第二十話 ~ 帝都からの来訪者① ~
第ニ十話 ~ 帝都からの来訪者① ~ 序章
教会の鐘の音で眼が覚めた。
服を着替えて、食堂に行くとそこにはシルビィとアネットもいた。
私が来たことに気付いたとたんにシルビィの態度がよそよそしくなる。
「おっ、おはようございますっ、大賢者様っ」
とシルビィが挨拶をするとその横でアネットがチラチラこちらを見ながらス-プを飲んでいる。
「おはよう、アネットもおはよう」
と私が言うとアネットも小さな声で挨拶した。
「昨日はゴメンね、変な物見せちゃって」
と私がシルビィに謝るとシルビイの顔が真っ赤になる
「そっ、そんなことはございませんわっ!!」
とシルビィが緊張したかのように言うと
その様子を見てアネットの顔も真っ赤になる。
シルビィの様子を見てアネットの頭の中では、あの後に浴室で何があったのかに想像を巡らさずにはいられなかった。
もしかしたら、あの後で二人は……とよくある乙女の妄想が止まらないでいた。
私が食事を終えて出て行くと、すぐさまシルビィを問いただす。
「シルビィ様! 昨日あの後で浴室で大賢者様と何があったのですかっ!」
とシルビィに詰め寄った
「あのっ……のっ……」
とシルビィは顔が更に真っ赤にしてもじもじしている姿をみて。
「もっもっもしや……おっお二人は昨日、浴室でっ!!!」
と妄想が頂点に達するアネットに
「実は、大賢者様のアレを間近で見てしまいました」
とシルビィは恥ずかしそうに言うと
「へっ……?」
アネットは妄想が一気に萎んでゆくのを感じた。
「それだけ?……ですか」
と目をパチクリさせながらシルビィにいうと
「そうです……」
と言ってコクリと頷くと頬を赤らめてもじもじしている。
アネットは二人の将来に一抹の不安を抱くのだった。
第ニ十話 ~ 帝都からの来訪者① ~
私がサン・リベ-ルに来てそろそろ一週間が過ぎようとしていた。
病気の早期発見と発病前の薬の使用により重篤になった者はいなかったものの、ここ数日の間は色々と町中を調て回ったが死熱病の感染源が分からなかった。
感染源を特定しない限り新たな感染者が出てしまう。
最初の発病者の女生徒三人の家族にも感染者はなく、マルティ-ヌ女学校に感染源があるらしいことは確かだと思うのだが、いくら調べまわっても感染源が分からずにいた。
今日は、様子見もかねて教会まで発病した女生徒三人にも発病までの経緯を聞き取るつもりでいる。
随分と回復していると教会のシスタ-からは聞いているが、町中調べまわっていたので暫く行っていなかったから丁度良い機会だと思っている
教会に到着すると司祭が迎えてくれた。
司祭の案内で礼拝堂に入るとそこには女生徒三人がベッドに座り家族と対談している姿があった、随分と回復したものだと私は思った。
私に気付いた女生徒は談話を止めて軽く頭を下げた。
「調子はどうですか」
と私が容態を問うと
「おかげさまで凄く良くなりました」
「生きていられるのが不思議なくらいで、これは夢なんじゃないかと思う時があるぐらいです」
「本当にありがとうございますっ!」
一人の女生徒が泣きそうになりながら言う
「もう、大丈夫そうだねもうすぐ家に帰れると思うよ」
と私が言うと三人は涙を流している、傍いる者たちも涙ぐんでいた
「あの……すまないが最後にもう一度、触診をしてもいいかな」
と私がすまなさそうに言うと三人は顔を見合わせ
「……はい……」
と恥ずかしそうに言う
私は、順番に三人の胸に手を当てて病気の状態を探る。
病気でうなされていた時とは違って三人とも顔を真っ赤にして俯いている。
慎重に探っていく、病巣は消えてなくなっている……完治だ。
「もういいよ、治ってる、家に帰って普通に暮らせるよ」
「私が保証するよ、でも暫くは無理は禁止だよ」
