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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第197話 ~ 収穫祭の前休日 ④  ~

第197話 ~ 収穫祭の前休日 ④  ~


序章


蒸し暑いリゾート都市"ランギロア"にある高級ホテルの最上階の一室

酔っぱらったクゥが部屋の片隅で膝を抱え何か独り言を言いながら寂しそうにしている


 「もうっ! クゥったらそんな所で何を独り言を言ってんですかっ! 」

顔を真っ赤にして酔っぱらったランファンがクゥの方へ千鳥足で近付いていく


 「あ……私って最低……こんな所で……」

クゥは何やら一人で懺悔をしている

そう、クゥは酔っぱらうと暗くなってしまうのである

その場の雰囲気を壊してしまうという、これがクゥの"酒癖の悪さ"である


一方のランファンは気分がハイになり自分の欲望を抑えきれなくなり積極的になる

のである

 「クゥったら、せっかく良いホテルで2人っきりなのにぃ~」

 「思いっきり楽しまないと損ですよっ!」

今は延期となっている"彼の地"への遠征が行われれば生きて帰れるか分からないという不安と恐怖がいつもよりランファンを積極的にしいていた


部屋の片隅で膝を抱え何か独り言を言っているクゥの手を引っ張り立ち上がらせると思いっきり抱き着いてキスをする

 「えへへへへ」

ランファンは虚ろな目をして笑うと寝室の方へとクゥを引っ張っていく


ベッドにクゥと一緒に倒れ込むとクゥの胸に顔を埋める

 「クゥっていい匂いがする」

 「これが、お母さんの匂いなのかな……」

ランファンはそう言うと自分の生い立ちを話し始める

 「私……"瓶詰の赤ん坊"なの……」

このランファンの一言がクゥを現実世界に呼び戻す


メイリンと同じでランファンには両親が居ない、と言うよりも誰だか分からないのである

物心ついた時からずっと1人だったランファンは母の温もりも家族の団欒も知らない

生まれてから18歳まで神学校で生活し同じ年の男性とは会話した事すらなかった

神学校を出た後は軍に強制的に入隊さされ"戦略級"の能力を発揮すると特務部隊へ転属する事になる


表の配属は国立研究所の研究員……

皮肉なことに自分と同じ運命を背負う事になる子供たちを造る職務に就く事になったのである

これは、ランファンにとってはその精神に大きな負担を与えることになったのは言うまでもない

ただ黙々とやりたくもない職務をこなすだけの毎日……そんな時に軍からの招集がかかる

ランファンにとっては救いの招集令状であったが国立研究所内で"異界の門"の噂を耳にする


いろいろと調べまわっているうちに"異界の門"が抱える技術的な問題

そして……リャンの行おうとしている事を知ってしまう


真実を知ってもランファンにとってはそれでも良いと思えた

しかし、クゥと出会ってその考えは大きく変わる

"この人は死なせたくない"……ランファンは心からそう思うようになっていく

ランファンにとってクゥは初めてできた同じ境遇の年上の友だった

そして、僅か2週間でクゥは何処となく母親のような大切な人になり、それが愛情へと繋がっていく

 「私……クゥに一目惚れしちゃったのね……」

ランファンは照れ臭そうに笑いながら言う

ランファンが胸の内を全て曝け出すとクゥも自分の事を語り始めるのであった……




 「ここも外れかっ! 」

 「どうやら……事前に情報が洩れているようだな」

ユーシェンが苛立ったように言う

粛清対象の"閉門派"の有力議員たちが捕まらないのである


リャンが"閉門派"の粛清に出た事は内通者により直ぐに"閉門派"の議員たちの耳に入る

予めリャンの行動を予測し準備をしていた有力な"閉門派"の議員たちは何処にその身を潜めてしまいその行方を追う事が難しくなっていたのであった


そんな中、ユーシェンの下に有力な情報がもたらされる

最優先粛清対象者の"カン・ウーシェン"の潜伏先が確認されたのである


 "即急に行動せねば、また逃げられる"

