第三十話 ~ 王立アカデミ-入学 ③ ~
第三十話 ~ 王立アカデミ-入学 ③ ~ 序章
ここは、王立アカデミ-導師幹部会議室である。
入学式を終えて導師幹部五人が一息ついている。
「いや~、参ったな……」
導師幹部の一人、アナトール・ブランがため息をつく
「全くだ……普通の新入生なら早く終わらせたい一心で適当に切り上げるものだがな」
同じく導師幹部の一人、グレゴワール・セルトンが笑いながら言う
「しかし、全く臆することもなく、あれだけ喋るとは大した大物だ」
オノレ・バルニエが呆れたように言う
「だがな、あの者の申したこと全て理にかなっておるわ」
「間違ごうた事は一言も言うてはおらなんだ」
「そして、わしは一般入試最優秀生徒に選んだことも間違ごうてはおらなんだと思うておる」
導師総代のジェルマン・ベクレルが笑みを浮かべて言う
「お主は、アレを全部聞いておったのか……」
「わしは、最初の三十分ぐらいまでしか記憶がないわ」
と導師幹部の最後の一人、エヴラール・オービニエが眠そうに欠伸をしながら言った。
暫くの沈黙の後で
「話は替わるが、彼の専攻は薬学だったはず、担当の導師は誰なのかね」
ジェルマンが問うと
「確か……レイモン・バロー導師かと……」
オノレが言う
「あ~バロー導師か……根っからの薬学導師だな」
「初日早々からさぞや、熾烈な薬学問答になるやもしれんな」
グレゴワールが意地悪そうに言うと
「他の生徒はたまったものでないな……」
エヴラールが迷惑そうに言う
「そうか……わしは結構、楽しみにしているがな」
アナトールは楽しそうに言うのだった。
彼らが呑気に会話をしている頃、マノンは爺に代表生の挨拶を任せたことを後悔しつつ、必至に講義の時間割を考えているのであった。
第三十話 ~ 王立アカデミ-入学 ③ ~
初めての講義がこれから始まる。
他の生徒は皆、明らかに私を避けている。
私の座っている席の周囲には誰も座っていないからだ。
"これもすべて爺のせいだ"、これからどうやっていくか考えただけで頭が痛い…。
"それに、入学式の時に姿が見えなかったルシィさんの事も気になるし…"
悩み事だらけで途方に暮れていると、薬学担当の導師が講義室に入ってくる。
講義室の教壇に立つと大きな声で
「初めまして貴方達、新入生の薬学担当導師のレイモン・バローです」
「これから、貴方達の導師を二年間担当することとなります」
言うと辺りを見回すと人だけ孤独にポツンと座っている生徒がいる。
"彼だな"とバローは心の中で呟くと
「では、本日の講義の出欠を取ります、名前を呼ばれたら手を挙げてください」
順番に講義申込者の名前を呼んでいく
「マノン・ルロワさん」
バロ-が呼ぶと一瞬、講義室が静まる。
そして、マノンが手を挙げると辺りからヒソヒソと声が聞こえてくる。
……嫌な雰囲気だ……。
出欠を取り終えるとバロ-は出欠簿を机に置きチョ-クを手に持つ
「それでは、薬学の初級の講義を始めます」
バローが言うと周りが静かになると、薬学の基礎知識を黒板に書きながら説明を始める。
講義のペ-スは早く生徒たちは黒板に書かれては消されていく内容をノ-トに書き写すだけで必死になっている。
そんな中でノ-トも取らずにボケッとしている生徒が一人いる……そうマノンだ。
周りに人がいないのでただでさえ目立っているのに更に悪目立ちしている。
マノンは、これからの事で頭がいっぱいで講義の事は忘れているのだった。
傍から見れば、まるでやる気の無いように見える。
当然、バロ-の目にもそのように映ったのだった。
バロ-は講義をしながらマノンを定期的に見ていたが一向にノ-トをとる様子がない。
バロ-はマノンが午後の試験で満点を取っていることを知っていたが、マノンのまるでやる気の無い態度は我慢がならなかった。
しかし、他の生徒が熱心に講義を聞いてくれているのに途中で講義を中断するのは気が引けた。
講義終了の時間になると、バロ-は大きな声でマノンに怒りをぶつけた。
