第192話 ~ メイリンの異界生活と動乱の始まり ① ~
第192話 ~ メイリンの異界生活と動乱の始まり ① ~
序章
シーを始めとする地方都市"シャンヨウ"の"閉門派"の強硬派議員たち3人がとあるビルの一室で密会している
「あの禿狸爺、やっぱり何か隠してるわね……」
シーが知人を通じて入手した資料を見て呟く
元々、中央国立研究所の研究職員であったこともあり昔の知人を通じて研究所内部の極秘資料を入手していたのである
現職の中央国立研究所の研究所職員の中にも強引な評議会議長"リャン"のやり方に不満を持つ者は多くシー達を支持する協力者がいるのである
当然、"異界の門"に携わる技術者の中にも"閉門派"がいてシー達のような"閉門派"の議員に有用な情報を提供してくれる協力者となっているのである
「最近は、"内諜"の連中が嗅ぎまわっているようだから注意してね」
シーが注意するように言うと仲間の議員2人は大きく頷く
「それでは、また後日……」
シーがそう言うと2人の議員は足早に部屋を出て行く、部屋に一人残されたシーは大きなため息を吐く
"何としてでもクゥをあんな危険な所へ行かせるのを止めさせないと"
シーにとってはクゥの事の方がこの国の事よりも心配なのであった
そんなシーの気も知らずクゥはランファンとよろしくヤっているのだから何と言っていいのやら……
"閉門派"の議員は少数派になったとはいえ、現在でもそれなりの人数はいるのであるがシー達が信用できる者はそう多くはいないのである
更に、シー達のような"閉門派"強硬議員の不穏な動きを察知したリャンは独断で"内諜"と呼ばれる秘密警察まで動員し始めたのである
絶対的に不利な状況であるのだが、志を同じくする強力な助っ人が意外な所いたのである
それは"異界の門"の向こう側にいる……鳥……即ち爺である
この思いもよらない強力な助っ人のおかげでリャンの計画は大幅に遅れ変更を余儀なくされる事になるのである
当然、爺はそんなこと知る由も無いのである
第192話 ~ メイリンの異界生活と動乱の始まり ① ~
ギャグ小説とはかけ離れたシリアスな展開を見せる門の向こう側とは違い、こちら側の世界ではいつもと変わらない時が流れているのであった
マノンは許可も得ずに2日間も無断外泊をしてしまっているので早く王立アカデミ-に戻らなければならない
3日以上の無断欠席は正式な理由の届け出が必要となるからである
"悪いけど王立アカデミ-に戻らないといけないんだ"
"1人になるけどいいかな、爺もてくれるようだし"
申し訳なさそうにメイリンに訳を話すと快く承諾してくれる
"暫くは、この世界の言語習得に専念するつもりだし……"
"でも……なるべく早く戻ってきて欲しいわ……"
メイリンの目が何かを訴えかけているのが分る
"わかったよ、今日の午後には戻れると思う"
私はメイリンにそう言うと王都ガリアンの広場の塔へと転移した
王都に戻ってきたマノンが真っ先に目指したのは王立アカデミ-ではなくガリア王宮……そう、シルビィの所であった
"早く行かないとっ!"
