第185話 ~ 新生・アル・マノース共和国 ➁ ~
第185話 ~ 新生・アル・マノース共和国 ➁ ~
序章
日本の総人口に占める15歳未満の子供の割合は11.7%である
子供の数は41年連続、子供の割合は48年連続で減少し続けている
新生・アル・マノース共和国の総人口に占める15歳未満の子供の割合は4.1%である
子供の数は300年連続、子供の割合は340年連続で減少し続けている
現在の新生・アル・マノース共和国の総人口は約500万人、子供の数は20万人ほどである
因みに、ガリア王国は総人口180万人と新生・アル・マノース共和国の三分の一に近いが、子供の数は約21万人もあり総人口は死熱病による一時的な減少を除き毎年増え続けている
新生・アル・マノース共和国は厳格な婚姻管理を行ってこの数字である
既に生物としての"種の限界"を超えており絶滅種であることは確定してるようなものである
しかし、それを乗り切り存続し続ける術が無かったわけではない
旧・ゲルマ帝国の生き残りの人々が行った新たなる種への変異である
これを行えば同じ人の姿をしていても別の種であり似て非なる存在になってしまうのである
我々の世界でいう"遺伝子の組み換え"である
そして、これには大きな代償を伴う……そう……魔力の喪失である
旧・アル・マノース共和国の生き残りの人々は過酷な環境下で生き残るために魔力を温存せざるをえなかった
皮肉にも生き残るための選択が種の絶滅へと導く選択となったのである
3500年に渡り同族婚姻による弊害を魔術による操作で取り除くという事を繰り返した結果、新生・アル・マノース共和国の人々は個々の外見・容姿・能力は違えども、その遺伝子は均一的なものとなっていた
もはや、"遺伝子の組み換え"を行う事すら困難であり、その存続は極めて厳しいのである
そんな未来の無い絶望の中で突如として閉じていた"異界の門"が開いたのである
これは、新生・アル・マノース共和国の指導者たちにとっては未来の扉が開いたのと同じであった
評議会議長のリャンは扉の向こうに自分達の未来へと誘う光を見つけたのであるのだが……
全く逆の事を考える者達も少なくはなかったのである
第185話 ~ 新生・アル・マノース共和国 ➁ ~
早朝、シーたち地方都市の評議会議員が再び中央都市の"ペイロン"にある評議会場に急遽召集される
緊急招集された評議会会場は議員たちで騒然としていた
"こんな朝早くから急に招集だなんて、いったい何なのかしら……"
ざわつく評議会場で、昨日の夜に何度もクゥにイかされた疲れもあり
一人迷惑そうに呟くシーであった
暫くすると評議会議長"リャン・シュエン"の声が会場に流れ照明が落とされる
何も知らされていない議員たちは驚き騒ぎ始めた頃に会場の正面に巨大な立体フォログラムが投影される
それは、ムーヤンの持ち帰った門の外のフォログラムであった
騒ぎ始めていた議員たちは一瞬で静まり返り会場の正面に巨大な立体フォログラムに視線はくぎ付けとなる
フォログラムは門を潜り遺跡へと向かいやがてマノンの姿が投影されると会場に議員たちの驚きの声が響き渡る
慌てふためくメイリンやムーヤンとイーシェンの肉声もそのまま流され映し出さたマノンの姿の横に能力値が表示される
能力値は解析カウンターは700000と赤く表示され下には……
"ပြင်းအားအမိန့်"
"overflow"と表示されている
マノンの能力値は解析カウンターの計測限界を超えているのである
再び会場に驚愕の声が響き渡る
投影されたフォログラムからマノンの肉声が流れゲルマ語とアル・マノース語の翻訳字幕が映し出される
「初めまして、マノン・ルロワと申します」
「တွေ့ရတာဝမ်းသာပါတယ်၊ ငါ့နာမည်က မနွန် ရီရို ပါ။」
「遠い所からおこしいただき、お疲れでしょう」
「အဝေးကလာပေးလို့ ကျေးဇူးတင်ပါတယ်」
「魔法工房にご案内いたします」
「မင်းကို မှော်အလုပ်ရုံကို ငါလမ်းညွှန်မယ်။」
マノンの言葉の意味を知った議員たちの戸惑いの声が会場のいたるところで流れ始める
立体フォログラムはメイリンの覚悟の言葉を最後に地面が映し出され門を潜り抜けるとそこで途絶えた
会場は静まり返り沈黙の時が流れる……
議員たちは驚きの余り思考が停止してしまっているのである、それはシーも同じであった
「お集りの議員の皆さん……」
突然、会場に評議会議長"リャン・シュエン"の声が流れ照明が戻ると議員たちは正気に取り戻す
「今、ご覧にいただたフォログラムは先遣隊が持ち帰ったものです」
「このフォログラムだけで門の外の"彼の地"状況を全て知る事は不可能ですが」
「少なくとも"彼の地"の人々は我々に対して敵意の無い事がご確認いただけたと思います」
評議会議長"リャン・シュエン"の言葉には議員たちを納得させる強い説得力があった
「不幸にも"ファースト・コンタクト"はすれ違いに終わりました」
「これは、我らの不手際による事は明らかです」
「今度は、万全の準備を整え再び彼らとコンタクトを取りたいと考えております」
「皆様はどうお考えでしょう」
評議会議長"リャン・シュエン"の言葉には会場から拍手がちらほらと聞こえてくる
やがてそれは会場を揺らすほどの物凄い数となるのであった
評議会議長"リャン・シュエン"の言葉を聞いていたシーは呆然としていた
"あの禿狸爺……やってくれたわね……"
シーは心の中で呟くと唇を嚙みしめ悔しそうに顔をしかめるのであった
その後、"閉門派"の議員の中から"開門派"に寝返える者が続出し一気に体制は"開門派"優位に傾くのである
この立体フォログラムに絶妙の演出を付け加え評議会で公開する事を決定したのは評議会議長のリャン・シュエンであった
不利な立場に追い込まれたシーを始めとする"閉門派"の議員たちは必死で挽回を計るが体制を覆すことは出来なかった
この3日後、評議会で第二次"門外調査"が正式に承認され第二次門外調査団が編成されることとなる
因みに、パックに関するフォログラムは意図的に削除され議員たちには知らされなかった
世界が変わっても"政治家"というものは同じようなものである……
第185話 ~ 新生・アル・マノース共和国 ➁ ~