「マノン・ルロワさん、貴方は今の講義を聞いていましたか」
「私には貴方が真面目に講義を受けているようには見えませんでした」
マノンに強い口調で言う
いきなりのバロ-の大声に周りが静まり返る。
講義に参加していた生徒全員の視線がマノンに集中する。
心ここにあらずのマノンはハッとして我に返る。
他の生徒も突然の出来事に動揺を隠せない。
「はっ! すいませんっ!! 考え事をしていました」
私は慌てて言うと
「初日の講義中に別の事を考えていたのですか、でしたら今後は私の講義には出席しないで下さい」
そう言うとバロ-は出席簿からマノンの出欠表を抜き取るとマノンにつき返した
「えっ!」
「ちょっと待って下さいっ!」
私は焦り困ったかのように言うと
「確かに貴方は、優秀な成績でアカデミ-に入学しましたが、講義中に別の事を考えてノ-トも取らないでいるようでは困ります」
言うと講義室から出ていこうとした
「ノ-トは取っていませんでしたが、聞いてはいました本当です」
私は焦ってその場しのぎの嘘を言ってしまった
「本当ですか……では、講義の内容はわかっていると」
「いいでしょう……」
「ではこれから先ほどの講義の内容を言ってもらえますか」
バロ-は疑いの眼差しで私を見る
「えっ!」
"どうしよう…講義なんて全然聞いていなかったよ…"
私の額から脂汗が滲み出る、その時……
「仕方がないの、わしのせいでもあるから…助けてやるわい」
といつもの声がすると体の感覚が鈍る…爺と入れ替わったようだ
爺は、呆けているマノンとは違って、王立アカデミ-の導師の能力を測る為にバローの講義を聞いていたのである。
爺は、私と入れ替わると講義の内容を解説付きで話し出す。
当然、ウンチク魔の爺だから調子に乗ってくると講義の内容よりも遥かに奥深く高度な薬学知識が必要なことまで語りだす始末だった。
それを聞いている、バロ-の表情と顔色が変わっていく
「もう、いいでしょう……」
「確かに貴方は講義の内容以上の事を完全に理解しているようです」
感心したかのように言うので
私は、これで出席停止にならずに済むと安心したが
「ですが、貴方の出欠表はそのままお返しします」
と無表情で言う
"えっ! そんな!!"
私は困惑して叫ぶと
「貴方には、初級科目終了認定を出しますから、次の科程へ行って下さい」
「中級科程への進級を許可します……」
「そこで会いましょう」
そう言うと何事も無かったように講義室を出て行ってしまた
静まり返った講義室に残されたマノンと他の生徒は呆然としていた。
しばらくして、沈黙は称賛の声へと変わっていった。
それは多少???、変わっていても優秀な者は認めるという完全実力主義の根付いた王立アカデミ-の生徒ならではの考え方の現れれだった。
皮肉にも今度は、爺のウンチクに救われることとなったのだが……喋り足りなかったのか爺は少し不機嫌そうだった。
「随分と強烈な新入生だな……」
「私が想像していたよりも遥かに……」
講義室を出たと同時にバロ-は呟く、その口元はに微かに笑みが浮かんでいるのであった。
かくして、マノンは初日で初級科目終了認定を習得するという前代未聞の荒行を成しえるのだったが、再び講義の時間割をやり直すことになってしまうのだった。
同じ日に、王立アカデミ-の正門前に一台の馬車が到着した。
馬車のドアが開くと瓶底メガネをかけた少し小汚い大きな女性が大きな荷物を持って降りてくる……」ルシィだった。
医師である彼女は、王国の要請により長期にわたってロ-ル川に駐屯している兵士の健康状態を調査するために王立アカデミ-から短期派遣されていたのだった。
「やっと着いたわね……もう、入学式は終わっているけど」
「大賢者様は、どうしていらっしゃるのでしょうかね」
そう一人言を言うと荷物を引きずりながら門を潜り王立アカデミ-の中へと姿を消していった。
第三十話 ~ 王立アカデミ-入学 ③ ~ 終わり




