第181話 ~ 異界からの訪問者 ③ ~
第181話 ~ 異界からの訪問者 ③ ~
序章
爺には、あの2人の向かった先が"異界の門"だという事は分かっていた
パックが"異界の門"の前まで来ると薄緑色にボンヤリと光っていた門の光が消える
"門を閉じよったか……"
爺が呟くとパックは3回ほど門の周りを旋回する
"変わった所はなさそうじゃな……"
"さてと、儂も帰るとするかな"
爺がそう呟くとパックは魔力転換炉の遺跡の方へ飛んで行くのであった
「ဘာဖြစ်တာလဲ! 何があったのだっ!」
「မာလင် ဘာဖြစ်သွားတာလဲ။ メイリンはどうしたのだ」
異界の門からムーヤンを担いで血相を変えて戻ってきたイーチェンに、この作戦の責任者であり上官でもある"シュ・ユーシェン"大佐が問いかける
門を潜った先には円形ドーム球場のような広大な建屋の真ん中に"異界の門"が鎮座している
壁に沿って多くの複雑な機材がずらりと並んでいる
20人ほどの技術者たちがその複雑な機器を操作している
イーチェンは気絶しているムーヤンを床に降ろすと自分も腰を下ろし呼吸を整える
「ကျေးဇူးပြု၍ တံခါးကို ချက်ချင်းပိတ်ပါ။ 至急、門を閉じてください」
「မြန်မြန်လာ! သူလာနေပြီ!!" 早くっ! 奴が来ますっ!!」
「အဲဒါကို နောက်မှ ထပ်ပြောမယ်။ 詳しい事は後で」
イーチェンのただならぬ表情にユーシェンは少しの間を置いたが直ちに門を閉めるように技師達の責任者に命令をする
「ကျွန်တော်တို့ နားလည်ပါတယ်။ 了解いたしました」
責任者がそう言うと他の技師達は戸惑いながらも石板に手をかざし機器を操作し始める
「フォーーーン」
低い音を立てると門の中の黒い空間が消えていきやがて静かになる
「တံခါးက လုံးဝပိတ်သွားပြီ 門は完全に閉じられました」
技師の一人がユーシェンに報告をする
「နားလည်ပါပြီ ご苦労」
ユーシェンはそう言うと床に座り込んでいるイーチェンの方に向かてゆっくりと歩いて行く
「အသေးစိတ် အစီရင်ခံစာ ပေးပါ။ 詳しい報告してもらおうか」
イーチェンは小さく頷くと立ち上がる
「အသေးစိတ်ကတော့ 詳細は……」
イーチェンは話そうとするが周りの目を気にする
「ငါတို့နှစ်ယောက်ပဲ စကားပြောကြရအောင် 二人だけで話そう」
「အဲ့ဒီမှာ အိပ်နေတဲ့လူကို ဆေးကုသဆောင်ကို ခေါ်သွားပါ။ そこで寝ている奴は医務室へ連れていけ」
ユーシェンはそう言うとイーチェンを連れて異界の門を後にするのであった
第181話 ~ 異界からの訪問者 ③ ~
マノンも同じように転移ゲ-トを潜り抜け魔法工房に転移していた
違うのは、裸のメイリンをお姫様抱っこしているという事である
「着いたよ」
「ここが大賢者の魔法工房……」
マノンはメイリンに説明するのだが……
当然、通じてはいないのであった
マノンがメイリンに通じない言葉で話しかけていると爺が転移して戻ってくる
"おい……お前さん……"
"この娘にゲルマ語は通じんよ"
"念話で話しかけるのじゃ"
爺の声が私の脳に響く
"えっ……そうなの……"
私は爺の言う通りに念話でメイリンに話しかける
"私はマノン・ルロワと申します"
"手荒な事をして申し訳ない"
"私はあなたに危害を加える気はありません"
マノンが話しかけるとメイリンが驚いた表情で目をパチパチさせているのが分る
"いつまでこのままなのですか"
"早く降ろしてください"
不快そうなメイリンの声がマノンに聞こえてくる
"はい、分りました"
マノンは少し慌てて返事をすると辺りを見回す
荷物を載せる台があったのでそこにメイリンをそっと降ろすと仰向けに寝かせる
"これでいいかな……"
私がメインに問いかけるとメイリンがジロリとマノンを睨む
"新生・アル・マノース共和国軍人として明言する"
"暗器(隠し武器)は所持していない"
"貧相な体とはいえ、このまま丸裸で放置されるのは……"
"たとえ虜囚の身であっても耐え難い"
そう言うとメイリンの頬が赤くなる
メイリンは、体が痺れて動けないので大事な所を隠すことすら出来ずにいるのである
因みに、メイリンの頬が赤くなったのは恥ずかしいからではなく、自ら"貧相"と言ってしまった事である
メイリンは貧乳で凹凸に欠ける自分の体に多大なコンプレックスを持っているのである
そう……世界も人種も違えどもメイリンはマノンにとって分かり合える良き心の友なのである
"あっ……"
