第三十二話 ~ 王立アカデミ-入学 ➄ ~
第三十二話 ~ 王立アカデミ-入学 ➄ ~ 序章
薄暗い部屋の中に二人の男が秘密の話をしている。
「例の新入生は、やはり賢者の弟子なのか」
一人の男が心配そうに言うと
「まだ、何とも言えんな……」
「しかし、バロ-の報告だとその可能性は十分にある」
もう一人が言うと
「我らにとって問題なのは、大賢者の弟子なら何故に身の上を隠して入学してきたかだ」
と考え込むように言う
「既に、サン・リベ-ルには使いの者を送り調べさせてはおるが、相手がもし大賢者なら一筋縄ではいくまい」
「事が思い通り運んだとしても、サン・リベ-ルまで往復に四週間近くかかる」
もう一人が困ったように言うと
「何にせよ、大司教クロ-ドの動きに注意せねばな……」
「あ奴が、もしも大賢者と繫がっておったら、我らは破滅だ」
と危機感を顕わにして言うと、暫く沈黙の間をおいて
「今は、ルシィ医師に期待するしかないな……」
と諦めたように言うと
「あの変人女かっ」
ともう一人が吐き捨てるように言った。
第三十二話 ~ 王立アカデミ-入学 ➄ ~
私は、中級科目の講義室にいる……。
ヒソヒソ話が聞こえ、チラ見されている視線を感じる。
初級科目の終了認定を受けた。
その翌日の初めての中級科目の講義を受けるためにいるのだが……
居づらいというものではない。
当然、同じ1回生は誰もいなく周りは皆先輩方である。
動物園の珍獣や奇獣はきっとこのような目で見られているかと思うと同情をしてしまう。
そもそも私は、大賢者と言う肩書と無関係に普通の学生生活がしたくてここに来たのだ。
これでは、大賢者でいる時よりも人目を引いているような気がする。
一人でわが身を呪っていると
「どうした、お前さんらしくもない」
爺の声が聞こえてくる
「人生って本当に思った通りに行かないんだね」
と私が悟ったように言うと
「その若さで何を言っとるんじゃ」
「これから、桃色じゃ…なくて薔薇色の学園生活が待っておるというのに」
爺は呆れたように言う
「……そうかな、私には皆を見てると勉強に追われる奴隷生活にしか見えないよ」
私は淡々と事実を言う
「……まぁ……そう見えなくない事はないがな……」
爺も周りの現状を把握しているので事実として受け入れている……。
すると、講義室に誰かが入ってくる
講義室の講檀の上に立つと
「皆さん、お静かに……これから講義を始めます」
「本日の午後の講義はバロ-導師が急用のため、私が代わりに講義をいたします」
「私はルシィ・ランベールと言います、本来は医学科ですが薬学科の講義も心得ております」
そう言うと辺りを見回す
"げっ! ルシィだっ"と私は心の中で叫んだ……にしても随分と小綺麗だな
「それでは、出欠を取ります」
と言うと名前を呼び始める……"これはマズイぞっ!"と焦っていると
「マノン・ルロワさん」
と私の名前が呼ばれる……恐る恐る手を上げると何事も無く次の人の名前を呼ぶ
"あれっ、おかしいぞっ"とルシィの様子に疑問を持った私は爺が何か魔術を使ったのかと思い
「爺なにかした」
と聞くと
「何もしとらんよ」
爺も我関せずという感じだ
……そのまま、講義は順調に進んで行き講義をするルシィにも別に変ったこともなく講義を終えると
「今回のレポ-トは、私に提出してください」
と言うとそのまま講義室を出ていく何か変だなと思いながらも、私は講義室を出て宿舎へと戻ってから今日の講義のレポ-トを纏めることにする。
椅子に座り、今度はきっちりと写し取ったノ-トを見ながら要点と結論を導き出した後に自分なりの考えや応用を書き足す。
今まで、こんな事はしたこともなかったが爺のウンチク話が脳裏に残っていてお祈りの呪文のように浮かんでくる。
さて、そろそろ寝るとするか……そうそう、その前に風呂にでも入るとするかな
風呂と言っても、王立アカデミ-の宿舎の風呂はシャワ-のみで浴槽はない。
私は、タオルと着替えを持って一階の端にあるシャワ-室へ入る。
二人ほどいるようだが気にせずに服を脱ぎシャワ-を浴びていると隣のシャワ-室から話し声が聞こえてくる。
「なあ、シリルおまえ医学科だろ……レナって子知ってる」
と部屋越しに呼び掛けている
「ああ知ってるよ、それがなにか」
と少し口に水が入ったような声がする
「あの子、美人だよな……それに凄い巨乳だし……いいよな」
