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いつの間にやら憑依され……  作者: イナカのネズミ
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第189話 ~ 続・メイリンの異界見聞録 ③  ~

第189話 ~ 続・メイリンの異界見聞録 ③  ~



序章



ここは、新生・アル・マノース共和国の野外演習場の近くにある軍の宿泊施設にある女子専用宿舎の入浴施設の一角に設けられた休憩室

使節団のメンバーは全員が訓練以外はこの施設留まる事を義務付けられている

 「はぁ~疲れたぁ~」

 「もう、2週間近くも訓練以外はここに缶詰状態でしょう」

 「しかも、訓練は厳しいし……私達はか弱い乙女なんだから」

 「少しは労わって欲しいわよっ!」

風呂上がりで丸裸のジョ・ランファンが文句を呟きながら冷たいミネラルウォーターを一気飲みする


 「仕方がないわ……」

 「初めからそう言う条件なんだから」

同じように裸で風呂上がりの火照った体を休めていたクゥが意外と大きなランファンの胸をチラ見しながら諦めたように言う


 「クゥはここに来るまではどんな事したの」

 「まぁ……ホントはこんな質問しちゃいけないんだけどね」

 「流石に、ここまで外と隔離されちゃうと……」

 「何て言ったらいいか……やってらんねぇっ! ていうか」

具体的な事は言わなくてもクゥにはランファンの言っている事が何となく理解できる


 「私は……神学校の教員よ」

クゥが呟くように言う


 「神学校の教員か……」

 「そうなんだ……私は、国立大学院で研究員をやってたわ」

 「まぁ……知ってるとは思うけど……」

 「普通の研究じゃないんだけどね」

ランファンが少し言い難そうに言葉を濁す


ランファンは服務規程上の事もあり詳しくは言わなかったが国立大学院の生理医学で遺伝子改良の研究をしていたのである

平たく言えば"新人類"通称(神の子)を創り出そうとしていたのである

当然、国家機密に属するプロジェクトであり他言無用である

因みに、ランファンが恋人のシーの後輩で顔見知りだとは今のクゥには思いもよらないのであった



言葉を濁し俯き加減のランファンの様子を見てクゥも自分の事を話し始める


 「私もあなたと同じよ……普通の教員じゃない」

 「当然、知ってるとは思うけど……」

 「アレは学校なんかじゃないわ……」

クゥはランファンの方を悲しそうな目で見る


"神学校"などと言ってはいるが実際は"能力者訓練学校"であり各地方都市から半ば強制的に集められた7歳~18歳までの将来有望な能力者たち(戦術級以上)の能力開発を目的とする訓練施設である

完全な男女別隔離施設であり生徒(訓練生)に自由は全く無い……

ここに集められた子供達は親兄弟から引き離され、かけがえのない多感な時期を完全に奪われこの刑務所のような場所で過ごすことになるのである


当然、中には心身に異常をきたす者も出る

クゥを含め神学校の教員はそんな子供の始末もしなければならないのである


辛そうにしているクゥを見てランファンの表情が変わる

 「ごめん……嫌な事を思い出させるような事……言い出したりして」

ランファンがそう言うと裸のままクゥをそっと抱きしめる

クゥの顔がランファンの豊満な柔らかい胸の谷間に埋もれる


 「暖かい……」

クゥは小さな声で呟くように言うとそっとランファンに抱き付くように両手をランファンの背中に伸ばそうとするが途中でその手が止まる


 「いいのよ……」

 「もしかしたら……私達……生きて帰れないかもしれないし……」

ランファンの悟ったかのような言葉にクゥの心が大きく揺さぶられる

 「それに、私もこういうの……けっ!経験しておきたいしね」

 「研究一筋の人生で終わり……だったなんて嫌じゃないの……」

ランファンの言っている事が何を意味するのかはクゥには分るのだが……

別れ際のシーの顔が脳裏に張り付いて忘れる事が出来ない

 「私じゃ……ダメ……なの……」

少し物悲しそうなランファンの表情にクゥは優しく言葉を掛ける


 「部屋に戻ろうか……」

クゥがそう言うとランファンは小さく頷く

2人は自分たちの部屋へと戻っていくのであった


 「それじゃ……また明日……」

 「おやすみなさい……」

ランファンがそう言って自分の部屋に戻ろうとするとクゥがランファンの手を握る


 「忘れさせて……」

そう言ってランファンの手を握ったクゥの手が少し震えているのが分る

 "一時間ほどしたら私の部屋に来て……"

