第195話 ~ 収穫祭の前休日 ➁ ~
第195話 ~ 収穫祭の前休日 ➁ ~
序章
リゾート都市の"ランギロア"……
新生・アル・マノース共和国の最南端に位置する都市である
地球で言うならば沖縄のような環境である
透き通るような美しい海と白い砂浜の続くは景観はハネムーンにもダントツ人気のリゾート都市である
そんな穏やかな波が打ち続ける白い砂浜を水着を着た2人の女性が歩いている
クゥとランファンである
白いビキニの水着姿のランファンのすぐ横を水色のビキニの水着姿のクゥが歩いている
二人仲良く笑いながら何かを話している
「もう、ホントに吃驚しましたよ」
「いきなり手を引っ張ってこんな所に連れて来られるなんて」
ランファンは迷惑そうに言っているがその表情は嬉しそうである
「ごめん……私にもどうしてなんだか……」
そんなランファンを見てクゥが申し訳なさそうに言う
「今のは嘘っ! 本当は凄く嬉しかった」
申し訳なさそうにしているクゥにランファンが笑って答える
「これからの御予定は……」
ランファンがクゥに尋ねる
「……いや……その……」
クゥは答えに困ったようにしている
「休暇は4日間でしょう……」
「良い部屋も取れましたし、3日間はここでのんびり楽しんで」
「最後の1日はお互い別行動でいいんじゃないでしょうか」
ランファンがそう言うとクゥも頷く
幸せそうに笑う2人を打ち寄せる波と降り注ぐ太陽の光がその足を洗い全身を照らす
もしも、シーが見たら確実に修羅場である
その頃、シーは他の都市の"閉門派"の議員たちと頻繁に連絡を取り始めていた
各方面の協力者たちからの内部告発ともいえる情報はシーたち"閉門派"の議員にとって"開門派"の議員を説得させる大きな武器となっていた
当然、シーたちの動きをリャンは知っており計画に遅れで初めている事に焦りを覚えていた
そこに、側近から報告書が届く……その報告書には"閉門派に"寝返った"各都市の議員の名が記されていた
"これ以上、奴ら(閉門派)をほおって置くわけにはいかんな"
"多少、手荒な事もやむをえんか……"
リャンは心の中でそう呟くと傍に居た側近の方を見る
「ユーシェンを呼べ」
リャンの命を受け取った側近は足早に部屋を出て行く
リャンによる"閉門派弾圧"の始まりであった
第195話 ~ 収穫祭の前休日 ➁ ~
マノンがルシィを連れて魔法工房へ転移した頃……
メイリンは爺のゲルマ語講座を受けていた
"ええいっ! 違うと言うとろうがっ!! "
爺の怒りの念話がマノンの頭に響いてくる
"こんな所まで念話が届いてくるなんて"
"爺とメイリン何かもめているのかな"
マノンは不安になりルシィの手を引いて急いで図書室へと向かう
「どうしたのですかっ!」
「そんなに急いで」
ルシィは状況が掴めずに困惑し慌てている
マノンとルシィが図書室に入るとパックとメイリンが熾烈な争いをしていた
"この不細工鳥っ! 丸焼きにしてやるっ!!"
メイリンが念話で罵りながらパックを追い回している
"お前のようなチンチクリンのド貧乳の寸胴に捕まってたまるか"
爺がメイリンを挑発するように言い返す
「あの……何なのですか……これ……」
図書室の惨状を見てルシィが呟く
「……あのオウム(パック)を追い回している人が……」
「さっき、話した異界から来たメイリンさん……」
マノンはバツが悪そうに言うとメイリンと爺が私とルシィがいる事に気が付く
"ねぇ、聞いてよマノンっ! あの不細工鳥、酷いのよ"
メイリンの訴えに横から爺が口を出す
"この娘、乳だけではなく脳味噌も小さいっ! "
"儂の手には負えんわいっ!!"
"お前さんが何とかせいっ!"
