第二十六話 ~ 王立アカデミ-受験➁ ~
第二十六話 ~ 王立アカデミ-受験➁ ~ 序章
机に試験問題と解答用紙が配られる。
教官が全員に用紙が行き渡ったかを確認する。
庁舎の鐘の音とともに試験が始まった、二人の試験官は不正がないかを厳しく見張っている。
静まり返った部屋の中にペンの走る音だけがしている。
そんな、静かな激戦場で一人だけ他の事を考えている者がいた。
「爺っ…どうしよう…ルシィがいるよ」
「もしも、入学出来たらその時にルシィには訳を話そうと思っていたのに」
「いきなり、出会うとは思わなかったよ…」
私が焦ったように言うと
「ん~このままでは正体がバレてしまうな…仕方がないな」
「…あれを使うか…」
爺が困ったように言う
「あれって……なに?」
私が聞くと
「視認阻害の術じゃ」
爺が聞きなれない術の名前を言う
「それ何……?」
私が聞くと
「目くらましのような術じゃ…??この術でルシィの目を欺く」
そう言うと爺は何やら術を発動した。
「これでいいぞ、気付かれないはずじゃ…安心して試験を受けるがよい」
と言うと爺は気配を消した。
これで気にすることなく試験が受けられる。
約三週間の苦行の成果を見せる時が来たのだと私は思った。
第二十六話 ~ 王立アカデミ-受験➁ ~
いざっ! と気合を入れて問題用紙の問題を見ると…レナと一緒にやった問題と似たような問題が並んでいる。
"ありがとう、レナ"っと私は心の中で感謝の言葉を叫ぶ。
ふと気が付くと前のほうににルシィがいる。
部屋を歩きなから不正がないかを確認しているようだ。
ゆっくりと歩きながら私の方に近づいてくる。
心臓の鼓動が早くなる……まるでカンニングをしているような気分になる。
そして、横を通り過ぎて行った。
気付いていないようだ……安心して問題に集中すると
「ルシィちゃん、元気そうじゃな」
いきなり爺のうれしそうな声がする
「そうだね、それに身なりも奇麗だね」
私も安心したかのように答える
「じゃ、わしはおとなしくしとるから試験をしっかりな…」
そう言うと爺の気配は再び消えた。
あまり自信はないが午前の一般教養は、何とか出来たと思う。
昼食を取るために部屋を出るとレナが外で待っていた。
二人で庁舎横の広場に出ていた出店で軽い物(サンドイッチのような物)を買って広場のベンチに座り食べる。
「どうだった? マノン……」
とレナが心配そうに聞いてくる
「レナに教えてもらった所がたくさん出てたから何とかなったよ」
私が笑顔で答えると
「よかった、学校の導師に対策問題を作ってもらったの大当たりだね」
レナも嬉しそうだ
「マルティーヌ女子学校の導師が……?」
と私が意外そうな顔をすると
「そう、私が王立アカデミ-を受けるって言ったら協力してくれたのよ」
「女子で王立アカデミ-を受験する人は少ないからね」
「特にオレリア導師は凄く協力的だったわ」
レナが言うと教会の鐘が鳴る、昼も終わりだ。
これから午後の部だ問題数も少なく時間は短いが専攻科目別に専門的な知識が問われる。
出題範囲が分からないために対策が難しい、これがこの王立アカデミーの試験の最大の難関でもある。
「じゃ…」
と言ってレナと別れる
試験の前に試験官のルシィが部屋の前で受験生の確認を取っている。
「大丈夫かな……」と不安になるが
何事もなく私を部屋に入れてくれた。
「本当に気付いてないんだ……」
(*……写真のない時代なので、単純に人数を数えているだけである)
爺の術に感心しつつ私は席に着くと問題用紙と解答用紙が配られる。
もう一人の男の試験官が試験の内容と趣旨を話し出す。
「この試験は、君たちが学校では通常習わない事ばかりが出題されています」
「これは、普段から君たちが専攻している学問に対してどれだけの興味を持って知識を蓄えているかを測る為の試験です」
「合否の結果は、各市町長に連絡します」
「受験者の居住地により通知が日が前後する事がありますので了承願います」
「これで試験は終了です、終わった者から解答用紙を私に提出して退室し帰ってください」
「君たちにとっては非常に難しく解答は困難だと思いますが、最後まで諦めず頑張って挑戦してください」
と試験官がハキハキとした声で受験者たちに言った。
「では、初めててください」という試験官の掛け声で受験者が一斉に問題に向かう。
暫くすると、あちこちから小さい苦悩の声が聞こえて来る。
私も気合を入れ問題用紙を見る
「……???」
私も他の受験者と同じように思わず小さな声を出してしまうのだが……。
他の受験者とは全く違っていた。
「なにこれ…滅茶苦茶簡単じゃない…」
そう、爺のウンチクをさんざんに聞かされ、一緒に何種類もの薬作りをし、襲い来る睡魔と戦い、血の涙を流しながら「エマの書」を完全読破したマノンにとっては簡単すぎる問題だったのだ。