と私が言うと
「よかった、本当に生きて家に帰れるのね」
と周りの者たちが口々に言う
そんな中で、私は三人に発病するまでに何か学校で変わったことはなかったかと質問する
三人は顔を見合わせて暫くなにやら話し合っていた。
そうしていると、一人の生徒が言う
「私たちの他にもう一人、発病した子がいると聞きましたがその子はどうしていますか」
と私に言うので
「レナの事かな?……同じように回復しているよ」
と答えると
「やっぱりレナちゃんだったんだ」
「だとしたら……あれかもしれない」
と三人が顔を見合わせる
「私たち三人は幼い頃からの友達でマルティーヌ女学校でもよく話したりお弁当を一緒に食べていました」
「ある日、お弁当を食べた後に校舎の裏で死んでいる渡り鳥を見つけたんです」
「可哀想に思い校舎の裏の木の根元に埋めたんですけど」
「それを一緒に手伝ってくれたのが偶然にその場に居合わせたレナちゃんだったんです」
と教えてくれた。
「ありがとうっ! 病気の原因と感染源の見当がついたよっ!!」
と言うと私は直ぐにシャベルを借りて校舎の裏の木に向かった
「三人の話だと、この辺りだね」
見回すと木の根元に石が不自然に置かれたところがある。
私は、心の中で爺を呼び出そうとすると
「何か用かな……」
と爺の声がする
「死熱病の感染源らしき物がここにあるかもしれない」
と私が木の根元を見ながら言うと
「慎重にすることじゃ、お前さんも感染しするやもしれん」
と爺が真剣な口調で言う
木の根元の石を退けて土を掘り返すと渡り鳥の屍骸が出てきた、爺が感知魔法を発動する。
「間違いないの……これが感染源じゃ」
私にも見ただけでも渡り鳥の死骸からは医療魔術を施した時と同じ赤くて熱い何かの感触がわかる。
爺の説明では、本来はこの渡り鳥にしか感染しない病気だが何かの変異で偶然に人に感染する事がある。
人間には、全く免疫がないので病気は一気に人々に広がり重篤化してしまう。
だからこの渡り鳥が越冬するこの地域のこの時期に発病者が出るのだと。
感染源が分かれば簡単なことだ、この鳥の屍骸と接触しないことだ。
私は、町長のところに出向くと事の次第を詳しく話した。
町長は、直ぐに住民全員をかき集めて渡り鳥の屍骸を探して火で焼き払うように指示する。
その結果、何羽もの屍骸が見つかり完全なまでに火で焼き尽くされた。
宿舎に戻った私は部屋で一息ついていた。
これで、死熱病の以前のような大流行は防げるかもしれないと思ったからだ
そうしているとドアをノックする音が聞こえる
「大賢者様、いらしゃいますかアネットです」
「用件があります、お入りしてもよろしいでしょうか」
とドアの外から声がする
「どうぞ」
と言うとドアが開きアネットが入ってきた
「大賢者様、実は御相談がありまして」
「先ほど、帝都より使者が参りまして」
「今回の死熱病の件に関してどうしても大賢者様のお話をお聞きしたいという王国アカデミ-の医師がおります」
「気の早い者のようでして既に帝都を立ちもうすぐこちらに到着するとのことです」
「誠に勝手なことではありますが御協力を願えないでしょうか」
と申し訳なさそうに言う
「いいよ」
と私は軽く返事をした
「ありがとうございます」
とアネットが言うと何か言いたそうに私を見ている
「他にも何か……あるのかな」
と私が言うとアネットの目付が変わった
「不躾と存じますが……」
「大賢者様はシルビィ様の事をどのように思っておられるのでしょうかっ!」
と私に真剣な表情で聞いてきた
「えっ?……どう思っているって」
と私が焦ったように言うと
「単刀直入に言いますと……」
「将来、シルビィ様と"お交わり"になる気があるのかとお聞きしているのです」