当然、これはカンとソンが仕掛けた罠である

空振りの失敗続きで焦っていた事もありユーシェンは即座にその潜伏先へと出撃する事を決断する


まさか、自分よりも格上の序列2位が敵として待ち受けているなどと考えもしないユーシェンであった


情報によると最優先粛清対象者の"カン・ウーシェン"の潜伏先は廃棄都市"ターレン"である

かつて、鉄鋼業で栄えたが鉱山の枯渇により近年廃棄された都市である

他の都市からは離れた山中にあり多くのインフラ施設がそのまま使用可能な状態で残っているとう条件は長期の隠れ場所としては最適である


漆黒の隠密仕様の戦闘服に身を包んだユーシェンたち粛清部の隊員たちが次々に廃棄都市"ターレン"へと転移していく

その数5名……全員が実戦経験のある隠密行動のスペシャリストであり"戦術級"の能力者である


一方、迎え撃つソンも"閉門派"の同士2名を同行し待ち構えていた

全員が大隊長クラスの"戦略級"の能力者である


ここに新生・アル・マノース共和国史上、稀に見る熾烈な魔法戦が繰り広げられることとなるのである




第197話 ~ 収穫祭の前休日 ④  ~



 「ルシィっ! ちょっとそこで待ってて」

 「メイリンはここでゆっくりしてて」

ルイーズとの約束を完全に忘れていたマノンは急いで魔法工房に帰り着くと図書室に置きっ放しになっている治療道具の入ったカバンを取りに行く


 「မင်းကဘာကိုအရမ်းကြောက်နေတာလဲ ငါအံ့သြတယ်။」

 「何をそんなに慌てているのかしら」

慌ているマノンの様子を見てメイリンが呟く

その横でルシィが不思議そうな顔をしてメイリンを見ている

 「အမ်... တစ်ခုခု... あの……何か用でも……」

ルシィの視線を感じたメイリンが訪ねるが当然通じるはずがない


ルシィはメイリンが何を言っている気になっていただけであるのだが

その身長と体の大きさがメイリンに恐怖感を与える

 "何だか……怖い……"

メイリンは心の中で呟くとルシィがニッコリと笑う

 "とりあえず……襲われる危険はなさそう……"

 "襲われる……あれ……何か……"

メイリンの脳裏に昨日の夜の出来事の断片が蘇ってくる


それは、酔っぱらったルシィに脱がされて体の隅々まで調べられたことであった

 "そうだった……私、この人に襲われて脱がされて……"

 "あんな所まで広げられて触られて……"

メイリンの顔から血の気が引いていき体が小刻みに震える

 "マノンっ! 早く戻って来てぇーっ!! "

隣にグリズリー・ベアがいるような気分になるメイリンてあった


すると、マノンが鞄を抱えてこちらに走ってくる姿が見える

 "助かった~"

マノンの姿が見えるとメイリンは安心のあまり体の力が抜けてバランスを崩して転びそうになる


 「危ないっ!」

ルシィはそう叫ぶと片手で転びそうになったメイリンを軽々と引き上げる


 「ありぃがぁとぉうぅ……」

メイリンは覚えたてのゲルマ語でお礼を言うのであったが、桁外れのルシィの怪力に吃驚する

 "そういえば……昨日の夜……"

 "マノン……何か……"

メイリンの脳裏に酔っぱらったルシィに抱き着つかれ白目を剥いたマノンに猛烈なキスをしているルシィの姿が断片的に浮かんでくる

 "何だったのかしら……あれ……思い出せない……"

 "まぁ……思い出さない方がいいかも……"

 "たぶん、この(ルシィ)もマノンも覚えていないようだし"

メイリンはそう心の中で呟くと中途半端な記憶を胸の内に奥深く仕舞い込むのであった


 「それじゃ! 行ってくるね」

 「夕方には帰れると思うから」

マノンはそう言うとルシィを連れてあわただしく転移していくのであった


広場の塔に転移してルモニエ商会に辿り着いた頃には昼前になっていた


 「遅いっ!!!」

怒り狂うルイーズにひたすら謝り続けるマノンとルシィであった……

 「もう、お昼だし何か簡単な物でも用意させるから」

 「それ食べてからにしましょう」

ルイーズはそう言うと女性の使用人に昼食を用意するように言っている


私とルシィは女性の使用人に案内され食堂へと向かう

そうしているとルシィが小声で話しかけてくる

 "聞いてはいましたけど……凄いお屋敷ですね……"

ルシィは辺りを見廻しながら挙動不審な動きを見せる

貧乏人が大金持ちの屋敷に言った時になってしまうアレである


食堂に案内されると直ぐに3人の女性使用人が食事を運んできてくれる

焼いたバケットを半分に切り間に肉と野菜を挟んだものであった

ルイーズとルシィ、そしてマノンの3人で食事を済まし玄関に出ると馬車が止まっている

ルイーズが治療のために手配していたようである

 「早く乗って、先方様を随分と待たせてしまっているから」

ルイーズの言葉に急かされるように馬車に乗り治療に向かう


 「例の治療に使う薬は用意してあるけど……」

 「あの……道具は持ってきているんでしょうね」

ルイーズの問いかけにマノンは"アッ"と言う表情になる

 「アンタ……まさか……忘れてきたの……」

怒りをため込むようにルイーズが言う


 「ちゃんと持って来たよ……」

 「でも、ルイーズの家の食堂に置き忘れちゃった」

マノンは申し訳なさそうに言う


 「馬鹿ッ! 何やってんのよっ!!」

ルイーズの怒りが爆発する、馬車はクルリと方向変換すると再びルモニエ商会へと戻るのであった




第197話 ~ 収穫祭の前休日 ④  ~



終わり




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