爺はそう言うと図書室から飛び出して何処かへ飛んで行ってしまった
私の後ろで呆気に取られているルシィの存在にメイリンが気付く
"マノン……この人……誰……"
状況が把握できずに呆然と立ち尽くしているルシィを見てメイリンが恐る恐る問いかけてくる
"この人は、ルシィ・ランベールさん"
"王立アカデミ-の導師です"
マノンがルシィの事を紹介するとメイリンはルシィの方をジッと見る
"でっ! でかっ!!"
メイリンはルシィの体の大きさに度肝を抜かれている
"あの、化け物じみた超特大のブラジャーはこの人の物なのね"
何故か変な納得の仕方をするメイリンであった
"はっ! ここは……"
ルシィは我に返ると目の前にいるメイリンの方をマジマジと見る
「この方が……異界の人……ですか」
「別段、私達と変わらないようなんですけど」
「後で脱がせて全身くまなく調べさせてもらってもいいでしょうか」
ルシィは鼻息を荒くして私に問いかける
「ダメだよ……そんなことしたら」
「それにルシィの見立て通り私達と体の造り同じだよ」
私がそう言うとルシィは少しつまらなそうな表情で頷く
"ちょっと、さっきから2人で何話しているのよ"
ゲルマ語の分からないメイリンが念話で問いかけてくる
分からない方がメイリンにとっては良かったと思うマノンであった
"メイリンの姿形がこの世界の住人と変わらない事に驚いているんだよ"
"ルシィは医師でもあるんだ"
都合の悪い事は削除して通訳するマノンであった
"メイリンの事は話してあるから安心していいよ"
"これから、ルシィと食事に行くんだけど一緒に来ない"
私の誘いにメイリンはニッコリと笑うと大きく頷いた
ルシィにもこの食事の事を話すと同意してくれる
「それじゃ……行こうか」
"それじゃ……行こうか"
マノンはそう言うと3人で食事へと向かうのであった
「あの……ここは何処なんでしょう……」
目の前に広がる全く見覚えの無い街並みを見てルシィが呟く
その横でメイリンが珍しそうにあたりを見廻している
「ここは"トラン"というガリア王国の東の端にある港町だよ」
「新鮮で美味いな魚介類が安く食べれるよ」
「近くには"トロぺ"っていう温泉があるんだ」
マノンがそう言うとルシィは呆気に取られている
ルシィが呆気にとられるのも無理はない、ただの昼食のつもりが気付けば王国最南端の港町に来ているのである
我々の感覚で言えば、お昼にピザとパスタが食べたいと思っていたらジェット機でイタリアのナポリに連れて来られたようなものである
「ルシィ、今日は午後から何か予定ある」
マノンの問いかけにルシィは正気に戻る
「えっ……えっと、今日は午後からは……」
「明日から収穫祭の連休に入りますので、何の予定もありません」
ルシィがそう答えるとマノンはニッコリと笑う
「それじゃ! トロぺの温泉まで足を延ばそうか」
マノンはそう言うと2人の手を握り街中へと歩いていく
馬車駅でトロぺ行の馬車の乗車券を3枚購入し出発待ちをしていた馬車に乗り込む
一時間後にはトロぺの温泉に着いていた
"どうして……こんなことに……"
湯煙が立ち上るロッジを見て呆然と呟くルシィ……
その横でメイリンは楽しそうに辺りをキョロキョロ見回している
「一泊二食付きで貸し切りのロッジを借る事が出来たよ」
「勿論、温泉付きだよっ!」
「タオルやなんかも貸し出してくれるように頼んだから」
マノンが嬉しそうに言いながらこちらへ歩いてくる
"えっ! 一泊二食付きってっ!"
"いつの間にか……お泊りする事になっているっ!"