「このようなことをお聞きするのは不躾と存じますが、大賢者様は女子に大変な人気がおありです」
「私としては、YESかNOか態度をはっきりとさせて頂きたいだけです」
とアネットが口調を強めて言う
「まっ交わるだなんて……そんなのまだ考えてもないよ」
「私は、まだ15歳なんだよ、もうすぐ16歳だけど」
「それに、国民兵学校にも行かないといけないし、そのあと徴兵もあるし」
と私が慌てて言うと
「何をボケた事をいっているのですかっ」
「大賢者様は国家間協定と国王陛下直々の特例により兵役は免除されています」
「王国導師にでもなるならともかく、教師より知識のある大賢者様が学校へ行く必要がありますか」
「例え徴兵でも、大賢者様が王国の兵士として国境に出張ってきたら国境を接している他国はビビッてえらい事になってしまいます。」
「それに、シルビィ様はもうすぐ19歳です、そろそろ相手を決めないとヤバい年なんですよっ!」
「おわかりですかっ」
「私のように(アネットは16歳)悠長に待っている時間はないんですよっ!!!」
「国王も口にはしませんが心配しておいでです」
「ですから、この前もシルビィ様にその気があるならと招待状をお出しになったのです」
*……この世界では王族は成人する前に婚約し成人する15歳前後で嫁に行くのが当たり前で早ければ12歳で嫁に行くこともある。
50歳に満たないこの世界の平均寿命の観点からも19歳は(現代の30歳ぐらいの感覚)王族としてはかなりヤバい年齢です。
(因みにガリア王国は徴兵制があるので男性は平均20歳前後で女性は17歳前後である)
と更に口調を強めて何か言おうとする……が、その後ろにいつの間にかシルビィが立っていた。
「ア~ネ~ッ~ト~」
とシルビィが体を震わせながら言うと
「ヒィィィィ、シルビィ様っ!!!」
と言うと見る見るアーネットの顔から血の気が引いて真っ青になっていく
「大賢者様、失礼しました」
「この者の申したことは気になさらないで下さいね」
と笑顔で言うとアネットの首元を後ろから掴むと引きずるようにしてドアを閉めた
外から微かにシルビィの声とアネットの断末魔の声が聞こえている。
私は聞こえないふりをした。
暫くすると、またドアを叩く音がする
私は恐る恐るドアを開けた。
そこには私よりも背の高い大人の女性が大きな鞄を持って立っていた。
瓶底メガネにややくたびれたコ-トを羽織り背丈はゆうに180センチを超えているのがわかる
寝ぐせの付いたような短めの金髪、よく見ると顔立ちは整っているようだ。
「大賢者様ですか、お初にお目にかかります」
「私は王国アカデミ-医師のルシィ・ランベールと申します」
「今回の死熱病の件でお聞きしたいことが山ほどあるので帝都から来ました」
「是非、お話をお聞かせ下さい、お願いします」
と言って頭を深々と下げた。
「こちらこそ始めまして、マノン・ルロワと申します」
「お力になれるとどうかは分かりませんが、答えられることはお答えしたいと思います」
と挨拶をしたら
「早速ですが、今回の死熱病の治療に使われた薬についてお聞きしたいのですが」
「どのようにして薬草の効力を検証なされたのですか」
「薬の調合の割合はどのようにしてお決めになられるのでしょうか」
「服用量はどのようにして定められたのでしょうか」
「それと……」
入り口に立ったままで、次から次へと質問してくる……こっ、答える暇も無いっ!
この人、気になりだしたら周りが見えなくなる人だっ!
"助けて爺っ!、出番だよっ!!"
何回も心の中で爺に叫ぶが何の返事も無かった……。
その間も、絶え間なく質問が飛んでくる。
"ヒェ~助けてよ爺っ!"
私は、あの時にアネットに何気なく返事をしたことを心から後悔した。
第二十話 ~ 帝都からの来訪者① ~ 終わり