とレナ事を噂している……
"やっぱり、男はオッパイかっ!"と少しムカつく
「確かにな……医学科は女子率がすっげえ低いしロクなの居ないから特に目立つよ」
とシリルと言う奴が言っている……"やはり、レナは医学科でも目立っているんだな"
「俺の学科も似たようなもんだぜ……アカデミ-自体が女子率、異様に低いからな……」
「ところでシリルおまえ、あの子と話したりする」
隣の奴が言うと
「無いなよ、講義が別だし……」
「そう言えば、薬学科の例の新入生と同郷の幼馴染で、よく学食で一緒に昼メシ食ってたりするらしいよ」
とシリルと言う奴が言っている……"例の新入生って私の事も言か……"
「それなら俺も知ってるよ、あの新入生って目立ちすぎてヤバイんじゃないか」
「例の特別推薦の連中に目つけられてるっていうし」
と隣の奴がなに気なることを言いだす……"例の特別推薦の連中ってなんだろう"
「やっぱりな、あの連中、親の七光りでやりたい放題だし」
「……おまけにアレだろう……不正…」
シリルと言う奴が言いだす途中でが口を濁す
「何にせよ、あんまり関わらない方が身のためだぜ……」
と言うと二人はシャワ-を終えて部屋から出て行った。
自室に戻りベッドに横たわる……さっきのシャワ-室での会話が気にかかる
確か、ルシィもそんなこと言ってたよな……夕暮れの帰り道でルシィの話した事が記憶に蘇る。
なんか、嫌がらせとかしてくるのかな……。
そんなリアルな学生生活なんかは体験したくないんだけどな。
もしも、レナに手を出すようなことがあれば……。
「心配せんでもよい……お前さんたちの事は責任を持ってわしが面倒を見てやるわい」
と爺が突然言い出すとその気配を消した……爺の事だから何か策があるのだろうがやり過ぎないか少し不安だ。
それからの数週間は何事も無く流れた。
新入生たちも徐々に学園生活に慣れていき同じように私も自分の置かれた状況を受け入れつつあった。
王立アカデミ-の生徒は、学業に忙しく遊んでいる暇などない事がよく分かった。
特に二年と言うタイムリミットのある一般入試生のスケジュ-ルはシビアで理学部の生徒はその中でも更に厳しく、学生同士での不必要な付き合いは殆ど無くじつに淡白な物であった。
いつものように、午前の講義を受けてレナと待ち合わせて少し早い目の昼食をとり、中庭のベンチに座って一緒にレポ-トを考えてから宿舎に戻り纏める。
気になっていたルシィにも別に変ったこともなく……日が過ぎていく。
そういう生活を何事も無く繰り返していた。
退屈なようだが"大賢者"の肩書きを気にしなくてよい。
王立アカデミ-でのレナとの学生生活は私にとって昔に返ったようで嬉しかった。
そんなある日、いつものように中庭のベンチでレナとレポ-トを課題をしていると
「やぁ、久しぶり」
と声をかけらる……振り向くと入学当日に女子寮前で会った女生徒だった
「お久しぶりです、先日はありがとうございました」
私とレナが挨拶をすると
「私の名前はエレ-ヌ・ベクロン」
「アンタ達よりは一つ上だけど"エレ-ヌ"って呼んでね」
「ここは(王立アカデミ-)そんなに堅苦しくないからね」
そうに言うと表情が険しくなると……私たちに顔を近づけて
「あのさ、君たち特別推薦生のタチの悪いのに目をつけられてるから注意して」
急に真剣な口調になる
「出来れば、なるべく私の傍に居るようにしてね」
「私が近くに居ればそう簡単には手出ししてこないと思うから」
そう言うとにっこり笑って私の傍に座る。
私が何気なくレナの顔を見ると明らかに私を見る目に疑惑が満ちているのがわかる。
焦った私は思わず話題をエレ-ヌに振る
「どういうことですか」
と聞くと、周りを見回すと小声で話し出す。
エレ-ヌの話は端的たったが、特別推薦生でも特にタチの悪いのが二人いて私を王立アカデミ-から追い出したがっているという事。
目的のためなら、手段を択ばない事や親が王国の高官と帝都でも指折りの金持ちの子息だという事などであった。
そして最後に……自分が大司教で最高司祭のクロード卿の孫娘だという事を教えてくれた。
エレ-ヌが去り際にレナの耳元で囁いた言葉"彼みたいな子、ここじゃモテるよ"
その言葉にレナの心は動揺するのだった。
そしてこれが、"王国アカデミ-時計塔事件"の発端であった。
第三十二話 ~ 王立アカデミ-入学 ➄ ~ 終わり




