第190話 ~ 続・メイリンの異界見聞録 ④ ~
第190話 ~ 続・メイリンの異界見聞録 ④ ~
序章
クゥは自室でベッドに腰かけ時計の針を気にしていた
"一時間後に私の部屋に来て……"
ランファンが耳元で囁いた言葉が何度も繰り返し響いている
"どうしたらいいんだろう……"
いつものクゥらしくない心の迷いが何度も何度もクゥ自身の心に同じ事を問いかける
この特殊な環境に閉じ込められ、数日後には異世界で想像を絶する強大なモノと戦う事になるかもしれないのである
これが最後になるかもしれない……
そんな得体のしれないモノに追い詰められた状況が普段は気丈なクゥの心を迷わせているのである
それは、この場所にいる10人メンバー全員にも言えることであり
例え本人が全く気付かないとしても同じような迷いを多かれ少なかれ与えていたのである
当然、ランファンもクゥと同じように心に大きな迷いを抱えているのである
時計の針がきっちりと一時間後を差すとクゥはベッドからスッと立ち上がり部屋を出て行く
ゆっくりと廊下を歩きランファンの部屋の前に来たもののドアのインターフォンを押すことを躊躇っているとフッとドアが開き中からランファンが姿を現す
ランファンはニッコリと微笑むと吃驚して立ち尽くしているクゥの手を掴んで部屋の中に引きずり込むとドアを閉めた
「来てくれたのね……」
「少し手間取っちゃって……今……終わった所なのよ」
クゥにはランファンが何を言っているのか分からなかったが、部屋の中を見回すと部屋のあちこちに何やら魔道具が設置されている
「何なのコレ……」
予想もしなかったランファンの部屋の中の様子に驚き問いかける
「これ……空間結界よ」
「私達、四六時中ずっと監視されているのよ……気が付かなかった」
「それこそ、トイレの何で用を足している時もね」
「だから、結界を展開して監視人の目を欺いたの」
「ネットワークに介入して同じように貴女の部屋の様子も欺いているわ」
ランファンの言っている事に少し戸惑いながらも十分にあり得る事だとクゥは思っていた
「まぁ……この宿泊施設には男は一人もいないから安心して」
ランファンはそう言うと話を続ける
「これから話す事……」
「誰にも言わないって約束してくれる」
ランファンの真剣な口調にクゥは大きく頷く
「私、ここ(演習場)に来る前にいろいろと調べて回ったの……」
「上層部は隠しているようだけど……」
「"異界の門"にはとんでもない欠陥があるみたいなのよ」
「確証はないんだけど……」
ランファンはそう言うと部屋の中に設置されている魔道具が正常に動作しているかを再度念入りに確認する
「門の向こう側とこちら側では時間の経ち方が全然違うのよ」
「具体的にどの程度違うかは分からないけど」
「最悪……向こうへ数日行ってこっちへ帰ってきたら何年も経っているって事」
ランファンはそう言うとテーブルの上に置かれていたiPADのような石板を手にするして何かの計算式を表示させてクゥに見せる
それを見たクゥの顔から血の気が引いていく……
先遣隊が"異界の門"を潜り帰還するまでこちら側では2日(50時間)が経過していたのに対し……
門を潜った先遣隊が向こうの世界で滞在したのは僅か30分ほどだった……
単純計算で100倍である
「"異界の門"の欠陥はそれだけじゃないわ……」
「門を潜った人間の肉体はこちら側に戻ると急激に老化する可能性があるのよ」
ランファンは少し興奮して息を切らしながらも話つづける
「こう見えても私、技術将校なの」
「何度、シュミレーションしても"超・戦略級"には勝てない」
「上層部は万外一の時、向こう側の"超・戦略級"を足止めして」
「その隙に私達を残したまま門を閉じるのよ」
「私達……完全に捨て駒よ……」
クゥの直感がランファンの言っている事が事実であり言葉に嘘は無いという事が分る