ランファンは小さく頷くと優しく微笑むとクゥの耳元で小さな声で囁くように言うとクゥの手をそっと放し自室へと戻っていく


そんなランファンの後姿をクゥは呆然と見つめているのであった




第189話 ~ 続・メイリンの異界見聞録 ③  ~



何事も無く1夜明けた魔法工房……

マノン達が朝食を食べている


 「そろそろ、村に帰らないと……」

カルラが思い立ったかのように言う

 「叔母さんたちにも心配かけそうだし」

そんなカルラの様子を見ていたメイリンが念話で話しかけてくる


 "あの女、何言ってるの"

念話の感覚からメイリンはカルラに気を許しておらず警戒しているのが伝わってくる


 「カルラは、ここからずっと南側にあるダキア王国のサボンって言う山村でね」

 「一人で農家をしているんだよ」

私の言葉にメイリンの表情が驚いたようになる


 "一人で農業をしているって……"

 "それどういう事なの"

メイリンは興味深そうに訪ねてくるのだがプライベートな事なのでマノンが悩んでいると


 「別に話してもいいわよ」

突然、カルラがマノンの心を読んだかのように言う


 「えっ……」

 「အံ့သြ」

マノンとメイリンは2人して吃驚してしまう


 "この女、本当は念話が出来るんじゃないの"

メイリンの疑りの声がマノンの頭に響いてくる


 "そっそんな事は無いはずだよ……"

マノンも少し自信なさそうに言うのであった


 "ငါမင်းနဲ့အတူတူသွားလို့ရလား"

 "私も付いてっていいかな"

メイリンを一人にしていくわけにもいかないのでカルラに相談すると快く承諾してくれるのであった



朝食を食べ終わると3人で転移ゲ-ト室へと向かう

爺は何か用があるらしく同行しないと言って何処かへ行ってしまったようで気配が無くなってしまった


 「それじゃ……サボンの村へ転移するね」

私はそう言うとカルラとメイリンに私に掴まるように言う


 "えっ……アンタまさかっ!"

 "2人も抱えてこのままで転移する気なのっ! "

 "正気の沙汰じゃないわ!!"

メイリンがマノンに忠告すると同時に転移が始まる

 "ひぃぃぃーーーっ!!!"

メイリンの悲鳴が響くと同時に閃光が走る



 "いっ生きてる……"

安心したかのように呟き無事に転移したのを確認すると腰が抜けたように地面に座り込んでしまった


 "どうしたの……気分でも悪いの"

私が地面に座り込んで呆けているメイリンに心配そうに問いかける


 "ひっ非常識にもほどがあるわよっ!!!"

 "下手すりゃ、3人揃ってアノ世行きよ……"

 "まさか……いつもこんなにして転移してるの"

私が頷くとメイリンは呆れたように大きなため息を吐く

 "それで、どのぐらいの距離を転移したの"

メイリンはゆっくりと立ち上がるとお尻についた土を払う


 "ええっと……550ゲール(Km)ぐらいかな"

私は大体の距離を答えるが距離単位が違うのでメイリンには感覚がつかめないようだった……

どちらかと言うとメイリンの目はすぐ傍の温泉の方に気が行っているのが分る

 "ちょっとだけ、入ってく……"

私が問いかけるとメイリンがニヤリと笑う……

 「カルラ、温泉に……」

 「もう入ってるっ!」

カルラは私とメイリンのやり取りなんかお構いなく一足お先に温泉に浸かっていた


私とメイリンも遅ればせながら温泉に浸かる

 「あああっ~! 朝の温泉も格別ね」

カルラの言葉に私とメイリンも軽く頷く

 「温泉って肩凝りにも良いよね」

私がそう言うとカルラだけが頷く


私の言葉はそのまま念話となりメイリンにも届いている

そして、私とカルラが同時に両手を上にあげ大きく伸びをする……

2人の大きく形の良い胸がプルンと揺れ水面に波が経つ光景がメイリンの目に焼き付く


 "どっうっせっ!……肩が凝るほども大きくなければ重くもないわよっ!!"