"エマの書"は"魔法の書"とは違い、石板に映し出される文字を読まなければならない。
今で言うなら電子ブックのような物なのだ。
爺が言うには"魔法の書"に使われている石板は"エマの書"に使われている石板より遥かに高度な代物だそうだ。
「終わってしまった……」
薬学部専攻だけあって、試験問題は幅広く薬草などの基礎知識全般に及んでいた。
が……私は十分ほどで全問題を解き終えた。
周りからは苦悩に満ちた声が聞こえてくる。
なんだか、悪いことをしているような気分になってきて、暫く呆けていると……
横から声がする、慌てて横を見るとそこにはルシィが横に立っていた。
相変わらず大きい……私が座っているせいで更に大きく感じられる。
左手の薬指にあの時に爺が送った指輪が光っている。
ちょっと待てよ……
確か右手の人差し指にだったよな……などと考えていると……
「どうしたの……諦めずに最後まで頑張ってね」
私に声をかけて解答用紙を見ると驚いたようにメガネをかけなおす。
「全部……出来ているようですね……」
とボソボソと小声で言う……
周りが静かなのでの受験者たちが驚いたように振り向くと少し部屋がざわつく。
「皆さん静かに……解答し終えているなら解答用紙を提出して退室してください」
と少し慌てたように男の試験官がいうとルシィはメガネを外しレンズを服の袖で拭こうとメガネを外した時に私と目が合った。
「えっ! だっ…」
とルシィは小さな声を出すと顔が引きつる。
同じように私の顔も引きつるのがわかる。
何も言わずに解答用紙を手に取ると男の試験官に手渡して足早に部屋を後した。
慌てて部屋を出た後にレナと約束した庁舎横の広場の昼食をとったベンチへと向かう……
「バレたよな、絶対バレたよな……」
私は爺に動揺して言うと
「あれは、間違いなく気付かれたな…しかし…どうして…」
「そうかっ! 確かルシィちゃんメガネ外しとったな、それが原因じゃ」
どうやら爺には謎が解けたようだ
「どういうことなの?」
私が聞くと
「あの術はな自分の周りの空気をレンズのようにしてをぼやかして見えにくくする術でな」
「簡単に言えば、人が近くの物を見ていると遠くのものはぼやけてよく見えないから人の脳はそれを認識しなくなるのを利用しているのじゃ」
「じゃが……ルシィちゃんは瓶底メガネのド近眼じゃから逆に空気がメガネの代わりになってハッキリと見えてしもうたのじゃ」
「さて……どうしたものか……」
と爺は考え込んでいる。
「ルシィの事だから、悪いようにはしないと思うよ」
「なんとなくそんな気がする」
私が言うと
「そうじゃな……」
と爺も納得したようだった。
試験の時間は約90分なのでもう少し時間がある…私はレナの事が気がかりだった。
「大丈夫かな……レナ……」
と私はレナの事を考えながら広場のベンチに腰を掛けている。
少し寒いが日差しが心地よい。
庁舎からは、受験者らしき人はまだ誰も出てこないようだ。
皆、苦戦しているんだろうな…と考えていると、市庁舎の鐘が鳴る。
どうやら、試験が終了したようだ。
一気に人が出で来るのが見える……皆、受験者たちだ。
人の群れからレナが少し走ってこちらに向かってくるのがわかると、私はベンチから立ち上がり手を振るとレナも手を振りながら走ってくる。
「どうだった…マノン」
と私にやや不安そうに聞く
「簡単すぎて十分ぐらいで終わっちゃったよ」
と何気なく言うと
「ほんとに…私は解らない問題ばかりで苦労したわよ」
「解けなかった問題も幾つかあったし」
「……私……大丈夫かな……」
とレナは少し不安そうに言う
「きっと大丈夫だよ……一緒に王都にいこうね」
と私は笑顔で言ったがレナはやはり不安そうだった。
まだ、時間もあるのでレナと一緒にカルベネの街を散策することにした。
そうするとレナが
「私、行きたいところがあるの」
と言って私の手を引く……そのまま引っ張られていくとそこは街の教会だった
「ここで神様に合格しますようにってお願いするの」
と言うと教会に向かって歩き出す。
この国の街造りの定石どうりに教会の前には広場があり、そして……あの恥ずかしい銅像が立っている…。
ここへ来る道中の町や村にも必ずと言ってよいほどにあの恥ずかしい銅像が立っているのだった。
私は、足早に恥ずかしい銅像の前を通り過ぎると教会の中に入る。
……そこにはまたしてもこの国の教会の定石どおりに恥ずかしい巨大絵画が壁に掛けられている。
そう私は、教会へ行くのはあまり気が進まないのだ……そうすると
「恥ずかしいとはなんじゃっ! 恥ずかしいとは」
と爺が文句を言ってきたので
「爺はそこら中に自分の銅像って恥ずかしくないの」
「それにさ…爺があんなにカッイイとは思えないんだ……本物はただエロ爺だし……」
と私が不審そうに言うと
「失礼なっ! 若いころは女子にはそれなりにモテたぞっ!! 」