「そう……」
クゥにはそれ以外の言葉は無かった
「貴方だけには知っておいて欲しかった……」
「ただ、それだけよ……」
そう言うとランファンは優しく微笑むのであった
その瞬間、クゥはランファンを抱きしめていた
2人はそのままベッドに倒れ込む
「あの……あの……私、初めてなのなもので……」
ランファンは焦ったようにクゥに言うとクゥは優しく微笑み頷く
クゥはランファンの服を手慣れた手付きで脱がせていくブラジャーが外されると大きな胸がプルンとはみ出る
「ちょっとっ! 待ってぇ!」
クゥのあまりの手早さにランファンが胸を隠して焦っている
さっきは浴場の休憩室で自分の生乳にクゥの顔を押し付けたのにシチュエーションがいかに重要なのか思い知らされるランファンであった
「嫌なの……」
クゥがランファンに優しく問いかける
「嫌じゃありませんけど……」
ランファンが恥ずかしそうに言うと視線を逸らし胸から手を退ける
クゥはランファンの胸を優しく揉み始める
「あっ! くすぐったいっ!!」
ランファンは声を殺し体を捩らせながら悶えている
「はぁっ! はぁっ! はぁっ! はぁっ!」
段々とランファンの息遣いが激しくなっていく
クゥはそんなランファンの乳首に吸い付きパンツの中に手を突っ込む
「ひいっ! うっ! うううっ!!」
「はぁっ! はぁっ! はぁっ!」
「あっっっ!あっ!あんっ!」
「あはっ!あふっ!いっいいっ!!」
「ひゃっ! あんっ! はぁぁぁぁぁーーっ!!!」
空間結界の影響でランファンの小さな喘ぎ声が部屋の中に共鳴し響く
こうして、クゥはスーとの約束を破ってしまうのであったが……
当然、浮気はこれが初めてではないクゥであった
第190話 ~ 続・メイリンの異界見聞録 ④ ~
「လိမ်တယ်...!အမှန်လား!!」
「ええっ!それ本当なのっ!!!」
「မယုံချင်ဘူး။~」
「そんなぁ~」
メイリンの絶望に満ちた悲壮な声が魔法工房に響き渡る
マノンから女体化の術で胸を大きくすることは出来ないという事を聞かされたメイリンは絶望感に打ちひしがれ床に座り込んでしまう
そんなメイリンの姿にマノンは昔の自分の姿を映し出してしまう
"爺の秘薬なら、もしかして……"
心の中で呟くのだが、"異世界の住人"であるメイリンに爺の怪しげな薬を飲ませるのには大きな危険性を感じてしまう
"メイリンに危険性がある事を話して……"
"ダメだ……どんな危険性を冒してでもメイリンは絶対に飲む"
メイリンの心と行動を完全に理解しているマノンは爺の秘薬の事を話すのを止め心の中にしまい込むのであった
絶望に打ちひしがれて床に座り込んだまま呆然としているメイリンを気の毒に思ったマノンは……
"どうかな……王都に行ってみない"
マノンが話しかけるとメイリンはゆっくりと立ち上がる
"王都……行く……"
少し不貞腐れたような感じで答えるのであった
「……また……転移するの」
転移ゲ-ト室でメイリンが不安そうに言う
「どうしてそんなに怖がるの……」
マノンはメイリンがあまりにも転移するのを怖がる訳を問う
そうすると、新生・アル・マノース共和国の転移システムとゲルマ帝国の転移しシステムに根本的な違いのある事が分る
かつて、爺の言っていた"南側の転移ゲートには双方向性が無い"などを始めとするシステム自体違いである
自ら魔術発動のできない新生・アル・マノース共和国の人々は魔道具を用いて魔術を発動する
術の制御も魔道具に依存するためにシーケンシャル・アクセスとなり術を発動すると融通が利かないのである
殊に転移魔法などと言った複雑で高度な術を発動する際には入念な準備を必要とするのである
そうしなければ少しでも誤差が生じてしまうと転移空間に挟まれて体がバラバラになってしまうからである
要するに上半身だけ転移してしまって下半身が残されるとかである