マノンは逸る気持ちを押さえて塔の階段を足早に下っていく
"あっ! その前に男体化しておかないと"
階段の途中で立ち止まると性転換を始める
性転換が終わると体のあちこちを入念にチェックする
"オッパイは無くなっているしチ〇チ〇はあるな"
男体化している事を確認すると再び塔の階段を足早に降っていくマノンであった
塔の階段を降り終えると認識阻害の術を発動し広場から大通りを通り、王宮に忍び込むのであった
シルビィの部屋へと向かって注意深く歩いていく
「今頃、何の御用ですかっ!」
突然、背後から私を呼び止める声がする
「ひぇっ!!!」
マノンは、いきなり背後から声を掛けられて驚きのあまり腰を抜かしそうになり慌てて後ろを振り向く
「アッ!アネットっ!」
いつの間にかアネットが私の後ろに立っていた
「何でっ!」
何故、認識阻害の術を発動しているのにアネットにバレたのか分からずに混乱するマノンだったのだがアネットの能力の事を思い出す
"アネット……アレを使ったんだな……"
マノンは心の中でそう呟くとアネットに素直に謝る
「遅れてゴメン……」
素直に謝罪するマノンを見てアネットは大きなため息を吐く
「はぁ~、まぁ……いいか……」
アネットは少し呆れたように言うと私をシルビィの部屋へと案内してくれる
部屋に入るとシルビィがベッドに座って赤ちゃんに授乳をしている最中だった
本来は、産まれてすぐに乳母の下に預けけられるのが
王族の慣わしなのであるがシルビィはそれを拒否して
自らの手元に子供を留め置いたのである
「アネットなっ……」
ドアの開く音でアネットが入ってきたと思いこちらを振り向くシルビィはマノンの姿を見て言葉を詰まらせ表情が固まる
「マノン……」
シルビィは小さな声て私の名を呼ぶと目から涙が溢れ出す
「遅くなってゴメン……」
マノンは小さな声でそう言うとゆっくりとシルビィのベッドへと歩いていきシルビィをそっと抱きしめる
"おぎゃ~っ!"
シルビィの乳を吸っていた赤ちゃんが泣き始める
2人は慌てて離れシルビィは赤ちゃんを癒し始めると直ぐに泣き止む
「もう、寝たようですわ……」
「この子凄く寝付きが良いんですのよ」
シルビィは抱いている赤ちゃんの寝顔を見そう言うとクスッと笑う
「誰に似たのかしらね……」
シルビィはそう言うと私の方を見る
「……」
マノンは何も言えずな俯くと後ろ頭をポリポリと掻くのであった
そんな二人の姿を見ていたアネットのマノンに対する徐々に怒りは収まっていくのであった
"まぁ……仕方ないか……"
幸せそうに笑うシルビィを見てアネットは小さな声で呟くのであった
そうしているとシルビィがマノンに話しかけているのが分る
「この子に名前をお与え下さい……」
シルビィのその言葉を聞いたアネットは慌ててしまう
何故なら王族の名前は代々、その時の最高司祭が占星術を用いて決めるのが慣わしであったからである
"えっ!!!ちょっと待ってシルビィ様っ!!!"
アネットが心の中で叫ぶのだが……
幸せそうなシルビィの顔を見ているとアネットは間に割って入る事が出来ないのであった
"まぁ……いいかな……"
アネットは諦めたように呟くと小さなため息を吐くのであった
「えっ……私がこの子の名前を……」
シルビィの突然の申し入れに驚くマノンだったが健やかに眠っている自分の子供を見ていると自分の心に不思議な光が差し込んでくるような感覚に襲われる
「"Lucie"ルシーでどうかな……」
※………「光」を意味するラテン語の「lux」に由来。
マノンは無意識のうちにその言葉を口にしていた
「"ルシー"……ですか……」
「良い名ですわ」
シルビィはそう言うと寝ている我が子に話しかける
「貴方の名前は"ルシー"ですよ」
シルビィが耳元で言うと眠っているルシーの顔が微笑む
「どうやら……気に入ってくれたようです」
シルビィはそう言って私の方を見る
そんな、シルビィにどうしても話しておきたいことがマノンにはあった
そう、"異界の門"と異界からの訪問者の事である
マノンがここに来たのはこの事をシルビィに話すためでもあったのである
「じつはね……シルビィに話しておかなければならない事があるんだ」
マノンの表情と口調からシルビィには何か重要な事なのだと察しが付く
「私は失礼いたします」
状況を察したアネットはそう言って部屋を出ようとするのだが
「アネットにも知っておいてもらいたいんだ」
マノンの言葉にアネットの足が止まる
「アネットには予知能力が有るから……」
「知っておいて貰った方が、必ずこの世界の為になる」
