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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第二十二話 ~ 帝都からの訪問者③ ~ 

 第二十二話 ~ 帝都からの訪問者③ ~ 序章



 昨日のように、兵士のお供を連れて庁舎に向かった。


 同じように兵士は庁舎の近くで待機して私たちは間借りしている部屋へと入ると部屋の中にある機器を見たルシィのテンションが上がる。


 ルシィは、置かれている機器を近くで興味深そうに見ている。

 「これだけの機材を何処から持ち込んだのですか」

と私に聞いてくる。

 口が裂けても"練成魔法でここで生成しました"なんて言えない。


 そんな事を少しでも口にしようものならこれから毎晩寝かせてもらえなくなる。


 「村にある私の家から持ってきたんだよ」

苦し紛れにそれらしいことを言うと納得してくれたのだが


 「今度、家に行っても良いですか」

と聞いてくる


 「今回の騒ぎが収まればね」

と言いながら私は作りかけの麦芽飴の入った容器を火にかけると


 「これは何ですか」

と興味深そうに鍋の液体を見ながらルシィが言う


 「麦芽飴だよ」

と言うとルシィは頭を傾げる


 「麦芽飴……ってなんでしょうか」

想像通りの質問が帰ってきたので爺に選手交代する。


 実は、庁舎に来る途中で爺と交渉済みなのだ。

 爺は、ウンチク話を真剣に聞いてくれるルシィの事が気に入っているようだ。





 第二十二話 ~ 帝都からの訪問者③ ~ 



 爺のウンチク話が始まる。

 私は寝ないように注意するだけだ……。


 「う~ん…でん粉…米や芋やトウモロコシに含まれる栄養分じゃよ」

 「これに麦芽を加えて麦芽に含まれる成分で一晩かけて分解して変化させて作る」

 「身近な物だと蜂蜜などにに含まれる成分に変える」

 「薬を作ると言うよりは料理にちかいの」

 と爺は言いながら、鍋をかき回し説明している。


 「少し時間はかかるがの……」

 「ほれ……段々ととろみが出てきて蜂蜜のような色になってきたじゃろ」

 ルシィはずっと珍しそうに鍋の中を見ている。

 「もういいかな……」

そう言うと爺はスプ-ンに粘々の麦芽飴を掬うとルシィ、シルビィ、アネットに手渡した。

 「出来立てで熱いから冷えるまで少し待ってから舐めてみると良い」

冷めるのを待って三人が恐る恐る舐めると


 「美味しいです、甘いです……」

とアネットが言うと他の二人も大きく頷いた。


 砂糖が手に入らないこの大陸にあっては甘い物といえば蜂蜜や一部の果物ぐらいで普段から甘味に乏しい食生活を送っている事もあり、麦芽飴はとても甘く感じられるのだ。


 特に、アネットぐらいの年頃の娘には立派なスィ-ツとなりえる代物だった。

 「あの~もう少し頂けますか」

とアネットがこちらを見て言うので


 「いいよ、でも蜂蜜と同じで余り食べ過ぎるとお腹を壊すからの」

と言って爺は今度は多めにスプ-ンに掬ってアネットに渡すと他の二人もこちらをみているので同じように多めにスプ-ンに掬う。


 「これは、どのような効果があるのですか」

とルシィが不思議そうに聞くので


 「まぁ、病後の栄養補給……滋養強壮じゃな」

と爺は答えると残りを三つの瓶に詰めて栓をする

 「さて、ここれから死熱病の薬を作るからの」

と言うとルシィの目が輝く


 ここからは、爺のウンチクとルシィの質問の応酬合戦である……。

 当然、私は猛烈な睡魔に襲われる、睡魔との一進一退の戦い続けていたので話の内容など聞いている余裕も無かった。


 他の二人も睡魔との熾烈な闘いを繰り広げていたのは私にも分かった。

 結局、私は睡魔に破れいつの間にか寝ているのだった。


 爺に呼び起こされた頃には薬は完成していて、寝起きに見た薬の小瓶を見詰めるルシィの姿がとても印象的だった。


 爺は、気が済んだのか疲れたのか分からないが私と入れ替わると何も言わなくなった。

 「お疲れ様でした……マノン」

とシルビィが私に言う、するとルシィが私に


 「大変、有意義な時間が過ごせました……帝都から来た甲斐がありました」

と深々と頭を下げてお礼をするのだが何もしていない私は少し心苦しかった。


 「少し遅くなったけど、昼食にしようか」

私が言うとシルビィが宿屋の主人に頼んで籐で編んだ籠に簡単な食事を用意してくれていたのでそれを食べた後で教会に向かう。


 教会に到着すると足止めされている、三人の女生徒に帰宅するように言うと嬉しさの余り三人は泣き出す。


 私も一緒に同行し近所の者達に直接説明するつもりだ。

 そうすれば少しは彼女達家族の風評被害を抑えることが出来るかもしれない。

 先ほど作った麦芽飴は彼女たちへのささやかな贈り物であり、今まで帰宅させる事を躊躇っていたお詫びでもある。

 