当然、同じ座標位置からであったとしても行と帰りでは発動条件が異なるので"南側の転移ゲートには双方向性が無い"のである
メイリン達、新生・アル・マノース共和国の人間にとってはマノンのように何の準備も無く人間を2人も抱えて転移魔法を発動してしまうなど自殺行為に等しいのである
それに対してマノンとゲルマ帝国の術の制御法は自ら術を制御するランダム・アクセス制御であり転移座標位置さえ分かっていればどこからでも自由に転移できるのである
ただし、欠点もあり個人の能力に大きく左右される為に誰にでも使え、同じように術を発動できるわけでは無いという事である
"そうなんだ……"
私が驚いたように呟くとメイリンが呆れたようにため息を吐く
"それは、こっちのセリフよ……"
"アンタのしてる事を見たら向こうの人は腰抜かすわよ"
メイリンはそう言いながらもマノンの想像を絶する能力に背筋が寒くなるほどの脅威を覚える
"この人の全力攻撃魔術はどれ程の威力があるのだろう"
新生・アル・マノース共和国の神話に出てくる"アルマゲドン(終末)級の破壊力があるとさえ思えるメイリンであった
いつものように広場の塔の頂上に転移する
塔の頂上からは王都ガリアンが見渡せる
「凄いわ……」
周りを高い城壁に囲まれ重厚な石造りの建築物が立ち並ぶ光景を目の当たりして心から感嘆の声をあげているのがマノンに伝わってくる
……と言っても、メイリンからすれば現在の東京から江戸時代の江戸に来たような感覚である
塔の上から行き交う人々の多さに吃驚している様子がメイリンから伝わってくる
「凄い人ね……」
人口の少ない新生・アル・マノース共和国とは段違いに人の数が多いのである
これもまた、地方の商店街と東京の渋谷・新宿辺りの人通りの違いである
地方出身者が上京してきた時に感じるアレと同じである……
塔の階段を下りて広場から大通りへ向かう
メイリンは辺りをキョロキョロと見回しながら物珍しそうにしている
周りの人間見れば上京したての地方出身者"田舎者"の仕草であるのだが、実際はその逆である
大通りに出ると人々の活気に満ち溢れた様子にメイリンは呆然としている
「凄い活気ね……」
「それに、子供の数が凄く多い」
そこら中にウヨウヨいる子供にメイリンは驚きを隠せない
超少子化の新生・アル・マノース共和国からは想像もできない光景である
これもまた、今の日本人が昭和30~40年代の日本の路地で群れて遊ぶ子供達の光景を目の当たりにしたようなものである
"新生・アル・マノース共和国にもこの活気があれば……"
メイリンはこの世界の未来が明るいという事を痛感し自らの国に本当に何が必要なのかを知るのであった
「お昼にしない」
私がそう言うとメイリンも頷く
「何がお勧めなの」
少し楽しみにしているメイリンの感情が伝わってくる
念話だと言葉よりも相手に感情が伝わりやすいのである
殊に信用し気を許している相手などには伝わりやすい
この時点で既にメイリンはマノンの事を信用してしまっているのであるが当の2人は全く気付いていないのである
ここら辺も、同種同類の性である……
以前にマノンの食通(吞兵衛)の師匠でもあるアレットさんに教えてもらった店に行く事にする
先日、カルラと行ったのとは違う店である
日本で言えば串焼きの店である
手軽で安くて早くて旨いという4拍子揃った飲食店であり庶民の店でもあるのだ
当然、混んでいるのだが客の回転も速いので直ぐに順番が回ってくる
陽気に食って飲んで笑い語り合う人、何やら言い争いをしている人、一人で孤独に串焼きにかぶりついている人、いろんな人が思い思いに食の時間を過ごしている
"なんか……混沌としているわね"
メイリンは店内の無秩序ぶりに少し動揺しているのが伝わってくる
店員の案内で窓際の2人席に座ると"本日のお勧め"とワインとパンを2人分注文する
"随分と賑やかね……"