マノンの言葉にアネットは少し動揺しているようだったがゴクリと生唾を飲み込むと向きを変えてこちらの方にやってくる
「お話をお伺いします」
アネットはそう言うと私の方をジッと見る
その目はどうやら覚悟を決めたようである
「嘘のような話なんだけど……」
マノンは、南側の遺跡の存在と"異界の門"とその外に"別の世界"が存在する事、旧世界の事、そして最後にメイリンの事を話す
「……」
シルビィもアネットも突拍子もない話に口を少し開けて呆然としている
暫く沈黙の時間が流れる……
「それは……何と言ったらよいのか……」
シルビィはそう言うと荒唐無稽な話にどう答えてよいのか分からない様子である
「門の向こう側にある国、"新生・アル・マノース共和国"と言いましたか……」
「何の目的でこの地へ来られたのでしょうか」
シルビィが私に問いかけてくる
今、現在分かっている事をシルビィに話す
「この事は、後ほど父上にお伝え申し上げておきます」
「しかし、事はこの世界全体の問題ですので……」
「わが国だけと言う訳にはいきません」
「他国の王や指導者にもお伝えする必要があります」
シルビィはそう言うとアネットが簡易机と筆記用具を持ってくる
シルビィはペンを手に取ると紙に何かを書き始める
普段から事務仕事をしているだけに手慣れたものでスラスラと綺麗な字で文章を書き上げていく
「このような内容でよろしいでしょうか」
書きあがった文章を私に見せる
「うん……コレでいいよ」
シルビィの書いた文章に目を通して返事をするマノンであった
その後、国王のレオナールが目を通した後で、それぞれの国に向けての清書が書かれ正式なガリア王国の刻印が押され特使の手により各国の王や指導者の手元へと届けられることとなる
そうしいているとアネットが温かいお茶を運んできてくれる
「どうぞ……」
アネットはそう言うと慣れた手つきでお茶をカップに注いでくれる
「ありがとう……」
マノンはそう言うと淹れたてのお茶を少し口にする
「はぁ~ホッとするね」
マノンがそう言うとシルビィも茶を口にする
「そうですわね……」
そう言って微笑むと私の耳元で囁く
"面倒な事が片付きましたら……その……"
"2人目が欲しいと思っております……"
シルビィには兄弟・姉妹がいない事もあり自分の子には弟か妹がいたほうが良いと考えているのである
「へっ……」
シルビィの言葉に少し焦りながらもこの人はこんな状況であっても動じないのだなと感心するマノンであった
「わかったよ……」
思わずシルビィの言葉に釣られてしまう
「あっ……」
マノンが気付いた時にはもはや手遅れであった……
少し恥ずかしそうにしながらも嬉しそうなシルビィの表情にマノンは何も言えなかった
「そして……マノンにお礼を言わなければなりません」
「出産の時に私とこの子はマノンに助けていただきました」
シルビィが何を言っているのかマノンは分からずに不思議に思っていると
「それと、もう一つ最後に……」
「今度は、マノンに謝らなければらない事がございます」
「マノンに頂いた指輪の魔石を無くしてまいました」
シルビィは悲しそうに言うと魔石が消えて無くなってしまった指輪を見せる
「気が付いたら無くなっていたのです」
「辺りをくまなく探したのですが……見つからず」
あまりにも消沈しているシルビィを見てアネットは罪悪感に苛まれる
宮廷医師のカミーユから出産時の事をシルビィに話すことを口止めされているのである
この世界では1度、死した者が蘇ると別の魂が
入れ替わり入っているという思想がある
この世界では"蘇り"は不吉とされているのである
"申し訳ございませんっ!! シルビィ様っ!!!"
アネットは、悲しそうなシルビィの様子を見て思わず口が勝手に開きそうになる
「気にしなくていいよ」
「また今度来る時に新しいのを持ってくるよ」
マノンがそう言うとシルビィの顔に笑顔が戻る
そんな2人を見ていたアネットの心には……
何故か再びマノンに対する殺意が沸き起こるのであった
その後、急に機嫌が悪くなったアネットに追い出されるようにシルビィの部屋を後にするマノンであったのだが……ふと、ある事に気付く
"ルシーって、ルシィ導師と同じ発音なのでは……"
マノンの脳裏にルシィの生態が生々しく甦る
"こっこっこれは……"
嫌な予感に焦るマノンであった
同じ頃、シルビィのマノンと同じように嫌な予感に焦っているのであった
後に、ルシーは文武両道で見かけはナイス・バディの清楚な美人に成長するのであるが……
2人のこの嫌な予感は現実となるのである
第192話 ~ メイリンの異界生活と動乱の始まり ① ~
終わり