ルシィは自分の想像をはるかに超える展開に呆然としている
"それに、明日はルイーズさんと一緒に出張治療のはずだったような……"
困惑するルシィを他所にマノンは楽しそうにメイリンと何か話をしているようだ
「ロッジはあっちだよ」
マノンは岩場の方を指さすとメイリンは嬉しそうにロッジの方に駆けて行く
そんなメイリンを見て呆然としているルシィの手をマノンが握ると連行されるかのようにロッジの方へと歩いていく
ロッジからは海が一望できる
"いい景色ね……"
メイリンはそう言うと大きく息を吸い込む
「食事が来るまで30分ほどかかるからルシィと一緒に温泉に入ってくれば」
私がそう言うとメイリンはルシィの方を見る
「私が留守番していますからマノンが行って下さい」
ルシィの言っている事をメイリンに通訳をするとメイリンはホッとしたような表情になる
ホッとしているのはルシィも同じであった
"あっ! メイリンさんと一緒に温泉に入っていれば……"
"じっくりとメイリンさんの身体を隅々まで観察できたのに"
少し後悔するルシィであったが、メイリンにとっては貞操を何とか守れたことになる
オーシャン・ビューの岩風呂は以前にシルビィやアレットと来た時と変わっていない
変わってしまったのは自分なんだと痛感するマノンであった
ふと、横を見るとメイリンが何も気にすることなく服を脱いでいる
"あれ……確かメイリンの世界じゃ男女は別々のはずなんじゃ"
"カルラが服を脱いで裸になった時には発狂していたのに……"
ちょっと前とはまるで違うメイリンの行動に困惑するマノンであった
マノンがルシィと一緒に温泉に入るように言ったのはその事があったからである
マノンは温泉に入って微睡んでいるメイリンに話しかける
"どうかな……気に入ってもらえた"
マノンが話しかけるとメイリンが閉じていた目をゆっくりと開ける
"はぁ~最高よ……"
"あの不細工鳥のせいで溜まっていた疲れとストレスが洗い流される気分よ"
"必ずとっ捕まえて丸焼きにしてやるんだから……"
メイリンは恨みがましく言う
"メイリン……混浴でもいいの"
マノンが問いかける
"ああ……その事ならもういいわ"
"新生・アル・マノース共和国にはね……"
"'郷に入っては郷に従え'っていう諺があるのよ"
"それに……マノンには恥ずかしい所を全部見られちゃってるし"
"今更、隠す所なんかないわよ……"
"今の私にとっては、あのルシィっていう人と入る方が……"
メイリンはそう言うと少し口を濁す
"メイリン、もしかして……ルシィの事が嫌なの……"
マノンはメイリンがルシィの事を嫌っているのではないのかと心配になる
"そうじゃないわよ……"
"あの人……胸が大きいじゃない……"
メイリンは小さな声で呟くように言うと念話を通じてメイリンの敗北感と劣等感がヒシヒシと伝わってくる
"……"
マノンにはメイリンの気持ちが痛いほど分かるのであった
温泉に沈黙と居た堪れない空気が流れる
打ち寄せる波の音と海鳥の鳴き声だけがしている
"きっ! 気まずいっ!!"
"変に慰められるとかえってよくない……"
マノンは、かつてレナに慰められかえって深手を負った覚えのあるのである
マノンが困っているとルシィの声が聞こえてくる
「食事が来ましたよ」
ルシィの声に救われるマノンであった
温泉から上がり部屋に入ると豪勢な海鮮料理がテーブルの上に並べられている
"うわぁぁぁぁぁぁぁ、凄いっ!!!"
メイリンの落ち込んでいた気持ちは一気に回復する
"よかった……"
そんなメイリンを見てマノンはホッとするのであった
一方、図書室を飛び出した爺は南側の魔力転換炉の遺跡にある"異界の門"に来ていた
"封印結界に歪があるな……"
"向こうの連中が門を開こうとしたか"
"更なる対策が要りそうじゃな"
そう呟くと"異界の門"を後にして魔法工房へと戻っていくのであった
第195話 ~ 収穫祭の前休日 ➁ ~
終わり