第193話 ~ メイリンの異界生活と動乱の始まり ➁ ~
第193話 ~ メイリンの異界生活と動乱の始まり ➁ ~
序章
「これはどういう事なのだ」
新生・アル・マノース共和国の国立学院技術主任の"ウー・チンチエ"が戸惑いの声をあげる
「必要な条件は満たしているはずだ」
「何故、開かないっ!」
予定を2日ほど過ぎて"異界の門"を開く準備が整い、試験的に門を開こうとしたのだが開かないのである
焦っているウーに門の操作に当たっている作業員からの報告が耳に入ってくる
「門の全ての制御装置は正常に動作しています」
「モニタリング装置もからも門の異常は見当たりませんが……」
「僅かに転移空間に歪が生じいてます」
作業員の報告にウーの表情が変わる
「それだっ!!!」
ウーの大きな声に他の作業員たちが驚いて様子を窺う
「その歪みは門のどちら側に発生している」
ウーの問いに作業員が操作盤を操作しする
「歪は門の向こう側で発生しているようです」
作業員の答えにウーは納得したような表情になる
「どうやら……"彼の地"では"閉門派"が大勢を占めたようだな」
そう言うとウーは不敵な笑いを浮かべるのであった
"彼の地"の者達により門が封印され開けない事は、その日のうちにリャンの元へ報告されるのであった
「"彼の地"の指導者たちは我らを侵略者とみなしたのか……」
「まぁ……無理もあるまい……」
その事を知ったリャンは肩を落とすと大きくため息を吐き呟くのであった
これにより、リャンの計画は当初より大幅にズレ込むこととなるのである
この事は二日後に"隠れ閉門派"の作業員により国立研究所の支援者を通じてシー達にもたらされることとなる
同時に"異界の門"の欠点情報についても知る事となりシー達"閉門派"にとって起死回生の切り札となるのである
第193話 ~ メイリンの異界生活と動乱の始まり ➁ ~
この小説らしからぬ展開を見せる"門の向こう側"とは違い"彼の地"ではいつもと変わらない時が流れているのであった
アネットに追い出されるように王宮を後にしたマノンは認識阻害の魔術を発動せずに王立アカデミ-へと足を運んでいた
「あっ! 見つけたっ!!!」
突然、マノンの背後から聞き慣れた声がする
慌てて振り向くと、そこにはルイーズが仁王立ちしていた
通行人の人々も何なのだろうという顔してこちらを見ている
「……ちょっと、こっち来てっ!」
周囲の目に気付いたルイーズは私の手を握ると引きずるように歩き出す
「ルイーズさんっ! ちょっと待ってよ」
「私っ! 王立アカデミ-に戻らないと……」
焦って言うマノンを他所にルイーズはドンドン歩いていく
マノンが連れて来られたのはルモニエ商会であった
「ルイーズよっ! 今、帰ったわっ!」
ルイーズがそう言って立派なドアを叩くとギィ~という重々しい音を立ててドアが開く
「お帰りなさいませルイーズさっ……」
開いたドアの向こうにはメイド服を着た、かつての裏の仕事人"ジル"であった本名はシャルロット・ルナール、年齢27歳が驚いた表情で立っていた
「ぉっお久しぶりに御座いますっ!」
「だいっ!……いえっ!マノン・ルロワさまっ!!!」
ドアが開くまで冷静だった言葉遣いが焦っているのか全然違う
「久しぶりだね……元気そうで良かったよ……」
私がそう言うとシャルロットは少し頬を赤らめる……
「はい……全て貴方様のおかげです……」
小さな声で恥ずかしそう言うシャルロットであった
そんなマノンとシャルロットを交互に見るとルイーズは再び私の手を握り引きずるように歩き出す
「こっちに来てっ!」
ルイーズはマノンを応接室に引きずり込むと後ろに付いて来ていたシャルロットに何か言っている
「分かりました……」
シャルロットはそう言うと深々と頭を下げてどこかに行ってしまった
シャルロットと話を終えたルイーズはゆっくりとこちらのほうに歩いてくる
「一体全体、どこ行ってたのよっ!!!」
「ずっと探していたんだからねっ!!!」
ルイーズは鼻息を荒くしてマノンに詰め寄り問い詰める
「え・・・・・・それは・・・・・・」
「その・・・・・・なんと言って・・・・・・」
マノンは説明に困ってしまい言葉を濁している
「何、モゴモゴ言ってんのよっ!」
「ハッキリと言いないさいよっ!!」
ルイーズはマノンのハッキリしない態度にムッとしたかのように言う
マノンは、そんなルイーズの様子を見ながら考える
"ルイーズは私が大賢者だということ知っている"
"メイリンの事もあるし・・・・・・"
"ルイーズなら・・・・・・"
