは久しぶりである。

 そんな二人にマノワール村にいた頃の記憶が蘇ってくる。


 すれ違う人が時折振り返るほどに、この二人は相当に目立っているのだが当の二人は全く気付いていない。

 

 「ねえ、マノンって何か趣味とかあるの?」

レナが私に尋ねてくる


 「ん~、趣味ね……ん~」

レナの質問に困る、何も思い付くものが無い……。

 

 「私は読書かな、本が好きだから」

 「王都には本屋が沢山あって品数も豊富だから嬉しいわ」

 「でも……先立つ物(お金)が……」

レナは虚しそうにため息を吐く



 印刷技術の無いこの時代にあって書籍はかなり高価な物である。

 新品の書籍を発注し購入できるのは一部の限られた人々だけである。

 庶民が新品の書籍を購入することは極稀で古本を購入するのが普通なのである。

 この世界では庶民の言う本屋とは古本屋の事である。

 入学時に貰った"入学のしおり"も専門の業者が手掛けた手書きである。

 本好きにとっては地獄のような世界なのである。


 

 かつて、入試の時にカルベネの本屋でレナが購入した古本も200ガリア・フランの値札が付いていた。

(1ガリア・フランは80円ほどであるから16000円である、半値に値引いてくれたので8000円ではあったが、学生の身にはかなりの出費である)

(因みに、王都ではバケットのパン一本が2ガリア・フラン、ワインが1リットルで30ガリア・フランである)

(輸送コストなど流通の問題から物価は地方で大きな差があり、ワインの産地であるマノワール村ではワインが1リットルで10ガリア・フランである)


 そんなレナを見ていると、爺の声が聞こえてくる

 「レナちゃんは本当に本好きじゃの」

 「だったら、工房の図書室へ連れて行ってはどうじゃ」

 「どのみち、レナちゃんを工房へ招待する気じゃったしの」

爺が私に提案してくる。


 「そうだね、温泉に入っている時間はなさそうだけど」

私がそう言うと


 「問題は、二人も同時に転移できるかじゃ」

心配そうに爺が呟く


 「王都からへベレストまで相当な距離がある」

 「遠くまで転移するとなると質量上の問題がある」

 「レナちゃん……体重はどのくらいあるのかの?」

爺は真剣そうに言うので


 「レナって体重どのぐらいあるの」

 私は素直にレナに聞いてしまう


 「マ・ノ・ン……」

レナはピタリと立ち止まると私をギロリと睨む


 "あれっ……?"

私はレナの異様な殺気に体が凍り付く


 「女の子にそう言う事を聞いちゃダメなのよっ! 分かるっ!!」

 「それに、どうして急に体重の事なんか聞くの」

レナは子供に説教するかのように言う


 「それは……それは……」

私はどう対処したらよいのか必死で考ていると爺の声が聞こえてくる


 "お前さんっ! ストレ-トすぎるわいっ!"

 "年頃の女子にとっては結構デリケートな事なんじゃから"

 "それにレナちゃんは普通の女子より、ちぃ~とばかし肉付きが良いからの"

 "お前さんも女子じゃった頃に"下着(ブラジャー)のカップサイズ"をいきなり聞かれたらどう思う"

爺の"下着(ブラジャー)のカップサイズ"という言葉に私はレナにとんでもない事を聞いてしまったのだと自覚する。


 私は正直に体重を聞いたことを説明することにした。


 「今度、レナをある所に招待しようと思っているんだ」

 「そのある所へ行くには転移しないといけないんだけど……」

 「重すぎると長い距離を転移するのが難しいんだよ」

 「だから、レナの体重を聞いたんだよ」

私は正直にレナに話した。


 「……」

レナは何も言わずに俯くと体を震わせている

 「それって……私が"重い"って言いたいの……」

レナの声が震えている。


 "あれっ……?"

 "なんか、レナの様子がおかしいぞ……"

私が心の中で不安そうに呟くと爺が慌てて言う


 "お前さんっ! 交代じゃ!!"

爺はそう叫ぶと私と入れ替わる。


 「ごめんね……レナ」

 「いきなり、変な事聞いちゃって」

 「レナと二人きりで一緒に行きたいところがあるんだ」

爺は優しくレナを見つめて言う


 「そっ、そうなの、二人っきりで……」

そう言うとレナは少し俯く

 「……ちっ……ちょっと普通のより重いかな……」

モジモジしながら小さな声で言う


 "なぜっ! どうしたんだっ! レナ!!"

レナの予想しなかった態度に私は爺に焦って問いかける


 "お前さんには、わかるまい"

爺の言葉に私は戸惑うしかなかった。

 しかし、これがレナに変な誤解と期待を与えてしまった事に爺も私も気が付いていなかった。

 爺も剣の扱いは天下一であるが、女子の扱いはレベル1の勇者であった。



 第三十七話 ~ 王都ガリアンの休日 ① ~  終わり


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