 彼女たちに麦芽飴を手渡し一人ずつ帰宅するのに同伴する。

 以外にも私が思ったよりも近所の人の目は厳しくはなく、私が同伴して説明していることもあり3家族とも元通り受け入れてくれた。


 全ての女生徒を送り届け、日も落ちかけた宿舎への帰り道でルシィが私の横に来ると

 「大賢者様は本当にお優しいのですね」

 「王立アカデミ-の連中なんか自分の身が大事だから絶対に死熱病患者になんか関わらないです」

 「それに大賢者様は欲も無いのですね……治療費を要求すらしない」

 「そして、偉業を誇ることも無い……」

 「貴方は本当に凄い人です……大賢者といわれるのも納得です」

 「帝都の連中だったらきっと薬の製法なんかは独り占めして金儲けするでしょうし、法外な治療費を要求するはずです」

 「間違いなく業績をひけらかして自分の出世の材料に利用しますよ」

  私がポカンとしていると

 「その様子だと、そんなこと考えもしていなかったようですね」

 「私の周りの偉い方々とは全く違いますよ」 

と言うと自分の身の上を話してくれた。


 それは、彼女が幼い頃に故郷で死熱病が流行し両親と弟が亡くなり天涯孤独となった事や、自分を引き取ってくれた優しかったお爺さんも追い出されるようにして村を出なければならなかった事。


 村はずれで同じような境遇の人々と共に過ごした事、そして孤独に過ごした少女時代などや自分が医師を目指した理由、王立アカデミ-の古臭いしきたりと腐りきった内部事情とその実態まで…全てを話してくれたようだった。


 「こんな事、話すのは貴方が初めてです。」

 「貴方だと不思議と何でも話せちゃいます……」

と言うと暫く間おいて

 「私は、もう直ぐ帝都に帰ります」

と言うとルシィは黙ってしまった。


 宿舎に着くとルシィはペコリと頭を下げると自分の部屋に再び籠もってしまった。

 その日から三日間、彼女は部屋に籠もりっきりで姿を見ることは無かった。


 私はその間、アネットに懇願されて麦芽飴を大量に作ったり、町の医者に死熱病の事や薬の事などを教えていた。

(後に女生徒を通じて町で評判になったこの麦芽飴はサン・リベ-ルの名物になり料理やお菓子作りに多用されることになる)


 新たな死熱病感染者が出ることも無く、町には平穏な時が流れた。

 村に足止めされていた兵団も帰郷を許されシルビィ達にも王都への帰還する事が出来るようだ。


 昨日は、爺が魔法工房に欲しい物があるというので久しぶりに村に帰りレナとも会ってきた。

 すっかり、元気になっていたので安心した。


 以前のようにレナの部屋でお茶とクッキ-を御馳走になり話をした。

 机の中の日記の事をいうと、レナは"見てもいいけど責任とってくれる"というので遠慮した。


 そして、四日目の朝にいつものように朝食を取っているとシルビィとアネットがやってきた。

 「マノン……私たちは今日の帝都へ向けて出発します、ルシィ先生も一緒です」

 「ルシィ先生ももうすぐ、こちらに来ると思います」

とシルビィが報告するように言うと私の前の席に着いた


 「随分と急な出発だね……」

と私が驚いたように言うと

 