メイリンは大勢の客の話し声で喧騒としているので念話で話しかけてくる
"こういう店は性に合わないの"
店のチョイスを間違えたのかと不安になりメイリンに問う
"そんな事ないわよ"
"私の国じゃ……こういう店ってのあまり無いから"
メイリンの言葉からは食文化と飲食形態の違いが伝わってくる
"そうなんだ……もしも……"
"メイリンの国に行く事があったら何かご馳走してね"
私がそう言うとメイリンは少し困ったような顔をする
"アンタには気の毒だけど……多分、入国できないと思うよ"
メイリンの言葉にはしなかったが自分がメイリンの国の人々にとって恐怖の対象になりえるのだという思念は伝わってくるマノンであった
そうしていると大皿に積まれた串焼きとパンそれにワインが壺で運ばれてくる
その全てを叔母さんが一人で運んでくるのはまるで曲芸のようである
"凄いわね……"
"一人でよくもまぁ……"
メイリンは関心を通り越して呆れているように呟くのが伝わってくる
"それじゃ! 食べようか"
私はそう言うと串焼きを手に取りかぶりつく、メイリンも見よう見まねで同じようにかぶりつく
"うんっ! 美味しいわねっ!!"
どうやら、メイリンの口にあったようである
メイリンはパンも口にしながら美味しそうに食べている
"さっきから気になっていたんだけど……"
"この壺の中の液体は何なの……"
メイリンはワインの事を全く知らないようだった
ワイン農家の倅としては黙って見過ごすわけにはいかない
"これは、ワインと言う弱いお酒だよ"
"この世界じゃ食事の時には欠かせない飲み物だよ"
私はそう言って壺から木のコップに注ぐとメイリンに差し出す
"ちょっと……平日の真昼間からお酒だなんて……"
"私たちの国じゃ、あり得ない事よ……"
メイリンは心の底から呆れたような感情が伝わってくる
"一口だけでもいいから飲んでみれば"
私がそう言うとメイリンは仕方なさそうにワインを口にする
この時代の都市部の飲食店で供されるワインは現代のモノとは違い蜂蜜などが加えられ甘いのである
王都ガリアンでは古代ローマと同じで、ワイン4、蜂蜜1の割合でブレンドした"アペリティフ"ムルスム(Mulsum)が供されているのである
特に都市部では大甕で保存されるので濃厚になってしまったワインをワイン単体で飲む事はまず無く蜂蜜やスパイスやハーブで好みや食事に合わせて好みで風味づけするのが当たり前なのである
ワインの生産地であるマノンの地元のマノワール村なんかは別で出来立てをそのまま美味しくいただいているのが普通である
"これっ! 凄く美味しいじゃないのっ!!!"
そう言うとメイリンは一気に飲み干してしまう
"えっ……ちょっと待ってっ!!!"
"一気飲みは体に良くないよっ!!!"
マノンの心配は的中する、見る見るうちにメイリンの顔が真っ赤になっていく
当然、酔っぱらうと感情と精神のコントロールが効かなくなる
"ああ~これ本当においしいわぁ~"
"この串焼き(塩味)ってのと最高に会うわ~"
"食べ物は完全にこっちの世界の勝ちね"
メイリンの心の声がダダ洩れとなりマノンに伝わる
その後もメイリンは飲み続け坪4杯分のワインと追加3人前の串焼きを平らげるのであった
"何だか……アレットさんみたいだなこの人……"
マノンは呆れたように心の中で呟くのだが……
何故かメイリンの事をずっと身近に感じてしまうマノンであった
その後、ベロンベロンに酔っぱらったメイリンを抱えて塔の階段を登るのに大変な思いをするマノンであった
おまけにいろいろと聞きたくもない自制心のタガの外れたメイリンの心の声、魂の叫びも聞かされることとなるのであった
特に"オッパイが大きくなりたいよぉー"というメイリンの魂の叫びには深く共感してしまう巨乳の女マノンであった
第190話 ~ 続・メイリンの異界見聞録 ④ ~
終わり