元・女子であり女性の裸慣れしているマノンはメイリンの言葉に初めてうら若き女性を丸裸で放置している事に気付く
そう言われてメイリンを改めて見るとこちら世界の女性と全く同じで何ら変わる事は無いが……
明らかに人種が違う事は一目でわかる
見た目はゲルマ帝国人は北欧系でありアル・マノース共和国人は東南アジア系なのである
"何だか……妙にあの人に親近感が湧くなぁ……"
マノンはなぜかこの異界の女兵士に妙な親近感を抱いてしまうのであった
"ちょっと待ってね……"
マノンはメイリンにそう言うと何処かに行ってしまった
当然、メイリンに着せる服を探しに行ったのである
休憩室にはレナやマリレ-ヌなんかが置いていった着替え(お泊り)セットの予備がそのままになっているし、マノンも女体化した時のために女性用の衣服も何着か用意してあるのである
メイリンは静まり返った転移ゲート室の様子を目だけで見まわす
"ここが北(ゲルマ帝国)の基地か……"
"我々の物とは違い随分とシンプルだな"
"それに……操作盤が見当たらないな……"
"古文書の伝承通りアイテム(魔道具)無しに魔術を発動できるようだな"
さっきより手足の感覚が少しあるのでメイリンは少し体の痺れが弱まってきている事に気付く
"幸いにも他に人はいないようだし……"
"これなら……"
メイリンは何とか体を動かそうとするが上手く動けずに芋虫のように台の上で蠢いていると台から落ちそうになる
"これは……この状態で落ちたらヤバい……"
メイリンは何とか体制を立て直そうとしてもがいていると体が斜めになり左足と右手が台からはみ出してしまい台の上でブリッジをしているような体勢になってしまう
"ウッ! くっ苦しいっ!!"
体に力の入らない状態での強制ブリッジがこんなに辛いモノだと思い知るメイリンであった
一人で苦しんでいるとマノンが服を持って戻ってくる
"どうしたの……"
マノンは台の上で大股を広げてブリッジ状態で苦しんでいるメイリンの姿を見て呟く
"こんな恥ずかしい姿を見られるなんてっ!!!"
メイリンの強い念はマノンに届く
マノンは持っていた服を傍にあった魔法柱に掛けメイリンを台の上に引き上げる
"大丈夫……もう少ししたら痺れが無くなって体の感覚は戻るよ"
"それまで我慢してね"
マノンはそう言うと大きなタオルをメイリンに被せる
そうしていると爺の声がマノンとメイリンに聞こえてくる
"そろそろ、この世界に来た理由を教えてはくれまいか"
爺の問いかけにメイリンは黙秘を続ける
"ワシらはお主たちの世界に手出しなどする気は全く無い"
"それに、異界の門が閉じてしまった以上は出したくても出せぬ"
"少しぐらいは話てくれても良いじゃろう"
爺は黙秘を続けるメイリンに困ったような口調で話しかける
"……"
メイリンは頑なに口を閉ざし何も答えようとはしない
"やれやれ……頑固な嬢ちゃんじゃのう"
爺は少し呆れたように言うとマノンの方を見る
"お前さんにならこの嬢ちゃんの心を読む事が出来るはずじゃ"
爺がそう言うとメイリンの表情が強張る
"了承も無しに他人の心を読むなんて出来ないよ……"
マノンが難色を示しているとメイリンの声が聞こえてくる
"虜囚の身である私がこんな事を言うのは何なのだが……"
"お前たちはいったい何者なのだ"
"ここはいったい何処なのだ"
メイリンはマノンや爺がいったい何者なのか皆目見当がつかなかったのだ
そして、連れてこられたこの場所が何の施設なのかも分からないだ
メイリンにとってはそれが最も危惧する事だった
この男は軍人ではなさそうだし、この鳥に至っては見当もつかない
疑問だらけのこの世界について知りたいのはメイリンも同じであった
メイリンは大きく呼吸をする
"お前達とこの世界の事を教えて欲しい……"
"代わりに私も答えられる限りの事は答えよう"
メイリンの言葉にマノンと爺は顔を見合わせる
"取引と言うわけか……"
爺が呟くとパックが私の方を見る
私は小さく頷くとメイリンに念を送る
"いいよ……"
私が念を送るとメイリンの視線がこちらに向く
"取引成立ね……"
そう言うと強張っていたメイリンの表情が少し柔らかくなったような気がしたマノンと爺であった
"まぁ……良かろう"
"ワシは魔力転換炉の遺跡へちょっと行ってくる"
爺がそう言うとパックが羽ばたき舞い上がり転移ゲ-トを作動させる
一瞬の閃光と共にパックは魔力転換炉の遺跡へと転移していくのであった
同じ魔法工房の温泉ではカルラが温泉に入っていた
「マノン……いつ帰ってくるのかなぁ……」
そう呟きながらカルラは温泉にゆっくりと浸かっているのであった
マノンの帰りを待つカルラ……だが無情にもカルラの存在はマノンの記憶から完全に消えているのであった
第181話 ~ 異界からの訪問者 ③ ~
終わり