卑屈に心の中で呟くメイリンだったのだが……

 "帰ったら、あの術を伝授してもらって……"

 "そうすれば……わたしも……"

メイリンは自分の胸を両手でグニグニしながらニヤけている


そして……

 "ဟဲ ဟဲ ဟဲ ဟဲ ဟဲ...""

 "ぐへっぐへっぐへへへ……"

メイリンの心の笑い声は外にもダダ漏れであった

爺の見立て通りメイリンとマノンは心の友そして中身が同じ同種同類である

そんなメイリンをマノン(同種同類)とカルラは気の毒そうに見て見ぬふりをするのであった


温泉から上がると山道を歩いて3人でサボンの村へと向かう

標高が高い山村なので木々の葉が色づき始めている

 "နေရာကောင်း..."

 "良い所ね……"


 "凄く綺麗な色ね……"

 "အရောင်အရမ်းလှတယ်.."

始めて見る紅葉に感動を隠せないでいる

メイリンはけっして緩やかではない山道を苦も無く楽しそうに歩いている


 「気に入ってもらえたようね……」

そんな、メイリンをみてカルラが嬉しそうに小さく呟くのが聞こえた


サボンの村に到着すると出会う村の人々がカルラと私に話しかけてくる

マノンには、そんな様子をメイリンは何処か羨ましそうな目で見ているような気がするのであった


カルラの家の前で偶然に宿屋のおばさんに会う

 「あら、お帰りカルラちゃん……」

 「マノン君と……そちらのお嬢さんは……」

宿屋のおばさんはメイリンの見慣れない顔に困惑している


 「この人はメイリンさん、私とマノンの友達よ」

 「よろしくね」

カルラがそう言うとおばさんはメイリンに軽く挨拶をする

言葉の分からないカルラに私は念話で同時通訳をしている

カルラがニッコリと笑って挨拶をするとおばさんも同じようににっこりと笑い去っていくのであった


 "ကျေးဇူးတင်ပါတယ်... မင်းငါ့ကိုကူညီခဲ့တယ်..."

 "ありがとう……助かったわ……"

カルラの声ら安堵する様子が伝わてくる


カルラの家に入ると珍しそうにメイリンが周りを見回している

 「အံ့သြစရာပဲ..."」

 「凄いわね……」

メイリンは思わず驚きの声をあげてしまう

我々の感覚から言えば、現代の家しか知らない人間が初めて平安時代のリアルな家に足を踏み入れるようなものなのである

ここに来るまでの紅葉と言い、村の人との関わり合い、メイリンにとっては何もかもが新鮮で初めてなのである


カルラの案内で居間の椅子に腰かけるメイリンにカルラが話しかける

 「気に入ってもらえたかしら……」

 「私はこの村が大好きなの」

カルラの言葉をそのまま当時通訳してメイリンに伝えるとメイリンはゆっくりと頷いて微笑んだ

その顔は、安らぎに満ちた笑顔であった……

メイリンにとっても、この山間の小さな村は心の安らぎを与える不思議な力のある場所となるのである

ここら辺もマノンと同類なのであった


その後、お茶をご馳走になり少し休憩し私とメイリンは2人で再び魔法工房へと帰るのであった


帰り際にカルラが私の耳元で囁いた言葉が今でもハッキリと残っている

 「メイリンの事……よろしくね」

カルラは本当に心の広い優しい人だと心の底から思うマノンであった



その頃、爺は魔力転換炉の遺跡にある"異界の門"で何かをしていた

 "これでよかろう……"

 "門が再び稼働すればコレが食い止めてくれれよう"

そう呟くと爺は"異界の門"の四隅に仕掛けた魔道具を確認する

 "あの娘には申し訳ないが、この門を開かせるわけにはいかん"

爺は門の向こうにいるスーと同じ"閉門派"であった


"異界の門"の向こう側に同じ志を持つ同志(鳥)がいようとはスーには知る由もない事である



第189話 ~ 続・メイリンの異界見聞録 ③  ~


終わり


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