「それに男がエロいのは子孫を残す上で当然の事じゃ!!!」
と爺が言い出す……
ヤバいこれは、爺のウンチク講座の始まりの兆候だこれ以上余計なことを言うのは止めようと私は直感したのでレナの方に気をやった。
レナは教会の祭壇の前に跪くと両手を合わせて祈っていた。
私も隣に跪くと同じように祈った。
しばらくの間、静かな時間が流れていく…。
私としては、この教会の御利益をそんなに期待していない。
何故ならこの教会の"神"="爺"なのであるからだ、当然、レナには何も言わないつもりだ。
"これが本当の知らぬが仏"と言うやつなんだろうななどと思いながらも、お祈りをするレナの真剣な表情に罪悪感を感じるのであった。
暫くして、二人とも何も言わずに立ち上がると顔を見合わせる。
「それじゃ、出ようかと」
と私が言うとレナも頷く
教会を出ると街の大通りを散策しながら歩く。
それなりの規模の都市なので、いろいろな商店が軒を並べている。
レナは衣服や小物を売っている店のウィンド・ショッピングを楽しんでいる。
当然だが、田舎の村にはない品物ばかりだ。
レナが書店を見つけ入りたがるので入ることにする。
書店に入ると店内には、古びた本が所狭しと積まれている、その奥で店主が店番をしている。
「何かお探しですかな……」
何処となく不愛想なお年寄りの店主が声をかけてくるとレナは
「医学書ってあります」
と奥にいる店主に尋ねる
「学生さんかい、その角の奥にあるよ……好きなだけ見ていきな」
薄ら笑いを浮かべると気前よく言ってくれる。
見かけによらず良い人のようだ……。
「ありがとうございます」
とレナは大きな声でお礼を言うと医学書の置いてある方に歩いていく
とても嬉しそうに目を輝かせて本棚に並んだ医学書を手に取るとペ-ジを開く、そしてまた次の本を手に取り………。
その様子を見ていた私はレナが本好きなことを思い出していた。
村には書店なんてないので欲しいものは取り寄せてもらうしかないのだ。
私にとっては背中が痒くなってきそうな場所だがレナにとっては素敵なところなんだろうなと思った。
私はそんなレナをボォ~って見ていた。
どれくらい時間がたったのだろうか、日が傾き教会の鐘の音が聞こえてくる。
「やだ……もうこんな時間……」
「ごめんね、マノン長くつき合わせちゃって……」
「ちょっと高いけどいいかっ」
そう言うと一冊の本を手に取ると店の奥の店主のところに持っていく
「あの……これ下さい」
レナが本を差し出すと店主は
「学生さんだろ……値札の半値でいいよ」
微笑みながら言う
「えっ、いいんですか本当に」
レナが驚くと
「いいんだよ、こんな薄汚い書店の本棚で埃被ってるぐらいならアンタみたいなベッピンさんの本好きの所へ行った方がいいに決まっている」
「アンタ達、この街の者じゃなさそうだね」
店主が聞いてくると
「はい、サン・リベ-ルの近くにある村からアカデミ-受験にこの街に来ました」
とレナが言うと店主はちょっと驚いた顔をすると
「……確か、サン・リベ-ルって死熱病騒ぎのあった所じゃないのか」
「宿はあったのかい……ここら辺の宿屋は泊めてくれないんじゃないのか」
とても心配そうに言う。
その時、私はこんな所にも風評被害が出ているのかと思っていると…レナが
「なんとか二人部屋が一部屋見つかりましたので」
「大通りから二つ入った裏通りにある宿屋です」
それを聞いた店主の顔がまた変わる
「そこの若い兄さんと一緒なのかい」
そう言うと…なにか言いたそうにこっちを見ると言い難そうに
「嬢ちゃん…あの…あの辺りの宿はな……その……」
「普通の宿屋でなくて…つまりその…男女が不純でいかがわしい行為をする専門の宿でな…」
(*……要するにラブホテルである、マノン達のような田舎者にはそんな物の存在など知る由もない)
と申し訳なさそうに言う
「えっ!!!」
二人合わせて驚く。
書店を出ると二人して夕食をとりそのまま宿屋に戻る…私もレナも終始無言であった。
昨日のように、シヤワ-を浴びて寝間着に着替える…何とも言えない気マズさが支配する。
「もう、遅いから寝よっか」
と昨日と同じようにレナが言うので
「うっうん」
と私も返事をする
二人してベッドに入ると煩悩が私に襲い掛かる……かに思えたが、私はいつものように数分で眠りにつくのであった。
私が、朝起きると目の下に大きなクマを作ったレナが私を死んだような目で睨みつける。
「お前さんは……将来は修行侶にでもなって大陸中を行脚するがよいわっ!」
呆れたように爺が言う……。
その後、宿を出て帰路に就く……
道中、レナは一言も話してくれなかった。
爺も私の呼びかけに答えてくれることもなく……
私はトボトボとレナの後ろを歩くのであった。
第二十六話 ~ 王立アカデミ-受験➁ ~ 終わり