マノンはルイーズに事の真相を話すことを決断し事情を説明する
"・・・・・・"
マノンの話を聞いたルイーズは無表情で固まっている
"・・・・・・本当みたいね・・・・・・"
ルイーズはマノンがその場しのぎの出任せを言っているのではないと確信する
「それで、私に何をしてほしいのよ」
ルイーズは少し諦めたような表情でそう言うとため息をつく
"ルイーズ……信じてくれたんだな"
"ルイーズならメイリンの身元引受人になってくれそうだ"
マノンは、いつまでもメイリンを魔法工房に閉じ込めているわけにはいかないと思っていたのである
この世界で自由に生きて欲しいと心から願っていたのである
以前、セルジュもルイーズもジルの素性を承知の上で身柄を引き受けてくれたからでもあった
マノンは事の次第をメイリンの素性を話したうえで身柄の引き受けを願い出る
「ぇっ……」
「一度、お父様とお母様に相談しないと……」
「私の一存と言う訳には……」
流石のルイーズも動揺を隠せないでいるのが分る
「まだまだ先の話になるから返事はいつでもいいよ」
「シルビィにはこの事は話してあるから」
マノンがそう言うとルイーズは少し安心したような表情を見せるのであった
「まぁ……それにしても大賢者って大変ね」
ルイーズは呆れたかのように言うとクスッと笑う
「その対価っていう訳じゃないけど……」
「暫く私に付き合ってもらうわよ」
ルイーズそう言うと不気味な笑みを浮かべる
「……」
マノンは嫌な予感がするのだが何も言えないのであった
すると、ガチャっという音と共にドアが開とシャルロットがワゴンを押しながら部屋に入ってくる
「お持ちいたしました、お嬢様」
シャルロットはお辞儀をしてそう言うとテーブルの上にお茶とお菓子、それに掌ほどの得体のしれない物体を3個ほど並べる
「御用があればお呼びください」
私のすぐ真横を通り部屋を出て行くのであった
「座って……お茶にしましょう」
ルイーズはそう言うと椅子に腰かける
「それじゃ……遠慮なく」
私はルイーズの正面の椅子に腰かけた
2人でお茶を飲みながらお菓子を食べる
「このお菓子美味しいね」
シャルロットが持って来てくれたお菓子はとても美味しくマノンは思わず声に出してしまう
そんな私を見てルイーズが微笑む
「このお菓子ね……」
「今、王都では身分や年齢を問わず女性たちに大人気なのよ」
「何でも"サン・リベ-ル"から製法が伝わったんですって」
ルイーズはそう言うと意味ありげな表情でマノンの方を見る
「……"サン・リベ-ル"から……」
マノンの脳裏に"死熱病"の記憶が蘇ってくる
「ああ……」
マノンの脳裏にボンヤリと宿屋の主人の顔が浮かんでくる
少し慌てている私を見てルイーズは意地悪そうな笑みを浮かべている
「これ……マノンが教えたんでしょう」
「ねぇ、"大賢者様"」
ルイーズはそう言うとクスクスと笑い出す
そんなルイーズを見てマノンは少しムッとしたような表情になる
「ごめんなさいね……」
ルイーズはそう言うテーブルの上に置かれた物体を手に取ると私に差し出す
「これは……"油落とし"……」
緑色の物体は間違いなくオリーブオイルから作られた油落としだった
「作ったの……」
私がルイーズに尋ねる
「そうよ……結構、苦労したのよ」
ルイーズはそう言う大きなため息を吐く
「これ……売り出してもいいかな」
「勿論、できるだけ安く売るつもりだから」
ルイーズはそう言うと私の方をジッと見る
「もう……断れないって分かってて言ってない」
私が呆れたように言うとルイーズはニヤリと笑う
"やっぱり、商人の娘だけの事はある"
マノンは心の中で呟くと何故かマリレ-ヌの顔が脳裏をよぎるのであった
「でも……もう少し熟成させた方が良いよ」
「固まって切り出してから4週間ほど風通しの良い所で寝かせると良いよ」
「表面が薄茶色になってきたら人の手や体を洗うのに使ってもいいよ」
「詳しい事は、王立アカデミ-の実験室で説明するから」
私の説明を聞いたルイーズは大きく頷くと注文書のような紙切れを私に手渡しニヤリと笑う
「えっ……」
ルイーズから手渡された紙切れを見たマノンの顔が歪む
「これ……全部……」
顔を引き攣らせながらルイーズに問いかけると意地悪そうに微笑む
「……分りました……」
諦めたようにルイーズに答えるマノンであった
その頃、メイリンは爺の厳しいゲルマ語講座の真っ最中であり……
レナは遅れに遅れたレポートの作成のために自室で缶詰状態であった
かくして、マノンの収穫祭の休日が始まるのであった
第193話 ~ メイリンの異界生活と動乱の始まり ➁ ~