 「はい、私達も昨日の夕刻に使者が来て知りました」

 「名残惜しいですが今日でお別れです」

とシルビィは少し寂しそうに言った


 そうしていると、ルシィが食堂にやってきた。

 また、ゾンビ化しているかと思ったら清潔そうだった。

 「大賢者様、おはようございます」

と言うと私の隣に座りこちらをチラチラ見ながら朝食を食べだした。


 私は予想外のルシィの姿に少し驚き彼女を見ていると目が合う

 彼女は少し赤くなって目を逸らした。

 ルシィの様子を伺っていた私がふと前を向くと、シルビィが不機嫌そうな顔をして私を見ている。


 その横でアネットは私を睨みつけている……その瞳になぜか殺意を感じる……。


 そうすると爺の声が聞こえてくる

 「三人とも今日でお別れか……寂しくなるのう」

と小さな声で言うと


 「そうだね」

と私も小さな声でいうと


 「わしはルシィちゃんが気に入っててのう「

 「何か贈り物をしたいと思うて用意してきたのじゃが」

 「少しばかし時間をくれんかのう」

と言うので私は快く入れ替わった……がこれは大失敗だった。


 私と入れ替わると爺は横で食事をしているルシィに

 「これは、わしからの贈り物じゃ」

と言っていきなりポケットから指輪を差し出した。


 突然の事態に私もルシィもシルビィもアネットも凍りつく

 「ちっ! ちょっと待て爺っ!!」

と私の必死の叫び声も届くことは無かった。


 爺は、呆然としているルシィの右手の人差し指に輝く指輪を嵌めた

 「ありがとうございます……一生この指輪は外しません」

と嬉しそうに指輪を見て言う、目には少し涙が滲んでいた。

 そして、私もこれから後の事を考えると涙が滲んできた。


 「大・賢・者・様っ」

とアネットが大きな声で言う

 その目は極悪非道の大悪党を見るかのようである。

 その横で、シルビィは魂の抜けた廃人と化した様に呆然している。


 そんな中で修羅場で爺が

 「安心せいっ! ちゃんとお前さんの分も用意してある」

と自身満々に言うとポケットからもう一つ指輪を出した


 「へっ! なんなの?」

と私が困惑していると魂の抜けた廃人と化しているシルビィの右手をとると直ぐに入れ替わる


 「さあっ! わしからの心ばかりのサプライズじゃ……後はよろしくなっ!」

と言うと気配が消える


 「じっじっ爺っ~!!!」

と私が心の中で断末魔の悲鳴を上げているとアネットが期待の眼差しで私をじっと見詰めている。

もはやこれまで……。

 落城寸前の城主の心境を悟りは観念して右手に指輪を嵌めようとするとシルビィはいきなり右手を引っ込めて左手の薬指を出す。


 「えっ!」

 焦って私がシルビィを見ると円満の笑みで私を見ている。

 私の脳裏に般若と化したレナの顔が浮かんで凍りついたように手が止まる……。


 それを見ていたアネットが無理やり指輪を嵌めようとする。

 「アネットっ! おまえって奴は……」

と私が恨めしそうに言うと


 「往生際が悪いですよっ……だっ、大賢者様っ!」

と満身の力を込めて指輪を嵌めようとする


 「うぐぐぐっ」

二人で腕相撲の様相を呈していると

 「はいっ、どうぞっ」

と言ってルシィが横からアネットの見方をする


 「ルシィっ!……お前もか!」

私は、親友に裏切られた何処かの皇帝のようなことを言う


 結局、指輪はシルビィの左手の薬指に嵌まる事となってしまった。

 「ルシィ、どうしてアネットの見方をしたんだ」

と私は息を切らしながら問うと


 「アネットさんの見方をした方がいいような気がしたもので……」

 と申し訳なさそうに言う


 こいつ、ああ見えて本当は場の空気を読むのがムチャクチャ上手い世渡り上手なやつじゃないか……と私は思った。


 何にせよ、この事がレナの耳に入ったらお説教は間違いない。

 私は、三人を見送った後、自分の部屋に戻るとベッドに寝転びルシィの事を考えていた。


 きっと、苦労してきたんだな……

 何もかも犠牲にしてきたんだ。


 でも風呂ぐらいには入って欲しいよな……。

 などと考えていると


 「どうした、お前さんらしくも無く感傷に浸っているようじゃないか」

と爺が言うので


 「一度、帝都の王立アカデミ-って所に行って見ようかな……」

と何気なく言うと


 「ほお~シルビィちゃんと交わる気になったのか」

と爺がニヤけた声で言うと


 「でも………そうすると国王陛下に会わないわけにいかないんだね」

 「……」

と私が小声で言うと

 「お前さん、本気でシルビィちゃんと……お前さんにはレナちゃんがおるじゃろ」

爺が驚いたように言う


 「そうじゃないよ……本当に"交わりの儀"ことなんて考えていない」

 「本当に行ってみたいだけなんだよ、王立アカデミ-って所に」

と私はゆっくりと言うと


 「だったら……皆に内緒でこっそりと行けばいいんじゃよ」

 「こっそりとな……」

爺は意味ありげな笑いを含めながら言う


 「じゃ……行こうかな……内緒でね」

と私は帝都の王立アカデミ-に行くことを決意した。


決して、レナのお説教が怖くて逃げ出したのではない……。


 第二十二話 ~ 帝都からの訪問者③ ~ 




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